黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息の領地改革編

ルナリアとリナリア

紅茶を一口飲んで落ち着いた3人は、それぞれの感情を隠し、微笑み合った。

「ヴィオラ様、本日は私達の招きにお応え下さりありがとうございます。」
「あの…つかぬことをお聞きしますが…何故招待客に私をお選びになられたのでしょうか…?」

相手は格上のそれも特殊血統の伯爵家。令嬢の年は14歳。
家格も年頃も合わないヴィオラは、それが不思議でならなかった。

「実を申しますと、私達は余命僅かで儚くなる所を、デイビッド様にお救い頂いたのです。」
「そう、セオドア家はデイビッド様の深い慈悲と、広く澄んだお心に救われました。」

それを聞いてヴィオラはポカンとしてしまった。
(またどっかでなんかしたんだろうな…)
↑正解

「だというのに、世間ではせっかく誤解の解けかけたデイビッド様に対し、虚偽の醜聞と悪評を流そうとする始末。」
「ならば、真実を広めることだって許されるはずでしょう?私共は微力ながらデイビッド様のお力になりたいのです。」

話ながら、同時に同じ動きで紅茶を口にする2人に、ヴィオラは美しい人形に騙されているような気持ちになってしまった。

「ヴィオラ様をお呼びしたのは、私達が敵ではない事を示し、今後も仲良くして頂きたいが故…」
「そして、許されることであるならば、私達をヴィオラの派閥に加えて頂きたいが故でございます。」
「はばつ…?」
「学園では生徒同士派閥にくみし、互いの意見を述べ合うものとお聞きしております。」
「入学した暁には、是非とも私達をヴィオラ様の派閥でお使い下さい!」
「わたしの…はばつ…?!」

確かに、学園の中でも派閥争いの縮小版のようなものはあり、たくさんの派閥が誰かを中心にできては消えてを繰り返している。
クラスでは、アリスティアも王女として自身の派閥を持っていると話しており、チェルシーも商会関係者の集まるグループと仲良くしているそうだ。
ローラとミランダは学園内ではないが、書籍に関して話し合う愛好者と執筆者の集まりに参加していると聞く。
(はばつ…)
ではヴィオラは?

「あの…私は…自分の派閥とかは…その、なくてですね…」
「あら…」
「まぁ…」
「友人はたくさんおりますが、派閥というものを意識したことがなくて…仲良くしてく下さる方はいても、それを派閥と捉えた事はありませんでした…」
「そうだったのですね…申し訳ございません…」
「友人を作るにはまず派閥に入ることと、アカデミーで教わりましたので、ヴィオラ様も派閥をお持ちなのかと思ってしまいました…」
「友達って派閥とか関係無いとダメですか!?あ…でも高位貴族の方となると必要なお付き合いもあるのですよね…すみません、恥ずかしながら私は田舎育ちで、淑女教育も学園で受けるだけのつけ焼き刃…本物の貴族の方と肩を並べるのもおこがましく、見せかけだけなのです…」

うつむくヴィオラに、4本の手が差し伸べられ、顔を上げるとルビーの様な4つの瞳と目が合った。

「ヴィオラ様!私達はヴィオラ様とお友達になりたくてお招きしたのです!」
「派閥などと下らないことを言ってごめんなさい!ただヴィオラ様に仲良くして頂きたいだけなのです!」
「それは…私がデイビッド様の婚約者だからですか…?」
「ヴィオラ様を知るきっかけはそうでしたわ。」
「でも、調べる内にとても興味が湧きましたの!」
「真面目でひたむきで、なのにとても自由で柔軟な考えをお持ちの方であると!」
「可憐で清楚、しかし勇気があり、優しさに溢れたお方だと!」
「「ヴィオラ様は私達の憧れなのです!!」」
「ひぇぇ…」


“デイビッドの婚約者”の情報を集める内に、ヴィオラの過去の噂や悪評を削っていくと、とても魅力的な女性像が浮き彫りになり、ルナリアもリナリアも会ってみたくて仕方なくなったそうだ。

「遠回しな物言いをしてしまい申し訳ありません。」
「改めて、私達とお友達になって下さいませんか!?」
「「お願いします!!」」
「わ、私は、新しいお友達は大歓迎です!こちらこそよろしくお願いします!」

ヴィオラが椅子から立ち上がって頭を下げると、2人は頬に手を当てて喜んだ。

「やったわねリナ!」
「よかったわねルナ!」
「「よろしくお願いしますヴィオラ様!!」」
「は、はい!!」


空気が変わったところで、影のように現れたメイドが次のお菓子の支度を始める。
喜ぶ双子を前に、ヴィオラも緊張が解けてやっと人心地つくことができた。

「こちらは薄焼きのクッキーですのね。」
「こちらも手作りですの?」
「生地を混ぜるのを手伝わせて頂いたので、美味しくできているか分からないのですが…」
「まぁ!お2人で作ったクッキーですって!?」
「これは心して食べないとダメよ?!」

サクサクのクッキーを一口かじると、味と変わらずヴィオラは安心した。

(うん!大丈夫、デイビッド様が作ってくれるクッキーと同じ味だわ!丁寧に教わって良かった…)
チラッと双子の様子を伺うと、また人形の様に固まって動かない。
(大丈夫…よね?)


