黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
385 / 511
7代目デュロック辺境伯爵編

旅路

いつもムスタやファルコに乗って素通りしている大街道には、あちこちに拠点となる集落があり、旅人や商人達が足を止めて一休みしている。

最初の半刻余りで1か所止まり、また1時間程でもう1か所、そこからは数時間掛けて港町まで進む。

始めはお喋りに夢中だったヴィオラは、テストが終わり緊張が溶けたのか、あっという間に眠ってしまった。
ライラも遊び飽きて寝てしまい、2人してデイビッドを枕にしている。

「……ねぇ…ちょっと聞いていい?」
「なんだよ。」
「アンタ…痩せた!?」
「は?」
「なんか…少し前にヴィオラの枕になってた時より肉が少ない気がするのよ。」
「知るかよ。」
「あー…確かに、お腹周り少し減りましたよね!?」
「なんだよ2人して!」
「冗談抜きに、なんかした?!」
「何しても痩せねぇからブタなんだけどよ…」
「ベルト見なさいよ!ホラ!穴ズレてんじゃない!絶対に痩せたって!!」

確かに、気がつくと引き伸ばされたベルト穴が開放され、新しい穴に金具が収まっている。

「痩せた…のか?」
「何したの!?何したら痩せたの!?教えなさいよ!!」
「何もしてねぇよ!!してたとしたら仕事だ!仕事!!」
「なんか病気でやつれたとかじゃ…?」
「なワケあるか!」

下らない話をしながら街道を進んでいると、やがて港町が見えて来た。


「わぁ!私ここ来るの初めて!」
「賑わってますねぇ。」
「すごい!いろんな国の荷物がたくさん!」
「ああ、王都に運び込まれる輸入品は、必ずと言っていい程一度ここに集められるからな。」

運河の終着地点である港では、相変わらず沢山の荷物と人がごった返している。

「どうしてもう少し先まで通らなかったんですか?」
「そこは領地問題だな…」

王都に近くなる程利己的な領主が多く、運河の港の権利を全て譲れだの、税金を国の定める3倍寄越せだの、自分の領地にだけ利益を独占させろなど、碌でもない要求が多く出たので、運河を遥か手前で行き止まりにし、そこからは国が街道となる土地を買い上げ王家の管轄とする事で落ち着いた。
欲をかいた貴族共は大損をし、更に輸入の際、港から馬車に積み替えて運送するための余計な料金が嵩んだことで、王都ではかなりの顰蹙ひんしゅくを買ったそうだ。
慌てて許可を出して来たが、工事が終了した時点でそんなものを出されても、もうどうする事も出来ず、今の形で落ち着いているそうだ。


「見たこと無い果物がたくさん!!」
「船の中で食べる用に何か買ってくか?」
「船酔いしちゃわないかしら…」
「酸味のある果物は予防にもなるって言うぞ?」

デイビッド達は、出港前に少しだけ市場へ寄り道し、買い物を楽しんだ。

「あ、僕あれ買ってこよー!」
「生クリームワッフルタワー!?」
「おいしそー!シェル様も一緒にどうですか?!」
「遠慮しとくわ…あんなの食べたら船酔いしそうだから。」

シェルリアーナは、代わりに屋台で売られていた南国フルーツの盛り合わせを何種類も買い込み、フレッシュジュースを飲みながら港を散策していた。

ヴィオラは珍しい果物を見つけ、デイビッドにあれこれ聞きながら買い物を楽しんでいる。

「変な形の果物!」
「切ると星の形してんだよ。」
「ステキ!お星様の果物なんて!」
「でも現地じゃ縦に切るから星の形にはなんねぇんだ。」
「星がいい!これ食べたい!」

ライラも初めての市場と見渡す限りの人の波に興奮していた。

「あー!だぁだ!!あー!」
「あれか?あれはイチゴじゃねぇんだけどな…」
「あ゙ーーっ!!」
「わかったわかった!買ってやるから、後で食おう!な?!」

何やら赤い果物を見つけ騒ぐライラを宥めながら、デイビッドは次から次へ買った物をカートへ放り込んで行った。

「若旦那!来てたんですか!?」
「なんだ!子供が産まれたのなら言って下さいよ!!」
「俺の子じゃねぇよ!!」
「ほーら、これ食べるかい?美味しいよ~?!」
「きゃぁー!」
「そっちのお嬢ちゃんもほら!」
「わわ!ありがとうございます!」
「あんなすげぇべっぴんさんまで連れて、今日はどちらまで?」
「うるせーな!実家に帰るだけだよ!」
「じゃ、アレですか?婚約者を親に紹介してってヤツで?!」
「どうでもいいだろ!変にちょっかい出すな!」

屋台の道は歩くだけで人が集まり、ヴィオラの両手はあっという間にいっぱいになった。

「こんなに食べ切れるでしょうか!?」
「日持ちするのもあるから置いとけよ?」
「そろそろ港の方に行きますか?」
「そうね、確か船に乗るって言ってたわよね?」
「ああ、もう桟橋に来てるはずだ……お、あった!あの奥の青い屋根の奴だよ。」

