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7代目デュロック辺境伯爵編
ごほうび
(もし、本当に死ぬなら…ヴィオラに伝えないと…)
デイビッドはギディオンの話に大きなショックを受けていた。
せっかく描きかけた未来が、音を立てて崩れるような絶望感。
何度も味わった、足元がなくなって奈落へ落ちて行く様な感覚。
積み上げた物を崩され、取り上げられ、今度は命まで…
理不尽に耐え切れず、呼吸が浅くなり、正体の分からない焦りと恐怖に襲われる。
(落ち着け…爺さんがなんとかすると言ったんだ…せめて死ぬまでに覚悟する時間くらいは稼げるはずだ…)
持っている事業や商会の仕事を誰かに託し、一部はアーネストに押し付けよう。領地を譲るならエリックが適任だろうか。ライラのことはどうしよう…ファルコとムスタの新しい主人も見つけないと…
そして婚約を全て白紙に戻し、ヴィオラとの縁を切る…
(そしたら…俺はどうするか…)
また人知れず旅にでも出て、どこかで野垂れ死ぬのがお似合いな気もする。
その覚悟でずっとやってきたのだ。亡骸も残らない様な死に様で構わない。
(それがいい。きっと、誰も傷つかない。一番いい方法だ。そうだろ?今更誰かにすがったって…迷惑なだけで…)
そう自分に言い聞かせるように、声の出ないまま頭の中で何度も繰り返す。
しかし、欲望がどうしても拭えない。
最期はヴィオラの側にいたい…
事切れる最後の瞬間まで、ヴィオラの顔を目に映していたい。
きっと泣かせてしまうだろう。彼女が悲しまない訳が無い。辛い記憶として残してしまうことになるのはわかり切っている。
それでも、離れたくない。
どれ程浅ましく、残酷な仕打ちであっても、諦め切れず心の奥底で求めてしまう。
(知らないままでいさせてくれたら、こんな事望まなかったのに…)
嫌われ者の一匹狼だった頃。
与えられた仕事の中で生きていたあの頃なら、自分の命だろうと簡単に捨てられた。
しかし、今のデイビッドはもう人に愛され、共に過ごす喜びと幸せを知っている。
時に幸福は人を弱くする。
ヴィオラのためになら、命だろうといくらでも懸けられる。
しかし、ただ死を待てと言うのはあまりにも非情だ。
(こんな事になるなら…あの時…さっさとくたばっときゃ良かっ…)
死ななかった事を後悔しかけた時、ひんやりとした手に瞼を押さえられ、耳の横を涙がつたう感触と共に意識が沈み、デイビッドは深い眠りの中へ落とされた。
猫を被ったルーチェが外で遊んで来るといい、窓から出て行くと、丁度2階から音も無く精霊が降りて来て、ギディオンを呼んだ。
「終わったらしいな。どれ、どんなものか…」
3人が2階へと向かうと、眠らされていたデイビッドが目を覚まし、起き上がったところだった。
「気分はどうだ?」
「なんだろな…なんか精々した様な気がする…」
デイビッドは、先程までの恐怖に駆られた焦燥感や絶望が消え、一気に心が軽くなった気がした。
「じっとしておれよ。まずは魔素だが…」
デイビッドの額に手を当て、しばらく目を閉じていたギディオンは驚いた様に手を離した。
「なんと!!これはどういう訳だ?!」
「なんだよ!なんか良くないのか?!」
「お前さんの体内の魔素が抜けて消えておる!」
「は??」
「それだけじゃない!魔素で膨らんだ体が急激に萎まないよう、魔素の代わりに霊質が細胞を満たしておる!こんな例は初めて見るぞ?!」
「おい、1人で勝手に騒ぐなよ爺さん!」
「デイビッド!いいか?良く聞け!お前さんの身体に長年蓄積し、身体を蝕んでいた魔素がきれいさっぱり抜けておる!それもただ抜けただけじゃない!身体を膨らませていた魔素がいきなり抜ければそれだけで命に関わる!しかしそこへ大量の霊質が注ぎ込まれ、今のお前さんの体を支えておるのだ!これは正しく奇跡だ!!」
興奮した様子のギディオンがデイビッドの体を揺さぶるが、方の本人にはその重大さがイマイチ伝わらない。
