黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地改革編

クロノス部隊

空の覇者グリフォン達は、繁殖期に伴い群れを作り、番と共に巣作りに勤しみ、やがて雌が卵を産む。
雛が孵るまでは交代で卵を温め、卵にヒビが入ると雌がそこから巣に張り付いて卵を守り、更に半月近く掛けて産まれた雛の世話をする。これを毎年同じ番と共に繰り返すのだ。
このグリフォンも他の仲間同様、数年連れ添った番と共にいつもと同じ岩場に巣を作っていた。

そう、同じ場所であるからこそ罠も張りやすい。
崖沿いの岩場に巣を作っていたグリフォンを狙い、冬の間に岩を削り道を作って、卵が生まれる時期を盗賊達は今か今かと待ち構えていた。
そして産卵後の雌の体力が落ち、雄が餌を獲りに行く隙を突いて周囲にギーブルの群れを放ち、雌が巣から僅か離れた瞬間、卵を根こそぎ奪い去った。

気がついたグリフォンは必死で卵を追いかけた。
夜も昼も魔力の残渣を探り、遂に人間の乗った動く箱の中に大切な卵を見つけ、奪い返すため襲い掛かった。
しかし、あまり乱暴にすると卵が割れてしまう。
引き離されないよう張り付いて、獲物が疲れて動けなくなるまで追い詰めようと、滅多に飛ばない平野を突き進み、人間が多くいる所へ入り込まれる前に、何とかして卵を取り戻したかった。

結局、卵を盗んだ人間には逃げられてしまったが、劣等種ヒポグリフを連れた人間の手助けもあり、卵は無事戻って来た。
ひとつは失ってしまったが、元々無事に生まれるのは5つ4つの内2つか3つ、致し方ないと諦めた。
平地での巣作りは難しかったが、魔物が手助けしてくれたおかげで、3羽の雛が孵った。
残ったヒポグリフも甲斐甲斐しく手伝いをしてくれるので、巣を離れることなく子育てにも専念でき、もう直ぐ雛も飛べるようになる。
やっと住み慣れた土地に帰れると、この雌グリフォンは安堵していた。


卵を取り戻した雌の方はそれで良かっただろう。
問題は残された雄グリフォンの方だ。

餌を狩って戻って来たら、巣は荒らされ、卵は無く、番も行方不明…
半狂乱になり日夜周辺を隈無く探し周り、微かに残っていた魔力を辿って人里近くまで降りた所で、人間達の目に止まってしまい、追っ手をつけられた。
こちらに手出しをして来なければどうでも良いが、もし番や卵を取り返す邪魔をしようものなら肉片にしてやろうと思っていたら、今度は視界にヒョロヒョロ飛び回る鬱陶しい劣等種ヒポグリフが現れた。
背中に情けなくしがみついた人間が、こちらに向かって何かを振っている。

それは、ここまで探し求めて来た、番の羽に間違いなかった。


「うおおっ!こっちに気が付いた!!死ぬ気で逃げろファルコ!!」
「キュピィーーッ!!」

「ギィェェッッ!!」

恐ろしい咆哮と共に雄のグリフォンが迫って来る気配が、背中から覆いかぶさるように強くなっていく。

「キュピィーーーッ!キュピピィーーーッ!!」
「キィィィッ!」
「ぃよっしゃ!こっちも気づいた!下がれファルコ!」

ファルコが必死に呼びかけると、鋭い爪の攻撃範囲に入るギリギリで、下方の森からもグリフォンの声が聞こえた。
その一声を合図に、雄のグリフォンの視界からファルコがひらりと旋回し平野側へ逃げる。

追って来た雄グリフォンもその声に気が付き、ファルコを追うのを止めた。
森の中から飛び上がって来たのは、雄の巨鳥の更に一回り大きな雌のグリフォン。
探し求めていた番が現れたことで、雄は戦意を失い、一目散に雌の元へ飛んで行った。
巨大な影が空中で再会を喜び、まるでダンスでもするようにくるくる回りながら無事を確かめ合っている。

「あ゙ー…流石に死ぬかと思ったな…」
「ピーヒョロロ…」

強大な魔物を前に、ちっぽけなヒポグリフと無力な人間は、草地にひっくり返り、互いに命があったことを喜んでいた。


その一部始終を見ていたクロノス隊は、グリフォンの前に飛び出して来たヒポグリフを見て大騒ぎしていた。

「なんだありゃ!?ヒポグリフ?人が乗ってるぞ?!」
「あれは…まさかデイブ!?」
「ええ?さっきの黒髪の人?」
「誰なんですか副隊長?」
「お前達は知らないよな。アイツは俺が新人の時に少しの間だけ居た元隊員なんだ。」
「ヒポグリフに乗ってましたよ!?」
「なんだかよく分からないが…アイツも強くなったんだなぁ…」

やがて更にもう1羽飛び出して来たグリフォンに驚いたが、その様子から番であることがすぐにわかり、雄グリフォンが群れを離れた理由もはっきりした事で全員が胸を撫で下ろした。

王都入りを引き留めていた馬車の一団を王都の門まで連れて行くと、直ぐグリフォンを探した。
しかし、あれだけ大きな魔物の姿がふつりと姿を消し、探査魔法にすら掛からない。

