黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地改革編

影の功労者

キリフの王太子イェルハルドは、過去の出来事もあり、デイビッドに婚約者ができた事を心から喜んでいた。

「この度の魔道具の開発も、元をたどればデイビッド殿の力添えに寄るものとお聞きしている。貴殿にも改めて礼を言いたい。」
「こっちはもう充分だ。王家優先の魔石を融通してもらっただけでも御の字だよ。それに、今後の儲けを考えりゃそれだけで一財産築けちまう。過分な利益は追わないに越したことねぇしな。あとは気持ちだけ貰っとく。」

この度、キリフ産の“王家の碧”と呼ばれる魔石と、希少な魔石化したベリル鉱石を入手するため、デイビッドはシャーリーンを通じてキリフ国に都合がつかないかと打診をしていた。
デイビッド自身は無理を言ったつもりであったが、キリフではようやく恩人の要望に応えられると喜び、鉱脈の一部を譲ろうとして固辞されるというプチ騒動も起きたが、無事希望のサイズまで削られた魔石が手に入り一安心となった。

[デイビッド殿はもっと貪欲になるべきだ!]
「既に計り知れねぇ程欲深い人間だよ、俺は。これ以上は抱え切れねぇよ。」
[本当に…なんと懐の深いお方だろうな…]

穏やかなやり取りをするキリフとの画面の横から、ゲラゲラと大笑いするサラム達の声が聞こえ、デイビッドとイェルハルドは思わず苦笑いした。


[で?!マジで気づかないまま男に惚れてたってのか?!]
[ああ、一時は部屋中に肖像画が飾られていて、正気の沙汰ではなかったな!]
「そんなに!?]
[勢いで画家集めて20枚くらい描かせていたな。どうだ、最高に気持ち悪いだろ?!]
[ギャハハハ!気持ち悪ぃー!!]
[ヤメろレア!これ以上は私の立場がなくなる!]
[良いではないか!お望み通り相手のは伏せてやっただろう?はな!]

相手デイビッドの名前だけ伏せた所で、男を女と間違えて懸想し、逃げられた挙句拗らせて想像の絵姿相手に仮想恋愛に溺れていたと言う事実は消えない。

[頼むから忘れてくれ!もう絵も書籍もほとんど燃やして記憶も封印しようとしてたところなんだ!]
[待て、書籍ってなんだ?]
「それは知らなかった…兄上…まさか現実が無理だからって物語の中で結ばれようとしてたの?」

[「気持ち悪ぅ…」]

[あ゙あぁぁぁぁっ!!!]

いらん事を口走り、更にドツボにハマって絶望するブルータスを、冷ややかに哀れむ視線が画面越しに集まる。


「ところで、ジャファルとカミール兄上は呼ばなかったのですか?」
[カミールは今隣国のハリスに視察に行っているんだ。奴隷騒動の後始末が終わって、ようやく国交も盛り返して来た所だからな。ジャファルはこんな素晴らしい道具があると知れば絶対オモチャにするだろうから外させた!]
「まぁ、便利を通り越して末恐ろしくはありますからね…」
[既に音声のみの機材を航路巡回船に取り付けて使用させているんだ!日に2回の定期連絡の他、外海の天気や船の状態や船員の異常など、なんでも報告させている。航海中これほど心強い物はないと船員達にも好評だ!]
[キリフでも山岳地帯は道が悪く、情報が分断しやすいので重宝しております。そうでしょう、お兄様。]
[その通り!先日商隊に持たせてみたところ、夏の日差しで溶けた根雪が地滑りを起こしたと直ぐに連絡が入り、幾人もの命が救われた!たった一報の知らせを命懸けて運び、道の半ばで果てる者もこれで居なくなる!これは我が国の歴史を変える革命だ!]


画面越しに会話は進み、遠方の友人とまるで隣で話をしているような気さえして来る。

[よぉ~し!ここらでひとつ景気付けに、この場全員の友好を表して乾杯といこうか!]
[うむ!新しき時代は此処に集う君主と、それを支える我等が切開こうぞ!]

[素晴らしき魔道具とその開発者達に!]
[民の幸福と更なる発展に!]
[4国の和平と、映えある未来に!]
[我等の悠久の友情に!]

[ 乾杯!!!! ]

いつの間にか酒を手にしたアザーレアとサラムに続き、紅茶や果実水を掲げた各国の次代の担い手達が各々のをカップやグラスを飲み干した。


[エリザベス殿!貴女には是非とも一度エルムへお越し頂きたい!!魔術大国でも叶わなかった通信の魔道具の作り手として歓迎致します!]
「そんな、私なんてまだ見習いなのに…」
[ならばこそ、新たな学びも必要かと!]
[アデラにも来て欲しいなぁ!こっちは国力じゃまだまだ他国に追い付けない。指南役として是非とも欲しい!シェルリアーナもどうだ?魔術師なら大歓迎だぞ?!]
「大変有り難いお誘いではありますが、婚約したばかりですので、しばらくは国に留まって夫となる方を支えたいと思っておりますので。」
[誰だ?こんな超絶才色兼備の完璧令嬢と婚約できた幸せ者は!]
「はい、僕です。」
「「えっ!!エリック先生が!?」」

驚くディアナとセルジオがエリックを見た。

「すっかり部外者扱いですが、いましたよ?始めから。」
[それは知りませんでした!おめでとうございますエリック様、心からお祝いしますわ!]
「ありがとうございますシャーリーン殿下。」
[と、言う事は…なるほど、あの魔石はお2人のためでしたか!]

