黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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7代目デュロック辺境伯爵編

理想の家

「これでヒュリスは正式に登録された素材として扱える!研究なんかも堂々と出来るようになるよ!」
「そうか。」
「それからね…遂に僕とリディアの愛の軌跡が世界に認められたよ…」
「リディア、訳してくれ。」
「人型の魔性植物に動物的意思はあるかという研究で、私に人格が認められたため、ドライアドが“魔性植物”から“植物性魔法生物”…つまり魔物の一種に分類される事になったんです。」
「…なんか変わるのか…?」
「今後、ドライアド含む人型の魔草が、人型の植物性の魔物として扱われます。研究分野におけるドライアドやアルラウネの扱いも変わるものではないかと…」
「そりゃ良かった、植物ってだけでかなり酷い扱いされてたもんな。」

“魔物”となると、討伐や駆除の必要性がない場合の虐待が禁止される。
非人道的な扱いが公的に認められなくなり、これからの研究の仕方も見直されていくだろう。

「これはドライアドの革命だ!!リディアがステージで言語を発した瞬間の連中の顔ときたら…他の研究者が持ち込んだドライアドの証言まで公表しちゃって、研究所の上層部の不正とかデータの改ざんとか、違法薬物の使用なんかもバレて大騒ぎにもなったんだ。慌てふためく有象無象を上から眺める気分はもう最高だったよ!」
「もう色々狂ってんな…」

そもそも植物だからと粗末に扱う人間が悪いのであって、かじったリンゴの種すら無碍にしないデイビッドにはあまり関係ない話だ。
しかし世界的には大大発見であり、驚異的な研究の前進となるらしい。

「そしてそして極めつけはなんと言ってもアルラウネさ!!」

アリーという最強の味方を付けたベルダは、時間の許す限りアルラウネの研究に打ち込んでいた。
その結果、アルラウネの個体を50年も所有していた王立の研究所など足元にも及ばない成果を山程得ている
精霊との関係性、世界樹との親和性、多岐に渡る能力、そして知能…今やベルダは魔性植物研究の第一人者から、その頂点に君臨する伝説的研究者の一人となった。

「リディア!これで君との将来は安泰だよ!?」
「中身はダメ人間なのにな…」
「僕等の家ももうすぐ完成するね。そうしたらデイビッド君を一番に招待してあげよう!」
「そういうのいらねぇから!」
「で?君はどうするの?」
「何をだよ!」
「家だよ、家!将来住むとこがいるでしょ?領地の居住区はみんな更地にしてあるから、好きな所に建てられるよ?」
「い…え…?」
「学園を出たらヴィオラちゃんと暮らすんでしょ?ちゃんとしたいい家建ててあげなよ?お屋敷とかでもいいかもね!」
「………忘れてた………」

そもそもデイビッドには家に帰るという感覚が皆無い。
幼少時に王都に出されてこの方、自分の家というものとは縁がなかったからだ。
始めは母親の生家で居候し肩身の狭い暮らしを余儀なくされ、その後は両親の手配で借家暮らし。
国を飛び出してからは、宿などはほとんど取らず、夜露を凌ぐ場所を探しては朝を迎えるという生活を長く送っていたため“家”という概念がほとんど育たずここまで来てしまっていた。
むしろ、今までで一番長く留まっているのがこの研究室だ。
私物化し放題で好き勝手使って良いと言われているが、本人すらここまで馴染むとは思っていなかった。

(家か…作るなら、この部屋みたいな家がいいな…)
研究室をそのままという意味ではなく、そこにいることが当たり前になり、何の心配も不安もなく過ごせる正に自分の居場所。
そんな家が、デイビッドも少し欲しくなった。
(家かぁ…)

いずれはヴィオラとも暮らすのだ。せっかくなら、気に入ってもらえる家を建ててみたい。
一瞬だけ、デイビッドは将来というものに夢を見て、即座に現実に戻って来た。
(駄目だ…欠片も想像できねぇ…)
掘っ立て小屋どころかボロテントでも普通に暮らせてしまうデイビッドに、果たしてちゃんと家が建てられるのだろうか…


さて、それから数日後、デイビッドは貴族街の一角に呼び出され、仕事用の作業服を着て現場へ向かった。

現場…そう、ここは家屋の解体現場。
先日、ミリム母娘の件で新興男爵家から回収した負債に充てられた財産の一部だ。
なんと言ったか名前すら記憶にいないが、これ以上ない程趣味の悪い男だった事は覚えている。
家も、とにかく至る所が金ピカキンキラで目が痛くなり、無駄な装飾や謎のインテリアがゴテゴテと置かれ、気が滅入りそうだ。

「それではこれより錬金術による建造物解体資格の試験を行います。家屋の柱や壁の解体と分別と再構築が主な内容になりますので、危険がないよう準備して下さい。」
「「「はいっ!!!」」」

