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7代目デュロック辺境伯爵編
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やがてパイが焼き上がり、鍋のスープが煮えると、デイビッドがヴィオラと代わり、簡単にオムレツとガレットを焼いてテーブルに出した。
「孫のお嫁さんの手料理が食べられると思ったら、その孫も料理をしてくれるなんて、驚きよ?」
「卵焼いただけだろ?」
「何言ってるの。ジェイムスはパン1枚自分で焼いた事がないのよ?そんなので発明家だなんて呼ばれて、笑っちゃうでしょ?」
「デイビッド様のお料理はどれも世界一なんです!」
「あらあら、貴女のパイだって世界一よ。サクサクで中のフィリングとチーズが最高ね。」
「ありがとうございます!デイビッド様に教わったんです。」
「貴方達の仲の良さが見れて本当に嬉しいわ。おまけに曾孫まで連れて来て。パーフェクトね。」
「俺の義妹ですけど…?」
「いずれは引き取るつもりでしょう?だったら今からそのつもりで相手したっていいじゃないの。」
「ぐぅっ…」
言い返せないデイビッドの横では、今日ばかりは大人しいエリックがすました顔で笑いを堪えていた。
(後でシェリィに教えてあげよー!)
和やかで楽しい食事の後にお茶を飲んでいると、来た時に会った市長付きの大男が息を切らせて駆け込んで来た。
「ディオニス伯爵領より、使者が参りましたデス!デイビッド様に、ディオニス邸にて次期当主様がお呼びであると…」
「…わかった…」
遂に来たかと、デイビッドが立ち上がり出て行こうとすると、ヴィオラが不安気な顔をした。
「ヴィオラ…これからちょっと込み入った話になるから、ここで待っててくれ…」
「それが、ご婚約者様も同席でとのご指示でございます…」
申し訳なさそうに大男が頭を下げる。
「パンさんがそんな顔しないでよ。悪いのは向こうの連中だ。ごめんなヴィオラ、もうすぐ暗くなるけど、少し付き合ってもらえるか?」
「もちろんです!その前に着替えをしてもいいですか?」
「わかった。」
「外にいなさい。手伝うわヴィオラちゃん。」
「ありがとうございますアルテ様。」
ヴィオラが訪問用の簡易ドレスに着替える間、エリックとデイビッドは大男と共に庭先で待つことになった。
「パンさん…だよな?ガキの頃、よく悪さすると叱ってくれた…」
「ご記憶頂き、誠に嬉しゅございマス。坊っちゃま。」
「もうそんな歳じゃねぇよ!」
「ここの領民は、皆坊っちゃまの味方デス。何かあればここへおいで下さい。必ずやお守り致しマス。」
「ディオニスの連中に目をつけられねぇか?」
「ディオニス伯爵家の方々は総領様以外サウラリースへは入れません。これは総領様がお決めになったことですのでご安心下さい。」
「ここへ来るなって?なんで?」
「入門の資格を正規に受けない者は例え同族であろうと、何人たりとも通すなと、お決めになられました。」
「そういう訳か…アイツら選民意識スゲェからなぁ…」
やがてくるぶし丈の訪問用ドレスに着替えたヴィオラが気合を入れなおして現れた。
「行きましょう!!」
「ガッツポーズはやめような…?」
「私はライラちゃんを預かるわ。今夜は帰されないと思いなさい?連中は自分の意見を曲げるのが大嫌いよ。交渉を長引かせてこちらが折れるのを待つの。何が何でも意思を曲げないことよ。鋼より靭やかに、相手の虚を突きなさい。サウラリースの戦い方は心得ているわね?」
「爺さんに教わった。獲物の息の根は気づかれない内に止めろって。」
「よろしい。連中の喉笛掻っ切っておやり!」
「ああ、行って来る。」
「そんな物騒な送り出し文句初めて聞きましたよ…」
手を振るライラとアルテミシアに見送られ、一同はサウラリースを後にした。
門から出る際、“パンさん”と呼ばれていた大男は、デイビッドにサウラリースの伝令魔道具を渡してくれた。
魔力が無くとも封を破くだけで発せられる、使い捨ての救難信号だ。万が一の時は使えと言う事だろう。
デイビッドはそれをありがたく受け取ると、男と握手をして門の外に出た。
駅に向かう一本道を馬車で進み、もらった切符を持って駅の中を歩いていると、前からデイビッド目掛けて人が歩いてきた。
デイビッドが避けようとすると、行く手を塞いで口々に何か言う。
「おい!黒豚、どこへ逃げ出そうとしてる?」
「ジョエル様がお呼びだ!逆らうとまた痛い目に遭わせるぞ?!」
「そんな一般の客車では日が暮れるだろう?!不本意だがこちらの私線の車両に乗せてやる!さっさとしろ!」
随分と居丈高な2人の男に、エリックもヴィオラもポカンとしてしまった。
(誰ですか…この人達…?)
