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7代目デュロック辺境伯爵編
懲りない男
(帰りたい…)
ヴィオラが何度帰ろうとしても、ジョエルはしつこく引き止め、半ば強引に街を案内し、1人で何か自慢気に喋るだけの街歩きはつまらないものだった。
レストランに入ってからも、こちらが聞いてもいない話を勝手に喋りくるだけ。
(鬱陶しい…)
(すみません…トムが呼びかけに応じないので、もうしばしお待ちを…)
逃げ道を確保していたつもりが、肝心な時に消えてしまった妖魔に若干苛立ちながら、壁際に立つエリックがヴィオラに注意を払っている。
「ヴィオラ嬢は何かお好きな食べ物はありますか?」
「そうですね。強いて言えば、エビですかしら…?」
「それではとっておきのエビ料理をお見せ致しましょう!」
得意げなジョエルが人を呼び、居丈高に何かを注文するとしばらくして食前酒や前菜の後に、大きなクロッシュが運び込まれ、ヴィオラの前で湯気と共に開かれた。
出てきたのは、大胆に縦半分に切られた大きなエビが丸ごと焼かれた料理。
「ヨロイエビのクリーム仕立てでございます。」
「水揚げした物の中でも厳選した素材を使ってるんだ。どうだい?王都ではこんなに大きくて新鮮なエビは食べられないだろう?!」
(これは…)
(確かにエビ…エビだけど…)
((ちっさい!!!))
ヴィオラも、そろそろ現実と向き合わねばならなくなったようだ。
目の前のエビは皿からはみ出るように置かれてはいるが、普段ヴィオラが食べているエビと比べると2回りは小さい。
おまけに一人前は一匹分。
エビとあらば、5~6匹は一度に食べていたヴィオラにとって、こんなにつまらないエビ料理など無いのだった。
それでもエビはエビと思い、美しい所作で口に運ぶが、何か違う。
エビには違いない。が、何かが違う…
(食感が違って…エビっぽさが足りないような…おまけにクリームソースがしつこ過ぎてエビの味が台無し!!しかもなんかクサい!!!)
甘ったるいソースのせいで、繊細な海鮮の旨味が消され、せっかくのエビを食べている気がしない。おまけに鼻の奥に妙な臭いまで残って最悪だ。
なんとか飲み込んだが、続きを食べなければならないのかと思うと嫌気が差してきた。
(エビ…食べたいな…デイビッド様が作ってくれるエビのお料理が食べたい…)
哀しみから思わず目が潤んでしまったヴィオラを見て、ジョエルは一人悦に浸っていた。
更に、酒を断るヴィオラを遮り、「遠慮などいらない」と言って乾杯を強要してくる始末。
給仕達は、デュロック総領家の御曹司を前に口出しはできず、黙って見守っているばかり。
ジョエルのシナリオ通りに動こうと、料理を出すタイミングなども、全てジョエルの指示に従っているようだ。
「ジョエル様、ヴィオラ様は未成年でもあり、お酒は得意ではございません。」
「ならば是非ともここで最高の酒の味を知って貰わねば!女性にも人気のワインです!騙されたと思って、一口だけでも!」
話が進まないので仕方なくグラスを手に取ると、ジョエルが自分のグラスをぐいっと近付けてくる。
ヴィオラが仕方なく形だけグラスを掲げてみせると、ジョエルはこれまた満足そうにピンク色のワインを飲み干した。
口を付ける振りだけして直ぐにグラスを遠ざけ、給仕に果実水を頼むが、なかなか持っては来ない。
店が丸ごとジョエルの意思に従っているので、ゲストであるヴィオラの要望は通らないらしい。
次はデザート。やっとここまで来たかとヴィオラがげっそりしていると、ヴィオラの前にだけ、小さなクロッシュを乗せた皿が運ばれて来た。
給仕はクロッシュをそのままにして下がってしまい、どうしたものかと考えていると、ジョエルが何か目配せして来た。
「さ、開けてみて?」
ヴィオラは恐る恐るクロッシュを傾け、中身をチラ見すると、即座に閉め、手元のベルをチリンチリンと鳴らした。
そして、すかさずやって来た給仕に皿を押し付け、膝の上のナプキンをテーブルへ放り投げた。