「飛んで逃げたとか?」
「いや、空はずっと警戒していた。どこか隠れる場所があるのやも知れない…」

そこへ呑気な声が近づいて来た。

「お~~い!もう大丈夫だ!グリフォンはこっちに来ねぇよ。」
「デイブ!お前あんな無茶するなんて、命知らずな奴め!隊長が知ったら大目玉だぞ?!」
「もう隊員じゃねぇんだ。こっちはこっちの事情で動いてるんだよ。にしても懐かしいなぁ、そういや隊長はまだいるのか?」
「あの時の隊長は去年引退して、エルピスで楽しくやってるよ。今はあの時の副隊長が隊長だ。で、俺が副隊長!」
「へぇ、出世したんだな!」

再会を喜びあっていると、大剣を携えた背の高い男が近づいて来た。

「アールス、この者は?」
「かつての隊員です。隊長もご存知のはずですよ?!」
「だが、今は部外者だろう?先程のグリフォンどこへ行ったか、案内してもらおう。」
「危険はないんですがね…」
「その判断を下すのは我々だ 家畜化された魔物を手懐けた程度で、思い上がるものではないぞ?!」

男の言い方は刺々しいが、デイビッドは気にも止めず話を続けた。

「俺の領内に雌が来てるんです。滅多に外には出ませんし、今までも被害は無かったので…」
「今までだと?!今までも人々を危険に晒していたというのか!?危険な魔物を領内に囲って、貴様、何が目的だ!!」
「そこまで言うなら、見に来ます?遠目な見るだけならそこまで危なくはないんで」
「グリフォンだぞ!?人も襲う獰猛な魔物ではないか!」
「俺の領なら魔素量も申し分ないし、餌も豊富で外には出ない。もいるしな。ついて来な、案内するからよ。」

デイビッドが歩き出すと、上空からファルコも飛んで来た。

「キュルルルル…」
「すごいな、お前ヒポグリフ隊の騎乗隊員になったのか!?」
「いいや?コイツはちょっとした縁があって、俺が個人的に世話してる単騎だよ。」
「単騎のヒポグリフなんて見たことねぇよ!お前スゲェな!?」

クロノス隊の3分の1の人数を連れたデイビッドは、草地の中を進み、遂に自領に入って行った。

「そういや、ここってどこの領地なんだ?」
「どこってこたねぇな。俺が個人的に買い取った他領の切れっ端だよ。」
「お前、そんな金持ちだったのか!?」
「押し付けられて仕方なくだよ。」
「人が全然いねぇな。」
「まだ開拓も進んでねぇし、これからだからな。」

やがて、一行は森に置かれた巨大な巣の中で、仲睦まじく寄り添い合い、雛の世話をするグリフォンの番を見つけた。

「静かに!これ以上は近づくなよ?俺も反感は買いたくない。」
「うわ!本当にグリフォンだ!」
「雛まで育ってる!スゲェ初めて見た!」
「こんな森の中で営巣するグリフォンなどいるのか?」
「密猟者に卵を盗られて追って来たのを、なんとかここに誘導したんだ。これ以上は手出しもできないし、精一杯やったつもりだよ。」

雄が戻った事で、これ以上近くへは寄らない方がよいと、一行はその場を離れ、残りの隊員の待つ街道まで戻って行った。

「キュルルゥ…」
「なんか…コイツ元気ないな?」
「う~ん…たぶん、失恋かな…?」
「失恋!?」
「こっちに来たグリフォンの雌に惚れ込んで、番の不在中にずっと子育ての手助けしてたんだ。」
「あーあ…そりゃ無理だ。相手が悪い。」

乗り捨てた自転車を回収し、再び街道へ戻る。

「なぁ!これからどうするつもりなんだ!?グリフォンなんて領地に居たら誰も近づけないぞ?」
「子育てが一段落したら帰るだろ。雛ももう羽も生え揃ってて、そろそろ長時間の飛行にも耐えられる頃だ。大丈夫だよ。」
「そんなん聞いたら隊長驚くだろうなぁ…」
「そういや今の隊長って誰なんだ?あの時の副隊長だと、フォルさんかコルルさん?」
「コルルさんは嫁さんもらって他所に移った。今はフォルスターさんが隊長だ。」
「あの人なら安心だな。強いし、面倒見もいいし、ちょっと抜けてるとこもあるけど…」
「誰が抜けてるって!?」

驚いて振り向くと、腕組みをした背の高い赤髪の男が立っていた。

「フォルさん!?」
「久しぶりだなデイブ!なんだ、お前少しも痩せてないじゃないか!?」
「イテテッ!もうそういうのいらねぇよ!成人してんだこっちも!」
「相変わらず口の悪いヤツめ!デカくなったのは図体だけか?」

頭をぐしゃぐしゃに撫で回されたデイビッドが、逃げようとすると、8年前にもいたメンバーが寄って来た。

「あ!ホントにデイブだ!」
「可愛げがなくなったなぁ!目つき更に悪くなってやんの!」
「チビなのは変わんねぇな!でもたくましくなった感じ?」
「あの時はガキだったもんな!」

乱暴に揉みくちゃにされながら、それでもデイビッドは少し嬉しそうにしていた。

「さて、グリフォンの脅威が無いことはわかったが、我々には群れに帰るまで見届ける義務がある。しばらく郊外の周辺に滞在させてもらうことになるが…」
「だったら宿は任せてくれよ。グロッグマン商会でやってるとこならいくら使ってくれても構わないからさ!」
「へぇ~、どっかの貴族の生まれだったって聞いてたけど、お前グロッグマンとこの息子だったのか!どうりで頭がいいと思った。」
「いや、俺はデュロックだよ。言わなかったっけか?」

その一言で、その場の全員がデイビッドに視線を向けて固まった。
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