デイビッドは、ギディオンの喜びようから、自分が死の手から逃れられたのではという予感に期待をかけるべきか悩んでいた。
ギディオンが手を宙に差し出すと、その手の平に砂時計が落ちて来た。
中には赤茶色の砂と白い砂が入っており、ひっくり返すと白い砂だけが先に落ちる。
「これがお前さんの生きて来た時間だ。そして、上に残るのが残された時間…」
「止まったぞ爺さん。」
「止まったな。19年と1年足らず、きっかりお前さんの生きた時間だ。」
「上の砂、結構残ってねぇか?」
「残っとるな。う~ん…暫定で70~80年という所か。」
「ふつー…の人間の寿命なんじゃねぇの?」
「ふむ…人間にしてはやや長めかな。」
「じゃ、さっきの話は?!」
「ま、こういう事もあるということだ…」
「俺この小一時間で結構悩んで色々考えて辛かったんだけどよぉ?!」
「いやしかしこの様な奇跡、人間にはまず起こせるものではないな。こんな事ができるのは…」
クスクス笑っているルーチェの方をギディオンが見ると、ルーチェは首を横に振っていた。
「ぼくたちにはできないよ せいれいさまがね チカラをかしてくれたんだ おっきいのはとってもいいこだから ごほうびをくれたんだよ」
「精霊に好かれるには魔力がいるものと思っていたが、どうやら思い違いだった様だな。」
「まりょくなんてジャマなだけさ」
「なるほど、私の研究もよもやただの紙屑か。これだから精霊は恐ろしい…それにしても良かった!本当に…良かったなぁデイビィボーイ!!」
「だからその呼び方ヤメロよ!!」
手を払われながらも、ギディオンは喜びを抑え切れない様子でデイビッドの肩を何度も叩いていた。
顔を赤くしてギディオンに掴みかかり騒ぐデイビッドの後ろで、薄布に姿を隠した精霊がエリックに会釈した。
「わぁ…キレイな精霊ね。」
「喜んでいるみたいですね。」
「なにか言ってるわ…私じゃ聞き取れない。」
「え~と……オル…タン…シアの恩人…に幸多かれ…だそうですよ?」
「オルタンシア?」
「古い名持ちの精霊だよ。」
2人が首を傾げていると、デイビッドの手から解放されたギディオンが首をさすりながら戻って来た。
「やれやれ、老骨に無体を働くものではないぞ?」
「アンタが先に人のこと早死にするだのなんだの言ってきたんだろ!?」
「それもなくなったのだ。素直に喜べ。」
「喜べるか!単に余計なこと聞いて気ぃ揉まされただけだぞ俺は!!」
煩くするデイビッドを適当に躱しながら、ギディオンは2人の疑問に答える。
「精霊も妖精も特定の名は持たんものだが、長く人と関わることで共通の呼び名を得る事がある。雨月に現れるのでオルタンシア。雨乞いのために幾多の国や種族に拝まれていた精霊が昔いたよ。200年程前に人間と恋仲になり、精霊の領域を出て行ってそれきりだと聞いたが…」
「へぇ~…物好きな精霊も居たのもですね。」
「でも、恩人なんて言われるような事、なにかした?」
「さぁ?そもそも精霊にそんな影響を与えるようなことなんてありませんからねぇ。」
エリックが首を捻っていると、その横でデイビッドはさっさと帰り支度を初めてしまった。
「ちょっと待ちなさいよ!!せっかく師匠にお会いできたのよ!?これから色々お話するのにまさかもう帰るなんて言わないでしょうね!?」
「お前等は残ってろよ。俺はヴィオラの様子を見てくるから。」
「死ぬかもって思ったら会いたくなったんですか?」
「死なねぇよ!なんもなかったろうがよ!聞いて損した!」
ブツクサ文句を垂れながら、また来ると言ってデイビッドは先にひとり祖母の家に帰って行ってしまった。
「なんだエリック、お前さんはついて行かんのか?」
「僕は婚約者の側に居ますよ。知らない土地でひとりにはさせられませんから。」
「え?私は師匠と居られればそれでいいけど?」
「そんな事言わないで下さいよ!?」
「エリック、お前さんはデイビィから離れるんじゃない。ここはデュロックだ。いくらサウラリースが安全とは言え、一歩でも外に出れば逃げ場はないぞ!?」
