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7代目デュロック辺境伯爵編
婚約者の余裕
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お見合い騒動の3日間、デイビッドは学園と商会を行ったり来たりしながらいつになく忙しなく、そして浮かない面持ちで過ごしていた。
それでもヴィオラの前ではいつも通り振る舞いたかったのだろう。少し無理をしてなんでもない振りをしている事を、当のヴィオラは気がついていながら口には出さずにいた。
「そんなに深刻な話じゃないと思うから、話してくれるまで待つわ。」
「そんな事わかんの?」
「だってエリック様が関わってないし、ご飯は作りに帰れてるくらいだから、単に私に見せたくないだけだと思うの。」
「浮気とかだったらどうすんのよ?」
「デイビッド様がもし浮気をするなら、徹底的に隠すわよ。あんな分かりやすい態度絶対に見せないわ。そのくらいはして除ける人よ?」
「ヤダ、超理解されてるぅ…」
デイビッドが学園外で何かしているという事で、ヴィオラは大人しく事態を見守ることにした。
その代わり暇な時間を研究室で課題に打ち込み、寂しさを紛らわせていた。
トムティットは主人にちょいちょい呼び出されはするものの、基本的に暇していて研究室に入り浸り、ヴィオラが1人で課題につまづいていると鏡から現れ、ノートの横に腰掛けてあれこれ教えてやっていた。
目の前で変身魔術を披露した手前、隠しておくこともできず、ヴィオラにトムティットを紹介した所、なかなか良い教科書代わりになっているようだ。
「過去の術式はだいたいここに切れ目がある。これは当時の魔術式理論を打ち立てたゲオルグ・シノダの手癖みたいなもんで、あまり知られちゃいねぇが構築が単純な分、分解も容易だから攻撃魔法への応用は難しい。その辺はもしかしたら安全策のつもりなのかも知れねぇな。」
「知らなかった!」
「魔術回路は30年前まで5点式回路が主流だったが、〈三聖人の魔法改変〉により、現在はどこも3点式回路が基準だ。ただし、大型の魔導回路を支える際には5点でも3点でも難しい。だから六方系特殊回路の構築ができないと扱えない。」
「そうなの!?」
「お嬢ちゃんの魔術式は丁寧だが古風だな?お手本が古いんじゃねぇの?」
「デイビッド様の使うノートから写させてもらったの…」
「使えなかねぇけど、まだるっこしくねぇ?銀髪の姉ちゃんのやり方にシフトしちまえば、スパッと上手く行くぜ?」
「わかってるわ…でもこのやり方がいいの。」
「なら、最新の魔術はしっかり踏まえとけよ?基礎知識は同じな分、応用には使えるからよ。」
「わかったわ…」
「それから、魔導式の融合方程式は必ずモノにしとけ?まだ二段階か、この後の三段階と四段階で一気に難しくなるからよ。」
「う~ん…今でも十分難しいのに…」
「魔導式は魔術式と違って対象に流す魔力の導線の構築が目的だからな。錬金術の様式に似てるんだ。その代わり答えがひとつだけだから、割り出し方さえ覚えちまえばいい。」
「火炎系統の魔術式が多くて覚えきれないの。」
「火は一番身近に使うもんだから分類が細かいんだ。ポイントは火力や大きさじゃなくて、芯になる炎の色と形状。小さい火程コントロールが難しいのは、火芯の調節が絶妙な匙加減で計算されてるから。そこさえ抑えちまえば後は割と簡単だ。あとはーーー」
ヴィオラは魔法学の課題をサクサク終え、予定よりずっと早くに予習まで済ませてしまった。
「すごい!先生の授業よりずっと分かりやすかった!」
「そうだろ?俺ってば役に立つのよ!」
「流石100年も魔法学棟の鏡に閉じ込められてただけあるのね!」
「上げてから突き落とすの止めない?」
