421 / 512
黒豚令息の領地改革編
ライラの“まま”
「ラザニア焼けたかな?」
「らじゃにあやけたかな!」
「まだかな?」
「まだかなー!」
オーブンの前に陣取って、ヴィオラとライラがチーズの焼ける香りを嗅いでいる。
足をパタパタさせながら仲良く並んで座る姿は、まるで歳の離れた姉妹の様だ。
スープにトウモロコシを浮かべ、ジャガイモのガレットにサラダを盛り、ライラ用の野菜スティックを切って、焼けたラザニアを取り分けたら夕飯の完成だ。
「この糧に感謝を!」
「しゃんしゃんおー!」
熱々のとろけたチーズをふうふう冷ましてライラに食べさせるヴィオラの姿が、聖母に見えると言ったらエリックは爆笑するだろうか…
(したら本気で殴っても許される気がするな…)
わかってはいる。おかしいのは自分だ。
最後までしまっておくつもりだった本当の気持ちを、言葉にして伝えたあの夜からずっと、以前にも増してヴィオラが眩しく、愛おしく見えて仕方がない。
これが俗に言う“恋”なんてものなのだろうか。
(ったく…柄でもねぇ…)
呑まれないよう平静を装い、変わらない態度でいるつもりが、頭の中が始終浮かれて収拾がつかない。
その都度冷静になり後悔するまでがワンセット。日々これの繰り返し。
人が恋愛でおかしくなる訳が理解できた。
「ラザニア取り分けますよ?」
「少ない!もっと大きく!」
「ガレットも…」
「野菜にして!油吸った芋なんて食べさせないで!!」
「ならラザニアも減らしますか…?」
「好きなものは減らしたくないの!好きなもの食べながら痩せたいの!!」
「むちゃくちゃをおっしゃる…」
「わかってるわよ!そんなのわかってるわよ!!」
シェルリアーナを構おうとして失敗しているエリックを横目に、もっと振り回されればいいと、今まで散々振り回されてきたデイビッドは心の中で呟いた。
恋も女性の扱いも百戦錬磨の様に見えるエリックですら、目の前の婚約者にはなかなか心を開いてもらえないらしい。
それを見て少しだけ安心したデイビッドだった。
白いウサギのぬいぐるみを抱いて眠るライラを見つめながら食べる今夜のデザートは、冷たいチーズタルトとレアチーズケーキ。
味の違う2種類を食べ比べながら、少しだけ酒精の入ったブドウのソーダ水を楽しむと、ヴィオラもシェルリアーナも部屋に戻って行った。
「そろそろ人の婚約者とイチャつくのやめてもらえません?」
「お前の目は節穴か!?」
「ちょーっと目ぇ離すと直ぐ砕けたやり取りしながらスキンシップ取り出すんだもの、いい加減にして欲しいんですよねぇ…」
「節穴にガラス玉かなんか詰まってんのか?!人が鼻血出してひっくり返ってんの見えてんだろ!?」
「そーゆー「気心知れてます」みたいなの、見てて正直腹立たしいんですよ。」
「本当に気心知れた奴は図々しくズカズカ人の領域に入り込んで来て鼻っ柱に拳叩き入れたりはしねぇよ!?」
「…そういうプレイを楽しんでいるものかと…?」
「お前ぇの頭ん中どうなってんだ!!」
エリックの思考回路は、相変わらず謎と不可思議に満ちていて、デイビッドの手には負えそうにない様だ。
次の日は朝から生憎の天気だった。
ヴィオラとシェルリアーナは課題に勤しむ間、邪魔にならないようデイビッドがライラを連れて建物内を散歩させていると、事務の者達に呼び止められた。
貴族裁判所から通知が届けられたそうだ。
「なんて書いてあるんです?」
「要するに、不当に引き取った子供を両親に返せだと。」
「庶民が貴族裁判所なんて利用しますかね?」
「…ハルフェン侯爵が後ろ盾らしい。狙いは間違いなくライラだな…」
「気持ち悪ぅ…諦めの悪い事で…」
「向こうがその気なら、こっちも万全の用意で挑んでやろう。誰だろうと、ライラにちょっかい出した事後悔させてやらぁ…」
「あーい!」
久々に張り切ったデイビッドは、ライラがここへ来た時から取っておいた資料や記録を山と用意し、証言や目撃情報を集め、万全の対策を練って挑むつもりで気合を入れていた。
「おやちゅ!」
「ヴィオラ、そろそろ一息入れないか?今日はクリーム入りのゼリーに果物を入れてみたんだ。」
「はぁ~~…頭が沸騰しそうだったので嬉しいです…」
邪魔者達の相手は片手間にして、今の本命はヴィオラ(とライラ)に構うことだ。
夏も終わりが近いが、まだまだ暑い日は続く。
涼の取れる冷たい物が手放せない。
「私のは!?」
「シェル様にはこちらのバナナ蒸しパンですよ!」
「あら、このお茶いつものハーブティーじゃないのね。」
「代謝を上げるハーブと薬草を加えてみました。少しクセがありますが飲みやすくしてありますよ?」
「気が利くじゃない!」
これまではデイビッドとヴィオラの傍観者だったエリックが、シェルリアーナを相手に世話を焼こうとして一進一退する様を晒している。
今度はデイビッドがそれを見せられる側になり、些か鬱陶しい気がしてきた。
(エリック様も頑張ってますね!)
