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7代目デュロック辺境伯爵編
理不尽な要求
椅子から転げ落ちて足を抑えるデイビッドに、メイドの女が狼狽える。
「あ、あの!わ、私、火傷を…治そうと…」
「あ゙ーっイッテェな!皮がひん剥けるかと思った!!ヤメロって言ってんだろうがよ!下手な演出とかいらねぇから、もう誰も近づくな!」
「申し訳ありません!申し訳ありません!!」
必死に謝るメイドがデイビッドに追い出され、逃げて行く。
「演出?」
「あー、デイビッド様がさっきの乳出しメイドに引っかからなかったから、ああやって趣向の違う女性を充てがって来たんですよ。」
「サイテーですね。」
「こんな熱くもねぇ茶を客にぶっかける時点で相当ヤバイぞ。早いとこ話終わらせて帰りてぇ…」
デイビッドがズボンをまくると、肌が明らかに人の手の形に赤く火膨れの様になり、他の紅茶がかかった部分はなんともない。
熱い紅茶をかけた体で治癒と称して身体に触れ、あるいは魅了魔法を掛けてお召し替えをと言い、別室へ連れ込むつもりだったのだろう。
詫びと称して身体を許し、相手の弱みを握る。
典型的なハニートラップだ。
「役者を間違えましたね。」
「引っかかる人いるんですか?」
「中年層とか、血気盛んなお年頃だとコロッといくらしいですよ?」
「デュロックの人達は色仕掛けが得意…?」
「一括りにしないで!?」
さすがに3度目の襲撃は無く、中年のフットマンが現れ、話し合いの席が整ったと知らせに来た。
「ご令嬢はこちらへ。お茶の支度ができております。」
「私は婚約者の元から離れたくありません。」
「これより先はデュロックの長が集まる席でございます。入れる者が限られる事はご理解下さいませ。」
ヴィオラが渋っていると、デイビッドがエリックに何か耳打ちをし、ヴィオラへ付かせた。
「いいか?!何があっても側を離れるなよ!」
「わかりました。」
ヴィオラにも何やら目配せすると、デイビッドは1人で長い廊下の先の部屋へと向かって行った。
広い部屋には大きな円のテーブルが置かれており、デイビッドはドアに一番近い席に座らされた。
真正面の椅子は空席で、両サイドにはデュロックの各家門の代表と、主な事業の責任者等が座っている。
「よく来たな!逃げなかったことを褒めてやろう。それでは早速話を始めようか。」
空席の隣に座るジョエルが、場を仕切り、他家もそれに従っている。
「デイビッド、貴様は現当主である父親から当主印を騙し取り、己が次期当主と名乗って好き放題した。この罪状に間違いはないか?!」
「……罪状って…裁判でも始める気か?」
「これは一族の存続に関わる大問題だ!次期当主の名を騙り、その利益を貪る悪党が同じ血筋から出たとあってはな!同族からの裁きは温情だと思え!!」
デイビッドは訳がわからず目を瞬いていたが、呆れたようにため息を吐いてポケットを探っていた。
「父親の後を追いたい気持ちは分からんでもないが、やり方を間違えればこうなると分からなかったのか?!貴様の様な無能にその印は不相応!当主不在の今、ゆくゆくは当主の座を手にする権利を持つ者にこそふさわ…」
カツーーン…カラカラカラ……
ベラベラと喋るジョエルの前に何かが音を立てて転がって行く。
掌に収まる程の大きさのそれは、デュロック家当主の証であり、歴代当主達が命より大切に守り抜いて来た、デュロックの当主印であった。
「な…!な…!!き、貴様!何をしている!?」
「ホラよ。欲しかったんだろ?こんな馬鹿げた騒ぎまで起こしやがって。断罪ごっこは他所でやってくれ。迷惑なだけだ。」
「貴様自分が何をしたかわかっているのか!?当主印を投げるとは!!これはデュロック総家への侮辱であり、反逆だ!!」