教え方も丁寧で、シェルリアーナでは補い切れない部分をカバーしてくれるため、これはこれで便利だろう。
「ねぇ貴方って、何にでも変身できるの?」
「まぁね!一度鏡に映った物なら大概。あ、でも不定形になると難しいな。流動性のある物にはなれねぇんだ。」
「猫とか?」
「猫は液体じゃねぇだろ…?」
ヴィオラの少し不思議な感覚にも戸惑いながら付き合ってくれるので、誰もいない時の話し相手にもなる。
その代わりデイビッド以上に碌でもない事を吹き込む事もあるので困りものだ。
「なぁなぁ、お嬢ちゃんはホントにあの黒豚ちゃんの婚約者なんだよな?」
「そうよ?何かおかしい?!」
「向こうはちゃんとそう思ってんの?なんか、子供扱いっつうか、あのおチビちゃんと同じ括りにされてねぇ?」
「私がもっと大人になればちゃんと見てもらえるわよ!」
「へぇ~、お嬢ちゃんの方がその気なんだ?アプローチとかしないの?」
「背伸びしたって仕方ないじゃない…子供の私が何したって躱されちゃうもの。」
「そんな事ねぇだろ?17歳なんて一番花盛りの時期じゃねぇかよ。それに、俺にとっちゃ向こうも20歳にもならねぇし、ガキと同じなんだよなぁ。まぁ、あんま煽って追い詰めるのもよくねぇか。どっかで理性が弾けちまうかもな!?お嬢ちゃんも気をつけなよ?気がついたらペロッと食われてましたなんて、よくある話なんだからよ。」
「デイビッド様はそんな人じゃないわ…」
「わっかんねぇぜ~?男なんて腹の中はみーんなケダモノなんだからよ?」
「…じゃ、貴方に出来るの?デイビッド様を夢中にさせる事。何もかも忘れて私だけ求めてくれるように仕向けられるの?」
「いや…あの…スンマセン…そこは、専門外なもんで…」
「だったら黙ってなさいよ!私はデイビッド様のそんな不器用な所も好きで一緒にいるの!毎日一緒にご飯食べて幸せだなぁって思えるデイビッド様が好きなの!こっちはそれで満足する物わかりの良い婚約者してるの!めちゃくちゃしていいんだったらとっくにやってるわよ!余計な口挟まないで!!」
「羊の皮かぶってんのこっちだった!?」
尚、恋愛に関するアドバイスは地雷を踏んでは反感を食らっているようだ。
学園に戻ったデイビッドは、後始末こそ後回しにして、まずは自分の居場所へ戻った。
「あー…やっぱりこの中で完結する事件くらいが丁度いいな…いや、起きない前提の人生が一番なんだけどよ!?」
「おや、お帰りなさい。ずいぶんお疲れの様ですね?」
「慣れねぇ事すると気ばっかり張って仕方ねぇのな…さてと、なんか作るか!」
「はい!オムライス!お肉ゴロゴロのトマトライスにふわふわ卵とコーンスープ付きのオムライスが食べたいです!」
そんな訳で今日はヴィオラのリクエストに決まった。
デイビッドの隣でトウモロコシをバラすヴィオラが幸せそうな顔をする。
「久しぶりですね、ゆっくりお料理するの。」
「悪かったよ…商会の方に来た客がうっとおしくて、そっちを片付けるのに手間取ってた。」
「大変なんですね、このままデイビッド様が継いだらもっと忙しくなっちゃうのかな…」
「ならない様にするよ。少なくとも、食事も家族と摂れない様な生き方はしたくない。」
「私もです!毎日デイビッド様とご飯が食べたいです。」
「そう思ってもらえてるならありがてぇよ…」
「ムカつくわエリック!ねぇ、ムカつくわ!!」
「またこのパターン…」
「なんかちょっとうらやましいなって思っちゃったじゃない!!蹴っていい?!」
「お昼ご飯なくなりますよ…?」
今回は珍しく蚊帳の外に出されていたエリックは、少し面白くなさそうにオーブンの前に立つ2人を眺めていた。
【家人が寝静まった頃、一番大きな鏡の前にてお待ち下さい。】
ミリムが母親に手渡した手紙にはそう書き付けられていた。
