黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地改革編

本気の会計係り

[それではアリスティア様ご機嫌よう!シェル様もリズ様もまたお話しましょう?ヴィオラ様、今後も貴国の進展を楽しみにしておりますわ!]

酔ったサラムの介抱のため、先に通信が切れたのはシャーリーンだった。

[むう…まだまだ話し足りないが…これ以上は宰相がうるさくなりそうだ…すまない、また近く連絡させてくれ!]

イェルハルドも仕事に追われて戻って行く。

[ヴィオラァァーー!次は必ず会いに行くぞ!?楽しみにしててくれ!]
[今日は本当にありがとう!できれば歴史に残る様な会談にしたかったが…この次は私もラムダへ赴こう!名残惜しいが、さらばだ!]

そしてエルムの通信が切れると、部屋の中にはラムダの顔触れのみとなった。

「はぁ…緊張したぁ!でも、大成功だったよね?!」
「そうね、いかがでしたかアリスティア姫殿下。」
「エリザベス様、シェルリアーナ様、お2人のお陰で同盟国の窓口は更に広く近くなりました。なんとお礼を申し上げればよいでしょう!」
「そうとも、2人には私から特別に地位と栄誉を授けたい。肩書が邪魔と言う奴もいるが、持っているだけなら嵩張りもしないだろう?楽しみにしていてくれ!」
「「ありがとうございます、殿下。」」

こうしてエリザベスとシェルリアーナが他国の王太子から受けた依頼は無事成功を納め、やっと一息吐くことができる。


「はぁ…我が国の兄姉が申し訳ない…」
「ウチのもかなり騒がしかったし、そこはお互い様だな。」

セルジオとディアナ弟妹組も、恥を上塗る兄姉の存在に辟易しながら帰り支度を始めた。

「デビィ!良かったよぉ!無事に終わって良かった!不具合もなかったし、他の魔道具も役に立ってるって!!嬉しいよぉ!」
「大変なのはこれからもだぞ?世紀の大発明家の魔道具師なんて呼ばれて、引っ張りダコかもな。」
「私は何があってもグロッグマンの工房に居るからね!」
「それでも、気になるトコがありゃ見学でも勉強にでも、いくらでも行けばいい。」
「出た!デビィの甘やかしい!」

エリザベスはこの会談が自分の作った魔道具を通じて成功した事を何より誇りに思っていた。
しかし、それが自分1人の力では成し遂げられなかったこともよく理解している。
この成功はただの好機。自身の精進はこれからも怠るまいと心に刻みながら、今しばらくは何もしたくない気持ちでいっぱいだった。


「今日は付き合わせて悪かった。大丈夫かヴィオラ?」
「はいっ!皆様とお話できて嬉しかったです!王太子様に王女様に…こんな方々に個々からお呼ばれするなんて、改めて私すごい人と婚約したんだなぁって思いました…」
「すごいのはリズとシェルであって、俺はただラッキーだっただけ。今日も呼ばれたから来ただけだ。用も済んだし帰るぞ。」

今日デイビッドとヴィオラが城に呼ばれたのは、各国の王太子たっての希望があったからだ。
学園へ戻るデイビッド達を見送るアーネストは、束の間の穏やかな時間が終わる事を惜しんでいた。

「行ってしまったな…明日にはアリスも学園へ戻るのか。また僕ひとりだ…」
「大丈夫ですお兄様。今後は何かあれば直ぐにお話ができるようになりましたもの!これで私も学園にいながら政務のお手伝いができます!」
「頼もしいな…ところで、僕は何か重大な情報を聞き流してしまったような気がしてならないんだ…」
「まぁ、せっかくの宣誓でしたのに!」
「そこじゃない!もっと前に…他のことに気を取られて後回しにしたまま忘れてしまったんだ…なんだったかな…?」

さて、アーネストは何を忘れたのだろうか…



次の日は朝から大雨のち雷の荒れ放題な天気だった。

憂鬱を絵に描いたような生徒達の顔が講堂に並び、学園長の話を聞いている。


「2学期は学業に加え、芸術祭への取り組みもある。皆、大いに励むように!」

長い話を聞いてから、各々教室へ向かう。
2年の2学期は主に1学期に受けた授業の応用となるため、特待生組の授業は更に難しくなる。
その上芸術祭にまで参加せねばならないので本当に大変だ。

「今年は何しよう…」
「去年は残念だったもんね。」
「舞台はもうこりごりよ!」
「ミランダはもう絵を描き始めてるそうよ?」
「ローラは詩の創作と朗読でいくらしいわ。」
「アニスは夢のドレスを1人で作るんですってね。」
「ええ!師匠を超える斬新なデザインで作ってやるわ!」
「私達、何しよう…」

残った3人は途方に暮れながら、新しい教科書を抱いて次の授業へ向かって行った。


「デイビッド殿!よく来て下された!」
「サイモン先生、今日からよろしくお願いします。」

毎年この時期には、資料室の一角に芸術祭の運営本部が作られる。
出し物や製作の相談や、備品の購入について毎日の様に生徒が要望書を出しに来るため中々忙しい。
デイビッドは明日からここで商業科の学科長サイモンと、会計の仕事を任される事になっている。

