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7代目デュロック辺境伯爵編
晴れ晴れと
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当主の交代には貴族院の承認も要るので、正式にはあと半月程は掛かり、王家へも挨拶が必要になるそうだが、それも追々で良いそうだ。
「さてと、私はしばらくここでジェイムスを監視して移送の支度が整い次第戻ります。手間を掛けさせてしまいましたね。今度こそ、サウラリースで羽根を伸ばしていらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
再度深く頭を下げ、屋敷から出て行こうとするデイビッドを、今度はカトレアが追いかけて来た。
「デイビッド!改めて言わせてちょうだい…おめでとう、よく頑張ったわね。」
「ありがとうございます…母上…?」
「王都の商会の方も上手く回しているようね。」
「それは会頭の腕が良いからです。」
「謙遜しないで。貴方が始めた企画もたくさんあると聞いているわ。」
「…あの、何が仰りたいのでしょう…?」
「なにって、母親が息子を褒めたら変かしら?」
「いいえ…ですが、俺は今、生まれて初めて貴女に労いの言葉をかけられたもので。貴女が何をお考えかわかりません。」
「そんな事ないわよ!!」
「少なくとも、俺自身に仰られた事は今まで一度もありませんでした…」
「そうだった…かしら…?」
「母上、これからも親父をよろしくお願いします。手綱を握れるのは貴女しかおりません。後の総領です。どうか支えてやって下さい。」
「わかってるわ…」
「俺の事はもうお気になさらず。とうに成人を迎え、間もなく保護対象からも外れる身です。これ以上母上のお手を煩わせることは無い様、自分で生きて参りますので、ご安心下さい。」
カトレアは何も言わず、自分の教えた通りの礼を取る息子が、背を向けて帰る姿を眺めていた。
デイビッドは今度こそサウラリースへ戻ろうと、駅を目指した。
しかし、こんな時にでも周囲はデイビッドを放っておいてはくれない。
気持ちも足取りも軽く歩いていると、またあの殺気がどこからか迫っている事に気が付き、咄嗟に倉庫街の方へと走り出した。
高い建物は皆どこかの店の倉庫で、道は薄暗く人気もほとんど無い。
通りを走り抜ける途中、肩を短刀が掠め、耳元に矢音が走った。
間違いなく、狙われている。
手近な所に建設途中の倉庫を見つけると、柵を乗り越え、転げるように作業用の簡易足場から作りかけの屋根へと飛び出した。
「おい!どうすんだよ!これじゃ丸見えたぞ!?」
「そりゃ向こうも同じだろ?ここらは景観のために屋根の高さが揃ってんだ。屋根の上の人間を狙うなら、同じ高さかそれより上に行く必要がある。ここならどっから狙われてるかすぐに分かる!」
堪らずポケットの手鏡からトムティットが顔を出したが、デイビッドの言う通り、屋根の上に積まれた資材を背にしたデイビッドを狙える死角は無く、遂に相手は姿を現した。
上空から、鋭い赤い目に4本の腕の狒々の上肢と、ペガサスの下半身を持つ異形の姿が、デイビッドを狙っている。
「あれも妖精か!?」
「ありゃ妖獣だ!人の魔力を糧に任務を遂行する契約者の手足みたいなもんだよ。厄介な相手だぞ?!」
「あぁ、俺1人だったら取り逃してたろうな!」
4本腕の妖獣は、背中の筒から新たな武器を取り出し、デイビッド目がけて投げ付けて来た。
小型のマチェットがデイビッドの体すれすれに突き刺さる。
しかしデイビッドも同時に、相手目掛けてナニかを投げていた。
飛んできたそのナニかを4本の腕の内の1本が掴む。と、それは小さな手鏡だった。
