黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚辺境伯爵令息

茶番劇

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「き…貴様!不敬だぞ!!」

「敬われたかったら、臣下には正しい姿を見せてもらいたいもんだな?!大広間で人の迷惑も考えず国の醜態を晒す王族に、どう敬意を払えってんだ?」

「口を慎め!これは殿下による弾劾である!」

「なら正規の手順を踏めよ!弾劾なんぞ思いつきでおっぱじめていいもんじゃねぇだろ!ましてや国外からも人を呼んだ祝いの席だぞ?外交にひびが入ったらどう責任取るんだ!」

「責任ならそこの女にある!その女が全ての罪を認め、謝罪すれば全て収まるのだ!」

「収まるか!!せめて他所でやれ!ヘタしたら誰かの首が飛ぶぞ?!」

「罪人を野放しにはできん!貴様も同様だ!衛兵はまだか?!早く此奴を捕らえよ!」

王子の取り巻きが口々に何か言っているが、頭の痛くなるような発言ばかりで、国を背負う者の責任感も危機感もまるで感じられない。

「はぁ…ダメか…アホばっかりだ…」

仕方なくデイビッドは王子達に背を向け、倒れた令嬢と向き合った。

「こんばんは、レディ。とんだ目に遭いましたね。静かな所へお連れしたいのですが、お手をよろしいですか…?」

「あ……あの…だい…大丈夫です。立てます…立ちますので……」

令嬢が慌てて立ち上がろうとし、またガクンと崩れ落ちる。

「失礼、足を怪我された様ですね。すぐ医師の元へご案内します。ご家族か、お連れの方はどちらに…」

令嬢は怯えた瞳でデイビッドを見つめ、首を横に振った。

「イヤだわお姉様。いくら男好きとは言え、そんな豚の様な方にまで色目を使うなんて。」
「おい豚男、貴様その女が気に入ったのか?」

「は?」

デイビッドが振り向くと、王子が令嬢をぶら下げたままこちらに近づいてきた。

「何も知らない様だから教えてやろう!その女は聖女である妹を長年虐げてきた悪女だ!おまけに金遣いが荒く、男遊びも激しく売女も同然!そしてリリアは私の婚約者、つまり王子妃となる存在を傷付けた、言わばその女は罪人だ!そんな女を庇えば、どうなるかくらいはわかるだろう?!」

「知るか!少なくとも罪人なら正しく罰するべきだ。晒し者にする様な下衆な真似はしないのが普通だと思うがな?!」

「その女がリリアに謝らないからだ!」

「だから衆人環視の中叫断するのか?!他国の貴賓も集まる中で?正気か?これじゃ貴族として命を絶たれるも同じだろう?」

「なら、貴族ではなくしてやろう!ヴィオラ・ランドール!この時を以て貴様の貴族籍を剥奪し平民とする!残念だったなぁ?!謝罪すれば済んだものを、その男が余計な真似をしなければ、まだ家名にしがみついていられたというのに!」
「かわいそうなお姉様…謝ってくれさえすれば許して差し上げましたのに…」

いい思いつきだと言わんばかりにニヤニヤ笑っている王子と聖女(?)に、デイビッドはただただ呆れるばかりだった。

そこへ人混みの中から一組の夫婦が現れた。

「クロード殿下!我が家の娘が申し訳ありません…アレはもう家から勘当致しました!煮るなり焼くなりお好きにして下さい!」
「ヴィオラ…お前がここまで愚かだったなんて…!親子の縁は断絶します!もう二度と顔を見せないで!」
「ランドール伯爵、姉の教育に失敗したな…だが、リリアに免じて家門への処罰は不問とする。今後は王子妃の生家としてしっかり頼むぞ?!」
「寛大なお心遣い、真にありがとう存じます!」

(まさかあれが両親か…?)

茶番の第二幕は、貴族からの廃籍と、両親からの勘当宣言らしい…

「よし!次は貴様だ豚男!」

そして次の標的はデイビッドのようだ。

「貴様は二度とこの王城に足を踏み入れることを禁ずる!加えて王都からも追放する!王族の言葉を遮り、弾劾を妨害したことと、暴言も不敬罪として後日慰謝料も請求しよう!今更鳴いて許しを乞いても遅いぞ!その女は餞別代わりに貴様にくれてやろう!嬲るなり、痛めつけるなり好きにするといい!」

「…バカなのか…?」

もう付き合うのも疲れてしまい、デイビッドは話の途中から、再度令嬢に話しかけ始めていた。

「ご安心下さい。アレが何を言おうと、必ず貴女をお守りしますよ。まずは静かな所で怪我を診ましょう。」

令嬢はもう呼吸もままならず、今にも気を失いそうだった。

「失礼、御身に触れるご無礼をお許し下さい…」

デイビッドは令嬢を抱え上げると、まだ何か喋っている王子に向かって踏み出した。

「動くな!」

取り巻きのひとりが止めにかかってきたが、足を掛けると派手に転がっていった。
気にせず王子の横を突っ切って行く。

「おいっ!まだ話は終わっていないぞ!?」

「ふざけるな!こんな三文芝居に付き合ってられるか!」

あちこちから悲鳴と共に、悍ましい物を見る目が向けられ、人混みが自然と割れて道が開いた。

「きゃぁぁっ!化け物が人を攫って逃げるわ!」
「こっちへ来るぞ!離れろ!」

騒がしい会場を後に、デイビッドは全力で城の廊下を駆け抜けていく。
途中兵士もいたが、医療棟へ向かっていることを告げるとすぐに通された。


「デイビッド様?!一体何があったのですか?」

後ろから声がして、振り向くと父について行った侍従が走ってきた。騒ぎの様子を見に顔を出した所でデイビッドを見つけたらしい。

「エリック!?丁度いいところに!」

「なっ!?アンタ!いくら女の子にモテないからって誘拐は人道に反するというもので…!!!」

「んなワケあるかぁっ!!怪我してんだよ!医療棟に連れてくだけだ!!」

「なら、医務室でよろしいのでは?」

「…ワケありだ…俺も王都追放を受けた。慰謝料も払えとさ…」

「はぁ?!アンタ今日の主役の一人じゃなかったんですか?!慰謝料??何の?!」

「詳しい話は後でする!お前は親父たちに報告を頼む!今会場は大騒ぎだ!!第二王子が勝手に始めた弾劾で、令嬢の身分を剥奪したと伝えてくれればいい!」

「なんですか??それ???」

「さぁな?俺にもさっぱりだ!じゃ、頼んだぞ!?」

豪奢な廊下を過ぎると、文官や大臣達の仕事部屋が並ぶ執務棟となる。
目指すはその途中にある医療棟だ。

手足の冷え切った令嬢を抱え、デイビッドは重い扉の戸を叩いた。


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