黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
4 / 411
黒豚辺境伯爵令息

国王に呼ばれて

しおりを挟む
アーネスト・リオ・ラムダは、ラムダ王国の王太子である。

品行方正、文武両道、皆を惹きつけるカリスマ性と、王家の色である黄金の瞳を持って産まれた、誰もが認める王子だ。


今夜は、そんな彼が立太子してから行われた夜会の中でも、最も規模が大きく、国外からの貴賓や大使も大勢やって来る重要な催しであった。

南方の諸国と共同開発していた薬が完成し、北方の大国との和平条約の結び直しが叶い、東に隣接する帝国より交易条件の緩和が提示された事による祝宴だ。
国を挙げて各国に、感謝と今後の更なる発展を約束するための大々的なパーティー!

その出端が挫かれた。

まさかの弟によって…
なぜ弾劾を?なぜ断罪を?貴族を集めた夜会の最中に?
最早、国家転覆でも狙っているのかと疑いたくなる愚かさだ。
一度はそのショックで倒れたアーネストだったが、運ばれる途中で飛び起きて会場に向かい、事態の修復に奔走した。

幸いにも、まだ本格的に始まっておらず、参加者達も下位貴族がほとんどだったため、なんとか持ち直して開会宣言をしたが、諸外国の大使方から質問が止まらない。

「デイビッドはどこだ?」

このセリフを聞く度に、アーネストの胃を針が刺さるような痛みが襲った。

南方諸国で育つ薬草の薬効を解明し、流通させたのはアーネストだ。が、そもそも見つけたのも、栽培方法を確立し、畑を広げ人材をかき集めたのはデイビッドだった。
雪害に喘ぐ北の国々に物資を届け、産業の立て直しを助けたのも、動いたのはアーネストだが、険しい岩山を切り開き安全な経路を確保したのはデイビッドだ。
帝国に新たな農法を伝え、病害に強い作物を送り、国交を強固にしたのも…交渉はアーネスト、農法の改良と、作物の研究を完成させたのはやはりデイビッドで…。

諸国の重鎮達はアーネストを讃えはするが、所詮はただの窓口。
真の功労者が誰か良く知っている。

言えない…
今夜の主役を、自国の王族と貴族が、皆して醜男だの豚だの笑い者にし、追放を宣言してしまったなんて。

(デイビッド……頼む…戻って来てくれ……)

泣きそうになりながら、国王の入場までなんとか時間を稼ぐアーネストだった。




その頃、医療棟であれこれ悩んでいたデイビッドたちの元へは、国王の使いがやってきていた。

「デイビッド・デュロック伯爵令息殿!陛下がお呼びです!お急ぎを!」

「げ!」

「げ!とは何ですか。ご令嬢の事は私が見ていますから、ほら早く行ってきて下さい!」

「さっさと行きな!!」

シモンズ医師に蹴り出され、しぶしぶ廊下を歩いていくと、兵士に守られた客間へ通された。


中へ入ると、正面に国王と宰相、サイドに両親が座っていた。

「デイビッド・デュロックが陛下にご挨拶を…」
急いで跪こうとすると、王がそれを手で止める。

「よい。どうか座ってくれ。先の騒動、息子が真に申し訳ない事をした。この場で謝らせて欲しい、すまなかった…」

「いえ!その様な事は…お気になさらず、あの程度気にもなりませんので!」

下げた頭の向こうで、王と両親が微笑んでいるのがわかる。

「流石は大国を相手に渡り歩くだけあるな。そこらの小者が敵う相手ではない。良い息子を持ったものだ。なぁデュロック?!」

「ははは!ですがちと頭に血が上り易く…」

「父の申す通りです。もっと上手く…穏便に収めることもできたのではないかと…」

「いや、誰であろうとあの馬鹿は騒いだろう。良くぞ声を上げてくれた。王家に必要なのは、過ちを犯した時に諌めてくれる存在だ。そなたのように…」

夜会が始まる前だと言うのに、国王の顔は酷く疲れていた。

「クロードと側近共は捕らえてある。どうか今一度会場に戻ってもらえんだろうか?皆がそなたを待っている。アーネストを助けてやってくれ。」

「それは…もちろん…ですがその前に、無礼を承知でお願いがございます。」

「ランドール家の令嬢のことか?」

「ご存知でしたか…今、シモンズ医師に診て頂いております。下賤な噂を広める者もいるようですが、どうか手厚い保護をお願い致します。」

「承知した。クロード達の起こした騒ぎについては、事実関係から残らず調べておくので安心するといい。そなたにもあり得ん沙汰を下したと聞いたぞ?アレの言った事は気にせず放って置けば…」

「いえ、それに付きましては、敢えてお受けしようと思っております。」

「なにっ?!」

国王は驚いてガタンと椅子を鳴らしてしまう。
ちらっとデュロック夫妻の方を見ると、穏やかに笑っていた。

「ど…どういうことだ?」

「私は、クロード殿下により、この王城への立ち入りを禁止され、王都からも追放されるとのこと。あの場にいたどの貴族も、それに賛同しておりました。ならば、本当にこの王都から離れてみようと思います。」

「それは……デュロック!子息はこう申しているが…お主はそれで良いのか?」

「ははは!息子がそうしたいなら、好きにすれば良いかと。ご安心下さい、王家との付き合いは変わらず継続致しますので。まずは市井の様子見…と言ったところでしょうな。デュロック家が去った王都がどうなるか、あの場にいた連中にはその身を持って知ってもらおうと言うことでしょう!大切な息子を貶し、笑い者にしてきてた連中には少し痛い目を見てもらわないと!ははは!」

国王を相手に愉快そうに笑う父親を見て、デイビッドは内心苦笑いをした。
(そうとう頭にきてんな…)
肝の座り方といい、気の短さといい、親子である。

「そうか…確かに、追い出した相手から恩恵だけ預かろうなどと虫の良い話は無いな…あまり混乱の出ない程度に頼みたいが…」

「そうですなぁ…どうする?デイビッド。まずは貴族用の嗜好品から質を落としつつ量を減らすというのはどうだ?」

「それでいきましょう。私とて、無辜の民の暮らしを脅かすつもりはありませんので。無論、陛下の下へは変わらずお届け致します。」

「うむ…わかった、そこは好きにすると良い…あとは、クロードの処分だが少し時間をもらいたい。野放しになどするつもりは無いが、学園にだけは通わせて構わないだろうか?」

「陛下にお任せ致します。こちらから何か罰を望むようなことはありません。ただ、二度と同じ過ちを犯さぬように…クロード殿下は王家とデュロックの交わした誓約を反故にする所でしたので。我が家が、今後も臣下として変わらぬ忠誠を尽くし続けられるよう、今一度ご配慮頂きたく存じます。」

恭しく頭を下げ、部屋から出ていったデイビッドを、国王はそっとため息をつきながら見送った。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

国王一家は堅実です

satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。 その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。 国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。 外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。 国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

処理中です...