黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地改革編

妖魔と特訓

エドワード曰く、元が健康を害するほど痩せていたので、喜ばしい変化ではあるそうだが、制服に二の腕も入らなくなったシェルリアーナにとっては大問題だ。

人任せではダメだと思い、痩せる食材を探している内にエリックに見つかり、気がつけば美容食のレクチャーを受け、一緒に買い物をしていた。
今度こそ痩せるためにシェルリアーナも本気で生活習慣を変えるつもりらしい。

「痩せるにはバランスの良い食事が一番良いんです。その点デイビッド様の食事は完璧ですよ?実際、ここで毎日食事しているヴィオラ様もライラも健康そのものでしょう?」
「嫌味!?その倍食べてるアンタが太らないなんて納得できないのよ!!」
「体質もありますし、僕の場合はしっかり消費もしてるんですよ。」
「どんな!?」
「ルーチェが精霊に片足突っ込むほど成長してしまいまして、維持だけでかなり体力持ってかれるんです。仮契約は術者の一方通行なので、本人が渡してくれないと魔力が共有できないんですよ。」
「貴方達、まだ仮契約なの!?」
「元々デイビッド様が好きでついてきた妖精ですから、本気で気に入られたわけじゃないんですよね。」

どうやらエリックとルーチェの間にも課題は残っているようだ。


その夜、ライラが眠ると部屋の明かりを消し、デイビッド達は外に出た。

「半かけだけど、このくらい月が出てれば大丈夫。手ぇ出してみな?」
「また魔力流されるのか…?」
「心配すんなよ。反魔性質なのは知ってる。でもこれから俺が流すのは霊力って奴だ。」
「霊力…?」
「精霊や妖精が使う霊質を素にした魔力だよ。その身体に魔法薬は毒でも、霊薬は効いたろ?同じ原理だよ。」

デイビッドが両手を出すと、トムティットがその手から自身の霊力を流し始めた。

「わかる?カラダん中でナニかがグルグル回ってる感じ。」
「なんか…ジワジワ入って来る…」
「そうそう、それが俺達の魔力。気持ちよ…さげには見えないね!なんで?!人間の身体と俺達の魔力は相性いいハズなのに!」

辛そうに身体を強張らせるデイビッドを、ヴィオラが心配そうに見ていた。

「デイビッド様、苦しいんでしょうか?!」
「妖精の魔力は人間にとって癒しの力になるはずよ?これも体質なの?!」
「いや…あれは多分、恐怖の方が勝ってるんですよ。」
「恐怖…?」
「長く過酷な環境で暮らした人間は、体に触れる物を警戒するようになるんです。自分に向けられるもの全てに対し、いつ傷つけられても良いように臨戦態勢を崩さない。ましてや未知の感覚…要は防衛本能の過剰反応ですね。」
「戦時中の兵士みたいね。」
「心配です…」

トムティットは不安そうにデイビッドの顔を覗き込んだ。

「いいか?次はこの霊質を抜くぞ?」

体の中から何かがスルリと抜けていく。この水が流れる様な不思議な感覚を、デイビッドは感じたことがあった。

(あの時と同じだ……)
鹿角の白い精霊に出会い、触れられた時。体の中から何か重く淀んだモノが引きずり出され、清々しい気持ちになった。
(風が体の中を吹き抜けてく様な…)
イメージが掴めると、直ぐに身体が順応し、体の内側を駆け抜ける風の感覚を掴んだ。

「よし、その調子!今のは俺が入れた魔力をそのまま抜いただけ…次は自分でやってみな。」
「どうすりゃいい?!」
「肩の力を抜くように、身体の中で渦巻いてる霊質をスーッと外に吐き出しちまえばいいんだよ。」

その瞬間、デイビッドは自分の身体がふっと軽くなるような感覚を掴んだ。

「そうそうそう!これが霊質の受け渡しだ。今の感じを忘れるなよ?!霊質は常に循環してる。あとは出口をつけて相手に渡せばいい。今はそれが精一杯だろうけど、繰り返してる内に意識せずともできるようになるからよ。」
「…わかった…」

肩で息をするデイビッドは、辛そうな見た目に反して顔色は良く苦しむ様子もない。

「デイビッド様!大丈夫ですか?!気分悪くないですか?」
「あ、あぁ…大丈夫…」
「お嬢ちゃんもやってみる?ほら、こんな感じ。」

トムティットは気軽にヴィオラの手に触れ、デイビッドにしたのと同じ事をしてみせた。

「わぁぁっ!なにこれ!すごい!体の中スゥーッとして~~!!」
「んね?これが正しい反応よ?」
「うるっせぇな…どうせ俺は出来損ないだよ!」

デイビッドの“指導”が終わったところで、今度はエリックがルーチェと向き合った。

「エリク ホントにやるの?」
「そのあざとい演技も僕の影響なんですかね?始めの頃は本当に可愛らしかったのに、すっかり生意気で猫被りな性格が板についちゃって…可哀想に。」

ルーチェは、デイビッドについて来た先で、シェルリアーナに恋をした妖精だ。
彼女の前でだけは幼く無垢で無知な振りをする。

「えんぎなんてしてないよ…」
「あら、いいじゃない。可愛くあろうとしてくれるのは嬉しいことよ?でも、私の前では無理に取り繕わなくたっていいのに。どんな貴方でも充分可愛くて素敵よ?」
「シェルリィ…知ってたの…?」
「お忘れかしら?私、こう見えて魔女なのよ。妖精だろうと妖魔だろうと心の内はの。」
「チェッ…始めっからお見通しかぁ…」

改めて素で話すルーチェに、シェルリアーナは優しく寄り添った。

「そうね、始めからずっと気になっていたのよ?なんてかわいい妖精と仲良くしてるのかしらって、エリックが羨ましかったわ。お話してくれたときは本当に嬉しかった!」
「ホント…?」
「もちろん!できればこの先も仲良くして欲しいと思ってるのよ?」
「僕…シェルリィと契約したかった…」
「ありがとう。でも私は貴方の契約者にはなってあげられないのよ。その代わり、エリックに力を貸してあげてくれるかしら?」
「酷いなぁ…僕からシェルリィを横取りした奴と契約しろって言うの?」
「あら、だって私魔女だもの。酷いことをするのは当然じゃない?」
「エリックと契約したら、シェルリィともずっと一緒にいられる?」
「もち…ろんよ!ずっと一緒にいる事になるわ。貴方が嫌だと言ってもね!」
「そう…だったらいいよ。でも今夜じゃないな。月光精の力は満月の夜に一番高まるんだ。次の満月に、必ず契約するよ。それまで待ってて。」
「ええ、お願いを聞いてくれて嬉しいわ。」

シェルリアーナに微笑まれたルーチェは、浮かれに浮かれて踊り出し、そこいら中に妖精の祝福をばら撒いて夜空へ飛んで行った。


(ずっと一緒にいてくれるんですか?)
(うるさいわね!アンタに言ったわけじゃないわよ!)
(でも、この前もサラム殿下に「夫を支える」なんて言ってくれましたし、少しは意識しても良いってことですよね?)
(少し黙んなさいよ!引っ叩くわよ!?)

相変わらずエリックに対してだけはカリカリしてしまうシェルリアーナを見て、ヴィオラは顔がニヤけるのを抑えるのに必死だった。



プップパプップー!プップパプップー!プーパプーパ!プップップッー!

「うるせぇーー!誰だライラにラッパなんか渡した奴は!!」
「アルテミシア様のプレゼントの中にあったのでは?」
「音が出る系は封印しといたハズなのに…見落としたか…?」

次の朝、ライラは目覚めるなりオモチャ箱から取り出したラッパをご機嫌に吹き鳴らしていた。

プップパプップープップップー
「これじゃ二度寝もできないや…」
プップープパプパプップパプー
「まぁ、迷惑する近所もねぇし、被害がこの部屋で済むならまだいい…」
プップープップープップップッー
「だぁー!プップカプップカうるせぇーー!!」
「じゃ、こうしましょ!」

エリックが指を鳴らすとライラの周りに防音壁が現れ、ラッパの音を閉じ込めた。
これでいくらライラがラッパを鳴らそうと音はしない。
ライラはそうとも知らずにラッパを吹き続けている様だ。

「静かにはなったけどよ、これじゃライラの声も聞こえねぇし、なんかあった時危ねぇよ。」
「優しいですねぇ…」

デイビッドがライラからラッパを回収し、人がいる所では吹かないよう注意する横で、エリックはトーストを半熟の茹で卵に浸して食べていた。


「僕はこの黄身と白身の境が曖昧なくらいトロトロなのが好きなんですけどね、シェリィは黄身が白身と分かれて食感が残る程度の固さがいいんですって。」
「あーそうかよ…」
「ついでに目玉焼きの半熟も、僕は黄身がこぼれるくらい柔らかいのが好みなんですけど、シェリィは黄身をかじった時に中身がこぼれ出す微妙な焼き加減がいいって…」
「俺にどうしろってんだ?」

下らない話をしていると、まずは身支度を整えたシェルリアーナが現れた。

「おはよう!あら、ヴィオラはまだなのね?」
「おはようございます。今日も素晴らしく輝いてますよ!?新しいデザインですね。ネイビーにゴールドのポイントが華やかで目を引きます。」
「お世辞はそのくらいにして下さる?あ、私はスープだけでいいわ。」
「せめて卵は食えよ。これ以上ない栄養素の入った完全食だ。痩せるにしたって体調を整えるためにも動物性の食材は必ず摂れ。」
「わ…わかったわよ…」

シェルリアーナが出された目玉焼きを大切に食べていると、次にヴィオラが顔を出した。

「デイビッド様ぁぁ!どうしましょう!今朝ドアのポストにこれが入ってて…」

ヴィオラが持ってきた手紙には、箔押しの小鳥と貴族の家紋の封蝋が押されている。

「開けてみたのか?」
「まだです!怖くて1人では開けられませんでした!」

ヴィオラが学園へ来て最初の一年は、世間からの醜聞と悪評に塗れていたため、手紙などイタズラ以外にはほとんど来なかった。
誤解が解け、王都の中を歩けるようになってからも、交流の誘いは学業を理由に断り続けて来た。
それも、これまでは断れる家からの誘いしか来なかったので安心していたら、まさかの格上の伯爵家からお誘いが掛かってしまい、慌てているようだ。
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