「も~~~!わかりましたよ!行けばいいんでしょ行けば!」
あからさまにイヤイヤな態度で、エリックはデイビッドの後を追って行った。
来る時はあれ程道が分からなかった森の中には、帰りにはしっかりとした小道が用意されていた。
これも森の妖精や精霊の仕業なのだろう。
賢者に会うのはそう簡単なことでは無いのかも知れない。
デイビッドがアルテミシアの家に戻ると、庭先でライラと地面にしゃがみ込んでいる祖母の姿を見つけた。
「よぉ、何してんだ?」
「あら、お帰り。早かったのね?今ヴィオラちゃんがお夕飯にミートパイを焼いてくれてるトコなのよ。」
「へぇ、良かったな。」
「若い子のエネルギーってスゴいわね。キラキラで勢いがあって。女の子がお砂糖とスパイスで出来てるってホント。」
「で?2人はなにしてんだ…?」
「アリがバッタ運んでるの見てるトコよ。」
「…楽しいかライラ!?」
「うん!!」
「かわいいのね、ヴィオラちゃん。貴方のこと褒めちぎってたわよ?ただ話を聞いてるだけなのに、どれほど愛してるか伝わってくるの。貴方に夢中なのね。空気が甘くなっちゃったから、口直しにライラちゃんと遊んでるの。」
「口直しが蟻の集団採餌!?」
パイの焼ける良い香りが家の中から漂って来て、エプロンをかけたヴィオラが顔を出し、とろける様な笑顔で走って来た。
「デイビッド様!お帰りなさい!お話は終わりましたか?」
「一応な。置いてって悪かった。」
「いいえ?すごく楽しかったです!デイビッド様が優しい理由がわかりました。こんなにステキなお祖母様と暮らしていたら誰でも優しくなってしまいます!」
「本当にいい子ねヴィオラちゃん。こんな孫が私も欲しかったのよ。」
「まぁ、気が合ったのなら良かった…」
ようやくエリックが追いつくと、そこには庭先で何かを眺めている4人の姿があった。
祖母と孫と婚約者と義妹と…繋がりはどうあれ、なんとも仲の良い家族の姿だ。
「何なさってるんですか?」
「「「アリがバッタ運ぶの見てる。」」」
「なんで???」
少々型破りな家族の様だが…
デイビッドはギディオンの話に大きなショックを受けていた。
せっかく描きかけた未来が、音を立てて崩れるような絶望感。
何度も味わった、足元がなくなって奈落へ落ちて行く様な感覚。
積み上げた物を崩され、取り上げられ、今度は命まで…
理不尽に耐え切れず、呼吸が浅くなり、正体の分からない焦りと恐怖に襲われる。
(落ち着け…爺さんがなんとかすると言ったんだ…せめて死ぬまでに覚悟する時間くらいは稼げるはずだ…)
持っている事業や商会の仕事を誰かに託し、一部はアーネストに押し付けよう。領地を譲るならエリックが適任だろうか。ライラのことはどうしよう…ファルコとムスタの新しい主人も見つけないと…
そして婚約を全て白紙に戻し、ヴィオラとの縁を切る…
(そしたら…俺はどうするか…)
また人知れず旅にでも出て、どこかで野垂れ死ぬのがお似合いな気もする。
その覚悟でずっとやってきたのだ。亡骸も残らない様な死に様で構わない。
(それがいい。きっと、誰も傷つかない。一番いい方法だ。そうだろ?今更誰かにすがったって…迷惑なだけで…)
そう自分に言い聞かせるように、声の出ないまま頭の中で何度も繰り返す。
しかし、欲望がどうしても拭えない。
最期はヴィオラの側にいたい…
事切れる最後の瞬間まで、ヴィオラの顔を目に映していたい。
きっと泣かせてしまうだろう。彼女が悲しまない訳が無い。辛い記憶として残してしまうことになるのはわかり切っている。
それでも、離れたくない。
どれ程浅ましく、残酷な仕打ちであっても、諦め切れず心の奥底で求めてしまう。
(知らないままでいさせてくれたら、こんな事望まなかったのに…)
嫌われ者の一匹狼だった頃。
与えられた仕事の中で生きていたあの頃なら、自分の命だろうと簡単に捨てられた。
しかし、今のデイビッドはもう人に愛され、共に過ごす喜びと幸せを知っている。
時に幸福は人を弱くする。
ヴィオラのためになら、命だろうといくらでも懸けられる。
しかし、ただ死を待てと言うのはあまりにも非情だ。
(こんな事になるなら…あの時…さっさとくたばっときゃ良かっ…)
死ななかった事を後悔しかけた時、ひんやりとした手に瞼を押さえられ、耳の横を涙がつたう感触と共に意識が沈み、デイビッドは深い眠りの中へ落とされた。
猫を被ったルーチェが外で遊んで来るといい、窓から出て行くと、丁度2階から音も無く精霊が降りて来て、ギディオンを呼んだ。
「終わったらしいな。どれ、どんなものか…」
3人が2階へと向かうと、眠らされていたデイビッドが目を覚まし、起き上がったところだった。
「気分はどうだ?」
「なんだろな…なんか精々した様な気がする…」
デイビッドは、先程までの恐怖に駆られた焦燥感や絶望が消え、一気に心が軽くなった気がした。
「じっとしておれよ。まずは魔素だが…」
デイビッドの額に手を当て、しばらく目を閉じていたギディオンは驚いた様に手を離した。
「なんと!!これはどういう訳だ?!」
「なんだよ!なんか良くないのか?!」
「お前さんの体内の魔素が抜けて消えておる!」
「は??」
「それだけじゃない!魔素で膨らんだ体が急激に萎まないよう、魔素の代わりに霊質が細胞を満たしておる!こんな例は初めて見るぞ?!」
「おい、1人で勝手に騒ぐなよ爺さん!」
「デイビッド!いいか?良く聞け!お前さんの身体に長年蓄積し、身体を蝕んでいた魔素がきれいさっぱり抜けておる!それもただ抜けただけじゃない!身体を膨らませていた魔素がいきなり抜ければそれだけで命に関わる!しかしそこへ大量の霊質が注ぎ込まれ、今のお前さんの体を支えておるのだ!これは正しく奇跡だ!!」
興奮した様子のギディオンがデイビッドの体を揺さぶるが、方の本人にはその重大さがイマイチ伝わらない。
デイビッドは、ギディオンの喜びようから、自分が死の手から逃れられたのではという予感に期待をかけるべきか悩んでいた。
ギディオンが手を宙に差し出すと、その手の平に砂時計が落ちて来た。
中には赤茶色の砂と白い砂が入っており、ひっくり返すと白い砂だけが先に落ちる。
「これがお前さんの生きて来た時間だ。そして、上に残るのが残された時間…」
「止まったぞ爺さん。」
「止まったな。19年と1年足らず、きっかりお前さんの生きた時間だ。」
「上の砂、結構残ってねぇか?」
「残っとるな。う~ん…暫定で70~80年という所か。」
「ふつー…の人間の寿命なんじゃねぇの?」
「ふむ…人間にしてはやや長めかな。」
「じゃ、さっきの話は?!」
「ま、こういう事もあるということだ…」
「俺この小一時間で結構悩んで色々考えて辛かったんだけどよぉ?!」
「いやしかしこの様な奇跡、人間にはまず起こせるものではないな。こんな事ができるのは…」
クスクス笑っているルーチェの方をギディオンが見ると、ルーチェは首を横に振っていた。
「ぼくたちにはできないよ せいれいさまがね チカラをかしてくれたんだ おっきいのはとってもいいこだから ごほうびをくれたんだよ」
「精霊に好かれるには魔力がいるものと思っていたが、どうやら思い違いだった様だな。」
「まりょくなんてジャマなだけさ」
「なるほど、私の研究もよもやただの紙屑か。これだから精霊は恐ろしい…それにしても良かった!本当に…良かったなぁデイビィボーイ!!」
「だからその呼び方ヤメロよ!!」
手を払われながらも、ギディオンは喜びを抑え切れない様子でデイビッドの肩を何度も叩いていた。
顔を赤くしてギディオンに掴みかかり騒ぐデイビッドの後ろで、薄布に姿を隠した精霊がエリックに会釈した。
「わぁ…キレイな精霊ね。」
「喜んでいるみたいですね。」
「なにか言ってるわ…私じゃ聞き取れない。」
「え~と……オル…タン…シアの恩人…に幸多かれ…だそうですよ?」
「オルタンシア?」
「古い名持ちの精霊だよ。」
2人が首を傾げていると、デイビッドの手から解放されたギディオンが首をさすりながら戻って来た。
「やれやれ、老骨に無体を働くものではないぞ?」
