423 / 512
黒豚令息の領地改革編
2匹目のグリフォン
「こりぇよんで!」
「もう7回目ですが!?」
「よんでーっ!」
「はいはい…」
部屋の隅にできたライラのスペースには、本棚いっぱいの絵本と、カゴいっぱいの玩具が置かれている。
それを朝から何度も同じ本ばかり読まされて、デイビッドの方がくたびれていた。
「明日からまた先生のとこ行くぞ?」
「ヤダ!」
「新しいお友達もいっぱいいるぞー?!」
「ヤダ!!」
「どうしたもんか…」
主に孤児を預かる乳児院に、いつまでも里親の決まったライラを預けていては周りの子供にも良くないということで、デイビッドはこの度、養護施設を拡張し子供を預かる事業に乗り出していた。
食事と教育、集団生活の基礎、友達や大人と遊ぶ機会などを提供し、両親は安心して仕事ができる。
いわゆるナーサリーというものだ。
職員には乳母の経験者や、子育てが一段落して暇しているという女性方にお願いしたところ、収入にもなると聞いて皆喜んで来てくれた。
では子供を預けたいという利用者は来るだろうか?と、手始めに事業内で希望者を募ったところ、大勢の予約が入り、慌てて設備や備品を増やさねばならない事態となった。
既にこの夏から稼働していて、子供達が元気に遊ぶ姿が見られているそうだ。
「ままぁ!だっこ!」
「お?そのウサギ、もうだいぶ黒いな…」
いつも抱いて遊んでいるウサギのぬいぐるみは、はじめは白かったが、だんだんと薄汚れて来ていた。
「洗うかぁ…」
「ヤダ!!」
「またヤダか!?最近多いな!反抗期か!?」
「あらっちゃだめ!」
「シミになっちまうぞ?そうだ!バァバからもらった新しい玩具、開けてみようか!?」
「バァバ!!」
サウラリースでバァバに大量に買い与えられた玩具は、一度に渡してしまわず、少しずつ楽しみに開ける事にしている。
「これがいい!」
「ゴムのアヒルか?いいなぁ、名前なんにする?」
「ほへほへちゃん!」
「ほへほへちゃん??」
「ほへほへちゃーん!」
「ほへほへちゃんの他にないのか…?」
「ほへほへちゃんがいいー!」
「ほへほへちゃんがいい!??」
ライラがアヒル、基い“ほへほへちゃん”を抱いて遊ぶ間、デイビッドは急いでウサギを洗い、見えない所に吊るして干した。
(子供の感性はわからん…)
「デイビッド様、なんだか前より優しくなりましたね。」
「ヴィオラに言われるとショックなんだが…」
「もちろんずっと優しいですよ!でも、なんだろう、角が取れたような、やわらかくなったような…?なんだかドキドキよりポカポカする感じがします!」
「ポカポカ…ねぇ…」
食事の支度をするデイビッドの隣で、ヴィオラもパン生地をこねている。
特に何を話すでもなく2人でいられるこんな時間が、このところは何より幸せに感じられる。
「まま!これよんで!」
「もうちょっと浸らせてくれても良くないか?!」
「何にですか?」
「…何でもない…はいはい、読みますよ…」
夕飯はクロケットと、卵入りのサラダ、キャベツのスープにヴィオラの焼いたパン。
しかし食べるのは3人だけ。
エリックとシェルリアーナは重大な仕事があるからと朝からいない。
「シェル先輩どこ行ったんでしょうね…」
「エリックも一緒だから大丈夫だろ。」
その日の夜、エリックとシェルリアーナは珍しく夜遅くまで帰らなかった。
「あれ?兄さんが呼んでる?」
「エリックが?出先でなんかあったのか…シェルもいるはずだから行ってやってくれ。」