妖獣はつまらな気にその鏡を握り潰そうとしたが、次の瞬間、突如鏡から突き出て来た大量のツタに絡め取られ、反撃はおろか抵抗もままならず地上へと落とされた。
「ハッハー!いいねぇ!ナイスアシスト!!」
「お前、飛べねぇもんな…」
「飛べるモンになれりゃ多少飛べるわ!!」
鏡から生えて来たのはアリーのツタ。
一度でも鏡に映ったものならば、なんにでも変身できるトムティットが姿を変えたものだ。
もがく妖獣を改めて縛り上げ、魔力を探り術者の居所を見つけようとすると、途端ツタの中の妖獣がぐったりと動かなくなった。
「急にどうした?!」
「契約者に切り捨てられたんだろうな。魔力の供給を強制的に切られて動けなくなったんだよ。変な味付けなんかすっから、余計に力使い過ぎて自分ですら立てなくなってやんの。なっさけねぇ!」
「逃げられたか…」
「いやぁ?もう逃さねぇぞあの野郎!」
目にも止まらぬ早さでトムティットはガラスに反射する光の中をすっ飛んで行くと、倉庫のガラスに映る契約者の姿を捉え、再びツタを張り巡らせた。
相手は魔法を放とうとしたが、相手がどこにいるのかわからず、ためらった瞬間、視界がぐにゃりとひしゃげたかと思うと、真っ暗な空間に閉じ込められた。
「いっちょ上がりぃっ!どうよ、俺の実力は!戦闘でもしっかり役に立つんだぜ!?」
「この顔…見たことあるな…?」
「ねぇ、人の話聞いて!?」
小さな鏡の中で暴れる若い男に、デイビッドは見覚えがあった。
「家門の誰かじゃねぇの?」
「…わからん。ただ…貴族院の窓口にいた男と同じ顔だ。」
「貴族院!?なんで?!」
「なるほどな…“監視役”はこっちだったか…」
古くからラムダに仕える王都の貴族は、デュロック家を毛嫌いする者が多い。
中には過激派もいて、昔は真剣に危害を加えようとしてくる連中も少なからずいたそうな。
平和な時代が続き、そういった嫌がらせもなくなったと思われていたが、監視の目はどこにでもあったらしい。
鏡の中に閉じ込められた男は、何か喚きながら必死に外へ出ようと暴れているが、魔法を放とうと鏡はビクともしない。
「無駄無駄!俺の作り出す鏡の世界じゃ、お前等人間は手も足も出せねぇよ!」
「こわ…」
「そこは「頼りになるぜ相棒」くらいの事言ってくれない?!普通に引かれると傷つくのよ俺も!」
「だって魔法でも壊れない異空間に閉じ込められるとかもう恐怖だろ…」
「素で言うの止めて!?普段こんな事しないじゃん!役に立ってるじゃん?!本気出しただけよ俺!」
「牢獄よりキツいんじゃねぇか?」
「俺よか強い魔力があれば破って出てこれるだろうけど、そこまでの力も無さそうだし、このまま持ってても構わないぜ?」
「いい、人が入った鏡とか、気持ち悪ぃし…」
「気持ち悪いとか言わないでよ!?頑張ってんのに!俺、頑張ってんのに!!」
鏡の中で暴れていた男は、なんとかして脱出しようとしていたが、暴れるだけ無駄なことが分かり、少しだけ大人しくなった。
そこへ、どこからともなく声がする。
[よぉ…居心地はどうだい?]
「誰だ!?」
[アンタ等人間はなんて弱いんだろうな?このまま鏡を割られたくなきゃ、大人しくしてもらおうか?]
「か…鏡が割れたら…どうなる…?」
[二度と外の世界には出られないと思いな?]
[え?マジで!?]
[そこでチャチャ入れるの止めて!?今こっちの声向こうに聞こえてんのよ?]
[流石にそれは非人道的と言うか…]
[脅し文句って言葉、知ってる?ねぇ、ちょっと黙ってて!?]
何かわやわや騒ぐ声も聞こえるが、音も刺激も何も無い異質な空間に、気が狂いそうになっていた男は声の言う事に従うより他無くなった。
「わかった!言う通りにする!」
そう言って両手を上げて見せる男の足元に、何か光る物が転がって来た。
[魔力封じの腕輪だ。それ嵌めてそのままジッとしてなよ?]