(従兄弟筋の連中だったと思う、たぶん…)
(デュロックの7家門の内の2家、ヒースヒェン子爵家とヴォルペ伯爵家の次男の2方ですよ。)
(ぜんっぜん覚えてねぇや…)
デイビッド達がヒソヒソ話していると、1人が痺れを切らせてデイビッドの胸ぐらを掴んだ。
「返事もないとは言い度胸だな!?這いつくばって礼のひとつも言えないのか?!この豚野郎が!!」
「別に逃げてねぇし、頼んでもねぇよ。」
「口答えするな!薄汚い畜生風情が!!」
顔面に拳が叩き込まれる寸前、デイビッドはその手を片手で軽く受け止め、力を込めた。
「ギャァァァッ!痛い痛い痛いっ!離せ化け物ぉぉっ!」
興が冷め切ったデイビッドは、狼狽える2人を無視して、切符に書かれた車両を探そうとしたが、更に後ろから待ったをかけられた。
「乗るのはこちらの専用車両にしてもらおう。こう見えて正式な迎えなのでね。総領様がご用意下さった特別特急だ。時間が無い、早くしたまえ。」
振り向くと、麦色の髪に黒い瞳の美青年が立っていた。
にこやかに見えて、デイビッドを軽蔑した目付きが気に入らない。
この男が何を隠そう自称次期当主、ジョエル・ディオニスだ。
デイビッドは何も言わずエリックに合図すると、男について行き、2両しかない豪華な貴族用と分かる客車に乗り込んだ。
小部屋程広いコンパートメントの端にデイビッドが座り、その隣にヴィオラ、そしてエリックと並ぶ。
その向かいに、先にデイビッドに負けた2人とジョエルが座り、低い汽笛と共に汽車が走り出した。
「如何ですかお嬢さん。我が寮自慢の魔導機関車です。静かでとても速いでしょう?」
「そうですね。」
一言そう言うとヴィオラはパッと扇子を取り出し、口元を隠した。
チラッとデイビッドに目配せすると臨戦体制に入る。
「初めまして、ヴィオラ・ローベル子爵令嬢。デュロック辺境伯爵総領家ディオニスの長男、ジョエルと申します。」
「どうも。」
「ずっとお会いしたいと思っておりました。デュロック領はいかがです?王都などとは比べものにならない程の発展振りでしょう?」
「どうかしら。」
「よろしければ明日にでもご案内させて頂けませんか?きっとこの領が気に入って下さると思います!」
「ご遠慮します。」
ニコリともせず、相手の会話を間髪入れずにぶった斬るヴィオラに、両隣のエリックとデイビッドは笑いを堪えるのに必死だった。
(ヴィオラ様やるぅ…)
(ほどほどにしとけよ?悪評のネタにされるのも癪だからな。)
あまりの冷めた対応に、ジョエルの方も話題の路線を変更して行った。
「そう言えば、ヴィオラ令嬢は王都の学園にお通いなのですよね。特待生とお聞きしております。」
「そうですね。」
「しかし、勿体ない…我が領の学園に通えば、更なる知識と洗練された技術を学ぶこともできたでしょうに。こちらへお連れできなかったことを悔やみます。」
「そうですか…?」
言いさして、もう一言続ける。
「勉学は充実しておりますわ。現当主夫人もご卒業された学び舎ですもの。」