「反逆でも何でもいい。取れよ。テメェが喉から手が出る程欲しかったモンだろ?こんな事でいちいち一族の重鎮ばっかこんな集めやがって。そのくせ一番おっかねぇ自分の身内はご丁寧に省くなんざ、ガキの浅知恵にも程があらァ。」
デイビッドは正面の空席を顎で指して鼻で笑った。
「欲しけりゃ持ってけよ。親父に押し付けられて迷惑してんだこっちは。次期当主だぁ?んなもん、なりてぇならいくらでも譲ってやるよ。お前にその覚悟があるってんならなぁ!?」
ジョエルは身を乗り出して転がって来た当主印を掴もうとしたが、指が触れた瞬間弾かれるように仰け反った。
「ギャァッ!!」
「どうした?まさか、自称デュロック家の次期当主様が、当主印も触れねぇのか?」
「貴様ぁっ!!神聖な当主印に何をした!?」
「俺は何もしてねぇよ。先代の手記によると、どうもその判子は古代魔法を使った魔道具らしい。防護魔法でも掛かってんじゃねぇか?」
「魔道具だと!?」
「印に許された者以外の手には触れない様できてるそうだ。それも、誰にでもそうなるわけじゃない。俺の侍従と義妹は普通に触れたし、婚約者も仕事仲間も数人、触れてもなんともなかった。」
「当主印を他人の手に触れさせる等、許されると思っているのか!?」
「長く持ってりゃそういう事もあるだろ?いや、そこは人に寄るかもしれねぇけどよ。なんにせよ、初代がどんな考えでこれを作らせたのかなんとなくわかった。」
ジョエルは怒りで震えながら痛む手を擦り、大声を上げた。
「次期当主はこの私だ!!総領の孫であり、このディオニスを、引いてはデュロックを背負うに相応しい器を持っている!皆もそう思うだろう?!こんな無能で魔力の欠片もない豚のどこが当主に相応しいと言うのだ!」
興奮したジョエルが、バンッとテーブルを叩くと衝撃でカラカラとまた当主印が転がり出す。
そしてデイビッドの前でピタリと止まった。
「そもそも、貴族院には10年以上も前から次期当主の指名欄には俺の名前が書かれてんだ。身内で変更するなら、そこのとこも直さなきゃじゃねぇのか?」
「黙れ!王都に送られるお飾りと、領地を護る真の当主は別ものだ!!」
「それって、虚偽になるんじゃねぇのか?」
「何を言っている!我らはデュロックだぞ?!王家など足元にも及ばない能力と権力を持って生まれた、選ばれし一族!その能力を秘匿するための囮こそが次期当主の存在だ!」
「国の守護を務める辺境伯が、王を蔑ろにするのか…不敬罪にならなきゃいいな。」
「不敬は貴様だ!我がデュロックの名を汚した罪人め!いつまで生き汚くこの世にしがみついているつもりだ?!他の者が教えないならこの私が教えてやろう!いいか?デュロックで魔力の無い無能は全員お飾りのまま死ぬんだ!お前は後数年の内にこの世から消える運命にあるんだよ!!」
その一言で周りで黙って聞いていた面々がざわめき出した。
中の老人が一人、手を挙げ口を開く。
「ジョエル、今の発言はちとマズイのではないのかね?」
「なにがです?!そもそも、早死にすることがわかっているのだから、さっさと教えてやった方が親切でしょう?皆んなだって知ってるはすだ。デュロックで魔力の無いデブは成人して直ぐに死ぬんだって!ブクブク肥えた豚風情が早いとこくたばればいいものを、そもそもおまえが当主印なんて盗まなけりゃ、こんな人を集める必要も無かったんだ!土下座して詫びろ!」
「ジョエル、いい加減にしなさい!」
「そうだぞ?いくら総領家の跡取りとは言え、今の発言は取り消すんだ!」
どうやら全員がデイビッドの敵というわけでもないようだ。
次世代を担う者達の話し合いの行方を見定めている者達もいる。
しかし、ジョエルはそれに気がついていない。
「何故です?!コイツはデュロックの名を使って散々遊び歩き、甘い汁を吸って生きて来た怠惰な豚そのものですよ!?その上当主を騙して大切な印まで奪って…これでは歴代の当主達に申し訳が立たちません!こんな奴に、お情けでも次期当主などと言う肩書は相応しくない!即刻地位を取り上げ、二度外の世界に出さないか、逆にこの家から追放でもすべきです!!」