深い青と明るい碧の瞳を見て、シャーリーンは直ぐに気がついたようだ。

[やはり鉱脈か、さもなくば採掘権でもお持ちになればよろしいのに。]
「維持も管理も手間だからいい。」

(本気で王族に頭下げて譲って貰ったのかこの人…)
(魔石ってなんの話?あとで聞かせなさい!?)
(あーあ…バレちゃった…)

いつの間にか隣り合って座るエリックとシェルリアーナを、セルジオが羨ましげに見ていた。


[時にヴィオラ、その後デイビッドとはどうだ?少しは進展したか?]
「あ、あの!先日公共のダンスホールで踊って頂きました!」
[なんと!それは良かったな!?私も扱いた甲斐があった!エルムでは曲の終わりにはキスする者が多いが…]
「ラムダじゃしねぇのが普通なんだよ!踊ったのも普通のワルツだ!」

「えーっ先生のダンス見たかった!」
「なによ!私を除け者にしたの?!」
「出先で偶然行き会ったんだよ!いいだろ人が何してようと!」
「カッコよかったですよデイビッド様!大勢の中で私だけ見つめてくれてるのが嬉しくて!リフトの滞空時間も長くってドキドキしました!」

[ヘタレが良く頑張ったもんだな。]
[ああ、壁と一体化するのが特技だと思っていたが、だいぶ成長したな。]
[次は是非、王家主催の夜会でも一曲どうぞ!]
「あら、素敵ですね!好きな音楽がありましたらお聞かせ下さいな!」
「…うるせぇなぁ…」

直ぐに否定しない辺り、機会を伺ってはいるようだ。
からかいの的になったデイビッドは、そのまま顔を背けてしまった。
ヴィオラは、デイビッドがいずれは知り合い達の前でも踊る覚悟をしていることを知り、顔を真っ赤にして照れていた。


[そうか…本当にデイビッド殿にも婚約者が…]
「この歳にもなりゃいて当たり前だろ?!」
[そうだ!以前相談しようと思って時間が取れず言い出した切りになっていたが、ディアナはどうだ?我が国に嫁ぐ気はないか?]
「え?まさかセルジオ殿にですか?!」
[いいや、この愚兄に!]
「無理です!まず国力差があり過ぎるのと、野放図に育った私では帝国の王妃教育に耐えられません。その覚悟も無く、いきなり年上のそれも王太子に嫁ぐなど、あまりにも無責任ではありませんか!?」
[そうか…ディアナならば肖像画の女性とも似ているかと思ったのだがな…]
「私はアデラのおおらかな暮らしの方が向いていますから。」
[だそうだ、振られたな異母兄上!]
[勝手に言い出して振られた体を作るな!それにディアナ姫とジュディでは顔の系統は似てはいるが全くちが…]
[名前つけてたんだ…]
「気持ち悪ぅ…」
[あ゙ぁ゙ぁぁぁっ!!!]

この帝国の王太子、アザーレアにいじり倒され恥を晒しているが、ワケのわからん拗らせ恋愛が絡まなければかなりの切れ者で、広大なエルム帝国を支える要となるに足る聡明な王子として有名らしい。
しかし、何か可哀想に見えて来る。


やがて、サラムが飲みすぎて一番に潰れ、シャーリーンが代わって1人で画面に映った。

[デイビッド様、アデラ国と祖国の長きの悩みであった大きな課題を解消して頂き、誠にありがとうございました。]
「そういうのはいいよ。こっちも商売の延長だったわけだしな。」
[国土の広いエルムでも、これさえあればいちいち会談の度に諸国から人を集める必要も無い!調査や連絡に時間ばかり食ってとにかく議題が進まないという難儀もしなくて済む!]
[何より同盟国同士のやり取りが手紙ではなく一瞬で片付いてしまう!]
「その代わり誓約通り、軍事での使用はまだ控えてくれ。市井に広まって、各国の誰もが気軽に使えるようになって初めて降ろす予定でいるからな。」
[そのための模倣防止と軍備魔道具との反発性か…]

軍備品に使われる中でも、攻撃用の魔道具には特殊な安全装置が取り付けられている。
この通信具はそれらの魔道具から出される魔力波の横では、上手く使えないよう絶妙な設計がされており、軍事には不向きにできている。
デイビッドが特にこだわった部分でもあり、エリザベスが最も苦心した細工でもある。
これで当面は軍事関係の場所での使用は制限され、手に入れられても役には立たない。

[軍の強化が国力に繋がるのではないのか…]
「軍が国の災時にも動くなら多少は違ったな。だが残念ながらどの国の国軍も軍事家系も災害時には動かねぇ上に、いつでも戦争がしたいトコがほとんどだ。一番金が動くのは国同士の争いだからな。そんなもんに加担はしたくない。」
[確かに、エルムの中には内乱の収まらぬ土地もあるからなぁ…]
[国と人の繋がりを太くし、密なやり取りを可能にする事で、先々に起こり得る不和や諍いを話し合いで解消してしまおうと言うことか!]


通話の魔道具と共に広まったデイビッドの存在が、死の商人ならぬ“命の商人”と呼ばれるようになったのは、その直ぐ後のことだった。
感想 5

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