(ヴィオラは平気なのか…?ああいうの見せつけられて。)
(参考になります!)
(…いや、俺にああいう真似はできねぇよ!?)
(シェル先輩も、あんなにお姫様扱いされても全然動じてない…)
(そういう環境に慣れてんだろうな…お互いに…)
高位貴族の、それも貴族教育の行き届いた美男美女のカップルに、ヴィオラとデイビッドは少しだけ卑屈になりかけていた。
「じゃぁ…行って来る。」
裁判所から通知があった2日後、デイビッドは珍しく目立つ服を選び、大きな鞄を片手にライラを抱っこして馬車に乗り込んだ。
「ねぇね、ばいばーい!」
「ライラちゃん!頑張ってね!絶対帰ってきてね!!約束よ!?」
「大丈夫、何があっても2人で帰るよ。安心して待ってな。」
まだ何も理解できていないライラも、どこか緊張していて落ち着かない。
「まま、まぁま!」
「ままじゃないんだって…あーでも、そうか!“まま”以外の呼び方がわかんないのか。」
「まぁまぁー!」
「なんて呼ばせたらいいんだ…?」
「そこは“パパ”でいいんじゃねぇの?」
黙っているつもりでいたトムティットも、思わず声が出てしまう。
「なんかダメなの?もうすぐパパのクセに…」
「未婚で婚約中にそれはマズイかと思って…」
「なんでそこで変な繊細さ出してくんの?もう赤の他人の立場じゃないでしょうが。自覚しろ“パパ”さんよ!」
「やめろ!」
やがて裁判所へ着くと、養護員達がライラを別室へ連れて行った。
「まぁまーっ!」
「大丈夫、また後で会えるよ。この人達の言う事ちゃんと聞いて、イジワルしちゃダメだぞ?」
「…うん…」
「いい子だ…」
ライラの頭を撫でてやると、幼いながらに涙を堪えて手を振るので、思わず子供の成長振りに感慨深くなってしまった。
(親になるって…こういう事か…)
今日は裁判ではなく、いわゆる「調停」と言う非公開の話合いが行われる。
できれば今回のみで決着をつけたいが、何日もかかる事が普通だそうだ。
先方は弁護士に加え、若きハルフェン侯爵自らが出て来て、弁護に当たるつもりのようだ。
見ず知らずの平民相手に有り得ない待遇だ。
「私、リチャード・ハルフェンは、この嘆かわしき由々しい事態を正さんと、この度この夫婦に力を貸すことにした。」
「あぁそー…」
「お願いです!娘を!娘を返して下さい!!」
「一度は過ちを犯しました!ですがあれは教会の圧力に耐えられず仕方のない苦渋の決断でした…教会がなくなると分かっていればあんな事しなかった!」
「へぇ~…」
さも自分達が被害者と言わんばかりの泣き落としに、デイビッドは辟易しながら手元に配られた陳述書と、いかにこちらがライラに相応しくないかが書かれた弁護士とやらが作った書類を読んでいた。
「こっちから質問してもいいんだよな?」
「はい、そのための調停ですので。」
流石に調停員は冷静で、感情に流されたりはしていないようだ。
しかし、ハルフェンがどこまで食い込んでいるか分からない以上、下手な発言は控えなければならない。
(最悪全員グルって可能性もある事だしな…)
「じゃ始めに、ライラを捨てたのはいつだったか、覚えてるか?」
「雪の降る年の暮れでした…」
「何故そんな日に赤ん坊を捨てようと?」
「教会に悪魔信仰の疑いをかけられて致し方なく…」
「そうしないと家族がみんな不幸になると脅されたんです!」
