黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
460 / 513
黒豚令息の領地改革編

怪鳥の帰還

翌朝、まだ日も昇り切らない早朝に、デイビッドは昨日用意しておいたゴンドラを久々にファルコに取り付け、操縦席に座ってペダルに足を掛けた。
ライラの世話をエリックとトムティットに任せ、まずは領地を目指す。

空のカゴを畑の脇に下ろすと、そろそろ芋が収穫の時期を迎えていた。
豆も熟したようで、カラカラになった茶色いサヤが一面に見えている。
グリフォンが去れば、また生徒を呼んで色々できるだろう。

デイビッドが森の方の様子を伺うと、既に雛達が巣から飛び出て駆け回っていた。
周囲の偵察に行っていた雄が戻ると、雛も雌のグリフォンも、バサバサと翼を広げ始めた。
いよいよ旅立つ時が来たようだ。

デイビッドは急いでファルコの元に戻ると、カゴを待機中のクロノスの拠点へ運んで行った。

「デイブ!なんだそのデカいカゴは!?」
「グリフォンの監視だろ?地上からじゃ見えてもどうせゴマ粒だ。せっかくだから近くで見届けてやろうぜ?!」
「まさか…乗って良いのか!?」
「速度も欲しいから軽い奴3人だけな。装備も外してなるべく荷物は馬車で運んでもらえ。」

デイビッドがそう言うと、一斉に乱闘騒ぎが始まった。

「俺が!」「俺だ!」「俺で!」「いや、俺が!!」
「うるせーー!アールスとフォル隊長!あと1人一番体重の軽いヤツにしろ!!」

次々除外されて、残った古参の小柄な隊員が1人選ばれガッツポーズで喜んでいた。

「こんなにチビで良かったと思ったことは無い!!」
「早く乗れ!もう飛ぶ頃だぞ!?」

3人を乗せたゴンドラが宙に浮かぶと、悔しそうな顔を上に向けた隊員達の姿が遠ざかる。

森の上空に向かうと、丁度大きな翼を広げたグリフォンが飛び出してきた所だった。

「キィーーーー!!」

「すっっげぇ!飛んでるグリフォンと同じ目線だ!」
「おお…これは中々快適だなぁ!!」
「そうだ写真、記録に撮らないと!」

カメラを構えるアールス達は、初めての空の旅に危うく任務のことなどすっかり忘れて楽しむところだった。

本来であればグリフォンの飛行速度にヒポグリフは追い着くことは難しい。
しかし今回は幼鳥を連れての移動のため、速度もそんなに出せず、休憩を挟みながらになるのでゴンドラをぶら下げたファルコでもついて行くことができる。

グリフォン達は、コンラッド領の学園が管理している魔素地の岩場で一休みし、また先へ進む。

「大丈夫か?ファルコ!」
「キュイッ!
「よし、追っかけるぞ?!」

続いてその先の岩山、更に岩肌の険しい谷間の上と、いつかヒュリスの討伐に来たルフト領の山岳に降りて休憩を挟む。

「キュイ~…」
「悪いな、無理してねぇか?」
「キュキュキュ…」
「あぁ、見送りが寂しいのか…」

ファルコは段々グリフォンの住処が近づくに連れ、元気を失くしていった。

「見ろよ!あんな遠くに仲間の馬車が見えるぞ!?」
「あれでも全速力で追っかけて来てんだろうな!」
「デイブ本当に助かった!ここまで正確にグリフォンの記録が取れるとは思わなかったぞ!?これは生態の資料としてもかなり優秀だ!」

グリフォンを安全に追跡するなど、現実ではかなり難しい。
ましてや後ろを飛び続けるなど、不可能に近い。
上に下になりながらアールス達の魔導カメラのシャッター音がひっきりなしに聞こえてくる。