「去年も思ったんですけど、予算案て雛形とかないんですか?」
「うーむ…確かに、書き方を統一しているだけでそういった物はなかったな…」
「要は購入品の使用目的と予算と実際の購入額と、購入先と学園の負担分が分かればいいんですよね?」

まずは学業外のサークルや顧問付きの学生活動が、各々に割り振られた予算案を提出に来る。
追加購入品についてはその都度承認が必要なので、会計側も生徒側も中々面倒だ。
デイビッドは手元の雑紙にサラサラと何かを書き出した。

「ちょっと考えたのが、こんな感じで簡略化して、印刷してしまえばいいのでは?」
「どれどれ…おお!これなら明確でわかりやすく、何より確認が早く済む!」
「何をどこにどう書けばいいのかした示した方が間違いも減りますし、読む側も同じ規格で来た方が見る方も楽でしょう?」
「よし!これを大量に刷って教員達へ配ろう!」

走り書きのメモを清書し、自動の活版印刷機に通すと、直ぐに魔道具が作動して用紙が何枚も作られる。
教員室で配ったところ、毎年予算案に泣かされていた教員達は皆喜んで受け取ってくれた。


その後も2人は、昼休みの終わりには必ずここへ詰めるようになった。

「サイモン先生!こちらなのですが、ここ数年の予算案から、各部門で必ず購入される物品を確認しておいたので、先に学園側でまとめて購入してはどうでしょう?画材や紙類布類は大量購入の方が値段が下がることが多いですし、それぞれが購入して中途半端に余らせるより、必要分持ち出してもらう方が余分を他に回せるのではないかと…」
「なるほど…自分がどれほど頭の固い年寄りであったか実感致した…」
「そんな!サイモン先生は昨年は貴族家系の教員や生徒を相手に大変だったじゃないですか!今年はできるだけ楽にやりましょう。そのためのお手伝いならいくらでもしますから!」

サイモンは、この時始めてデイビッドの真の恐ろしさを知った。
味方になった瞬間、心強いどころではない。知識と能力も然ることながら、言葉のひとつひとつに思いやりがあり、包容力が違う。
なんの憂いもなく安心して仕事を任せられ、かつその結果も大いに期待できる大物だ。

しかし未来有望な若者に対し、ライバル意識が生まれたのも事実。
サイモンは大人の余裕を見せつけるように、自分の鞄から四角い木枠に玉を綴った道具を取り出し、指で弾いた。
それを見たデイビッドは嬉しそうにサイモンの手元を覗き込んだ。

「あ、算盤アバカス!先生お使いになられるんですね!」
「む?と、言うとデイビッド殿も?」
「商会の会頭が愛用してて覚えました。店の方じゃ五目玉って呼んでて、みんなこれで計算するんです。便利ですよね!」
「これを使う若者がいるとは思わなかった!私もこれには少々自信がありましてな。」
「羨ましい、俺が使うと手と目が揃わないことも多くて苦戦します。」

算盤アバカスは古い計算機のひとつで、いくつかの窓に分けられた木枠の中に細い棒を差し込み、平たく削られた木の玉を通した物だ。
これを決められた法則の通りに弾いていくと、計算ができる仕組みになっている。
デイビッドは自分も算盤を取り出すと、楽器でも奏でる様に軽快に玉を弾き、あっという間に手元の計算を終わらせてしまった。

「随分手慣れているようだが…」
「会頭はこの倍の速さで玉を弾くんです。俺なんてまだまだ…」

まだまだ、と言うデイビッドはほとんど自分の手元を見ていない。
ピアニストが鍵盤を見ずに演奏するのと同じく、デイビッドには手元がどうなっているのか分かっているのだろう。


サイモンが悔しさに口をすぼめていると、1人目の予算案提出者が現れた。

「えーと…フルートの愛好会か…うん、メンテナンス道具の消耗品に、外部から呼ぶ指導者への授業料と謝礼品の代金、確か学園で保管してたオイルが酸化して使えなくなってたんだってな。オイルはアーモンドとピーナッツどっちを?」
「え?ア、アーモンドで…」
「フルートのランクは?」
「純銀製の物と…一部銀製の物が…」
「なら研磨剤の質はもう少し上げた方がいいな。ここはこう書き直して…これでいいか。どうです?サイモン先生。」
「うむ…なるほど、これなら無駄もなく数字だけを追えるので処理も早く終わりますな!」
「領収書は捨てないように。物品の購入後にこれと合わせて提出してくれ。それと、購入はなるべく顧問に任せるようにしてるから、もし支払いが難しい様なら予め相談して欲しい。あと、外部の依頼料は直接学園に回すこと。他に何か質問は?」 
「あ、い、いえ。ありません…」
「それじゃ学園長の承認が降り次第連絡が行くから、それまで待っててくれ。なんかあったら必ず相談しに来いよ?じゃぁな!」

3年生の貴族家の生徒だろう。
かなり緊張した様子で現れたが、例年の様に待たされることもなく、突き返されることもなく、すんなり予算が通った事に驚きながら部屋を出て行った。
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