(この生地は、卵白と小麦粉を主体にしたミリオンでも人気のクッキー…)
(バターの風味と軽い食べ応え、そして何より夢の様に儚い歯ざわりが売りの薄焼きのチューイール…)
((これはその頂点!!))

感動に打ち震える双子は、皿の上のクッキー幸福があと何枚残っているか計算に忙しかった。

そこへ双人の兄が顔を出した。

「リナリア、ルナリア!お前達、やっぱり彼女を呼んだのか!?申し訳ないミス・ヴィオラ…特待生組の基調な休日を潰させてしまって…」
「そんなことありませんエドワード先輩!私も楽しんでおりますので!」
「すまないね、妹達は気になる事があると突っ走りがちなんだ。迷惑なら帰ってもいいんだよ?」
「なんてこと仰るのお兄様!」
「聞き捨てなりませんわお兄様!」
「「私達、楽しくお茶会しておりますのよ?!」」

怒った顔までそっくりの双子を見て、ヴィオラも遂にくすくす笑ってしまった。

「とても素敵な妹さん達ですね。今日は来て本当に良かったです。私とお友達になって下さったんですよ!?とても嬉しいです。」
「ヴィオラ様!そう言って頂けて光栄ですわ!」
「何よりも嬉しいお言葉ですわ!ヴィオラ様!」


その後も3人は時間の許す限りお喋りを楽しんだ。
とは言え、2人はデビュタント前なので自分達で開けるお茶会は昼間だけ。それも午前が午後どちらかのみが良いとされている。
昼を過ぎてのもてなしは、技量を磨くまでもう少しお預け。
ヴィオラは昼前に帰らねばならない。

「リナリア様、ルナリア様!本当に今日は楽しかったです!」
「またおいで下さいませヴィオラ様!」
「次はもっと楽しいお喋りをしましょう!」
「今度は他の家族がいる時においでよ。みんな出払ってる日を見計らうなんて、あとでバレたら兄さんも母さんもうるさいぞ?」
「ヴィオラ様を取られたくなかったんですもの!」
「絶対離してもらえなくなってしまいますもの!」
「やれやれ…」


賑やかなセオドア家を後にしたヴィオラは、生まれて初めての王都のお茶会(小規模)の成功にドキドキしながら帰って行った。



「今なんと仰いましたかな?デイビッド先生。」
「…ですから、俺はあと半月もせずに当主となるので、今年中に臨時教員の契約を入り上げたいと…」
「はて、年のせいか耳が遠くなりましてなぁ。」
「あの、学園長…?」

その頃、学園ではデイビッドが学園長に契約の打ち切りの話を切り出していた。

「流石に当主になって直ぐでは引き継ぐ物の確認や仕事も増えて、教員との両立は難しいと思われますので契約を終了させて頂きたくてですね?!」
「なんと…ではミス・ヴィオラを守る盾がこの学園から消えてしまうと言うことですかな!?」
「もうそんなんいらないでしょう?後ろ盾が王族集団の令嬢に俺なんか必要あります?!」
「あれだけ授業を楽しみにしている生徒達を、あっさり見限るおつもりですか?…嘆かわしい…」
「ワザとらしい!!」

何としても引き止めたい学園長 VS 取り合えずここらで区切りにしたいデイビッド。
2つの意見は決して交わることなく平行線に伸び続けている。

「何も授業ばかりが教員の仕事ではありますまい。」
「臨時講師の存在理由丸否定しないで下さいよ!」
「ならば週一、土曜の特別枠の授業のみの受け持ちでも構いませんので!」
「ならば尚更研究室などお借りして居座る訳にもいかないでしょう?」
「学園を通して功績を残して下さればなんの問題もござらぬが?」
「う~~~ん…えぇ~~と…」
「おお、そうじゃデイビッド先生!その話は少し置いておくとして、資格にご興味はありませんかな?」
「資格…?あの、なんの?」
「“第1級特殊魔法生物取扱”と“第1級特殊魔性植物取扱”の資格ですよ!」

アルフレッド学園長は、人の良さそうな、されど含みのある笑顔でデイビッドを見た。

「いや…それは…」
「確かデイビッド先生がお持ちの資格は特殊魔法生物の準1級と魔草関係は2級まででしたかと。聞けば貰い受けた領地が魔素化して魔物も出るとか。これらは魔素地を管理する領主には必須の資格!人を雇うより確実で処理の早さも段違いになりましょうなぁ?!」
「…そ、それは…」
「ちなみに、市井で取ろうとするには私的に講師を雇うか、自力で勉強するより他ござらぬが、学園ならば出題の傾向も過去の問題も手に入り放題!現3年生に希望者が数名おりまして、彼等と共に週に2回授業の枠を設けますので、よろしければ是非ご参加して頂きたくてですなぁ!」
「ぐっ………」
「そのついでに授業もして頂ければこちらとしてはなんの問題も無い訳でございますよ。なぁんの問題ものぉ!」

にこにこ顔の学園長を前に、デイビッドの決心は揺れに揺れていた。
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