やがて大きな渓谷を越えると、遂にショーン伯爵領の街壁が見えて来た。
その先の“魔の渓谷”にそびえる岩山が彼等の本拠地だ。

「キュルルル…」
「とうとうお別れだな。ここまで連れて来ちまって悪かった。でも見ろよ、あんなに嬉しそうにしてるんだ。お前もケジメになったろ?」

岩肌が棚状になった一角に、まずは雄が降り立ち、雛達が自分達が育つはずだった巣の中に次々入って行った。
両親にとっては懐かしの我が家だろうが、雛達にとっては初めて見る場所だ。
物珍しげにキョロキョロしながら、周りに飛び交う同じ姿の仲間達を見ている。

「こ…これがグリフォンの営巣地…」
「こんな近くまで来た事なんてないぞ!?しかも空からなんて!」

アールス達は更に写真を何枚も撮りまくり、山程メモを書いていた。

雌のグリフォンが大きなギーブルを捕らえて戻ると、お腹を空かせた子供達がついばみに集まる。
グリフォン達は番同士、互いを労うように巣の隣で寄り添い合い、無事に帰れた事を喜んでいるようだった

「任務完了で良いですかね?」
「もちろんだ!遠目から渓谷に戻る姿が確認できれば良かった所を、こんなに近くから始終観察できたなんて、これは研究者も喜ぶだろうな!」
「研究者?」
「知らなかったか?クロノスには自前の魔物の研究機関があるんだ。日夜魔物の研究に勤しみ、その情報を役立てようと奮闘していてな!非戦闘員だが、彼等も立派なクロノスの一員さ。」
「途中で羽毛が拾えたのもラッキーだったな!皆にいい報告ができそうで良かった。ありがとうデイブ!」
「よーし!他の隊員のとこまで戻るぞ!?」

3人を乗せたゴンドラはゆっくりと仲間の率いる馬車まで戻り、恨み言を垂れる他の隊員達に別れを告げると、デイビッドはこのまま本部まで戻るというクロノス隊に別れを告げた。

「何から何まで世話になっちまったな!」
「この次は俺も空に連れてってくれよ!?」
「元気でな!」
「なんかありゃいつでも呼んでくれよ!?」
「俺達の命はお前に預けたんだぞ?!期待してるぜ、次期当主様よぉ!」
「じゃぁな、またどっかで会おう!」

デイビッドが手を振ると、全員が出て来てその姿を見送ってくれた。
懐かしい仲間の姿が見えなくなる。
涼しくなった秋の日差しの中を、デイビッドとファルコは学園を目指して進んで行った。



家畜小屋に戻ったファルコは、デイビッド特性の餌をガツガツ食べた。
失恋で傷心中に食べられなかった分を取り戻すように(…あるいはヤケ食いかも知れないが…)ファルコは既に終わった恋を吹っ切ることに決めたようだ。


部屋に置かれた大きな羽をどうしようか眺めていると、事務から手紙の束が届いた。

「これはクレッセント商会、エルムの支部と…ミリオンの月の決済報告…これは…親父か…?」

ジェイムスからの手紙には、来週を目処に「決闘」日時の候補を挙げるので、都合をつけて欲しいと書かれていた。
「決闘」のルールは簡単。双方の関わりが薄く、馴染みのない土地で、期間内により多く収入を得た方が勝者となる。

デイビッドは授業に被らない週の中頃を選び、学園に許可書を提出すると直ぐに了承され、父親宛てに知らせを入れると、遂に決闘の日取りが決まった。

「来週の週半ば、場所は運河中継の港街、ポメロイだと。」
「あの大きな港があった湖の街ですか?!」
「あそこにはエルムの商人が多く滞在してるんだ。ラムダ国最大のエルム街がある場所だよ。」

広大なエルム帝国の各地から集まった商人達の中継地点。
元々はエルムの紛争地域の流民を受け入れた街だったそうだが、今では観光名所になっている。

「エルムのどの辺りの人達が集まってるんですか?」
「カランの少し先にあるジァジャやフゥ、南側のラママナ、カプア、更に西にあるコラソン、ピーカ、ダドス周辺だったかな?戦乱後にこっちに来た移住者が集まって大きな街になってるんだ。公用語も共通語の他にエルム語と各地の言語が混ざってる。多様な文化が入り交じって面白いって話だ。」
「デイビッド様は行ったことはないんですか?」
「運河工事に携わった時、何度か行った事はあるんだけど、仕事の方が忙しくて本当に眺めて終わったんだ。きちんと街の中に入るのは今回が初めてだな。」