今日は魔法学の中でも、将来的に大型魔道具の制作に携わる生徒達の特殊資格試験の日。
もちろんエリザベスも参加している。

「会場となるこの建物を所有されているのはこちら、デイビッド先生です。今回見学も兼ねてお越し頂きました。この度は貴重な現場をご提供頂きありがとうございます。」
「「「ありがとうございます!!!」」」
「あ…どうも…」
「ではまずは二人一組になり、廊下の柱を1本ずつ解体していきます。ひとりがメッキを剥がし、もうひとりが柱を支え、天井が落ちないよう固定します。柱は全部で15本ありますので、1本終えたらもう1本は交代で行いましょう!制限時間は1人20分!では開始して下さい!」

7組の生徒達は、それぞれ相手を見つけると、早速廊下にズラリと並んだ金柱に取りかかった。
すると早速、展開した魔法陣を弾かれる生徒が続出している。

「イッタ~イ弾かれちゃった!これ金じゃないの!?」
「金は表面の極薄い所だけなんだ!」
「分解の魔法陣がそれぞれ違うから構築に時間がかかるな…」

メッキの柱を解体するには、まずは金部分を剥がし、次に下地の金属、本体が木なら釘やクサビを抜いて、梁との結合部分を取り外し、単体で床に固定させる必要がある。

「時間あとどれくらい?」
「金がうまく剥がれないよ!」
「急がないと!!ああ!ダメ、柱がグラグラしてる!!」
「天井にうまくくっつかない!」

焦る生徒達を他所に、エリザベスは危なげの無い手つきでツルリと金を剥がし、下地の銅板も変色させずキレイに分別してただの無垢の柱を完成させた。
相方も素早く柱の固定を済ませ、なかなか良いチームワークを発揮している。

柱の次は1人ひとつランプ掛けに取り付けられた装飾を外していく。

「あ、宝石かと思ったらガラスだ!」
「そういうのを見極めるのも試験だよ。」
「あぁぁっ!!こっちは宝石だった!どうしよう割れちゃった!!」
「気にしなくていいぞー!?練習と思って思い切りやってみろ!」
「デイビッド先生、お言葉はありがたいのですが試験ですので…」
「あ、すいません…」

実際の解体で金や宝石を損なう事は許されない。
持ち主の資産を損害する事になるため、賠償なども課せられる。
そのためこういった現場の提供は珍しく、生徒達にも良い機会となる。
デイビッドは錬金術による家屋の分解作業を見るのは初めてで、色々勉強になると思いながら殺風景になっていく廊下を楽しそうに眺めていた。

「それでは回収した装飾品を選別し、指定の箱にそれぞれ入れて下さい。量以外にも純度や魔法陣による家屋の負荷も測定し、試験結果として出しますので、お知らせはまた後日…」

キンキラ屋敷はしばらく魔法学の魔道具専攻のクラスに預け、練習に使ってもらう予定だ。
売れる家具はとっくに換金し、残っていた宝石などは面倒なのでひとまとめにして専門家にぶん投げた。
資産が金貨300枚に到達すれば残りは返却してやるが、どうも本当に見せかけらしく、どれも二束三文だと質屋も嘆いているらしい。
剥がした金メッキや宝飾品は試験後に返還されるらしい。

「次週行われる筆記試験との総合点を以て合否を判定します。それでは解散と致しましょう。本日はお疲れ様でした。」「「「ありがとうございました!!!」」」

生徒達が各々帰って行くと、エリザベスがデイビッドに手を振っていた。

「デビィー!どうだった?アタシの解体けっこう上手くいってたと思わない?」
「そうだな、俺は評価とかはできねぇけど、見てて一番気持ち良かった。」
「エッへへェ~!試験受かるより嬉しー!」
「ちゃんと受かって喜べよ!?」

2人で商会まで少し歩く間も、エリザベスのお喋りは止まらない。

「そう言えばね。イヴェットが魔法薬師の試験を受けたんだよ!」
「へぇ~。」
「結果は半月後!今は医師資格のための実習で、エドの家のおじさんがやってる個人院に通ってる。」
「医者系の資格は難しいんだろ?そんないくつも取れるなら余程頭が良いんだな。」
「イヴェットはスゴい頭良いよ!家を出るために頑張ってたんだから!」
「最後、俺が台無しにしちまったけどな…」
「アレは仕方ないよ!実家が悪いんだもの!デビィのせいじゃない!イヴェットは言葉にこそあんまり出さないけど、すごーく感謝してるんだよ!」

イヴェットを実家から切り離したのはやり過ぎで、余計な首を突っ込んだのではないかと、デイビッドは多少後悔している。
その反対に、イヴェットは今まで資格などよりもずっと欲しかった自由を手に入れ、残りの学生生活をここへ来て初めて謳歌していた。

「毎日楽しそうに帰って来るんだよ。あんなイヴェット見たこと無い。満足してるみたいだよ?」
「それならいいんだけどよぉ…」

その時、デイビッドはイヴェットのついでに、もう1人の医師希望者の顔を思い出した。

「そういやエドの方はどうなったんだ?同じ資格目指してただろ?」
「エドも受かってたよ!ギリギリだったって怒られたらしいけど。今郊外の診療所で頑張ってるって。すごいね、夏が過ぎたら2人とももうお医者さんだよ!」
「医者はいいけど…アイツ、気なんだろうな…」

無事医師になれた暁には、イヴェットに思いの丈をぶつけるつもりの様だが、大丈夫だろうか?
エドワードの恋の行方や如何に……
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