「あ…そ、そうでしたね…」
以降いくら話かけられても、物言わぬ貝のように口を閉ざしたヴィオラは、つまらな気に窓の外を眺めていた。
再びディオニスの駅で降ろされ、豪華な馬車に詰め込まれると、先程も見た人工湖の先にある城へ向かって行く。
白亜の城は美しく、堅牢で隙がない。
大きな門を潜り、入り口から人目の無い廊下へ差し掛かると、デイビッド達の前にいきなりメイドが並び世話を焼こうと手を伸ばしてきた。
「上着をお預かり致します。」
「いらねぇよ!」
「御用の際にはいつでもお呼び下さいませ。」
「邪魔だ、あっち行け!」
寄って来たのは、太腿のガーターが見える程裾の短いスカートに、肩も胸も出したそれも粒揃いの若い美女達だ。
「うーわ、悪趣味。」
「なんか下品…」
「古い手を使うな。」
「古い手?」
「ああやってワザと女に扇情的なカッコさせて、男が鼻の下伸ばした所で個室に誘いをかけるんだよ。で、交渉の席で優位に立とうってやり口だ。」
「うへぁ…」
「あとは、パートナーが居る男に女を侍らせて、夫人や婚約者を悔しがらせて貶めて陰で嘲笑うんだ。胸糞悪ぃったらねぇな。」
「ヤダなぁ、大人の汚いトコとか、未成年者に見せないで欲しいですねぇ。」
「気持ち悪ぅい…」
取り澄ました笑顔を作るメイド達の横を雑談しながら通り過ぎると、まずは客間に通された。
「行っちゃいましたね、さっきのジュルリとか言う人。」
「自己紹介すら右から左に抜けてる…」
そこへ今度は清楚なメイド服の少女が紅茶を運んで来た。
所がデイビッドの前に置こうとしてカップを倒してしまう。
「うぉっ!?」
「キャァ!申し訳ありません!」
慌てて床に跪き、濡れたズボンに手を当てる。
「火傷になってはいけません!直ぐに治癒致します。お手を触れることをお許し下さい。」
「おい、やめろ!いいから触んな!!」
女は上目遣いに、妙な手つきでデイビッドの足に触れたかと思うと、魔力を送り込もうとしてーー
「イダダダダダ!!イッテェェッ!!手ぇ離せ!足が焼ける!」
「えっ?ええっ?!」
ーー大失敗した。
「孫のお嫁さんの手料理が食べられると思ったら、その孫も料理をしてくれるなんて、驚きよ?」
「卵焼いただけだろ?」
「何言ってるの。ジェイムスはパン1枚自分で焼いた事がないのよ?そんなので発明家だなんて呼ばれて、笑っちゃうでしょ?」
「デイビッド様のお料理はどれも世界一なんです!」
「あらあら、貴女のパイだって世界一よ。サクサクで中のフィリングとチーズが最高ね。」
「ありがとうございます!デイビッド様に教わったんです。」
「貴方達の仲の良さが見れて本当に嬉しいわ。おまけに曾孫まで連れて来て。パーフェクトね。」
「俺の義妹ですけど…?」
「いずれは引き取るつもりでしょう?だったら今からそのつもりで相手したっていいじゃないの。」
「ぐぅっ…」
言い返せないデイビッドの横では、今日ばかりは大人しいエリックがすました顔で笑いを堪えていた。
(後でシェリィに教えてあげよー!)