シン…と静まり返った円卓に、ガタンと椅子の音だけが響く。
立ち上がったデイビッドが、まっすぐジョエルを睨み付け、低い声で言い放つ。
「好きにしろ。俺は死んだ爺さんと親父の意志を継いだだけだ。でなけりゃこんな下らねぇお遊びに付き合う義理もねぇ。当主印?んなもんいくらでもくれてやる。たかが判子ひとつに懸けるもんなんざなんもねぇよ!追放でもなんでも勝手にしてくれ。俺は俺の守るべきものだけ守れりゃそれで十分だ。」
「こ…の…言わせておけば!!」
ジョエルが立ち上がり、なんと怒りに任せて火魔法を放とうと片手に魔力を集め、火球を作り出した。
一瞬の出来事で、周りは止めることもできず、驚いて手を出そうとする者や、伴侶を庇う者達がガタガタ音を立てている。
しかし、魔法が放たれようとした瞬間、とても重い魔力の渦が部屋を満たし、パチンと音を立ててジョエルの魔法が掻き消えた。
「そこまでです。」
静かな声と共に、迫力のある老婦人がデイビッドの後ろの扉を開けて立っていた。
「私の留守に随分と好き勝手してくれたものですね、ジョエル?」
「お…お祖母様!こ、これには訳が…」
「神聖な円卓の会議で感情に任せて魔法を放つ事の意味がわかっておりませんね。」
卓の全員が立ち上がり、礼を取る。
彼女こそデュロック家7家門の総領、ロザリア・ディオニス・デュロックその人。
ツカツカと円卓に近づくと、こともなげにひょいと当主印を手に取り、デイビッドの前に差し出した。
「貴方も貴方です。これは本当に大切な、我が家の家宝と言っても過言ではありません。雑な扱いは許しませんよ?二度と人に譲ろうなどと口にしない事。良いですね?!」
「はい…申し訳ありません、総領殿…」
素直に謝り、手を出すと、その手に当主印が乗せられる。
鈍色に光る小さな判子は、やっと元の場所に戻ったと言うように、デイビッドの手の中に大人しく収まった。
「あ、あの!わ、私、火傷を…治そうと…」
「あ゙ーっイッテェな!皮がひん剥けるかと思った!!ヤメロって言ってんだろうがよ!下手な演出とかいらねぇから、もう誰も近づくな!」
「申し訳ありません!申し訳ありません!!」
必死に謝るメイドがデイビッドに追い出され、逃げて行く。
「演出?」
「あー、デイビッド様がさっきの乳出しメイドに引っかからなかったから、ああやって趣向の違う女性を充てがって来たんですよ。」
「サイテーですね。」
「こんな熱くもねぇ茶を客にぶっかける時点で相当ヤバイぞ。早いとこ話終わらせて帰りてぇ…」
デイビッドがズボンをまくると、肌が明らかに人の手の形に赤く火膨れの様になり、他の紅茶がかかった部分はなんともない。
熱い紅茶をかけた体で治癒と称して身体に触れ、あるいは魅了魔法を掛けてお召し替えをと言い、別室へ連れ込むつもりだったのだろう。
詫びと称して身体を許し、相手の弱みを握る。
典型的なハニートラップだ。
「役者を間違えましたね。」
「引っかかる人いるんですか?」
「中年層とか、血気盛んなお年頃だとコロッといくらしいですよ?」
「デュロックの人達は色仕掛けが得意…?」
「一括りにしないで!?」
さすがに3度目の襲撃は無く、中年のフットマンが現れ、話し合いの席が整ったと知らせに来た。
「ご令嬢はこちらへ。お茶の支度ができております。」
「私は婚約者の元から離れたくありません。」
「これより先はデュロックの長が集まる席でございます。入れる者が限られる事はご理解下さいませ。」
ヴィオラが渋っていると、デイビッドがエリックに何か耳打ちをし、ヴィオラへ付かせた。
「いいか?!何があっても側を離れるなよ!」
「わかりました。」
ヴィオラにも何やら目配せすると、デイビッドは1人で長い廊下の先の部屋へと向かって行った。