これは実際にあったケースだ。
黒髪黒目の人間を悪魔の生まれ変わりとし、教会が忌み嫌っていたことは周知の事。
稀に生まれる黒髪黒目の子供は、王都内では迫害の対象だった。
(今思えば、恐らく教会が広めた黒髪黒目の悪魔とは“デュロック”の事を示していたのだろう。教会が盗んだガロの遺物と守護者を奪い返しに来る可能性があったのは、ガロの留民を守護するデュロックの外にいない。初代は黒髪黒目の武人だった。せっかく手に入れた聖女と結界の装置を守る為、恐怖で民衆を扇動し、差別意識を植え付け、万が一進軍された際の盾にしようとしたに違いない。全く持って腹立たしい限りである。)
「下らない質問はもうよろしいですか?!それではこちらからもお聞きしますよ?」
今度は反対に、デイビッドが答える番だ。
もう何も怖くはないと言った態度で座り直したデイビッドは、明らかに悪人の様な顔をしていた。
「貴方は何故、あの子供引き取ろうとしたのですか?」
「展開してる事業の中で、どっかの貴族が金で子供を買おうとしてると聞いたから、保護のつもりで事業主に養育権を移したまでだよ。」
「相手が崇高な考えで、真剣に養女に迎えようとしている可能性は考え無かったと?!」
「王都から使者だけ寄越して、理由は聞くな詮索はするな、金は払うから黙って子供を渡せと言われたそうだ。怪しいんで念の為身柄を確保したんだよ。」
「だったら今直ぐに親元へ還すべきだ!何故そんな幼子に執着する!?これは市井の噂が真実だという証明ではないか?」
新ハルフェン侯爵はデイビッドを指差し、勝ち誇ったように笑っていた。
「らじゃにあやけたかな!」
「まだかな?」
「まだかなー!」
オーブンの前に陣取って、ヴィオラとライラがチーズの焼ける香りを嗅いでいる。
足をパタパタさせながら仲良く並んで座る姿は、まるで歳の離れた姉妹の様だ。
スープにトウモロコシを浮かべ、ジャガイモのガレットにサラダを盛り、ライラ用の野菜スティックを切って、焼けたラザニアを取り分けたら夕飯の完成だ。
「この糧に感謝を!」
「しゃんしゃんおー!」
熱々のとろけたチーズをふうふう冷ましてライラに食べさせるヴィオラの姿が、聖母に見えると言ったらエリックは爆笑するだろうか…
(したら本気で殴っても許される気がするな…)
わかってはいる。おかしいのは自分だ。
最後までしまっておくつもりだった本当の気持ちを、言葉にして伝えたあの夜からずっと、以前にも増してヴィオラが眩しく、愛おしく見えて仕方がない。
これが俗に言う“恋”なんてものなのだろうか。
(ったく…柄でもねぇ…)
呑まれないよう平静を装い、変わらない態度でいるつもりが、頭の中が始終浮かれて収拾がつかない。
その都度冷静になり後悔するまでがワンセット。日々これの繰り返し。
人が恋愛でおかしくなる訳が理解できた。
「ラザニア取り分けますよ?」
「少ない!もっと大きく!」
「ガレットも…」
「野菜にして!油吸った芋なんて食べさせないで!!」
「ならラザニアも減らしますか…?」
「好きなものは減らしたくないの!好きなもの食べながら痩せたいの!!」
「むちゃくちゃをおっしゃる…」
「わかってるわよ!そんなのわかってるわよ!!」
