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7代目デュロック辺境伯爵編
水の迷宮
光を照らすと、大きなムカデやクモの仲間等の虫から、スライムやブロブといった水性の小型魔物までいるが、だいたいは光に驚いて逃げて行く。
水路の中にも魚類など何かしらが潜んでいるようだが、通路にいれば襲っては来ないようだ。
軽装で来ているのでデイビッドは腰のマチェット一本、エリックに至っては丸腰だ。
己の身を守る位はそれぞれ出来るだろうが、難易度どころか道すら分からない初見のダンジョンをこの人数で渡るなど、自殺行為に等しい。
イクスもそれを自覚していて、後ろの2人をなんとか無事に地上へ還す事だけを考えている。
やがて道が5つに分かれた場所に出ると、3人は足を止めた。
「真ん中の道は広く見えるが、水路の水が滞って濁ってる。たぶん行き止まりだな。」
「左も同じく。鉱石が見えるから採取にはいいかも知れんが、今はそれどころじゃないしな。」
デイビッドがポケットからマッチを取り出し、火を点けて掲げると、右から2本目の道から風が吹いて来ていることがわかった。
「古風だな。」
「魔法が使えねぇとこんなもんだよ。それに、割と正確だ。」
進む道が決まったので、早速光を照らしながら足を踏み入れて行くと、なにかが通路の壁を這っているのが見えた。
「ギャァァァーーーーー!!!ナメクジィィィィッッッ!!!!」
ツンざくような叫び声を発したのはエリック。
耳元で叫ばれたデイビッドは、ナメクジよりもむしろエリックに驚いて転びそうになった。
「驚かすなよ!たかがナメクジだろ?!」
「ムリムリムリムリ!気持ち悪い!!」
エリックは壁に張り付いた人の半身ほどはある大ナメクジを見て、飛び上がってデイビッドにしがみついた。
「ただでさえキライなのに!こんなデッカイナメクジとかもう絶対無理!」
「庭に出たカタツムリは平気だったのに…?」
「カタツムリとナメクジじゃ行って帰って来る程違うでしょうが!!」
「そうかぁ?」
「まぁ…印象は変わるよな。女の子なんかでもナメクジはダメでカタツムリは良いってコけっこういるし…」
「ヒイィィィ!早く進んでぇ!もう見たくなぃぃ!!」
「見たくないって…この先けっこういるっぽいぞ?」
デイビッドが指差す方に灯りを向けると、ヌラヌラと波打つ大きな軟体生物の背中が壁や天井に張り付いて、伸びた目玉がユラユラと獲物を探しているのが見える。
「イ゙ヤ゙ァ゙ァ゙ァァーー!!!」
「待て!下手に魔法は撃つな!下に降りてくると厄介だ!」
「アイツ等は雑食性だ!群れで狩りもする。粘液に僅かだが麻痺性の毒を持ってて、集団でへばり付かれたら終わりだぞ!?」
「ヤダヤダヤダ!ナメクジに這い回られて死ぬなんて考えたくない!」
「だったら大人しくしてろよ!見ての通り、そんなに速さはない。一気に駆け抜けちまおう。」
「天井から落ちてくる奴には気をつけろよ?!」
デイビッドは、腰が抜けて立てないエリックを担ぐと、イクスと2人、回廊を先へと進んで行った。
獲物の動きを察知して、上からボトボトと落ちて来るが、そこは百戦錬磨の冒険者と、経験豊富なデイビッド。
互いに声を掛け合い、躱しながらナメクジのいない所まで走り抜けて行く。
「明かりが見える!もうすぐ出口だ!」
「問題はどこに出るかだな…にしても…なんであのナメクジ共はここまで来ないんだ?」
「……アレがいるからだな…」
「アレ?ああ、アレか…」
2人は、細い脇道から現れた巨大な影を見つけ、足を止めた。
そこには人の背程もある殻を背負った、真っ黄色のカタツムリがのたりのたりと現れた。
「コイツが親玉か?」
「いや、天敵だな。コイツは完全肉食なんだ。あのナメクジ共を餌にしてるんだろう。」
「なんか仕掛けようとしてるぞ?下がれイクス!」