広い部屋には大きな円のテーブルが置かれており、デイビッドはドアに一番近い席に座らされた。
真正面の椅子は空席で、両サイドにはデュロックの各家門の代表と、主な事業の責任者等が座っている。
「よく来たな!逃げなかったことを褒めてやろう。それでは早速話を始めようか。」
空席の隣に座るジョエルが、場を仕切り、他家もそれに従っている。
「デイビッド、貴様は現当主である父親から当主印を騙し取り、己が次期当主と名乗って好き放題した。この罪状に間違いはないか?!」
「……罪状って…裁判でも始める気か?」
「これは一族の存続に関わる大問題だ!次期当主の名を騙り、その利益を貪る悪党が同じ血筋から出たとあってはな!同族からの裁きは温情だと思え!!」
デイビッドは訳がわからず目を瞬いていたが、呆れたようにため息を吐いてポケットを探っていた。
「父親の後を追いたい気持ちは分からんでもないが、やり方を間違えればこうなると分からなかったのか?!貴様の様な無能にその印は不相応!当主不在の今、ゆくゆくは当主の座を手にする権利を持つ者にこそふさわ…」
カツーーン…カラカラカラ……
ベラベラと喋るジョエルの前に何かが音を立てて転がって行く。
掌に収まる程の大きさのそれは、デュロック家当主の証であり、歴代当主達が命より大切に守り抜いて来た、デュロックの当主印であった。
「な…!な…!!き、貴様!何をしている!?」
「ホラよ。欲しかったんだろ?こんな馬鹿げた騒ぎまで起こしやがって。断罪ごっこは他所でやってくれ。迷惑なだけだ。」
「貴様自分が何をしたかわかっているのか!?当主印を投げるとは!!これはデュロック総家への侮辱であり、反逆だ!!」
「反逆でも何でもいい。取れよ。テメェが喉から手が出る程欲しかったモンだろ?こんな事でいちいち一族の重鎮ばっかこんな集めやがって。そのくせ一番おっかねぇ自分の身内はご丁寧に省くなんざ、ガキの浅知恵にも程があらァ。」
デイビッドは正面の空席を顎で指して鼻で笑った。
「欲しけりゃ持ってけよ。親父に押し付けられて迷惑してんだこっちは。次期当主だぁ?んなもん、なりてぇならいくらでも譲ってやるよ。お前にその覚悟があるってんならなぁ!?」
ジョエルは身を乗り出して転がって来た当主印を掴もうとしたが、指が触れた瞬間弾かれるように仰け反った。
「ギャァッ!!」
「どうした?まさか、自称デュロック家の次期当主様が、当主印も触れねぇのか?」
「貴様ぁっ!!神聖な当主印に何をした!?」
「俺は何もしてねぇよ。先代の手記によると、どうもその判子は古代魔法を使った魔道具らしい。防護魔法でも掛かってんじゃねぇか?」
「魔道具だと!?」
「印に許された者以外の手には触れない様できてるそうだ。それも、誰にでもそうなるわけじゃない。俺の侍従と義妹は普通に触れたし、婚約者も仕事仲間も数人、触れてもなんともなかった。」
「当主印を他人の手に触れさせる等、許されると思っているのか!?」
「長く持ってりゃそういう事もあるだろ?いや、そこは人に寄るかもしれねぇけどよ。なんにせよ、初代がどんな考えでこれを作らせたのかなんとなくわかった。」
ジョエルは怒りで震えながら痛む手を擦り、大声を上げた。
「次期当主はこの私だ!!総領の孫であり、このディオニスを、引いてはデュロックを背負うに相応しい器を持っている!皆もそう思うだろう?!こんな無能で魔力の欠片もない豚のどこが当主に相応しいと言うのだ!」
興奮したジョエルが、バンッとテーブルを叩くと衝撃でカラカラとまた当主印が転がり出す。
そしてデイビッドの前でピタリと止まった。
「そもそも、貴族院には10年以上も前から次期当主の指名欄には俺の名前が書かれてんだ。身内で変更するなら、そこのとこも直さなきゃじゃねぇのか?」
「黙れ!王都に送られるお飾りと、領地を護る真の当主は別ものだ!!」