「わかった!」
夜中に鏡の呼び出しを受けたトムティットが姿見に消えると、しばらくしてウンザリした顔で戻って来た。
「一体なにが…酒臭っ!!」
「いやぁ~…ちょっと飲み過ぎちゃって!」
「ったく、人を便利に使いやがって…俺は黒豚ちゃんの契約妖魔なんだよ!好きに使える移動手段にすんな!」
「シェル様が潰れちゃったので、早く帰れる方がいいかと思って。すみませんねぇ。」
シェルリアーナを抱き上げたエリックが、悪びれもせず部屋に入って来る。
「う~~ん…」
「シェリィ、ホラお水飲めますか?」
「えりっくぅ…ぎゅ~してぇ…」
「仕方ない甘えたさんですねぇ!」
「え?何見せられてんの俺達…?」
「どっか行ってやれアホ共が!!」
酔って人格の変わったシェルリアーナに、なんとか転移陣を作動させ部屋に帰すと、エリックも上着を脱いで一息ついた。
「いやー!ロシェ家に婚約の許可もらいに行って来たんですよ!」
「それで、祝杯か?それとも自棄酒か?」
「即決で婚約の許可降りましたよ!嬉しくて昼間から色んなお店食べ歩きして、夜はちょっと良いお店で飲んでたんです。」
「あの狸親父が良く許したな。」
「朝摘みのアルラウネの花で大きな花束作って、ドライアドの蜜と世界樹の実を添えてご挨拶に行ったら直ぐでしたよ?」
「そんな金に物を言わせるような真似を…」
「しかも兄さんの実力1個も無い…」
「運も大事な実力ですって!」
それを言えばこれ程の強運の持ち主はいなかろう。
食っちゃ寝してるだけで魔力が上がり、金銀財宝の方がまだ現実味のある伝説級の宝物に囲まれ、精霊と妖精に愛されバラ色の人生を約束された類稀な男である。
それを捕まえたシェルリアーナもかなりの引きの強い人物と言えるだろう。
何にせよこの2人が晴れて婚約者になったことに、デイビッドは少しだけホッとしていた。
次の日、ヴィオラはミランダとローラの下宿先で、お泊りの読書会を開き、一晩中語り合うのだと言って出かけて行った。
ライラも、トムティットに運ばれてしぶしぶ、ナーサリーの方へ向かう。
「ままぁ…」
「たくさん遊んで来いよ。また夕方に迎えに行くからな?」
「送り迎え俺だけどな!?」
「ままじゃないやつぅ…」
「いいだろママじゃなくてもよー!おんなじかっこして行ってやるんだから!“まま”の演技だって大したもんだろ?!」
「はよ行け!」
エリックは珍しく早朝から出かけていて、シェルリアーナは二日酔いだそうだ。
(ってことは…今日は俺ひとりか…)
自分に用向きがあり1人になることはあっても、デイビッド以外の全員に用があり1人になった事はほとんど無い。
(どうすっか…)
掃除に洗濯、畑仕事に家畜小屋の世話も終え、久々ぽっかり空いた時間。
(ファルコの顔でも見に行くか!)
領地に向かう事にして、デイビッドは今日はムスタではなく、緑色の自転車に跨った。
日の当たる坂道を自転車で駆け登ると、そこからは馬車の轍に沿って田舎道を進む。
真っ直ぐ進めば運河の港へ続く街道に出るが、領地に行くには途中で別の小道へ抜ける必要がある。
馬車道を軽快に漕いでいると、街道の方に何やら人が集まっているのが見えた。
馬車が何台も止まり、遠目にも人が右往左往しているのが見える。
(何かあったのか…?)
気になってそのまま人集りに近づいて行くと、人々の中心に見覚えのある印のマントを羽織った集団が居ることに気が付いた。
(あれは…!)