挟まれたカードには大商会の名前と当主印と見られる判が押されている。
家の灯が落ち、使用人の気配がなくなると、ミリムの母親は一縷の望みをかけて、階下の廊下に掛けられた錆びだらけの古い大きな鏡の前に立った。
ロウソクの灯を掲げ、曇った鏡を覗き込もうとしたその時、鏡の中から知らない男性が現れた。
「ヒッ!!」
「こんばんはミセス。どうかお静かに、驚かせてしまってすみませんね。ここからしか出入りができないもので。」
鏡から出て来たのは人の良さそうな恰幅の良い若者で、優しげな声で話しかけて来た。
「事情はミリムから聞きました。ご安心下さい、貴女方を保護しに参りました。」
「あ、あの!貴方は一体…」
「ああ、失礼。ミリムに手紙を渡したデイビッドと申します。今日お嬢さんとの縁談を持ち込まれた者ですよ。」
「そんな…あの人はそんな事を…」
「ご存知なかったのですね。明後日、必ずお迎えに上がります。それまでに身支度と…あと、こちらにサインをお願いします。」
「これは…離縁承諾書?」
「はい。あ!あの…旦那様にまだ愛情があってという場合はまた別の手を考えるんですが…」
「いいえ…未練すら欠片もありません。所詮私は道具以下の存在ですから…それに、あの人はこんなもの認めてはくれないでしょう。どうか娘を、ミリムだけは自由にしてやって下さい!」
「まぁまぁ、サインするだけお願いしますよ。やってみなければ分からないことだってあるでしょ?」
震える手で数枚の書類に名前を書くと、書類と引き換えに若者は大きな紙の袋を差し出した。
「この事は誰にも話さないで。必ず助けに来ますからね。それでは、お休みなさい。」
袋を開けると、中には焼き菓子とサンドイッチとハーブティーの水筒が入っていた。
使用人達はこの離れに近づきたがらず、1日中働かされても食事は日に1回あるかないか分からない。
そんな中で、この差し入れは初めて渡された誰かからのエールだった。
確かな希望が湧いたミリムの母親は、祈る様に袋を抱きしめ、娘の眠る粗末なベッドと古びた家具があるだけの部屋へ戻って行った。
それでもヴィオラの前ではいつも通り振る舞いたかったのだろう。少し無理をしてなんでもない振りをしている事を、当のヴィオラは気がついていながら口には出さずにいた。
「そんなに深刻な話じゃないと思うから、話してくれるまで待つわ。」
「そんな事わかんの?」
「だってエリック様が関わってないし、ご飯は作りに帰れてるくらいだから、単に私に見せたくないだけだと思うの。」
「浮気とかだったらどうすんのよ?」
「デイビッド様がもし浮気をするなら、徹底的に隠すわよ。あんな分かりやすい態度絶対に見せないわ。そのくらいはして除ける人よ?」
「ヤダ、超理解されてるぅ…」
デイビッドが学園外で何かしているという事で、ヴィオラは大人しく事態を見守ることにした。
その代わり暇な時間を研究室で課題に打ち込み、寂しさを紛らわせていた。
トムティットは主人にちょいちょい呼び出されはするものの、基本的に暇していて研究室に入り浸り、ヴィオラが1人で課題につまづいていると鏡から現れ、ノートの横に腰掛けてあれこれ教えてやっていた。
目の前で変身魔術を披露した手前、隠しておくこともできず、ヴィオラにトムティットを紹介した所、なかなか良い教科書代わりになっているようだ。
「過去の術式はだいたいここに切れ目がある。これは当時の魔術式理論を打ち立てたゲオルグ・シノダの手癖みたいなもんで、あまり知られちゃいねぇが構築が単純な分、分解も容易だから攻撃魔法への応用は難しい。その辺はもしかしたら安全策のつもりなのかも知れねぇな。」
「知らなかった!」
「魔術回路は30年前まで5点式回路が主流だったが、〈三聖人の魔法改変〉により、現在はどこも3点式回路が基準だ。ただし、大型の魔導回路を支える際には5点でも3点でも難しい。だから六方系特殊回路の構築ができないと扱えない。」