言われた通り魔封じを自ら装着して待っていると、再びぐにゃりと足元が歪む感覚がして、明るい外の世界へと戻された。
男は解放された安堵から、四つん這いになって必死に息をしていたが、体が震えて上手く立てなくなっていた。
「人の命を狙うにしても、やり方がお粗末だ。本気で殺しにかかってくる奴が、空の上から直接武器を投げるなんざありえねぇ。なんかの嫌がらせか?」
「……せ…と…」
「ああ?」
「わ、私は、お前を監視せよと言われて動いていただけだ!嘘じゃない!」
「嘘つけ!1度目は街中で斧を投げて来やがったろう?!」
「武器を構えたのは妖獣が勝手に…」
「あーなるほど、殺意はなくとも悪意はあったと。でもお役目上、嫌悪するだけで手を出そうとは思ってなかったんだろ?その反面、妖獣は契約者の意思をそのまま遂行しようとすんのよ。人の本音を勝手に汲んで行動するから、複雑な仕事のある人間には不向きなんだよなぁ。オタクなんで契約してたの?」
「う…上から引き継いだだけで…」
「ほーん!?そんな大事な妖獣の契約、あんな乱暴に切っちゃっていいんだぁ?」
「それは…」
「何にせよ、預かりは貴族院だろ?だったら直ぐに送っちまおう。」
捕えた曲者はぐるぐる巻きにして憲兵隊に引き渡し、アーネスト宛てに手紙を添えて、送り返してしまう事にした。
罪人や何らかの事件の容疑者を移送するには、特殊な手続きを踏まねばならないので、デイビッドはまたサウラリースへ帰る時間を先延ばしにせねばならず、不機嫌な顔をしていた。
ディオニスの憲兵隊で移送依頼を出す際、色々と聞かれたが、当主印ひとつで誰もが黙る。
王都ではあまり実感しなかったが、これは便利な物だと、デイビッドは今更その効力と重要性に納得していた。
朝から振り回されて、時間は既に昼近く。
ようやく解放されたデイビッドは、良く晴れた空を見上げながら、ぐっと体を伸ばし、歩き出した。
貴族街メルには、“美食の都”と呼ばれる区画がある。
贅を尽くした宮廷料理はもちろん、山海の珍味や各国の美味が集結し、それを扱う一流の料理人達が集う美食家達の憧れの地だ。
そんな場所へ昼食のため連れて行かれたヴィオラは、大きなレストランの最上階の個室に通され、目が死んでいた。
「さてと、私はしばらくここでジェイムスを監視して移送の支度が整い次第戻ります。手間を掛けさせてしまいましたね。今度こそ、サウラリースで羽根を伸ばしていらっしゃい。」
「ありがとうございます。」
再度深く頭を下げ、屋敷から出て行こうとするデイビッドを、今度はカトレアが追いかけて来た。
「デイビッド!改めて言わせてちょうだい…おめでとう、よく頑張ったわね。」
「ありがとうございます…母上…?」
「王都の商会の方も上手く回しているようね。」
「それは会頭の腕が良いからです。」
「謙遜しないで。貴方が始めた企画もたくさんあると聞いているわ。」
「…あの、何が仰りたいのでしょう…?」
「なにって、母親が息子を褒めたら変かしら?」
「いいえ…ですが、俺は今、生まれて初めて貴女に労いの言葉をかけられたもので。貴女が何をお考えかわかりません。」
「そんな事ないわよ!!」
「少なくとも、俺自身に仰られた事は今まで一度もありませんでした…」
「そうだった…かしら…?」
「母上、これからも親父をよろしくお願いします。手綱を握れるのは貴女しかおりません。後の総領です。どうか支えてやって下さい。」
「わかってるわ…」
「俺の事はもうお気になさらず。とうに成人を迎え、間もなく保護対象からも外れる身です。これ以上母上のお手を煩わせることは無い様、自分で生きて参りますので、ご安心下さい。」
カトレアは何も言わず、自分の教えた通りの礼を取る息子が、背を向けて帰る姿を眺めていた。
デイビッドは今度こそサウラリースへ戻ろうと、駅を目指した。
しかし、こんな時にでも周囲はデイビッドを放っておいてはくれない。
気持ちも足取りも軽く歩いていると、またあの殺気がどこからか迫っている事に気が付き、咄嗟に倉庫街の方へと走り出した。
高い建物は皆どこかの店の倉庫で、道は薄暗く人気もほとんど無い。
通りを走り抜ける途中、肩を短刀が掠め、耳元に矢音が走った。
間違いなく、狙われている。