シェルリアーナを構おうとして失敗しているエリックを横目に、もっと振り回されればいいと、今まで散々振り回されてきたデイビッドは心の中で呟いた。
恋も女性の扱いも百戦錬磨の様に見えるエリックですら、目の前の婚約者にはなかなか心を開いてもらえないらしい。
それを見て少しだけ安心したデイビッドだった。
白いウサギのぬいぐるみを抱いて眠るライラを見つめながら食べる今夜のデザートは、冷たいチーズタルトとレアチーズケーキ。
味の違う2種類を食べ比べながら、少しだけ酒精の入ったブドウのソーダ水を楽しむと、ヴィオラもシェルリアーナも部屋に戻って行った。
「そろそろ人の婚約者とイチャつくのやめてもらえません?」
「お前の目は節穴か!?」
「ちょーっと目ぇ離すと直ぐ砕けたやり取りしながらスキンシップ取り出すんだもの、いい加減にして欲しいんですよねぇ…」
「節穴にガラス玉かなんか詰まってんのか?!人が鼻血出してひっくり返ってんの見えてんだろ!?」
「そーゆー「気心知れてます」みたいなの、見てて正直腹立たしいんですよ。」
「本当に気心知れた奴は図々しくズカズカ人の領域に入り込んで来て鼻っ柱に拳叩き入れたりはしねぇよ!?」
「…そういうプレイを楽しんでいるものかと…?」
「お前ぇの頭ん中どうなってんだ!!」
エリックの思考回路は、相変わらず謎と不可思議に満ちていて、デイビッドの手には負えそうにない様だ。
次の日は朝から生憎の天気だった。
ヴィオラとシェルリアーナは課題に勤しむ間、邪魔にならないようデイビッドがライラを連れて建物内を散歩させていると、事務の者達に呼び止められた。
貴族裁判所から通知が届けられたそうだ。
「なんて書いてあるんです?」
「要するに、不当に引き取った子供を両親に返せだと。」
「庶民が貴族裁判所なんて利用しますかね?」
「…ハルフェン侯爵が後ろ盾らしい。狙いは間違いなくライラだな…」
「気持ち悪ぅ…諦めの悪い事で…」
「向こうがその気なら、こっちも万全の用意で挑んでやろう。誰だろうと、ライラにちょっかい出した事後悔させてやらぁ…」
「あーい!」
久々に張り切ったデイビッドは、ライラがここへ来た時から取っておいた資料や記録を山と用意し、証言や目撃情報を集め、万全の対策を練って挑むつもりで気合を入れていた。
「おやちゅ!」
「ヴィオラ、そろそろ一息入れないか?今日はクリーム入りのゼリーに果物を入れてみたんだ。」
「はぁ~~…頭が沸騰しそうだったので嬉しいです…」
邪魔者達の相手は片手間にして、今の本命はヴィオラ(とライラ)に構うことだ。
夏も終わりが近いが、まだまだ暑い日は続く。
涼の取れる冷たい物が手放せない。
「私のは!?」
「シェル様にはこちらのバナナ蒸しパンですよ!」
「あら、このお茶いつものハーブティーじゃないのね。」
「代謝を上げるハーブと薬草を加えてみました。少しクセがありますが飲みやすくしてありますよ?」
「気が利くじゃない!」
これまではデイビッドとヴィオラの傍観者だったエリックが、シェルリアーナを相手に世話を焼こうとして一進一退する様を晒している。
今度はデイビッドがそれを見せられる側になり、些か鬱陶しい気がしてきた。
(エリック様も頑張ってますね!)
(ヴィオラは平気なのか…?ああいうの見せつけられて。)
(参考になります!)
(…いや、俺にああいう真似はできねぇよ!?)