大カタツムリが頭をもたげ、口元に何かを溜めてこちらへ噴き出そうと構えている。
大方、強酸性の消化液か毒液だが、それは開きかけた口から吐き出される前に、炎の玉に焼かれて肉ごと飛び散った。
カタツムリは思わぬ攻撃に急いで殻に閉じこもり、動かなくなる。
デイビッドの背中から魔法を放ったエリックは、その気色の悪さに身悶えしていた。
「おお!やるな。」
「いや、元々このために連れて来てんだから、自分の仕事しただけだろ!」
「クソッ…今のでカタツムリまで苦手になった…あ゙ぁぁ最悪!誰かさんが穴に落っこちたりするから!!」
「…君等はパーティーじゃないのか?」
「だだの使用人と雇用主だ。」
「どっちがどっち!?」
「次の場所に出るぞ?いい加減自分で歩け!」
エリックを下ろすと、デイビッドは慎重に石のアーチの出口から外を見た。
水路の道の先は明るく、大きな円の空間はまた水で満たされている。
高くドーム型の天井に、中央が丸く階段になり、その真ん中には大きな石のゴブレットが佇んでいた。
天井の中心には木の根が垂れ下がり、そこからポタリポタリと雫が落ち、ゴブレットを満たして溢れた水が滴っている。
部屋の中に道は無く、石の柱が何本も水中に立っていて、頭が水面に出ている。その上を飛び石の要領で進めと言う事らしい。
無数の柱の何本かは折れて水底に沈んでいる。
そしてその水の中に、しきりに何かが蠢いているのが見えた。
「水性のスライムか?」
「いや…アレは恐らく水の死霊だ。」
「死霊?なんで開いたばっかりの通路に死人の霊が出るんだ?」
「良く見てみろよ。水底に財宝が沈んでるだろ?ありゃ生贄に身に着けさせた宝飾品だよ。」
「千年郷って生贄を捧げてたのか?!」
「まさか。あの生贄は世界樹崩壊の数百年後ぐらいに流行った別の思想のもんだ。天災や飢饉の度に、かつての栄華を取り戻そうとして、勝手に遺跡に入り込んで生贄を置いてったんだよ。あの死霊はダンジョン形成後に吸収された遺骨が変化したもんだろうな。」
「他所の遺跡に入り込んで勝手に人殺して放置とか…神も精霊もドン引きですね。」
「ここは墓場と同じだ。静かにさせてやろう。」
デイビッドは胸に拳を当て、しばし霊に黙祷すると、次の通路を目指して柱の上を歩き出した。
すると、レイス達が集まって足場を占領し、邪魔をする。
「先へ進ませないつもりか?!」
「だったら直接引き摺り混むか襲ってくるかしますよ。なんでしょう?決まった足場の上にしか出てきませんね。」
「仕方ない…残った足場を渡るしかねぇな。」
デイビッドがレイスのいない足場に飛び移ると、またそこから別の柱に集まって来る。
「…もしかして、安全な道を教えてくれてるのでは?」
「そんな事あるか!?」
「だって、罠なら崩れる足場に誘導するでしょ普通は。さっきから安全な柱にばっか移動させてくれてますよ?」
「なんだそりゃ?そんな死霊聞いた事ねぇよ?!」
「いや…現に崩れない足場ばかり渡らせてくれている…考えられないが、我々に協力してくれているのだろう!」
最後の足場を渡り切り、3人が反対の岸に辿り着くと、水に潜ったレイス達が手に手に何かを持って水面に現れ、デイビッドの足元に集まった。
キラキラと輝くそれは、金銀や宝石でできた腕輪や指輪、ネックレスや耳飾りなどの装飾品だった。
「これ!お宝?!」
「信じられん…レイスが人に財宝を差し出すなんて…」
「いいよ、いらねぇって。」
デイビッドは断ろうとしたが、向こうもなかなか譲らない。
仕方なく、青い宝石の付いた指輪をひとつだけ受け取ると、レイス達は大人しく水底へ帰って行った。
「もったいねぇ!あれ全部で一生遊んで暮らせるくらいの価値はあったぞ?!」
「今は外に出ることが一番だ。それに、生贄なんかの儀式に使われた宝飾品は生きてる人間向きじゃない。」
「いずれはどこかの攻略者に盗られてしまう物なのに…お宝を目の前にして断るとか。ダンジョン攻略の目的、頭から否定しないで下さいよ。」
エリックは何かブチブチ垂れていたが、トンネルを抜けていよいよ次の部屋へ来ると、途端に静かになった。
そこは真っ暗な木の根に覆われた空間で、そこだけ異常に空気が澄んでいる。
真ん中に何か光る物があり、照らしてみると先程の水の祭壇で見た大きなゴブレットと同じ形をした、手の平程の大きさの透明な水晶でできたゴブレットだった。
その中を満たす透明な液体が青白い光を放っている。
「なんだこりゃ?」
「これはまさか!世界樹の雫?!」
「世界樹の雫だと!?それって万能薬って噂の!?」
驚くイクスとエリックを他所に、デイビッドはゴブレット周りを調べ始めた。
「木が石化してるな…これが世界樹の根っこなのか?」
恐らく、まだ樹が存命であった頃は、この場所で奇跡の雫を受けていたのだろう。
デイビッドは、ゴブレットには目もくれず、木の根が覆う次の通路を探し始めた。
「ちょっと!お宝は!?」
「持って帰れるかよ。それともこぼさずに外まで運べってのか?」
「わかってないな!こう言う場合は魔道具の事がほとんどなんだよ!見てろ?!」
イクスはゴブレットを手に取ると、逆さにひっくり返して見せた。
「へぇ~こぼれねぇのか。」
「持ち主の意図なくして外に中身がこぼれない様になってるんだ。」
「実物は初めてみました!便利ですねぇ。」
「ロストマギアって奴だ。これひとつで金貨何十…いや、何百枚の価値が…」
言いかけて、イクスは足元が動かないことに気がついた。
「イクス!そいつから手を離せ!石化してるぞ!!」
「うわ!し、しまった!呪いの罠か!!」
慌ててゴブレットを元の場所に戻すが、イクスの足は既に石像の様に固まってしまった。
「すまない…迂闊だった…まさかここで気が緩むとは。危険なはずのダンジョンが、あまりにも容易に進めてしまって油断した。俺のことはいい、ここへ置いて行ってくれ…」
悲痛な面持ちで愕然としながらも、イクスは己の役目を最期まで果たそうと2人に先へ進むよう指示をした。
水路の中にも魚類など何かしらが潜んでいるようだが、通路にいれば襲っては来ないようだ。
軽装で来ているのでデイビッドは腰のマチェット一本、エリックに至っては丸腰だ。
己の身を守る位はそれぞれ出来るだろうが、難易度どころか道すら分からない初見のダンジョンをこの人数で渡るなど、自殺行為に等しい。
イクスもそれを自覚していて、後ろの2人をなんとか無事に地上へ還す事だけを考えている。
やがて道が5つに分かれた場所に出ると、3人は足を止めた。
「真ん中の道は広く見えるが、水路の水が滞って濁ってる。たぶん行き止まりだな。」
「左も同じく。鉱石が見えるから採取にはいいかも知れんが、今はそれどころじゃないしな。」
デイビッドがポケットからマッチを取り出し、火を点けて掲げると、右から2本目の道から風が吹いて来ていることがわかった。
「古風だな。」
「魔法が使えねぇとこんなもんだよ。それに、割と正確だ。」
進む道が決まったので、早速光を照らしながら足を踏み入れて行くと、なにかが通路の壁を這っているのが見えた。
「ギャァァァーーーーー!!!ナメクジィィィィッッッ!!!!」
ツンざくような叫び声を発したのはエリック。
耳元で叫ばれたデイビッドは、ナメクジよりもむしろエリックに驚いて転びそうになった。
「驚かすなよ!たかがナメクジだろ?!」
「ムリムリムリムリ!気持ち悪い!!」
エリックは壁に張り付いた人の半身ほどはある大ナメクジを見て、飛び上がってデイビッドにしがみついた。
「ただでさえキライなのに!こんなデッカイナメクジとかもう絶対無理!」
「庭に出たカタツムリは平気だったのに…?」
「カタツムリとナメクジじゃ行って帰って来る程違うでしょうが!!」
「そうかぁ?」
「まぁ…印象は変わるよな。女の子なんかでもナメクジはダメでカタツムリは良いってコけっこういるし…」
「ヒイィィィ!早く進んでぇ!もう見たくなぃぃ!!」
「見たくないって…この先けっこういるっぽいぞ?」
デイビッドが指差す方に灯りを向けると、ヌラヌラと波打つ大きな軟体生物の背中が壁や天井に張り付いて、伸びた目玉がユラユラと獲物を探しているのが見える。
「イ゙ヤ゙ァ゙ァ゙ァァーー!!!」
「待て!下手に魔法は撃つな!下に降りてくると厄介だ!」
「アイツ等は雑食性だ!群れで狩りもする。粘液に僅かだが麻痺性の毒を持ってて、集団でへばり付かれたら終わりだぞ!?」
「ヤダヤダヤダ!ナメクジに這い回られて死ぬなんて考えたくない!」
「だったら大人しくしてろよ!見ての通り、そんなに速さはない。一気に駆け抜けちまおう。」
「天井から落ちてくる奴には気をつけろよ?!」
デイビッドは、腰が抜けて立てないエリックを担ぐと、イクスと2人、回廊を先へと進んで行った。
獲物の動きを察知して、上からボトボトと落ちて来るが、そこは百戦錬磨の冒険者と、経験豊富なデイビッド。
互いに声を掛け合い、躱しながらナメクジのいない所まで走り抜けて行く。
「明かりが見える!もうすぐ出口だ!」
「問題はどこに出るかだな…にしても…なんであのナメクジ共はここまで来ないんだ?」
「……アレがいるからだな…」
「アレ?ああ、アレか…」
2人は、細い脇道から現れた巨大な影を見つけ、足を止めた。
そこには人の背程もある殻を背負った、真っ黄色のカタツムリがのたりのたりと現れた。
「コイツが親玉か?」
「いや、天敵だな。コイツは完全肉食なんだ。あのナメクジ共を餌にしてるんだろう。」
「なんか仕掛けようとしてるぞ?下がれイクス!」
大カタツムリが頭をもたげ、口元に何かを溜めてこちらへ噴き出そうと構えている。
大方、強酸性の消化液か毒液だが、それは開きかけた口から吐き出される前に、炎の玉に焼かれて肉ごと飛び散った。
カタツムリは思わぬ攻撃に急いで殻に閉じこもり、動かなくなる。
デイビッドの背中から魔法を放ったエリックは、その気色の悪さに身悶えしていた。
「おお!やるな。」
「いや、元々このために連れて来てんだから、自分の仕事しただけだろ!」
「クソッ…今のでカタツムリまで苦手になった…あ゙ぁぁ最悪!誰かさんが穴に落っこちたりするから!!」
「…君等はパーティーじゃないのか?」
「だだの使用人と雇用主だ。」
「どっちがどっち!?」
「次の場所に出るぞ?いい加減自分で歩け!」
エリックを下ろすと、デイビッドは慎重に石のアーチの出口から外を見た。
水路の道の先は明るく、大きな円の空間はまた水で満たされている。
高くドーム型の天井に、中央が丸く階段になり、その真ん中には大きな石のゴブレットが佇んでいた。
天井の中心には木の根が垂れ下がり、そこからポタリポタリと雫が落ち、ゴブレットを満たして溢れた水が滴っている。
部屋の中に道は無く、石の柱が何本も水中に立っていて、頭が水面に出ている。その上を飛び石の要領で進めと言う事らしい。
無数の柱の何本かは折れて水底に沈んでいる。
そしてその水の中に、しきりに何かが蠢いているのが見えた。
「水性のスライムか?」
「いや…アレは恐らく水の死霊だ。」
「死霊?なんで開いたばっかりの通路に死人の霊が出るんだ?」
「良く見てみろよ。水底に財宝が沈んでるだろ?ありゃ生贄に身に着けさせた宝飾品だよ。」
「千年郷って生贄を捧げてたのか?!」
「まさか。あの生贄は世界樹崩壊の数百年後ぐらいに流行った別の思想のもんだ。天災や飢饉の度に、かつての栄華を取り戻そうとして、勝手に遺跡に入り込んで生贄を置いてったんだよ。あの死霊はダンジョン形成後に吸収された遺骨が変化したもんだろうな。」
「他所の遺跡に入り込んで勝手に人殺して放置とか…神も精霊もドン引きですね。」