和やかで楽しい食事の後にお茶を飲んでいると、来た時に会った市長付きの大男が息を切らせて駆け込んで来た。
「ディオニス伯爵領より、使者が参りましたデス!デイビッド様に、ディオニス邸にて次期当主様がお呼びであると…」
「…わかった…」
遂に来たかと、デイビッドが立ち上がり出て行こうとすると、ヴィオラが不安気な顔をした。
「ヴィオラ…これからちょっと込み入った話になるから、ここで待っててくれ…」
「それが、ご婚約者様も同席でとのご指示でございます…」
申し訳なさそうに大男が頭を下げる。
「パンさんがそんな顔しないでよ。悪いのは向こうの連中だ。ごめんなヴィオラ、もうすぐ暗くなるけど、少し付き合ってもらえるか?」
「もちろんです!その前に着替えをしてもいいですか?」
「わかった。」
「外にいなさい。手伝うわヴィオラちゃん。」
「ありがとうございますアルテ様。」
ヴィオラが訪問用の簡易ドレスに着替える間、エリックとデイビッドは大男と共に庭先で待つことになった。
「パンさん…だよな?ガキの頃、よく悪さすると叱ってくれた…」
「ご記憶頂き、誠に嬉しゅございマス。坊っちゃま。」
「もうそんな歳じゃねぇよ!」
「ここの領民は、皆坊っちゃまの味方デス。何かあればここへおいで下さい。必ずやお守り致しマス。」
「ディオニスの連中に目をつけられねぇか?」
「ディオニス伯爵家の方々は総領様以外サウラリースへは入れません。これは総領様がお決めになったことですのでご安心下さい。」
「ここへ来るなって?なんで?」
「入門の資格を正規に受けない者は例え同族であろうと、何人たりとも通すなと、お決めになられました。」
「そういう訳か…アイツら選民意識スゲェからなぁ…」
やがてくるぶし丈の訪問用ドレスに着替えたヴィオラが気合を入れなおして現れた。
「行きましょう!!」
「ガッツポーズはやめような…?」
「私はライラちゃんを預かるわ。今夜は帰されないと思いなさい?連中は自分の意見を曲げるのが大嫌いよ。交渉を長引かせてこちらが折れるのを待つの。何が何でも意思を曲げないことよ。鋼より靭やかに、相手の虚を突きなさい。サウラリースの戦い方は心得ているわね?」
「爺さんに教わった。獲物の息の根は気づかれない内に止めろって。」
「よろしい。連中の喉笛掻っ切っておやり!」
「ああ、行って来る。」
「そんな物騒な送り出し文句初めて聞きましたよ…」
手を振るライラとアルテミシアに見送られ、一同はサウラリースを後にした。
門から出る際、“パンさん”と呼ばれていた大男は、デイビッドにサウラリースの伝令魔道具を渡してくれた。
魔力が無くとも封を破くだけで発せられる、使い捨ての救難信号だ。万が一の時は使えと言う事だろう。
デイビッドはそれをありがたく受け取ると、男と握手をして門の外に出た。
駅に向かう一本道を馬車で進み、もらった切符を持って駅の中を歩いていると、前からデイビッド目掛けて人が歩いてきた。
デイビッドが避けようとすると、行く手を塞いで口々に何か言う。
「おい!黒豚、どこへ逃げ出そうとしてる?」
「ジョエル様がお呼びだ!逆らうとまた痛い目に遭わせるぞ?!」
「そんな一般の客車では日が暮れるだろう?!不本意だがこちらの私線の車両に乗せてやる!さっさとしろ!」
随分と居丈高な2人の男に、エリックもヴィオラもポカンとしてしまった。
(誰ですか…この人達…?)
(従兄弟筋の連中だったと思う、たぶん…)
(デュロックの7家門の内の2家、ヒースヒェン子爵家とヴォルペ伯爵家の次男の2方ですよ。)
(ぜんっぜん覚えてねぇや…)
デイビッド達がヒソヒソ話していると、1人が痺れを切らせてデイビッドの胸ぐらを掴んだ。
「返事もないとは言い度胸だな!?這いつくばって礼のひとつも言えないのか?!この豚野郎が!!」
「別に逃げてねぇし、頼んでもねぇよ。」
「口答えするな!薄汚い畜生風情が!!」
顔面に拳が叩き込まれる寸前、デイビッドはその手を片手で軽く受け止め、力を込めた。
「ギャァァァッ!痛い痛い痛いっ!離せ化け物ぉぉっ!」
興が冷め切ったデイビッドは、狼狽える2人を無視して、切符に書かれた車両を探そうとしたが、更に後ろから待ったをかけられた。
「乗るのはこちらの専用車両にしてもらおう。こう見えて正式な迎えなのでね。総領様がご用意下さった特別特急だ。時間が無い、早くしたまえ。」