王都を目前とした街道の真ん中。
人々を留めていたのは国内の魔物討伐専門部隊“クロノス”の一団だった。
「全員動かないで!その場で隠れていて下さい!」
「マズイな…ここは街に近過ぎる…」
「このまま我々が引きつけて離れますので、合図があるまでは待機するように!」
止まった馬車の従業員達は皆、馬車の幌の中に隠れ、祈る様に身を縮こめている。
そこへ呑気に自転車を漕いで走って来る愚か者が見えた。
「お~い!何があったんだ?」
「なにしてる!!そこの君、早く隠れるんだ!!」
「へ?!」
「グリフォンだ!グリフォンが上空で獲物を狙っているんだよ!!」
「グリフォン?!」
デイビッドが空を見上げると、確かに、太陽を背に大きな猛禽類の翼の影が見える。
(グリフォンて……まさか…)
そこへ甲冑姿の団体が寄って来た。
「そこの自転車の…お…お前…まさかデイブか?!」
「もしかして、アールス?!」
「やっぱり!!何してんだこんな所で!?」
「この先の領地に用があって移動中、人が集まってるからなんかあったのかと思って…」
「わざわざ近づいて来たのか!?警戒旗揚げてんだろ!相変わらず無鉄砲だな!」
「この道はよく使うから気になってよ。」
デイビッドがアールスと呼んだ男は、かつてクロノスで共に学んだ戦友のひとりだ。
8年前にクロノス部隊に同行したデイビッドとほぼ同時に入った2つ年上の隊員で、右も左もわからない者同士、先輩達に揉まれる中で気が合った仲間だった。
「お前あれが見えないのか!?グリフォンが谷間の群れから外れてこっちまで飛んで来てるんだよ!俺達はショーン伯爵領の依頼を受けて、ここまではぐれグリフォンを追って来たんだ!」
「ん?追って来た…って事は、新しく来たヤツなのか?」
「何を追って来たのかはわからんが、グリフォンが住み慣れた魔素地から離れるなんてまずあり得ない!何か異常個体なんじゃないかと思われるって…」
「あれ…もしかして、雄?」
「よく分かったな。俺達は途中でかなり近くまで寄ったから確認できた。かなり大きい雄の個体だよ。」
(もしかして…)
デイビッドは大急ぎで来た道を戻った。
「悪い!話は後でさせてくれ!」
「おい!1人で行くな、狙われるぞ?!」
「大丈夫!こっちにも策はある!」
全力で自転車を飛ばし、草地を抜けると妖精達が道を通してくれる。
畑を横切りマロニエの直ぐ横に自転車を乗り捨てると、森に向かって走りながら指笛を吹いた。
〈ピュィーーーーッ〉
「キューールルルル!!」
すると直ぐに見慣れた相棒が飛びついて来た。
「ファルコ!」
「キュルルル!!」
「頼む、俺を空に連れてってくれ!」
「キュピィー!」
鞍もない裸馬の背。頼みの綱は鑑札用に首に掛けた縄一本。
意を決して跨り空へ向かう。
(ベルトも留め具も鐙も無し…やるしかねぇか…)
いつ落ちてもおかしくない危険な曲乗り状態で、デイビッドは雄のグリフォンを追って、ファルコと共に雲の上を目指した。
「もう7回目ですが!?」
「よんでーっ!」
「はいはい…」
部屋の隅にできたライラのスペースには、本棚いっぱいの絵本と、カゴいっぱいの玩具が置かれている。
それを朝から何度も同じ本ばかり読まされて、デイビッドの方がくたびれていた。
「明日からまた先生のとこ行くぞ?」
「ヤダ!」
「新しいお友達もいっぱいいるぞー?!」
「ヤダ!!」
「どうしたもんか…」
主に孤児を預かる乳児院に、いつまでも里親の決まったライラを預けていては周りの子供にも良くないということで、デイビッドはこの度、養護施設を拡張し子供を預かる事業に乗り出していた。
食事と教育、集団生活の基礎、友達や大人と遊ぶ機会などを提供し、両親は安心して仕事ができる。
いわゆるナーサリーというものだ。
職員には乳母の経験者や、子育てが一段落して暇しているという女性方にお願いしたところ、収入にもなると聞いて皆喜んで来てくれた。
では子供を預けたいという利用者は来るだろうか?と、手始めに事業内で希望者を募ったところ、大勢の予約が入り、慌てて設備や備品を増やさねばならない事態となった。
既にこの夏から稼働していて、子供達が元気に遊ぶ姿が見られているそうだ。
「ままぁ!だっこ!」
「お?そのウサギ、もうだいぶ黒いな…」
いつも抱いて遊んでいるウサギのぬいぐるみは、はじめは白かったが、だんだんと薄汚れて来ていた。
「洗うかぁ…」
「ヤダ!!」
「またヤダか!?最近多いな!反抗期か!?」
「あらっちゃだめ!」
「シミになっちまうぞ?そうだ!バァバからもらった新しい玩具、開けてみようか!?」