「そうなの!?」
「お嬢ちゃんの魔術式は丁寧だが古風だな?お手本が古いんじゃねぇの?」
「デイビッド様の使うノートから写させてもらったの…」
「使えなかねぇけど、まだるっこしくねぇ?銀髪の姉ちゃんのやり方にシフトしちまえば、スパッと上手く行くぜ?」
「わかってるわ…でもこのやり方がいいの。」
「なら、最新の魔術はしっかり踏まえとけよ?基礎知識は同じな分、応用には使えるからよ。」
「わかったわ…」
「それから、魔導式の融合方程式は必ずモノにしとけ?まだ二段階か、この後の三段階と四段階で一気に難しくなるからよ。」
「う~ん…今でも十分難しいのに…」
「魔導式は魔術式と違って対象に流す魔力の導線の構築が目的だからな。錬金術の様式に似てるんだ。その代わり答えがひとつだけだから、割り出し方さえ覚えちまえばいい。」
「火炎系統の魔術式が多くて覚えきれないの。」
「火は一番身近に使うもんだから分類が細かいんだ。ポイントは火力や大きさじゃなくて、芯になる炎の色と形状。小さい火程コントロールが難しいのは、火芯の調節が絶妙な匙加減で計算されてるから。そこさえ抑えちまえば後は割と簡単だ。あとはーーー」
ヴィオラは魔法学の課題をサクサク終え、予定よりずっと早くに予習まで済ませてしまった。
「すごい!先生の授業よりずっと分かりやすかった!」
「そうだろ?俺ってば役に立つのよ!」
「流石100年も魔法学棟の鏡に閉じ込められてただけあるのね!」
「上げてから突き落とすの止めない?」
教え方も丁寧で、シェルリアーナでは補い切れない部分をカバーしてくれるため、これはこれで便利だろう。
「ねぇ貴方って、何にでも変身できるの?」
「まぁね!一度鏡に映った物なら大概。あ、でも不定形になると難しいな。流動性のある物にはなれねぇんだ。」
「猫とか?」
「猫は液体じゃねぇだろ…?」
ヴィオラの少し不思議な感覚にも戸惑いながら付き合ってくれるので、誰もいない時の話し相手にもなる。
その代わりデイビッド以上に碌でもない事を吹き込む事もあるので困りものだ。
「なぁなぁ、お嬢ちゃんはホントにあの黒豚ちゃんの婚約者なんだよな?」
「そうよ?何かおかしい?!」
「向こうはちゃんとそう思ってんの?なんか、子供扱いっつうか、あのおチビちゃんと同じ括りにされてねぇ?」
「私がもっと大人になればちゃんと見てもらえるわよ!」
「へぇ~、お嬢ちゃんの方がその気なんだ?アプローチとかしないの?」
「背伸びしたって仕方ないじゃない…子供の私が何したって躱されちゃうもの。」
「そんな事ねぇだろ?17歳なんて一番花盛りの時期じゃねぇかよ。それに、俺にとっちゃ向こうも20歳にもならねぇし、ガキと同じなんだよなぁ。まぁ、あんま煽って追い詰めるのもよくねぇか。どっかで理性が弾けちまうかもな!?お嬢ちゃんも気をつけなよ?気がついたらペロッと食われてましたなんて、よくある話なんだからよ。」
「デイビッド様はそんな人じゃないわ…」
「わっかんねぇぜ~?男なんて腹の中はみーんなケダモノなんだからよ?」
「…じゃ、貴方に出来るの?デイビッド様を夢中にさせる事。何もかも忘れて私だけ求めてくれるように仕向けられるの?」
「いや…あの…スンマセン…そこは、専門外なもんで…」
「だったら黙ってなさいよ!私はデイビッド様のそんな不器用な所も好きで一緒にいるの!毎日一緒にご飯食べて幸せだなぁって思えるデイビッド様が好きなの!こっちはそれで満足する物わかりの良い婚約者してるの!めちゃくちゃしていいんだったらとっくにやってるわよ!余計な口挟まないで!!」
「羊の皮かぶってんのこっちだった!?」
尚、恋愛に関するアドバイスは地雷を踏んでは反感を食らっているようだ。