振り向くと、麦色の髪に黒い瞳の美青年が立っていた。
にこやかに見えて、デイビッドを軽蔑した目付きが気に入らない。
この男が何を隠そう自称次期当主、ジョエル・ディオニスだ。
デイビッドは何も言わずエリックに合図すると、男について行き、2両しかない豪華な貴族用と分かる客車に乗り込んだ。
小部屋程広いコンパートメントの端にデイビッドが座り、その隣にヴィオラ、そしてエリックと並ぶ。
その向かいに、先にデイビッドに負けた2人とジョエルが座り、低い汽笛と共に汽車が走り出した。
「如何ですかお嬢さん。我が寮自慢の魔導機関車です。静かでとても速いでしょう?」
「そうですね。」
一言そう言うとヴィオラはパッと扇子を取り出し、口元を隠した。
チラッとデイビッドに目配せすると臨戦体制に入る。
「初めまして、ヴィオラ・ローベル子爵令嬢。デュロック辺境伯爵総領家ディオニスの長男、ジョエルと申します。」
「どうも。」
「ずっとお会いしたいと思っておりました。デュロック領はいかがです?王都などとは比べものにならない程の発展振りでしょう?」
「どうかしら。」
「よろしければ明日にでもご案内させて頂けませんか?きっとこの領が気に入って下さると思います!」
「ご遠慮します。」
ニコリともせず、相手の会話を間髪入れずにぶった斬るヴィオラに、両隣のエリックとデイビッドは笑いを堪えるのに必死だった。
(ヴィオラ様やるぅ…)
(ほどほどにしとけよ?悪評のネタにされるのも癪だからな。)
あまりの冷めた対応に、ジョエルの方も話題の路線を変更して行った。
「そう言えば、ヴィオラ令嬢は王都の学園にお通いなのですよね。特待生とお聞きしております。」
「そうですね。」
「しかし、勿体ない…我が領の学園に通えば、更なる知識と洗練された技術を学ぶこともできたでしょうに。こちらへお連れできなかったことを悔やみます。」
「そうですか…?」
言いさして、もう一言続ける。
「勉学は充実しておりますわ。現当主夫人もご卒業された学び舎ですもの。」
「あ…そ、そうでしたね…」
以降いくら話かけられても、物言わぬ貝のように口を閉ざしたヴィオラは、つまらな気に窓の外を眺めていた。
再びディオニスの駅で降ろされ、豪華な馬車に詰め込まれると、先程も見た人工湖の先にある城へ向かって行く。
白亜の城は美しく、堅牢で隙がない。
大きな門を潜り、入り口から人目の無い廊下へ差し掛かると、デイビッド達の前にいきなりメイドが並び世話を焼こうと手を伸ばしてきた。
「上着をお預かり致します。」
「いらねぇよ!」
「御用の際にはいつでもお呼び下さいませ。」
「邪魔だ、あっち行け!」
寄って来たのは、太腿のガーターが見える程裾の短いスカートに、肩も胸も出したそれも粒揃いの若い美女達だ。
「うーわ、悪趣味。」
「なんか下品…」
「古い手を使うな。」
「古い手?」
「ああやってワザと女に扇情的なカッコさせて、男が鼻の下伸ばした所で個室に誘いをかけるんだよ。で、交渉の席で優位に立とうってやり口だ。」
「うへぁ…」
「あとは、パートナーが居る男に女を侍らせて、夫人や婚約者を悔しがらせて貶めて陰で嘲笑うんだ。胸糞悪ぃったらねぇな。」
「ヤダなぁ、大人の汚いトコとか、未成年者に見せないで欲しいですねぇ。」
「気持ち悪ぅい…」
取り澄ました笑顔を作るメイド達の横を雑談しながら通り過ぎると、まずは客間に通された。
「行っちゃいましたね、さっきのジュルリとか言う人。」
「自己紹介すら右から左に抜けてる…」
そこへ今度は清楚なメイド服の少女が紅茶を運んで来た。
所がデイビッドの前に置こうとしてカップを倒してしまう。
「うぉっ!?」
「キャァ!申し訳ありません!」
慌てて床に跪き、濡れたズボンに手を当てる。
「火傷になってはいけません!直ぐに治癒致します。お手を触れることをお許し下さい。」
「おい、やめろ!いいから触んな!!」
女は上目遣いに、妙な手つきでデイビッドの足に触れたかと思うと、魔力を送り込もうとしてーー
「イダダダダダ!!イッテェェッ!!手ぇ離せ!足が焼ける!」
「えっ?ええっ?!」
ーー大失敗した。
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