手近な所に建設途中の倉庫を見つけると、柵を乗り越え、転げるように作業用の簡易足場から作りかけの屋根へと飛び出した。
「おい!どうすんだよ!これじゃ丸見えたぞ!?」
「そりゃ向こうも同じだろ?ここらは景観のために屋根の高さが揃ってんだ。屋根の上の人間を狙うなら、同じ高さかそれより上に行く必要がある。ここならどっから狙われてるかすぐに分かる!」
堪らずポケットの手鏡からトムティットが顔を出したが、デイビッドの言う通り、屋根の上に積まれた資材を背にしたデイビッドを狙える死角は無く、遂に相手は姿を現した。
上空から、鋭い赤い目に4本の腕の狒々の上肢と、ペガサスの下半身を持つ異形の姿が、デイビッドを狙っている。
「あれも妖精か!?」
「ありゃ妖獣だ!人の魔力を糧に任務を遂行する契約者の手足みたいなもんだよ。厄介な相手だぞ?!」
「あぁ、俺1人だったら取り逃してたろうな!」
4本腕の妖獣は、背中の筒から新たな武器を取り出し、デイビッド目がけて投げ付けて来た。
小型のマチェットがデイビッドの体すれすれに突き刺さる。
しかしデイビッドも同時に、相手目掛けてナニかを投げていた。
飛んできたそのナニかを4本の腕の内の1本が掴む。と、それは小さな手鏡だった。
妖獣はつまらな気にその鏡を握り潰そうとしたが、次の瞬間、突如鏡から突き出て来た大量のツタに絡め取られ、反撃はおろか抵抗もままならず地上へと落とされた。
「ハッハー!いいねぇ!ナイスアシスト!!」
「お前、飛べねぇもんな…」
「飛べるモンになれりゃ多少飛べるわ!!」
鏡から生えて来たのはアリーのツタ。
一度でも鏡に映ったものならば、なんにでも変身できるトムティットが姿を変えたものだ。
もがく妖獣を改めて縛り上げ、魔力を探り術者の居所を見つけようとすると、途端ツタの中の妖獣がぐったりと動かなくなった。
「急にどうした?!」
「契約者に切り捨てられたんだろうな。魔力の供給を強制的に切られて動けなくなったんだよ。変な味付けなんかすっから、余計に力使い過ぎて自分ですら立てなくなってやんの。なっさけねぇ!」
「逃げられたか…」
「いやぁ?もう逃さねぇぞあの野郎!」
目にも止まらぬ早さでトムティットはガラスに反射する光の中をすっ飛んで行くと、倉庫のガラスに映る契約者の姿を捉え、再びツタを張り巡らせた。
相手は魔法を放とうとしたが、相手がどこにいるのかわからず、ためらった瞬間、視界がぐにゃりとひしゃげたかと思うと、真っ暗な空間に閉じ込められた。
「いっちょ上がりぃっ!どうよ、俺の実力は!戦闘でもしっかり役に立つんだぜ!?」
「この顔…見たことあるな…?」
「ねぇ、人の話聞いて!?」
小さな鏡の中で暴れる若い男に、デイビッドは見覚えがあった。
「家門の誰かじゃねぇの?」
「…わからん。ただ…貴族院の窓口にいた男と同じ顔だ。」
「貴族院!?なんで?!」
「なるほどな…“監視役”はこっちだったか…」
古くからラムダに仕える王都の貴族は、デュロック家を毛嫌いする者が多い。
中には過激派もいて、昔は真剣に危害を加えようとしてくる連中も少なからずいたそうな。
平和な時代が続き、そういった嫌がらせもなくなったと思われていたが、監視の目はどこにでもあったらしい。
鏡の中に閉じ込められた男は、何か喚きながら必死に外へ出ようと暴れているが、魔法を放とうと鏡はビクともしない。
「無駄無駄!俺の作り出す鏡の世界じゃ、お前等人間は手も足も出せねぇよ!」
「こわ…」
「そこは「頼りになるぜ相棒」くらいの事言ってくれない?!普通に引かれると傷つくのよ俺も!」
「だって魔法でも壊れない異空間に閉じ込められるとかもう恐怖だろ…」
「素で言うの止めて!?普段こんな事しないじゃん!役に立ってるじゃん?!本気出しただけよ俺!」
「牢獄よりキツいんじゃねぇか?」
「俺よか強い魔力があれば破って出てこれるだろうけど、そこまでの力も無さそうだし、このまま持ってても構わないぜ?」
「いい、人が入った鏡とか、気持ち悪ぃし…」
「気持ち悪いとか言わないでよ!?頑張ってんのに!俺、頑張ってんのに!!」
鏡の中で暴れていた男は、なんとかして脱出しようとしていたが、暴れるだけ無駄なことが分かり、少しだけ大人しくなった。
そこへ、どこからともなく声がする。
[よぉ…居心地はどうだい?]