学園に戻ったデイビッドは、後始末こそ後回しにして、まずは自分の居場所へ戻った。
「あー…やっぱりこの中で完結する事件くらいが丁度いいな…いや、起きない前提の人生が一番なんだけどよ!?」
「おや、お帰りなさい。ずいぶんお疲れの様ですね?」
「慣れねぇ事すると気ばっかり張って仕方ねぇのな…さてと、なんか作るか!」
「はい!オムライス!お肉ゴロゴロのトマトライスにふわふわ卵とコーンスープ付きのオムライスが食べたいです!」
そんな訳で今日はヴィオラのリクエストに決まった。
デイビッドの隣でトウモロコシをバラすヴィオラが幸せそうな顔をする。
「久しぶりですね、ゆっくりお料理するの。」
「悪かったよ…商会の方に来た客がうっとおしくて、そっちを片付けるのに手間取ってた。」
「大変なんですね、このままデイビッド様が継いだらもっと忙しくなっちゃうのかな…」
「ならない様にするよ。少なくとも、食事も家族と摂れない様な生き方はしたくない。」
「私もです!毎日デイビッド様とご飯が食べたいです。」
「そう思ってもらえてるならありがてぇよ…」
「ムカつくわエリック!ねぇ、ムカつくわ!!」
「またこのパターン…」
「なんかちょっとうらやましいなって思っちゃったじゃない!!蹴っていい?!」
「お昼ご飯なくなりますよ…?」
今回は珍しく蚊帳の外に出されていたエリックは、少し面白くなさそうにオーブンの前に立つ2人を眺めていた。
【家人が寝静まった頃、一番大きな鏡の前にてお待ち下さい。】
ミリムが母親に手渡した手紙にはそう書き付けられていた。
挟まれたカードには大商会の名前と当主印と見られる判が押されている。
家の灯が落ち、使用人の気配がなくなると、ミリムの母親は一縷の望みをかけて、階下の廊下に掛けられた錆びだらけの古い大きな鏡の前に立った。
ロウソクの灯を掲げ、曇った鏡を覗き込もうとしたその時、鏡の中から知らない男性が現れた。
「ヒッ!!」
「こんばんはミセス。どうかお静かに、驚かせてしまってすみませんね。ここからしか出入りができないもので。」
鏡から出て来たのは人の良さそうな恰幅の良い若者で、優しげな声で話しかけて来た。
「事情はミリムから聞きました。ご安心下さい、貴女方を保護しに参りました。」
「あ、あの!貴方は一体…」
「ああ、失礼。ミリムに手紙を渡したデイビッドと申します。今日お嬢さんとの縁談を持ち込まれた者ですよ。」
「そんな…あの人はそんな事を…」
「ご存知なかったのですね。明後日、必ずお迎えに上がります。それまでに身支度と…あと、こちらにサインをお願いします。」
「これは…離縁承諾書?」
「はい。あ!あの…旦那様にまだ愛情があってという場合はまた別の手を考えるんですが…」
「いいえ…未練すら欠片もありません。所詮私は道具以下の存在ですから…それに、あの人はこんなもの認めてはくれないでしょう。どうか娘を、ミリムだけは自由にしてやって下さい!」
「まぁまぁ、サインするだけお願いしますよ。やってみなければ分からないことだってあるでしょ?」
震える手で数枚の書類に名前を書くと、書類と引き換えに若者は大きな紙の袋を差し出した。
「この事は誰にも話さないで。必ず助けに来ますからね。それでは、お休みなさい。」
袋を開けると、中には焼き菓子とサンドイッチとハーブティーの水筒が入っていた。
使用人達はこの離れに近づきたがらず、1日中働かされても食事は日に1回あるかないか分からない。
そんな中で、この差し入れは初めて渡された誰かからのエールだった。
確かな希望が湧いたミリムの母親は、祈る様に袋を抱きしめ、娘の眠る粗末なベッドと古びた家具があるだけの部屋へ戻って行った。
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