「それって、虚偽になるんじゃねぇのか?」
「何を言っている!我らはデュロックだぞ?!王家など足元にも及ばない能力と権力を持って生まれた、選ばれし一族!その能力を秘匿するための囮こそが次期当主の存在だ!」
「国の守護を務める辺境伯が、王を蔑ろにするのか…不敬罪にならなきゃいいな。」
「不敬は貴様だ!我がデュロックの名を汚した罪人め!いつまで生き汚くこの世にしがみついているつもりだ?!他の者が教えないならこの私が教えてやろう!いいか?デュロックで魔力の無い無能は全員お飾りのまま死ぬんだ!お前は後数年の内にこの世から消える運命にあるんだよ!!」
その一言で周りで黙って聞いていた面々がざわめき出した。
中の老人が一人、手を挙げ口を開く。
「ジョエル、今の発言はちとマズイのではないのかね?」
「なにがです?!そもそも、早死にすることがわかっているのだから、さっさと教えてやった方が親切でしょう?皆んなだって知ってるはすだ。デュロックで魔力の無いデブは成人して直ぐに死ぬんだって!ブクブク肥えた豚風情が早いとこくたばればいいものを、そもそもおまえが当主印なんて盗まなけりゃ、こんな人を集める必要も無かったんだ!土下座して詫びろ!」
「ジョエル、いい加減にしなさい!」
「そうだぞ?いくら総領家の跡取りとは言え、今の発言は取り消すんだ!」
どうやら全員がデイビッドの敵というわけでもないようだ。
次世代を担う者達の話し合いの行方を見定めている者達もいる。
しかし、ジョエルはそれに気がついていない。
「何故です?!コイツはデュロックの名を使って散々遊び歩き、甘い汁を吸って生きて来た怠惰な豚そのものですよ!?その上当主を騙して大切な印まで奪って…これでは歴代の当主達に申し訳が立たちません!こんな奴に、お情けでも次期当主などと言う肩書は相応しくない!即刻地位を取り上げ、二度外の世界に出さないか、逆にこの家から追放でもすべきです!!」
シン…と静まり返った円卓に、ガタンと椅子の音だけが響く。
立ち上がったデイビッドが、まっすぐジョエルを睨み付け、低い声で言い放つ。
「好きにしろ。俺は死んだ爺さんと親父の意志を継いだだけだ。でなけりゃこんな下らねぇお遊びに付き合う義理もねぇ。当主印?んなもんいくらでもくれてやる。たかが判子ひとつに懸けるもんなんざなんもねぇよ!追放でもなんでも勝手にしてくれ。俺は俺の守るべきものだけ守れりゃそれで十分だ。」
「こ…の…言わせておけば!!」
ジョエルが立ち上がり、なんと怒りに任せて火魔法を放とうと片手に魔力を集め、火球を作り出した。
一瞬の出来事で、周りは止めることもできず、驚いて手を出そうとする者や、伴侶を庇う者達がガタガタ音を立てている。
しかし、魔法が放たれようとした瞬間、とても重い魔力の渦が部屋を満たし、パチンと音を立ててジョエルの魔法が掻き消えた。
「そこまでです。」
静かな声と共に、迫力のある老婦人がデイビッドの後ろの扉を開けて立っていた。
「私の留守に随分と好き勝手してくれたものですね、ジョエル?」
「お…お祖母様!こ、これには訳が…」
「神聖な円卓の会議で感情に任せて魔法を放つ事の意味がわかっておりませんね。」
卓の全員が立ち上がり、礼を取る。
彼女こそデュロック家7家門の総領、ロザリア・ディオニス・デュロックその人。
ツカツカと円卓に近づくと、こともなげにひょいと当主印を手に取り、デイビッドの前に差し出した。
「貴方も貴方です。これは本当に大切な、我が家の家宝と言っても過言ではありません。雑な扱いは許しませんよ?二度と人に譲ろうなどと口にしない事。良いですね?!」
「はい…申し訳ありません、総領殿…」
素直に謝り、手を出すと、その手に当主印が乗せられる。
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