「誰だ!?」
[アンタ等人間はなんて弱いんだろうな?このまま鏡を割られたくなきゃ、大人しくしてもらおうか?]
「か…鏡が割れたら…どうなる…?」
[二度と外の世界には出られないと思いな?]
[え?マジで!?]
[そこでチャチャ入れるの止めて!?今こっちの声向こうに聞こえてんのよ?]
[流石にそれは非人道的と言うか…]
[脅し文句って言葉、知ってる?ねぇ、ちょっと黙ってて!?]
何かわやわや騒ぐ声も聞こえるが、音も刺激も何も無い異質な空間に、気が狂いそうになっていた男は声の言う事に従うより他無くなった。
「わかった!言う通りにする!」
そう言って両手を上げて見せる男の足元に、何か光る物が転がって来た。
[魔力封じの腕輪だ。それ嵌めてそのままジッとしてなよ?]
言われた通り魔封じを自ら装着して待っていると、再びぐにゃりと足元が歪む感覚がして、明るい外の世界へと戻された。
男は解放された安堵から、四つん這いになって必死に息をしていたが、体が震えて上手く立てなくなっていた。
「人の命を狙うにしても、やり方がお粗末だ。本気で殺しにかかってくる奴が、空の上から直接武器を投げるなんざありえねぇ。なんかの嫌がらせか?」
「……せ…と…」
「ああ?」
「わ、私は、お前を監視せよと言われて動いていただけだ!嘘じゃない!」
「嘘つけ!1度目は街中で斧を投げて来やがったろう?!」
「武器を構えたのは妖獣が勝手に…」
「あーなるほど、殺意はなくとも悪意はあったと。でもお役目上、嫌悪するだけで手を出そうとは思ってなかったんだろ?その反面、妖獣は契約者の意思をそのまま遂行しようとすんのよ。人の本音を勝手に汲んで行動するから、複雑な仕事のある人間には不向きなんだよなぁ。オタクなんで契約してたの?」
「う…上から引き継いだだけで…」
「ほーん!?そんな大事な妖獣の契約、あんな乱暴に切っちゃっていいんだぁ?」
「それは…」
「何にせよ、預かりは貴族院だろ?だったら直ぐに送っちまおう。」
捕えた曲者はぐるぐる巻きにして憲兵隊に引き渡し、アーネスト宛てに手紙を添えて、送り返してしまう事にした。
罪人や何らかの事件の容疑者を移送するには、特殊な手続きを踏まねばならないので、デイビッドはまたサウラリースへ帰る時間を先延ばしにせねばならず、不機嫌な顔をしていた。
ディオニスの憲兵隊で移送依頼を出す際、色々と聞かれたが、当主印ひとつで誰もが黙る。
王都ではあまり実感しなかったが、これは便利な物だと、デイビッドは今更その効力と重要性に納得していた。
朝から振り回されて、時間は既に昼近く。
ようやく解放されたデイビッドは、良く晴れた空を見上げながら、ぐっと体を伸ばし、歩き出した。
貴族街メルには、“美食の都”と呼ばれる区画がある。
贅を尽くした宮廷料理はもちろん、山海の珍味や各国の美味が集結し、それを扱う一流の料理人達が集う美食家達の憧れの地だ。
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