「ヴィオラ嬢!?」
「失礼。これ、口に合わないので、下げて頂けます?」
「あ…あの!しかし、こちらは…」
皿を渡された給仕の女性が狼狽えているが気にしない。
「いらないわ。それともこの店は客の好き嫌いを無下にするの?まぁ、もう二度と来ない店ですし、どうでも良いですけれど…」
クロッシュの中に入っていた物は、大粒のダイヤを飾った指輪だった。
それもジョエルの指にはめられた物と同じデザインの物。
「待って下さい!ヴィオラ嬢、これは私から貴女へ送る私の気持ちです!私と婚約して下さい!もちろん、今の婚約者の次で構いません。どうか私の元へ来て欲しい!デュロックの総家を上げて貴女を歓迎致します!」
「婚約中の令嬢を捕まえてなさることではありませんでしたわね。デイビッド様の身内と思って何も言わなかったのが仇となりましたわ。行きましょう、エリック。」
「はい、ヴィオラ様。」
手にした扇で口元を隠し、蔑んだ視線をジョエルに送ると、後は何も言わず席を立ち、レストランの個室を後にした。
その後ろからジョエルが縋るように追いかけて来る。
「待ってくれ!私の話も聞いて欲しい!どの道アイツは当主になることなくこの世から消えるんだ、その後の人生を棒に振るなんて間違ってる!貴女はもっと幸せになるべきだ!」
「ええ、もちろん。誰よりも幸せになって見せますわ。デイビッド様の隣でね!?例えそのお命が僅かであろうと、私は私の全てをあの方に捧げると決めておりますの。」
「言ったでしょう?アイツはもう先が長くない!なんなら看取った後でも構いません!貴女はデュロックにこそ相応しい!真の当主の隣に立ちたいとは思いませんか?!」
「思いません。そんなものに興味は無いの、欠片も。エリック!?」
「はい、仕度はできております。」
「良かった…」
ヴィオラは少し早足に廊下の角を素早く曲がると、来た時に確認しておいた飾り鏡をノックした。
今度こそ鏡の入り口が繋がり、急いで中へ入る。
(遅いわよ!)
(悪い悪い、こっちも立て込んでてよ。さぁどうぞ、お嬢さん!?)
ヴィオラが鏡の中に吸い込まれ、姿を消す。その様子を見られないよう、エリックはジョエルをしばし足止めした。
「エリック!邪魔だそこを退け!」
「そうも行きませんね。今日は護衛も兼ねての従者ですので。」
「貴様…デュロックに楯突く気か!?」
「何を仰るかと思えば!私の雇用主もデュロックであると、もうお忘れですか?」
「今からでも遅くはない!戻って来い!お前の能力を一番に理解し、開花させられるのは我が一族より他には居ないぞ?!」
「そうでしょうとも。ですから、身を粉にしてお仕えしているのですよ。我が唯一の主と決めたデュロックのお1人、デイビッド様にね。」
「あんなはみ出し物の豚に何の価値がある!あんなヤツ、魔力も持たないただの無能な穀潰しだ!あと数年も生きられない雇い主に謙る必要など有るか?!いい加減目を覚ませ!」
「はぁー…キーキーうるっせぇな、クソガキが…」
「…は?!」
「申し訳ありません。つい、本音が出てしまいました。それでは私もこれにて失礼致します。」
「待てっ!!エリック!?」
華麗な礼と共にくるりと踵を返したエリックを追って、ジョエルも廊下の角を曲がったが、そこには既に誰もいなかった。
駅に向かう途中の道は、広い高級商店の並び。
大きなショーウインドゥに飾られたペアのドレスや宝飾品は、どれもスリムで手足が長く、背の高いスタイリッシュな人間用にできている。
デイビッドは、昔から自分自身の姿を想像するのが苦手だ。
ヴィオラに出会ってからは更に拍車がかかり、その隣にいる自分すら上手く思い描けず、頭の中のヴィオラはいつも1人ぼっちだ。
所詮この世は美しい者の為にある。脇役の自分が何か変えようとしても、それが歪な喜劇になって終わる事を恐れ、いつも両手はポケットの中にしまったまま、でも舞台からは降りることができず、日陰でやり過ごしてばかり。
ぼんやり浮かぶヴィオラのパートナーは、本の挿絵と同じ、どこかの様相の整った王子様で、決して自分ではない。
そう、自分ではなかった。今までは。
思い浮かべるヴィオラは相変わらず1人。だが、それはもう自分だけを見つめてくれるヴィオラだ。
デイビッドは、いつもなら目もくれないショーウインドゥの中に飾られたドレスを眺めながら、まだ夏だと言うのに、今年のノエルにはどんなドレスを贈ろうかなどと考えており、もうシェルリアーナを笑う事ができなくなっていた。
せっかく故郷へ連れて来たが、きちんと向き合って話す時間もなく、さみしい思いをさせてばかり。
いや、さみしかったのは正直デイビッドの方だったのかも知れない。
サウラリースへ戻ったら、今度こそ何をしようか、少しだけ浮かれていると、ガラス越しに見えるブティックの中の鏡が揺れ、ヴィオラが飛び出して来た。
「デイビッド様ぁっ!!」
「ヴィオラ?!なんで?サウラリースにいるんじゃなかったのか?」
カランコロンと扉を開けて、駆け寄って来たヴィオラを抱きとめると、予想以上の力でしがみつかれ、只事ではない様子に嫌な予感がした。
「ヴィオラ…大丈夫か?ごめん、1人にして…」
「デイビッド様…エビ食べたいです!!」
「エビ?!」
「エビ食べたい!デイビッド様の作った美味しいご飯食べたい!」
何が起きたのかわからずにいると、続けて現れたエリックがかったるそうに肩を揉みながら扉から出てきた。
「はぁーー…もう、まいっちゃいますよ!あのディオニスのボンボンに連れ出されて、ロゼの街に行ってたんです。」
「あの野郎…ヴィオラ、嫌なことされなかったか?」
「美味しくないエビ食べさせられました!」
「エビの話ここに繋がってんの?!ロゼならけっこういい店が揃ってんじゃなかったのか?…」
「な~んか、気取った店でしたよ。オマケになんの演出か、あの勘違い野郎、デザートプレートに指輪乗せてヴィオラ様に出しやがりましてね。」
「指輪!?」
「速攻給仕に下げさせようとしてて吹き出しそうになりましたけど。」
「ほーぅ…」
しかし腕の中のヴィオラは、そんな事よりもエビの方が重大らしい。
ヴィオラが何度帰ろうとしても、ジョエルはしつこく引き止め、半ば強引に街を案内し、1人で何か自慢気に喋るだけの街歩きはつまらないものだった。
レストランに入ってからも、こちらが聞いてもいない話を勝手に喋りくるだけ。
(鬱陶しい…)
(すみません…トムが呼びかけに応じないので、もうしばしお待ちを…)
逃げ道を確保していたつもりが、肝心な時に消えてしまった妖魔に若干苛立ちながら、壁際に立つエリックがヴィオラに注意を払っている。
「ヴィオラ嬢は何かお好きな食べ物はありますか?」
「そうですね。強いて言えば、エビですかしら…?」
「それではとっておきのエビ料理をお見せ致しましょう!」
得意げなジョエルが人を呼び、居丈高に何かを注文するとしばらくして食前酒や前菜の後に、大きなクロッシュが運び込まれ、ヴィオラの前で湯気と共に開かれた。
出てきたのは、大胆に縦半分に切られた大きなエビが丸ごと焼かれた料理。
「ヨロイエビのクリーム仕立てでございます。」
「水揚げした物の中でも厳選した素材を使ってるんだ。どうだい?王都ではこんなに大きくて新鮮なエビは食べられないだろう?!」
(これは…)
(確かにエビ…エビだけど…)
((ちっさい!!!))
ヴィオラも、そろそろ現実と向き合わねばならなくなったようだ。
目の前のエビは皿からはみ出るように置かれてはいるが、普段ヴィオラが食べているエビと比べると2回りは小さい。
おまけに一人前は一匹分。
エビとあらば、5~6匹は一度に食べていたヴィオラにとって、こんなにつまらないエビ料理など無いのだった。
それでもエビはエビと思い、美しい所作で口に運ぶが、何か違う。
エビには違いない。が、何かが違う…
(食感が違って…エビっぽさが足りないような…おまけにクリームソースがしつこ過ぎてエビの味が台無し!!しかもなんかクサい!!!)
甘ったるいソースのせいで、繊細な海鮮の旨味が消され、せっかくのエビを食べている気がしない。おまけに鼻の奥に妙な臭いまで残って最悪だ。
なんとか飲み込んだが、続きを食べなければならないのかと思うと嫌気が差してきた。
(エビ…食べたいな…デイビッド様が作ってくれるエビのお料理が食べたい…)
哀しみから思わず目が潤んでしまったヴィオラを見て、ジョエルは一人悦に浸っていた。
更に、酒を断るヴィオラを遮り、「遠慮などいらない」と言って乾杯を強要してくる始末。
給仕達は、デュロック総領家の御曹司を前に口出しはできず、黙って見守っているばかり。
ジョエルのシナリオ通りに動こうと、料理を出すタイミングなども、全てジョエルの指示に従っているようだ。
「ジョエル様、ヴィオラ様は未成年でもあり、お酒は得意ではございません。」
「ならば是非ともここで最高の酒の味を知って貰わねば!女性にも人気のワインです!騙されたと思って、一口だけでも!」
話が進まないので仕方なくグラスを手に取ると、ジョエルが自分のグラスをぐいっと近付けてくる。
ヴィオラが仕方なく形だけグラスを掲げてみせると、ジョエルはこれまた満足そうにピンク色のワインを飲み干した。
口を付ける振りだけして直ぐにグラスを遠ざけ、給仕に果実水を頼むが、なかなか持っては来ない。
店が丸ごとジョエルの意思に従っているので、ゲストであるヴィオラの要望は通らないらしい。
次はデザート。やっとここまで来たかとヴィオラがげっそりしていると、ヴィオラの前にだけ、小さなクロッシュを乗せた皿が運ばれて来た。
給仕はクロッシュをそのままにして下がってしまい、どうしたものかと考えていると、ジョエルが何か目配せして来た。
「さ、開けてみて?」
ヴィオラは恐る恐るクロッシュを傾け、中身をチラ見すると、即座に閉め、手元のベルをチリンチリンと鳴らした。
そして、すかさずやって来た給仕に皿を押し付け、膝の上のナプキンをテーブルへ放り投げた。
「ヴィオラ嬢!?」
「失礼。これ、口に合わないので、下げて頂けます?」
「あ…あの!しかし、こちらは…」
皿を渡された給仕の女性が狼狽えているが気にしない。
「いらないわ。それともこの店は客の好き嫌いを無下にするの?まぁ、もう二度と来ない店ですし、どうでも良いですけれど…」
クロッシュの中に入っていた物は、大粒のダイヤを飾った指輪だった。
それもジョエルの指にはめられた物と同じデザインの物。
「待って下さい!ヴィオラ嬢、これは私から貴女へ送る私の気持ちです!私と婚約して下さい!もちろん、今の婚約者の次で構いません。どうか私の元へ来て欲しい!デュロックの総家を上げて貴女を歓迎致します!」
「婚約中の令嬢を捕まえてなさることではありませんでしたわね。デイビッド様の身内と思って何も言わなかったのが仇となりましたわ。行きましょう、エリック。」
「はい、ヴィオラ様。」
手にした扇で口元を隠し、蔑んだ視線をジョエルに送ると、後は何も言わず席を立ち、レストランの個室を後にした。
その後ろからジョエルが縋るように追いかけて来る。
「待ってくれ!私の話も聞いて欲しい!どの道アイツは当主になることなくこの世から消えるんだ、その後の人生を棒に振るなんて間違ってる!貴女はもっと幸せになるべきだ!」
「ええ、もちろん。誰よりも幸せになって見せますわ。デイビッド様の隣でね!?例えそのお命が僅かであろうと、私は私の全てをあの方に捧げると決めておりますの。」
「言ったでしょう?アイツはもう先が長くない!なんなら看取った後でも構いません!貴女はデュロックにこそ相応しい!真の当主の隣に立ちたいとは思いませんか?!」
「思いません。そんなものに興味は無いの、欠片も。エリック!?」
「はい、仕度はできております。」
「良かった…」
ヴィオラは少し早足に廊下の角を素早く曲がると、来た時に確認しておいた飾り鏡をノックした。
今度こそ鏡の入り口が繋がり、急いで中へ入る。
(遅いわよ!)
(悪い悪い、こっちも立て込んでてよ。さぁどうぞ、お嬢さん!?)
ヴィオラが鏡の中に吸い込まれ、姿を消す。その様子を見られないよう、エリックはジョエルをしばし足止めした。
「エリック!邪魔だそこを退け!」
「そうも行きませんね。今日は護衛も兼ねての従者ですので。」
「貴様…デュロックに楯突く気か!?」
「何を仰るかと思えば!私の雇用主もデュロックであると、もうお忘れですか?」
「今からでも遅くはない!戻って来い!お前の能力を一番に理解し、開花させられるのは我が一族より他には居ないぞ?!」
「そうでしょうとも。ですから、身を粉にしてお仕えしているのですよ。我が唯一の主と決めたデュロックのお1人、デイビッド様にね。」
「あんなはみ出し物の豚に何の価値がある!あんなヤツ、魔力も持たないただの無能な穀潰しだ!あと数年も生きられない雇い主に謙る必要など有るか?!いい加減目を覚ませ!」
「はぁー…キーキーうるっせぇな、クソガキが…」
「…は?!」
「申し訳ありません。つい、本音が出てしまいました。それでは私もこれにて失礼致します。」
「待てっ!!エリック!?」
華麗な礼と共にくるりと踵を返したエリックを追って、ジョエルも廊下の角を曲がったが、そこには既に誰もいなかった。
駅に向かう途中の道は、広い高級商店の並び。
大きなショーウインドゥに飾られたペアのドレスや宝飾品は、どれもスリムで手足が長く、背の高いスタイリッシュな人間用にできている。
デイビッドは、昔から自分自身の姿を想像するのが苦手だ。
ヴィオラに出会ってからは更に拍車がかかり、その隣にいる自分すら上手く思い描けず、頭の中のヴィオラはいつも1人ぼっちだ。
所詮この世は美しい者の為にある。脇役の自分が何か変えようとしても、それが歪な喜劇になって終わる事を恐れ、いつも両手はポケットの中にしまったまま、でも舞台からは降りることができず、日陰でやり過ごしてばかり。
ぼんやり浮かぶヴィオラのパートナーは、本の挿絵と同じ、どこかの様相の整った王子様で、決して自分ではない。
そう、自分ではなかった。今までは。
思い浮かべるヴィオラは相変わらず1人。だが、それはもう自分だけを見つめてくれるヴィオラだ。
デイビッドは、いつもなら目もくれないショーウインドゥの中に飾られたドレスを眺めながら、まだ夏だと言うのに、今年のノエルにはどんなドレスを贈ろうかなどと考えており、もうシェルリアーナを笑う事ができなくなっていた。
せっかく故郷へ連れて来たが、きちんと向き合って話す時間もなく、さみしい思いをさせてばかり。
いや、さみしかったのは正直デイビッドの方だったのかも知れない。
サウラリースへ戻ったら、今度こそ何をしようか、少しだけ浮かれていると、ガラス越しに見えるブティックの中の鏡が揺れ、ヴィオラが飛び出して来た。
「デイビッド様ぁっ!!」
「ヴィオラ?!なんで?サウラリースにいるんじゃなかったのか?」
カランコロンと扉を開けて、駆け寄って来たヴィオラを抱きとめると、予想以上の力でしがみつかれ、只事ではない様子に嫌な予感がした。
「ヴィオラ…大丈夫か?ごめん、1人にして…」
「デイビッド様…エビ食べたいです!!」
「エビ?!」
「エビ食べたい!デイビッド様の作った美味しいご飯食べたい!」
何が起きたのかわからずにいると、続けて現れたエリックがかったるそうに肩を揉みながら扉から出てきた。
「はぁーー…もう、まいっちゃいますよ!あのディオニスのボンボンに連れ出されて、ロゼの街に行ってたんです。」
「あの野郎…ヴィオラ、嫌なことされなかったか?」
「美味しくないエビ食べさせられました!」
「エビの話ここに繋がってんの?!ロゼならけっこういい店が揃ってんじゃなかったのか?…」
「な~んか、気取った店でしたよ。オマケになんの演出か、あの勘違い野郎、デザートプレートに指輪乗せてヴィオラ様に出しやがりましてね。」
「指輪!?」
「速攻給仕に下げさせようとしてて吹き出しそうになりましたけど。」
「ほーぅ…」
しかし腕の中のヴィオラは、そんな事よりもエビの方が重大らしい。
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