「ここは墓場と同じだ。静かにさせてやろう。」
デイビッドは胸に拳を当て、しばし霊に黙祷すると、次の通路を目指して柱の上を歩き出した。
すると、レイス達が集まって足場を占領し、邪魔をする。
「先へ進ませないつもりか?!」
「だったら直接引き摺り混むか襲ってくるかしますよ。なんでしょう?決まった足場の上にしか出てきませんね。」
「仕方ない…残った足場を渡るしかねぇな。」
デイビッドがレイスのいない足場に飛び移ると、またそこから別の柱に集まって来る。
「…もしかして、安全な道を教えてくれてるのでは?」
「そんな事あるか!?」
「だって、罠なら崩れる足場に誘導するでしょ普通は。さっきから安全な柱にばっか移動させてくれてますよ?」
「なんだそりゃ?そんな死霊聞いた事ねぇよ?!」
「いや…現に崩れない足場ばかり渡らせてくれている…考えられないが、我々に協力してくれているのだろう!」
最後の足場を渡り切り、3人が反対の岸に辿り着くと、水に潜ったレイス達が手に手に何かを持って水面に現れ、デイビッドの足元に集まった。
キラキラと輝くそれは、金銀や宝石でできた腕輪や指輪、ネックレスや耳飾りなどの装飾品だった。
「これ!お宝?!」
「信じられん…レイスが人に財宝を差し出すなんて…」
「いいよ、いらねぇって。」
デイビッドは断ろうとしたが、向こうもなかなか譲らない。
仕方なく、青い宝石の付いた指輪をひとつだけ受け取ると、レイス達は大人しく水底へ帰って行った。
「もったいねぇ!あれ全部で一生遊んで暮らせるくらいの価値はあったぞ?!」
「今は外に出ることが一番だ。それに、生贄なんかの儀式に使われた宝飾品は生きてる人間向きじゃない。」
「いずれはどこかの攻略者に盗られてしまう物なのに…お宝を目の前にして断るとか。ダンジョン攻略の目的、頭から否定しないで下さいよ。」
エリックは何かブチブチ垂れていたが、トンネルを抜けていよいよ次の部屋へ来ると、途端に静かになった。
そこは真っ暗な木の根に覆われた空間で、そこだけ異常に空気が澄んでいる。
真ん中に何か光る物があり、照らしてみると先程の水の祭壇で見た大きなゴブレットと同じ形をした、手の平程の大きさの透明な水晶でできたゴブレットだった。
その中を満たす透明な液体が青白い光を放っている。
「なんだこりゃ?」
「これはまさか!世界樹の雫?!」
「世界樹の雫だと!?それって万能薬って噂の!?」
驚くイクスとエリックを他所に、デイビッドはゴブレット周りを調べ始めた。
「木が石化してるな…これが世界樹の根っこなのか?」
恐らく、まだ樹が存命であった頃は、この場所で奇跡の雫を受けていたのだろう。
デイビッドは、ゴブレットには目もくれず、木の根が覆う次の通路を探し始めた。
「ちょっと!お宝は!?」
「持って帰れるかよ。それともこぼさずに外まで運べってのか?」
「わかってないな!こう言う場合は魔道具の事がほとんどなんだよ!見てろ?!」
イクスはゴブレットを手に取ると、逆さにひっくり返して見せた。
「へぇ~こぼれねぇのか。」
「持ち主の意図なくして外に中身がこぼれない様になってるんだ。」
「実物は初めてみました!便利ですねぇ。」
「ロストマギアって奴だ。これひとつで金貨何十…いや、何百枚の価値が…」
言いかけて、イクスは足元が動かないことに気がついた。
「イクス!そいつから手を離せ!石化してるぞ!!」
「うわ!し、しまった!呪いの罠か!!」
慌ててゴブレットを元の場所に戻すが、イクスの足は既に石像の様に固まってしまった。
「すまない…迂闊だった…まさかここで気が緩むとは。危険なはずのダンジョンが、あまりにも容易に進めてしまって油断した。俺のことはいい、ここへ置いて行ってくれ…」
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