王都からは、運河の港へ着いてから船で約三日掛かるため、ジョエル達は既に出発しているそうだ。
ジョエルの管理を任せてしまったので、今回のみ特例でジェイムスを外へ出すことになった。
カトレアは王都邸で留守番とのこと。
お茶会や交流会など社交にも精力的で、常に忙しく立ち回っている女性の為、夫の留守にもやる事は沢山あるそうだ。

「親父の奴、逃げたらどうすっかな?」
「逃さないようガッチガチに制約魔法掛けてますからご安心下さい。」

逃さないための工作も万全のようだ。


そして今回も問題なのがヴィオラとライラ。
ヴィオラはなんとかなるとして、ライラをどこかにまた預けなければならない。
デイビッドが米を研ぎながら思案していると、横からヴィオラが何か紙を手にやって来た。

「見て下さい!ミネルバ先生にお休みもらってきました!」
「ついてくる気満々か!」
「私はデイビッド様の婚約者ですから!デイビッド様が行く所にはどこにでもお供します!!」
「まぁ…そこは好きにしてくれて構わねぇけどよ…あとはライラか…」
「ライラちゃんも連れて行きます!大丈夫です!ちゃんとお世話しますから、私が!」
「それ俺がまとめて面倒見る結果になるヤツ!!」
「ご安心下さい、僕もデイビッド様の休みに合わせてお休み貰ってきました。」
「私も!試験が一区切りしたから少し羽を伸ばしたいの。」
「結局大所帯決定!?」

ジェイムスは移動時間も含め、前後合わせて10日は休みを取るよう指示したが、デイビッドは決闘期間の数日のみ休暇届を出した。

「商売の方法は何でもいいそうだ。仕入れにかける金にも上限は無い…その代わり純粋な売り上げ分のみが計上される。あんまりデカい金を動かして赤字になるのだけは避けたいな。」
「じゃ、もう現地調達で行きますか?」
「その前に情報収集はして行こうと思う。」

ポメロイはラムダ国内の都市だが、中のエルム街は完全に独立した自治区になっており、ラムダとも実際のエルム国とも違う独自の文化が発達しており、それこそ街の動きが読み難い。

形だけでも決闘なので、他者に助力は仰げないが、相談程度なら許容範囲らしい。
向こうも恐らく情報収集に駆けずり回っている頃だろう。
デイビッドも自分の伝手を頼り、情報を集めに外へ出て行った。
感想 5

あなたにおすすめの小説

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

「その薬草は毒かもしれぬ」と追放された令嬢薬師——領地に疫病が広がったとき、彼女の薬草園はもう枯れていた

歩人
ファンタジー
侯爵令嬢リリアーナは、母から受け継いだ薬草園「星霜の庭」を守り、領民の病を癒す薬師。 だがある日、新任侍医マティアスが讒言した。 「あの令嬢の薬草は怪しい。毒が混じっているかもしれない」 父も婚約者クラウスも、それを信じた。 追放されたリリアーナが辿り着いたのは、辺境の村ノルトハイム。 老薬草師ヘルダに導かれ、荒れ地に新たな薬草園を拓く。 飄々とした若き領主ルシアンの体には、母から受け継いだ「銀花毒」が二十三年間潜んでいた。 誰にも治せなかったその毒を、リリアーナは治すと決める。 一方、薬師を失った星霜の庭は枯れ果て、疫病が元の領地を襲う。 マティアスの教科書通りの処方は何一つ効かない。 「戻ってこい」——使者が届けた手紙に、リリアーナは静かに答えた。 「わたくしの薬草は、毒でしたか?」

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました