黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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7代目デュロック辺境伯爵編

グリフォンの巣

シェルリアーナがデイビッドから視線を外すと、今度はチビの妖魔が視界に入る。

「なぁ、アイツの断罪劇ってどんなだったん?俺噂くらいしか知らねぇんだけど、教えてくんね?」
「ねぇ、前にも言ったけど、しれっと間に居るのヤメてくれない?!」
「もう自然とこっちの仲間みたいな顔して紛れ込んで来ますよね。話し相手にいいからつい会話しちゃうんですけど、悪魔なんですよねコイツも。」
「妖魔だよ!!これでも妖精の仲間なんだ!一緒にすんな!」
「人間の会話に入って楽しいです?」
「100年も禄に話し相手も居ない生活送ってみろよ!些細な反応があるだけで感動もんだからな?!」

トムティットはエリックの食べているブドウを横から摘みながら、クッションに足を投げ出し最高にくつろいでいた。

「ここは居心地が良過ぎるんだよ。飯は美味いし、寝てるだけで身体が生き返る…多少こき使われたってその程度だ。オマケにもう鏡の中へ戻れとは言われない。ヤバいな、やっぱ契約相手を間違えたらしい。このままじゃ本気で使い魔になっちまいそうだ。」
「そのつもりだったのでは?」
「ただの契約ならどっかで適当に切る事もできる。でも使い魔になるためには魂の契約が要る。それを結んだらどっちかが死ぬまで関係は続くんだ。」
「いいじゃない。どうせ100年鏡の中で暇してたんでしょ?あと100年人間と一緒に暮らすくらい。」
「人間側がどんだけ長生きする予定ですか…?」
「場合によっちゃ魂を完全に繋げて寿命を分配する契約方法もあるけど…」 
「それって禁術なんでしょ!?」
「人間にとってはな。俺達には関係ないのさ。」
「どんな契約なんです?」
「妖精や精霊と人間の魂を融合させて、お互いに分け合うの。精霊の寿命が半分与えられて、老いることもなく下手したら何百年と生きられる事になるのよ…その代わり…」
「良く知ってんね。そうだよ、その代わりどっちかが死んだら片方も命を失う。契約者側が長命に耐え切れなくて精神やられておかしくなる事もあるし、けっこうシビアな契約なんだ。」

間違いなくデイビッドはそんな契約は断るだろう。
魂の契約すら結びたがらないかも知れない。
(人間にマジになったら痛い目に遭うって、さんざ経験してきたのに。俺もバカだねぇ…)

妖魔にもプライドや意地があるらしく、人前で弱味はあまり見せないが、このなんとも人間くさい妖魔はスルリと人の心に入り込んで来て、あっという間にこの部屋に馴染んでしまった。


デイビッドが砂埃だらけの服を着替え、シャワー室から戻るとライラが直ぐにまた抱っこをせがみ、カウチに腰掛けるとヴィオラが食事の用意を始めた。
最近はヴィオラが主体で動く時のみ、シェルリアーナも動くようになった。
皿や食器を並べ、スープをよそい、トマトを洗ってボールに盛り付け、昼食の支度が整う。
ライラを膝に乗せたデイビッドの隣にヴィオラが座り、2人で潰したジャガイモやスープをライラの口に運んでやっている。

(子育てなんてでもできるんだから、二人きりの時間をもっと楽しめばいいのに…)
(いえ、アレはむしろあの子がいないとお互い変に意識し過ぎてぎこちなくなっちゃうんですよ。)
(最強の緩衝材…)


昼食後、ライラを寝かしつけ、温室へ向かったデイビッドはツタの上をとびはねるアリーを見つけ、声を掛けた。

「アリー!少し頼みがあるんだ、来てくれないか?」
「デイビッド! 久シブリ 最近来ナイカラ サミシカッタ」
「領地の方へはちょくちょく遊びに行ってんだろ?」
「ウン デモ メガネシバラクイナイノ トカイウノニ 行ッチャッタ」
「なら少し付き合ってくれよ。グリフォンの巣を作るの手伝って欲しいんだ。」
「オモシロソウ! アリーモ行クー!」

アリーをこっそり外に連れ出すと、ファルコに乗せて再び空へ。
領地へ着き、森の手前で降りて気配を消しながら様子を見ると、グリフォンが滑る卵をなんとか安定させようと躍起になりながら世話をしていた。

ファルコがまた獲物を捕りに行ってしまったので、残されたデイビッドは隠れているしかなくなってしまう。
(薄情者め…)
(ダイジョウブ アノ鳥ト話シテクル)
(おい!大丈夫なのかよ!?)

デイビッドが止める間もなく、アリーはトコトコとグリフォンに近付き、その巨体の真ん前に立って羽に触れた。

「キィィー!」
「ダイジョウブ アリーニマカセテ」

アリーが宥めるようにグリフォンに寄り添うと、大量のツタが辺りに生い茂り、グルグルと卵の周りに巻き付いて優しく地面から離していく。
(すげぇな…流石はアルラウネ…最強種のグリフォンが何も言わねぇ)
そこへ丁度大型の魔鳥を狩って来たファルコが現れたので、その羽をむしってアリーに渡すと卵の下に敷いた。
大きな巣にはグリフォンの身体がすっぽり入り、卵も安定している。

「オトナシクテ イイ子ダッタ」
「人間なら八つ裂きにされてるとこだよ…」
「ソンナ事ナイヨ ホラ!」
「アリー!?やめろ!本気で!!」

強引に前に出されたデイビッドの姿がグリフォンの猛禽類独特の瞳孔に映る。
首でも引き千切られやしないかとビクついていると、グリフォンは静かにデイビッドに顔を近づけて来た。

「クルルルルル…」
「げ…元気そうで何よりだ…」
「キィッ!」
「卵、悪かったな…こんなトコに置いちまって…」
「気ニシテナイッテ 取リ返シテクレテ アリガトウッテ言ッテル」
「さすが魔物同士だな…俺になんかできる事無いかも聞いてくれよ。」
「ファルコ 貸シテホシイッテ」
「ファルコ?ああ、そういやさっきからやたらソワソワしてんな。」

ファルコを撫でてやると、何か訴える様な目でデイビッドを見てくる。

「キュルルルル…」
「わかってる、気になるんだろ?しばらくこっちにいろよ。」

同じ禽翼類同士、話がわかるのか、ファルコはこの巨鳥の側を離れたがらない。
デイビッドは直ぐに学園へ戻ると、ファルコの背中から騎乗用の鞍を取り外した。

「首輪と脚の監察は外してやれねぇけど、これで少しは楽だろう?」
「キュールルル!」
「領地からは出るんじゃないぞ?たまには顔出せよ?気を付けてな!」

デイビッドが背中を叩いてやると、ファルコは直ぐに飛んで行ってしまった。

「帰ってこなかったらどうすっか…」
「卵ガ孵ッタラ 帰ルッテ」
「魔物の言葉がわかるなんて、すげぇなぁアリーは…」
「アリースゴイ モットホメロ!」

鼻高々のアリーを温室へ送り、礼は何が良いか聞くとまたフカフカした物が欲しいと言う。
近々手に入れる約束をすると、アリーは喜んでまた自分の巣の中へ戻って行った。


学園達が特別講習を受けている間、バタバタとしていたデイビッドの生活にもようやく落ち着きが出て来て余裕ができた。

「今日から現地実習はしばらくしないことになった。暑くなってきたし、バテて他の授業に影響しても良くねぇしな。畑の様子は俺が見とくから、通達があるまで絶対に行くなよ?!」
「なんでですか?」
「森でグリフォンが卵温めてるから。」
「グリフォン!!??」
「餌になりたくなきゃ立入禁止守れよー?」
「「「はいっ!!」」」

領地経営科の授業はまた座学に戻った。
しかし、教壇に立っているのはデイビッドではない。

「ぼ、ぼくの領地の特産は主に野菜と小麦です!」
「“野菜”じゃわかんねぇぞ?具体的に何作ってんだ?」
「タマネギとカブとカボチャと…あと、ビートを…」
「ビートがあるなら加工もやってんだよな?やり方知ってるか?」
「え…?え~と…絞るんじゃないんですか…?」
「絞って採るのはキビ糖。自分家の加工品くらい把握しとけよ?!」
「はぁ~い…」

現在行っているのは、各生徒が自領についてどれ程理解し、他者に説明ができるかという実践形式の発表会。
氏名された生徒は前に出て自分の領地について必死にアピールするが、穴があればデイビッドがどんどん質問をぶつけてくるのであわあわしている。

しかし中にはとんでもない隠し玉を持っている者もいて、デイビッドすら興味を引かれる事もあった。

「私の領地は、主に隣領から買い付ける綿と麻で織物と染物をしています。農作物はジャガイモとレタスとケール、後はワインと油を少し。」
「染物の原料は何を?」
「インディゴとベニバナと、あとブドウの枝とワインの絞りカスですね。」
「あの紫色!ワインの副産物だったのか!?」
「ミョウバンで色止めをすると長く持ちますし、何度も染めて濃淡を出したり…」
「あの絞りカスの使い道ったら、再発酵させて別の酒にするか、肥料かあとは豚の餌くらいしか思いつかなかった…」
「残った種を選り分けて油も絞れるんです。化粧品用のオイルとして需要もそこそこあって…」
「ワイン作ってるとこ他にもあったろ?!今の話聞いたか!?」
「はいっ!俺んトコほとんどワイン産業なんで!今の話めっちゃ気になります!」
「僕のとこも!特に油の話、もっと詳しく!!」
「むしろ技術提供お願いしたいです!」
「白ブドウだとオイルの質は変わるものかしら?!」

新しいアイデアやヒントも得られて面白い。

「いい話が聞けた!次回掘り下げるからまた話してくれ!」
「はい!ありがとうございます!」

生徒同士から各領地の連携や繋がりも太くなり、領地経営科の評判は更に上がっていった。
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