「バァバ!!」
サウラリースでバァバに大量に買い与えられた玩具は、一度に渡してしまわず、少しずつ楽しみに開ける事にしている。
「これがいい!」
「ゴムのアヒルか?いいなぁ、名前なんにする?」
「ほへほへちゃん!」
「ほへほへちゃん??」
「ほへほへちゃーん!」
「ほへほへちゃんの他にないのか…?」
「ほへほへちゃんがいいー!」
「ほへほへちゃんがいい!??」
ライラがアヒル、基い“ほへほへちゃん”を抱いて遊ぶ間、デイビッドは急いでウサギを洗い、見えない所に吊るして干した。
(子供の感性はわからん…)
「デイビッド様、なんだか前より優しくなりましたね。」
「ヴィオラに言われるとショックなんだが…」
「もちろんずっと優しいですよ!でも、なんだろう、角が取れたような、やわらかくなったような…?なんだかドキドキよりポカポカする感じがします!」
「ポカポカ…ねぇ…」
食事の支度をするデイビッドの隣で、ヴィオラもパン生地をこねている。
特に何を話すでもなく2人でいられるこんな時間が、このところは何より幸せに感じられる。
「まま!これよんで!」
「もうちょっと浸らせてくれても良くないか?!」
「何にですか?」
「…何でもない…はいはい、読みますよ…」
夕飯はクロケットと、卵入りのサラダ、キャベツのスープにヴィオラの焼いたパン。
しかし食べるのは3人だけ。
エリックとシェルリアーナは重大な仕事があるからと朝からいない。
「シェル先輩どこ行ったんでしょうね…」
「エリックも一緒だから大丈夫だろ。」
その日の夜、エリックとシェルリアーナは珍しく夜遅くまで帰らなかった。
「あれ?兄さんが呼んでる?」
「エリックが?出先でなんかあったのか…シェルもいるはずだから行ってやってくれ。」
「わかった!」
夜中に鏡の呼び出しを受けたトムティットが姿見に消えると、しばらくしてウンザリした顔で戻って来た。
「一体なにが…酒臭っ!!」
「いやぁ~…ちょっと飲み過ぎちゃって!」
「ったく、人を便利に使いやがって…俺は黒豚ちゃんの契約妖魔なんだよ!好きに使える移動手段にすんな!」
「シェル様が潰れちゃったので、早く帰れる方がいいかと思って。すみませんねぇ。」
シェルリアーナを抱き上げたエリックが、悪びれもせず部屋に入って来る。
「う~~ん…」
「シェリィ、ホラお水飲めますか?」
「えりっくぅ…ぎゅ~してぇ…」
「仕方ない甘えたさんですねぇ!」
「え?何見せられてんの俺達…?」
「どっか行ってやれアホ共が!!」
酔って人格の変わったシェルリアーナに、なんとか転移陣を作動させ部屋に帰すと、エリックも上着を脱いで一息ついた。
「いやー!ロシェ家に婚約の許可もらいに行って来たんですよ!」
「それで、祝杯か?それとも自棄酒か?」
「即決で婚約の許可降りましたよ!嬉しくて昼間から色んなお店食べ歩きして、夜はちょっと良いお店で飲んでたんです。」
「あの狸親父が良く許したな。」
「朝摘みのアルラウネの花で大きな花束作って、ドライアドの蜜と世界樹の実を添えてご挨拶に行ったら直ぐでしたよ?」
「そんな金に物を言わせるような真似を…」
「しかも兄さんの実力1個も無い…」
「運も大事な実力ですって!」
それを言えばこれ程の強運の持ち主はいなかろう。
食っちゃ寝してるだけで魔力が上がり、金銀財宝の方がまだ現実味のある伝説級の宝物に囲まれ、精霊と妖精に愛されバラ色の人生を約束された類稀な男である。
それを捕まえたシェルリアーナもかなりの引きの強い人物と言えるだろう。
何にせよこの2人が晴れて婚約者になったことに、デイビッドは少しだけホッとしていた。
次の日、ヴィオラはミランダとローラの下宿先で、お泊りの読書会を開き、一晩中語り合うのだと言って出かけて行った。
ライラも、トムティットに運ばれてしぶしぶ、ナーサリーの方へ向かう。
「ままぁ…」
「たくさん遊んで来いよ。また夕方に迎えに行くからな?」
「送り迎え俺だけどな!?」
「ままじゃないやつぅ…」
「いいだろママじゃなくてもよー!おんなじかっこして行ってやるんだから!“まま”の演技だって大したもんだろ?!」
「はよ行け!」
エリックは珍しく早朝から出かけていて、シェルリアーナは二日酔いだそうだ。
(ってことは…今日は俺ひとりか…)
自分に用向きがあり1人になることはあっても、デイビッド以外の全員に用があり1人になった事はほとんど無い。
(どうすっか…)
掃除に洗濯、畑仕事に家畜小屋の世話も終え、久々ぽっかり空いた時間。
(ファルコの顔でも見に行くか!)
