黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

2度目のトラブルパーティー

親善会の開催の幕が上がり、まずはオーケストラによる演奏と、生徒達のダンスが始まる。
踊る生徒もいればホールで談笑する生徒もいて、各々緊張を解していた。

ヴィオラはディアナと2人でホールの隅に立ち、行き交うドレスの生徒達を眺めていた。

「ディアナ様のドレス、とっても素敵です!」
「ありがとうございます。これはアニス…いえ、ミス・アニスが特別に仕立ててくれたものでして…」
「勇ましさと艶やかさを兼ね備えた戦いの女神みたいですよ!?」
「アデラ式とラムダ式のドレスの融合だそうで、でもこの赤は少し好戦的過ぎませんかね?」
「ドレスの赤と金の装飾が黒髪にもよく映えて、まるでアザーレア様みたいです!」
「そ…そう言って頂けると…嬉しいです…」
(照れた顔がそのまんまデイビッド様で面白い…)

そこへ他の仲間達も続々現れた。

「やぁミス・ヴィオラ、ディアナ殿下も、今日は一段と輝いておいでですね!?」
「お2人とも良くお似合いですよ?!」

一番に声を掛けてきたのはテレンスとセルジオの2人連れ。

「ありがとうございます、テレンス様!セルジオ様!」
「あ、あの…冗談抜きに!僕と一曲踊って頂けないでしょうか!?」
「よーし、喜んで踊ってやろう。来い、セルジオ!」
「あっ!違っ…ヤメて!ちょっ…力強い!助けてテレンス先輩!!」
「だから止めとけって言ったのに…行って来い、これも国際交流だ。」
「イヤァー!!」
「ディアナ様、セルジオ様、いってらっしゃい!」 

ヴィオラに見送られ、2人がダンスの輪に加わって行くと、テオ達も顔を出した。

「ご機嫌よう、ヴィオラ様!」
「テオ様、ユェイ様!お2人はカランのドレスなのですね!?」
「ええ…本当は“舞い”の衣装なのですが、こちらではドレスとして通用するとの事で着てみましたの。いかがでしょう?」

異国情緒溢れる独特な刺繍と、光沢のある鮮やかで柔らかな布を幾枚も重ねた装いは、会場の中でも一際目立って美しく、不思議と他のドレスとも馴染んでいる。

「確か、異国には“仙女”と呼ばれる天界に住む妖精がいると聞いたことがありましたが、きっとユェイ様の様なお姿なのでしょうね!」
「まぁ、お上手ですこと!」
「テオ様お顔が…」

全てを包み込むように微笑む婚約者の隣で、テオは鬼神の様な顔をして何も喋らない。

「もう!せっかくの交流の場ですのよ?もっとにこやかになさって?」
「ハハハ!ユェイ様に悪い虫が寄らないよう目を光らせているのでしょう。それとも美しい婚約者を今にも抱きしめてしまいそうで耐えているのかも知れませんね?!って、めっちゃ顔怖い!睨むな睨むな!そんな顔した生徒他にいないぞ!?」
「あらあら、それではヴィオラ様、また後程。」
「はい!」

テオは始終無言で周りを警戒し、ユェイはこちらに来てからできた友人達に声をかけて回っている。
2人は表情こそ対照的だが、腕を組んで寄り添い、周囲に仲の良さを見せつけていた。

「アイツ…あれで良く外交官の息子が務まるなぁ…」
「普段は一番冷静なのに…」

しばらくすると、ホールの一部にスタンドが出され、まずは飲み物がサーブされて来た。

「さてと…何かお飲みになりますか、レディ?」
「フフフッ!それではテレンス様のお勧めを。」

ヴィオラの好きな炭酸入りの白ブドウのジュースには、カットされた果実が沈んでいる。
オレンジベースのフルーツジュース。甘みの無い炭酸にライムの香りをつけたグラス。紅茶のゼリー入りハーブ水。桃のポタージュ。真っ赤なシェーク。白黒2色のチョコレット。
酒など無くとも華やかで、大人でも満足できそうだ。


2人がどれにしようか迷っていると、また誰かの声がする。

「なんだ、僕の誘いを断ったのは他に狙い目の相手が居たからか!誠実そうに見せかけて、案外強かなんだな?!」

振り向くと、頭を刈り上げた男子生徒が腕を組んで立っていた。

(誰でしたっけ?) 
(留学生のシュトラールだよ。謹慎が解けてテスト前から帰って来たんだ。)
(頭がヒヨコみたいでわからなかった…)
(せめて髪型と言ってあげなよ?)