「アンタが先に人のこと早死にするだのなんだの言ってきたんだろ!?」
「それもなくなったのだ。素直に喜べ。」
「喜べるか!単に余計なこと聞いて気ぃ揉まされただけだぞ俺は!!」
煩くするデイビッドを適当に躱しながら、ギディオンは2人の疑問に答える。
「精霊も妖精も特定の名は持たんものだが、長く人と関わることで共通の呼び名を得る事がある。雨月に現れるのでオルタンシア。雨乞いのために幾多の国や種族に拝まれていた精霊が昔いたよ。200年程前に人間と恋仲になり、精霊の領域を出て行ってそれきりだと聞いたが…」
「へぇ~…物好きな精霊も居たのもですね。」
「でも、恩人なんて言われるような事、なにかした?」
「さぁ?そもそも精霊にそんな影響を与えるようなことなんてありませんからねぇ。」
エリックが首を捻っていると、その横でデイビッドはさっさと帰り支度を初めてしまった。
「ちょっと待ちなさいよ!!せっかく師匠にお会いできたのよ!?これから色々お話するのにまさかもう帰るなんて言わないでしょうね!?」
「お前等は残ってろよ。俺はヴィオラの様子を見てくるから。」
「死ぬかもって思ったら会いたくなったんですか?」
「死なねぇよ!なんもなかったろうがよ!聞いて損した!」
ブツクサ文句を垂れながら、また来ると言ってデイビッドは先にひとり祖母の家に帰って行ってしまった。
「なんだエリック、お前さんはついて行かんのか?」
「僕は婚約者の側に居ますよ。知らない土地でひとりにはさせられませんから。」
「え?私は師匠と居られればそれでいいけど?」
「そんな事言わないで下さいよ!?」
「エリック、お前さんはデイビィから離れるんじゃない。ここはデュロックだ。いくらサウラリースが安全とは言え、一歩でも外に出れば逃げ場はないぞ!?」
「も~~~!わかりましたよ!行けばいいんでしょ行けば!」
あからさまにイヤイヤな態度で、エリックはデイビッドの後を追って行った。
来る時はあれ程道が分からなかった森の中には、帰りにはしっかりとした小道が用意されていた。
これも森の妖精や精霊の仕業なのだろう。
賢者に会うのはそう簡単なことでは無いのかも知れない。
デイビッドがアルテミシアの家に戻ると、庭先でライラと地面にしゃがみ込んでいる祖母の姿を見つけた。
「よぉ、何してんだ?」
「あら、お帰り。早かったのね?今ヴィオラちゃんがお夕飯にミートパイを焼いてくれてるトコなのよ。」
「へぇ、良かったな。」
「若い子のエネルギーってスゴいわね。キラキラで勢いがあって。女の子がお砂糖とスパイスで出来てるってホント。」
「で?2人はなにしてんだ…?」
「アリがバッタ運んでるの見てるトコよ。」
「…楽しいかライラ!?」
「うん!!」
「かわいいのね、ヴィオラちゃん。貴方のこと褒めちぎってたわよ?ただ話を聞いてるだけなのに、どれほど愛してるか伝わってくるの。貴方に夢中なのね。空気が甘くなっちゃったから、口直しにライラちゃんと遊んでるの。」
「口直しが蟻の集団採餌!?」
パイの焼ける良い香りが家の中から漂って来て、エプロンをかけたヴィオラが顔を出し、とろける様な笑顔で走って来た。
「デイビッド様!お帰りなさい!お話は終わりましたか?」
「一応な。置いてって悪かった。」
「いいえ?すごく楽しかったです!デイビッド様が優しい理由がわかりました。こんなにステキなお祖母様と暮らしていたら誰でも優しくなってしまいます!」
「本当にいい子ねヴィオラちゃん。こんな孫が私も欲しかったのよ。」
「まぁ、気が合ったのなら良かった…」
ようやくエリックが追いつくと、そこには庭先で何かを眺めている4人の姿があった。
祖母と孫と婚約者と義妹と…繋がりはどうあれ、なんとも仲の良い家族の姿だ。
「何なさってるんですか?」
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「なんで???」
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