黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地開拓編

順風満帆

「自業自得ね…」
「実力外の権力に寄り掛かって好き勝手して来たツケですよ。」

しかし、リリアはそんな言葉が通じる様な相手ではない。

「どうして…どうして私だけこんな思いしなくちゃならないの!?」
「生きて行くには申し分ない生活は送れているはずなんですけどね。そんなドレスが着られるだけ、十分贅沢ではないですか?」
「こんなの、アイツのドレスに比べたら安物よ!あの豚男…私に会う度に顔をしかめて逃げてくのよ?!この!私が!国で一番ブサイクな豚野郎相手に声をかけてやってるのよ?!泣いて喜ぶところでしょうがよ!!」

叫び過ぎて肩で息をするリリアを、エリックは可哀想なものを見る様な目で見ている。

「話を戻しましょう。何故禁術など使ったのですか?」
「ハッ!豚のクセに私の誘いを断るなんて馬鹿な真似するからよ!金持ちだって言うから使ってやろうと思っただけ。そうじゃなきゃ近づきたくもないわ!あんな気持ちの悪いデブ!」
「なんで無関係の貴女にお金なんて出さなきゃいけないのよ?」
「何言ってるの!私はヴィオラの妹よ!?婚約者の家族が困ってるのに、放って置く方が薄情ってもんじゃないの?!」
「その家族の縁を先に切ったのは誰よ…」
「そんなのクロードに従っただけよ!元凶が消えたんだからさっさと元に戻るべきだわ!本来なら向こうから支援させてくれって言ってくるのが筋でしょう?それなのに、ホント礼儀のなってない豚よね!」
「はぁ……聞いてるだけで疲れるわね。エリック、もういいわ。情状酌量の余地無し。適切な対応で頼むわね。」
「そうですね。こうしている時間も勿体ないですし…」

そう言うとエリックは、リリアの腕に嵌めた魔封じに魔力を流した。
するとリリアの手の甲に何か模様が浮かび上がる。

「ヤダ!なによコレ!?」
「貴女はこの先自ら魔力を使う事は出来ません。その紋がある限り魔法庁の管理の下生きていくしかないのですよ。」
「そんな…そんなのイヤよ!魔法が使えなくなったら他の貴族にバカにされるじゃない!」
「バカにされるだけじゃないわ。貴女の魔力が封じられる事は、あの場にいた全員が気がついているでしょうね。もう誰も相手になんかしてくれないわよ?」
「やめて!どうしてそんな酷い事するの!?」
「あら、先にもっと酷い事をしてきたのは貴女じゃない?」
「そろそろ魔法庁の特殊調査員達が到着します。余罪も含め調べますので、当分へは戻って来られないと思って下さいね?!」
「イヤァァッ!!」

魔法庁に連れて行かれれば、教会の聖女であった頃の罪も暴かれ、相応の罰が与えられるだろう。
噂によれば珍しい魔力を有した人間は、研究対象にされる事もあるとか。
天性の魅了魔法に、数の少ない聖属性の持ち主ならばさぞや喜ばれる事だろう。

エリックとシェルリアーナは、最後まで抵抗しようとするリリアが魔法庁の調査員達によって特殊な転移陣の中へ消えて行くまでをしっかりと見届けた。

「あんまり後味の良いモノじゃありませんね。」
「そうかしら?私はスッキリしたわ。これでヴィオラにまとわりつく諸悪の根源がまた1人居なくなったんですもの。」
「恨まれ役なら僕一人でよかったのに…」
「あら、つまんない事気にするのね。私は魔女よ?貴方が思うよりよっぽどしたたかなんだから!」

シェルリアーナもまた、ヴィオラの元家族達に酷く腹を立てていた1人だ。
友人のために一働きできた事を誇らしく思っている。


「なぁ!?俺、なかなかイイ仕事したと思わない!?」
「そうですね。ちょっとオーバーでしたけど、思ったよりちゃんとしてて意外でした。そのまま奴隷になっちゃうかなぁーとかも予想してたんですけどね。」
「そこまで間抜けじゃねーよ!そもそもあの手の魔法は精神構造が違い過ぎて俺達には掛かんねぇの。全部演技だよ!」
「変身はそこそこ上手だったわね。80点てとこかしら。」
「減点理由聞かして?」
「顔……?」
「ああ、確かに。普段あんなに愛想良く無いですからね。」
「おいおい、そんな四六時中眉間にシワ寄せて生きてんのかよ、アイツ?」
「ええ。」
「そうね。」
「デフォルトが不機嫌で既に仲間にすら何とも思われなくなってんのヤバくねぇ!?」