「先輩、気を付けて?その子、婚約者がいるのに顔の良い高位貴族狙いで男を選り好みするような悪女ですよ?」
「おい!僕を巻き込むな!!やってもう既に一回火傷してんだよこっちは!君も懲りないな!彼女を貶して良いことなんか何もないぞ?!」
「まさか庇うんですか?!止めた方がいい。淑女の仮面を被った女狐もいいところですよ!ま、その婚約者も義妹にご執心で、君は放ったらかしにされてるんだってね。いい気味だ!」
「意気揚々と地雷原を突っ切って来るなよ!巻き込まれるのはごめんだ!!」

デイビッドと義妹の話は割と広がっているようだ。
しかし、その義妹が誰の事を差しているのかまではわからない。
果たして本当に“義妹”なのだろうか?

「君のおかげで恥はかくし、あの忌々しい講師気取りの豚のせいで僕は散々な目に遭ったんだ!ここで見届けてやらないと気が済まない!」
「ここで…?」
「見届けるって…何を?」
「ほら、見なよ!?君の婚約者も他の誰かの手を取ってるじゃないか!あれはリリア令嬢だ。君の妹だろう?!」

何やら優越感に浸った顔でこちらを見ているシュトラールの指差す先には、確かにリリアのエスコートをするデイビッドがこちらに向かって来ていた。

「うわ…全然様にならないな…」
「なんだか無理やり感がすごいですね。」
「なんか…ぎこちない通り越して、人間の動きじゃなくなってないか?!ちゃんと前見えてんのかな?」
「ギクシャクするのは前からだけど…あの動きはおかしいわ…」

デイビッドはまるで関節の壊れたパペットの様な動きでリリアに伴っている。
そんな事には気がついてすらいないように、リリアはヴィオラの前まで来ると、いきなり床に倒れ込みしくしくと泣き出した。

「お姉様!どうかお許し下さい!私は…私は許されない事をしてしまいました…」
「あの…何度も言うけど、私を姉と呼ぶの止めてくれないかしら?」
「私は…お姉様の婚約者に“隷属の魔術”を掛けてしまったの!!」
「今、なんて…?」
「悪かったとは思っているわ…でも、誰も居ない部屋でいきなり襲われそうになって仕方がなかったのよ!!」
「襲われた…?」
「ここへ来る時、突然空き部屋に連れ込まれて…上着を脱いで迫られて…私…怖くて怖くて…気がついたら…」

会場内がどよめき、ダンスの足も止まり、皆の視線がリリアに集まる。
そこへエリックが生徒達をかき分け前に出て、ヴィオラとテレンスの所へ寄って行った。

(何が起こった感じです?)
(リリアが、デイビッド様に襲われそうになって洗脳系の魔術を使ったそうです…)
(…へぇ…?)

会場の空気はリリアへの同情と疑いと、好奇心と野次馬でいっぱいになった。
教員が数名止めに来ようとするのをエリックが制止し、事の成り行きを見させると、リリアはまたしおらしく肩を落とし、涙ながらに語り出した。

「実は…ずっと前から言い寄られていて困っていたの…先に出会っていれば間違いなく私を選んだのにって。生徒と教師の立場もあるし、お断りし続けていたのだけど、今日の私を見て我慢の限界だと言って…」
「かわいそうに…つらい目に遭ったんだね!皆、聞いただろう?教師でありながら生徒に、それも婚約者の妹に手を出すなんて、そんな外道が許されてなるものか!か弱い令嬢の必至の抵抗なら、例え禁を犯されても仕方がない!そう思わないか?!」

声高に周囲を巻き込もうとするシュトラールに、賛同の声と声援が送られ、その場は一気に高揚し出した。

「立てますか、ミス・リリア…気をしっかり持って!恐ろしい思いをさせられたというのに、犯罪者の手を取ってここまで来られた貴女は本当に勇気と慈愛と責任感に満ちたお方だ!」
「ありがとうございます、シュトラール様…」

一気にその場を味方に付け、主人公ヒロインとなったリリアが立ち上がる。

「あの…リリア?」
「お姉様、そう言う事ですので、今の彼はこの通り私に侍るただの人形の様になってしまいましたの。どうか許して下さいませ!」
「ひとつ…聞いてもいい?」
「……何かしら?」
「本当にデイビッド様が貴女に関係を迫ったの?!」
「お願い…思い出させないで…本当に怖かったのよ、私…」
「はぐらかさないで聞いて?デイビッド様は本当に貴女をどこかの部屋へ連れ込んで襲おうとしたの?」
「あら、疑うの?だったらその証拠、教えて差し上げましょうか?」
「証拠…?」
「ええ、私が襲われかけたという証拠よ!」
「…そんなもの…あるの?」
「もちろんよ!この方の左の胸元にはね、ホクロがあるの。少しはだけた程度で見える位置ではないわよ?裸にでもならないと見えない場所にね…?!」

それを聞いた周囲は更にざわついた。
リリアが示す位置は確かに服が多少開いた程度では見える場所ではない。
それこそシャツを脱ぎでもしない限り…
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