デイビッドの指差す先には、小型のキャビン型セイリング船が繋がれている。

「操縦は従来式だが、船内はほとんど魔道具で仕立ててあって揺れもほとんど感じないそうだ。」
「すごーい!かっこいいですね!」
「船自体は中古なんだけどよ、内装は新品にしたから、我慢してくれ。」
「「買ったんですか!?」」
「まぁな…」
「あの大きさ!ほとんどお家ですよ!?」
「またそんなもん買って!どこに置いとくつもりですか!?」
「いや、でも、これからも乗る機会あるだろうし…」
「アンタねぇ!自転車とワケが違うのよ!?衝動買いのレベル超えてるわよ!!相っ変わらず金銭感覚ぶっ壊れてんだから!!」

無駄遣いをした子供のように叱られ、やや勢いを失ったデイビッドが船舶場の管理者に船の番号を見せると、直ぐに桟橋に案内された。

「中広ーい!絨毯ふかふか!靴脱ぎます!裸足がいいです!」
「へぇ~これはなかなか居心地良さげな船ですね!」
「船なんてもっと狭くて不便なのかと思ってたけど、これならのんびり過ごせそうね!」
「あぷぅ~!!」

船内には広いリビングに大きなソファとローテーブルが据えられ、奥には狭いがベッドと収納が付いた個室が2つ、魔導式のキッチンもあり、快適な船旅が送れるよう工夫がされている。

「調理機は火事防止に全部魔道具なんで、俺は使えねぇけどな。」
「大丈夫です!私が動かすのでご飯作って下さい!」
「あと、操舵は手動なんだがエンジンの本体は魔導式なもんで、始動だけエリックに頼む。出力の調節はハンドルで俺にもできるらしいから…ん?…なんだ?…なんか変だぞ…?」

そこまで話してふと外の様子がおかしいことに気がつき、デイビッドは操縦桿のある甲板に飛び出した。

「船が動いてやがる!?」
「え?綱って解きました?」
「錨すら上げてねぇよ!!一体なんで…」

もやい綱と錨を確認すると、綱は綺麗に巻き取られ、錨も錨鎖びょうさごと船首庫バウロッカーに収納されている。

「誰だ!?俺たち以外に誰か船に…」
「大丈夫だよ 落ち着いて」
「へ?!ルーチェ?」

操縦台にちょこんと腰掛けたルーチェが、慌てるデイビッドを見てクスクス笑っている。

「水の中を見てみなよ」
「水の…中…あっ!!」

恐る恐る甲板から下を見ると、何かが水中で蠢いている。

「なんだありゃ…」
「この辺りの水妖達だね 普段は隠れてるけど 集まって来たんだよ」
「水妖って…まさか!」
「悪さはしないよ 力になりたいんだって 君って本当に
(ジーナが言ってたのはこれか…?)

船は音も無く揺れもせず、桟橋を離れ運河を登って行く。
甲板に呆然と立っていたデイビッドは我に返り、急いで舵輪を掴んだ。
(周りに怪しまれねぇようにしねぇと…)
勝手に進む船がこの世のどこにあるという。
操舵するをしながら、デイビッドは冷や汗が止まらなかった。

「デイビッド様、大丈夫ですか?」
「ちょっと!いきなり沈没なんてイヤよ?」
「んな事ねぇから安心しろよ。このまま進んで最初の拠点で一晩明かして、そっからまたしばらく船旅になるぞ?」

他の船を避けながらスイスイ進む船の下から、時折コポコポと何かが囁くような音がする。
エンジンを掛けていないので船の中は異様に静かだ。
運河の複雑な水上交差点を抜けると、そこからは真っ直ぐ海まで続いている。

流れが穏やかで、川幅の広いこの運河には一応“ラムダ運河”という呼び名がある。
川の対岸同士で渡し船や荷運びの小舟が揺れ、この辺りは水運ギルドも盛んで、水のおかげで林業なども捗っているそうだ。

「デイビッド様、見て下さい!イカダが流れてきました!」
「ああ、この先の支流に集材所があって、そこからイカダに組んだ木材を下流の貯木場まで運んでるんだよ。あのイカダも丸太を港まで持ってくとこだろうな。」
「お野菜を乗せた船もたくさんありますね!」
「支流近くの農家が売りに来るんだよ。船の方が早いからな。」
「デイビッド様!川に穴が空いてます!川の中に穴!?」
「あれは水の浄化装置があちこちに設置されてて、汚れなんかをろ過してるんだ。運河の水は汚すと罰金になる。ゴミなんか捨てたら直ぐに捕まっちまうんだ。」

野菜の泥を落とす程度なら許されるが、川中での洗濯なども厳禁で、汚れた水なども流してはならない。

「だからこんなに水が綺麗なんですね!」
「水を汲むための階段もあって、仕事の合間に涼んだり、釣りなんかも出来るようになってんだ。」
「人々の生活に寄り添った大切な水路なんですね!」

いつの間にか隣に来ていたヴィオラは、運河の景色とそこでの暮らしを垣間見て何やらノートを書いていた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

追放された宮廷花師が辺境の荒野に花を咲かせたら、王都の庭園だけが枯れ続けているようです

歩人
ファンタジー
「花を飾るだけの令嬢は不要だ」——王城の庭園を十年守った伯爵令嬢フローラは追放された。 翌月、王城の庭園が一夜にして枯れ果てる。さらに隣国への外交花束を用意できず国際問題に—— フローラの花束に込められた花言葉が、実は外交メッセージそのものだったのだ。 一方、辺境の荒野に降り立ったフローラが地面に触れると花が芽吹き始める。 荒野を花畑に変えていくスローライフの中で、花の感情が色で見える加護が目覚めて——。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。