領地に向かう事にして、デイビッドは今日はムスタではなく、緑色の自転車に跨った。
日の当たる坂道を自転車で駆け登ると、そこからは馬車の轍に沿って田舎道を進む。
真っ直ぐ進めば運河の港へ続く街道に出るが、領地に行くには途中で別の小道へ抜ける必要がある。
馬車道を軽快に漕いでいると、街道の方に何やら人が集まっているのが見えた。
馬車が何台も止まり、遠目にも人が右往左往しているのが見える。
(何かあったのか…?)
気になってそのまま人集りに近づいて行くと、人々の中心に見覚えのある印のマントを羽織った集団が居ることに気が付いた。
(あれは…!)
王都を目前とした街道の真ん中。
人々を留めていたのは国内の魔物討伐専門部隊“クロノス”の一団だった。
「全員動かないで!その場で隠れていて下さい!」
「マズイな…ここは街に近過ぎる…」
「このまま我々が引きつけて離れますので、合図があるまでは待機するように!」
止まった馬車の従業員達は皆、馬車の幌の中に隠れ、祈る様に身を縮こめている。
そこへ呑気に自転車を漕いで走って来る愚か者が見えた。
「お~い!何があったんだ?」
「なにしてる!!そこの君、早く隠れるんだ!!」
「へ?!」
「グリフォンだ!グリフォンが上空で獲物を狙っているんだよ!!」
「グリフォン?!」
デイビッドが空を見上げると、確かに、太陽を背に大きな猛禽類の翼の影が見える。
(グリフォンて……まさか…)
そこへ甲冑姿の団体が寄って来た。
「そこの自転車の…お…お前…まさかデイブか?!」
「もしかして、アールス?!」
「やっぱり!!何してんだこんな所で!?」
「この先の領地に用があって移動中、人が集まってるからなんかあったのかと思って…」
「わざわざ近づいて来たのか!?警戒旗揚げてんだろ!相変わらず無鉄砲だな!」
「この道はよく使うから気になってよ。」
デイビッドがアールスと呼んだ男は、かつてクロノスで共に学んだ戦友のひとりだ。
8年前にクロノス部隊に同行したデイビッドとほぼ同時に入った2つ年上の隊員で、右も左もわからない者同士、先輩達に揉まれる中で気が合った仲間だった。
「お前あれが見えないのか!?グリフォンが谷間の群れから外れてこっちまで飛んで来てるんだよ!俺達はショーン伯爵領の依頼を受けて、ここまではぐれグリフォンを追って来たんだ!」
「ん?追って来た…って事は、新しく来たヤツなのか?」
「何を追って来たのかはわからんが、グリフォンが住み慣れた魔素地から離れるなんてまずあり得ない!何か異常個体なんじゃないかと思われるって…」
「あれ…もしかして、雄?」
「よく分かったな。俺達は途中でかなり近くまで寄ったから確認できた。かなり大きい雄の個体だよ。」
(もしかして…)
デイビッドは大急ぎで来た道を戻った。
「悪い!話は後でさせてくれ!」
「おい!1人で行くな、狙われるぞ?!」
「大丈夫!こっちにも策はある!」
全力で自転車を飛ばし、草地を抜けると妖精達が道を通してくれる。
畑を横切りマロニエの直ぐ横に自転車を乗り捨てると、森に向かって走りながら指笛を吹いた。
〈ピュィーーーーッ〉
「キューールルルル!!」
すると直ぐに見慣れた相棒が飛びついて来た。
「ファルコ!」
「キュルルル!!」
「頼む、俺を空に連れてってくれ!」
「キュピィー!」
鞍もない裸馬の背。頼みの綱は鑑札用に首に掛けた縄一本。
意を決して跨り空へ向かう。
(ベルトも留め具も鐙も無し…やるしかねぇか…)
いつ落ちてもおかしくない危険な曲乗り状態で、デイビッドは雄のグリフォンを追って、ファルコと共に雲の上を目指した。
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。
とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。