(シェル先輩も、あんなにお姫様扱いされても全然動じてない…)
(そういう環境に慣れてんだろうな…お互いに…)
高位貴族の、それも貴族教育の行き届いた美男美女のカップルに、ヴィオラとデイビッドは少しだけ卑屈になりかけていた。
「じゃぁ…行って来る。」
裁判所から通知があった2日後、デイビッドは珍しく目立つ服を選び、大きな鞄を片手にライラを抱っこして馬車に乗り込んだ。
「ねぇね、ばいばーい!」
「ライラちゃん!頑張ってね!絶対帰ってきてね!!約束よ!?」
「大丈夫、何があっても2人で帰るよ。安心して待ってな。」
まだ何も理解できていないライラも、どこか緊張していて落ち着かない。
「まま、まぁま!」
「ままじゃないんだって…あーでも、そうか!“まま”以外の呼び方がわかんないのか。」
「まぁまぁー!」
「なんて呼ばせたらいいんだ…?」
「そこは“パパ”でいいんじゃねぇの?」
黙っているつもりでいたトムティットも、思わず声が出てしまう。
「なんかダメなの?もうすぐパパのクセに…」
「未婚で婚約中にそれはマズイかと思って…」
「なんでそこで変な繊細さ出してくんの?もう赤の他人の立場じゃないでしょうが。自覚しろ“パパ”さんよ!」
「やめろ!」
やがて裁判所へ着くと、養護員達がライラを別室へ連れて行った。
「まぁまーっ!」
「大丈夫、また後で会えるよ。この人達の言う事ちゃんと聞いて、イジワルしちゃダメだぞ?」
「…うん…」
「いい子だ…」
ライラの頭を撫でてやると、幼いながらに涙を堪えて手を振るので、思わず子供の成長振りに感慨深くなってしまった。
(親になるって…こういう事か…)
今日は裁判ではなく、いわゆる「調停」と言う非公開の話合いが行われる。
できれば今回のみで決着をつけたいが、何日もかかる事が普通だそうだ。
先方は弁護士に加え、若きハルフェン侯爵自らが出て来て、弁護に当たるつもりのようだ。
見ず知らずの平民相手に有り得ない待遇だ。
「私、リチャード・ハルフェンは、この嘆かわしき由々しい事態を正さんと、この度この夫婦に力を貸すことにした。」
「あぁそー…」
「お願いです!娘を!娘を返して下さい!!」
「一度は過ちを犯しました!ですがあれは教会の圧力に耐えられず仕方のない苦渋の決断でした…教会がなくなると分かっていればあんな事しなかった!」
「へぇ~…」
さも自分達が被害者と言わんばかりの泣き落としに、デイビッドは辟易しながら手元に配られた陳述書と、いかにこちらがライラに相応しくないかが書かれた弁護士とやらが作った書類を読んでいた。
「こっちから質問してもいいんだよな?」
「はい、そのための調停ですので。」
流石に調停員は冷静で、感情に流されたりはしていないようだ。
しかし、ハルフェンがどこまで食い込んでいるか分からない以上、下手な発言は控えなければならない。
(最悪全員グルって可能性もある事だしな…)
「じゃ始めに、ライラを捨てたのはいつだったか、覚えてるか?」
「雪の降る年の暮れでした…」
「何故そんな日に赤ん坊を捨てようと?」
「教会に悪魔信仰の疑いをかけられて致し方なく…」
「そうしないと家族がみんな不幸になると脅されたんです!」
これは実際にあったケースだ。
黒髪黒目の人間を悪魔の生まれ変わりとし、教会が忌み嫌っていたことは周知の事。
稀に生まれる黒髪黒目の子供は、王都内では迫害の対象だった。
(今思えば、恐らく教会が広めた黒髪黒目の悪魔とは“デュロック”の事を示していたのだろう。教会が盗んだガロの遺物と守護者を奪い返しに来る可能性があったのは、ガロの留民を守護するデュロックの外にいない。初代は黒髪黒目の武人だった。せっかく手に入れた聖女と結界の装置を守る為、恐怖で民衆を扇動し、差別意識を植え付け、万が一進軍された際の盾にしようとしたに違いない。全く持って腹立たしい限りである。)
「下らない質問はもうよろしいですか?!それではこちらからもお聞きしますよ?」
今度は反対に、デイビッドが答える番だ。
もう何も怖くはないと言った態度で座り直したデイビッドは、明らかに悪人の様な顔をしていた。
「貴方は何故、あの子供引き取ろうとしたのですか?」
「展開してる事業の中で、どっかの貴族が金で子供を買おうとしてると聞いたから、保護のつもりで事業主に養育権を移したまでだよ。」
「相手が崇高な考えで、真剣に養女に迎えようとしている可能性は考え無かったと?!」
「王都から使者だけ寄越して、理由は聞くな詮索はするな、金は払うから黙って子供を渡せと言われたそうだ。怪しいんで念の為身柄を確保したんだよ。」
「だったら今直ぐに親元へ還すべきだ!何故そんな幼子に執着する!?これは市井の噂が真実だという証明ではないか?」
新ハルフェン侯爵はデイビッドを指差し、勝ち誇ったように笑っていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。
とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。