念の為トムティットを会場の鏡に忍ばせたまま、コンパクトはシェルリアーナが持っている事になった。
また変なのが絡んで来たら呼び出して使う予定だ。


隣の部屋では、騒ぎに加担した事でシュトラールが会場への出入りを禁じられ、別室で反省させられていた。 

「クソッ!なんでだ!なんで僕がまたこんな目に!」
「君も懲りないな。」
「うるさいっ!どうせいい気味だと思ってるんだろう?!」
「いや、君の事はどうでもいいと思ってるよ。君も、もう少し考えを改めないと、次は誰からも叱ってもらえなくなるぞ?そうなったら終わりだと思えよ?」
「付く相手を間違えただけだ!上手く行ってれば今頃あの豚はリリア嬢の言いなりで、僕の敵はいなくなるはずだったのに!」
「他人の、それも悪事のおこぼれなんて狙ってる時点でもうダメだよ。下手に成功しか手にして来なかった自惚れ屋の末路だな。ところで、一応聞くけど、君はミス・リリアとグルだった訳じゃないんだな?」
「たまたま会場の裏で、魔法でアイツを手懐けてる所を見ただけだ!でなきゃ、誰があんな頭のおかしい令嬢なんか相手にするか!タダでさえ商品がイメージダウンして大損なのに、関わるんじゃなかった!!」
「君は君のやるべき事で成果を出して上へ登ればいい。なのに、なんでわざわざ手を出そうとするのさ。」
「邪魔なんだよ!あの豚がのさばってる限り、僕は一番になれない!」

それを聞いて、テレンスは大きな溜め息をついた。

「あの人は…そんなちっちゃい砂山の上になんて立ってないよ…見上げても届かない程高みの存在なんだ。」
「そんな訳あるか!嫌われ者の豚のクセに!」
「そう思いたきゃいいさ。でも、現実も見ないと、そろそろ君の足元も限界なんじゃないか?さて、僕はもう行くよ。君と話をしていると過去の自分を見ているようで居た堪れないからね…」

テレンスが扉を占めると、魔術のかかった部屋からはもう音すら聞こえてこない。
(大丈夫…僕は間に合ったんだ…)
もしも、あの時手を取る相手を間違えていたら、救いの手すら誰からも差し出されなかっただろう。
(アイツも…誰かに救われるといいな…)

振り切るように会場へ戻ったテレンスの所へ、直ぐにセルジオが駆け寄って来る。
友人の顔を見て、テレンスは本当に今があって良かったと心から安堵した。


エリック達が会場へ戻ると、ホールの人の数が減っていて直ぐにヴィオラを見つける事ができた。
気の合った者達があちこちに捌けて各々談笑しているのだろう。
ヴィオラは誰かと踊って来たのか、少し息が上がっていた。

「お待たせヴィオラ!ダンスは楽しかった?」
「はい!ディアナ様と踊って来たんです!」
「へぇ、いいになりますね!」
「エリック先生も踊りますか…?」
「いえいえ、ディアナ殿下もお疲れでしょうし!」
「体力は人一倍ある方なんで、是非ともお手合わせ願いましょうかね!?」
「ちょっ…強い強い!先生を引っ張らないで!?ッアーー!!」

余計な事を言ったエリックは、ディアナに腕を引かれて連れて行かれてしまった。

「持ってかれちゃいましたね。」
「アレはエリックが悪いわ!」
「シェル様もご一緒にいかがですか?」
「あら、ヴィオラも疲れてないの?」
「踊りたい気分なんです!」
「それじゃ一曲お相手よろしいかしら?」

振り回される様に踊るエリックの横を、優雅に回りながらヴィオラとシェルリアーナが通り過ぎて行く。
踊り終わって冷たい物が欲しくなった所で、丁度デザートのワゴンが運び込まれ、生徒達が歓声を上げた。

プチシューのタワーの下には色とりどりのケーキ。
上品に仕立てられたクッキーや焼き菓子。宝石の様に並んだチョコレート。
きらめくゼリーに、クリームの乗ったプリン、その横には美しくカットされた果物が山盛り添えられている。

気合いの入った甘味の山に、お喋りやダンスに疲れた生徒達が群がった。
もちろんヴィオラも一番乗りで新作のケーキを手にし、シェルリアーナと2人で一口で終わってしまう幸せに酔いしれていた。

会場に残った者達は、親善会の閉会の時までそれぞれが思い切り楽しんだ。


学園長が閉会の挨拶をし、遂にパーティーがお開きとなると、生徒達は少しだけ暗い顔をした。
なんせ今年は明日から始まるはずの夏休みが無い。
それでも補講は始めの一月で切り上げ、少し短いが休みは取れるように計らってもらえるようだ。
とは言え、今年は帰省のできない生徒も多くなるだろう。
どうなる事やら、また一波乱有りげな夏が始まった。
感想 5

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