黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚辺境伯爵令息

思わぬ来客

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あの夜会の騒動から三日目。
デイビッドは、デュロック家が持っている商会の邸にいた。

王都の境目はとてもはっきりとしている。
教会の結界が途切れる所に、ぐるりと壁が作られ一段高くなっていて、低い場所からが郊外地。
以前は壁際に沿ってスラムが広がっていたそうだが、今は綺麗に整地され、移民や低層民達の住まいと、国外から来た商人達の市場が賑わっている。


夜会の後、さっさと城を出たデイビッドは夜の内に荷造りを終え、両親が戻る頃には書き置きを残し王都内の屋敷を去っていた。

  商会で好きにやってます

侍従のエリックがデュロック伯爵に言われ、様子を見に行くと、本当に好きに過ごしていて、報告を受けたデュロック夫人は呆れ顔でため息をついていたそうだ。


「デイビッド様、失礼致します。エリックです。」

部屋のドアが開き、見慣れた顔が現れるとデイビッドは面倒そうな顔をした。

「なんだ、エリック。親父に付いていなくていいのか?」

「旦那様より、しばらくはデイビッド様に付くよう言われてまいりました……今は、何をなさっておいでですか…?」

「見てわからんか?ぶどうの味見だが…!?」

テーブルいっぱいに並んだ色とりどりのぶどう。

「……良い発見、ありました…?」

「う~ん…コレとコレとコレは食用で送られてきたが、ワイン用だな。コレは種は多いが味が良い。改良の余地有りで加工用、こっちは貴族向けの贈答で使えるやつ。で、そこの2つは味も質も最高級だ。王室に入れても問題ない。もうすぐ会頭の使いが来るから、紙にまとめてるとこだ。」

デイビッドの選別は外れたことが無い。
商人も料理人も脱帽の味覚で、あらゆる食品を品定めしてきた。

「そうですか…では手が空き次第応接室においで下さい。」

「客の予定はなかったと思うが?」

「旦那様がおみえです。」

「先に言おうぜ…そういうの?!」

丁度やってきた使いの者にぶどうの品評を渡し、上着をつかんで慌てて部屋を出る。

「で?親父が誰を連れてきたって?」

「ローベル子爵でしたよ。」

「果樹の共同開発をしてる所だな!?先触れもなく珍しい。」

「いえ、先触れに来た使者を捕まえてローベル子爵の仮屋敷まで押しかけて連れてきたそうです。」

「相変わらず気が短ぇな…しかし、俺になんの様だ?」

デイビッドが応接室のドアをノックしようとした瞬間、エリックが何かを思い出した。

「あ!そうだ!ローベル子爵!!」

「なんだいきなり?!」

「ローベル家はランドール伯爵夫人の実家ですよ!ご当主はあの夫人の弟に当たる方のはずです。」

「…急に嫌な予感がしてきた…」

ランドール夫妻はまだ王家で拘束されているはずだ。
一体何をしにきたのだろうか?
ノックをする手が止まっていると、先にドアが開き、父が立っていた。

「何してるんだ?早く入りなさい!子爵がずっとお待ちだぞ?!」

「あ…いや…その…失礼します…」

部屋に入るやいなや、ローベル子爵が椅子から立ち上がり、デイビッドの前に飛び出して来た。

「デイビッド殿!!!」

「おわぁっ!ローベル子爵!?…ご無沙汰を…」

「ありがとう!君のおかげで私は大切な姪を失わずに済んだ!ありがとう!本当にありがとう!!」

「姪…?あ!?そうか!ランドール夫人が姉なら、彼女は貴方の姪子に当たるのか!」

「まぁまぁ、二人ともまずは座りなさい。落ち着いてゆっくり話すと良い。」

そこからローベル子爵は、あの王家に保護された少女について語ってくれた。


ヴィオラは産まれてすぐから母親に相手にされず、家族にも疎まれていたらしい。
栗色の髪に茶色い目。ランドール夫人は大嫌いな実母と同じ色を映した実の娘を、早々に切り捨てた。
2年後に産まれた次女は、美しい金髪に澄んだ青い瞳の夫人の理想そのものだった。
妹だけを可愛がる夫人とそれを咎めもしない夫。
家族の形はどんどん歪なものになっていった。


7歳の時に妹の祝福の儀に同行し、聖女認定を受けた妹を突き飛ばして神の怒りを受け、教会から見放され、僻地に送られた。と、王都ではそういう話になっているが、事実は少し違うらしい。

そもそも突き飛ばされたのはヴィオラだったそうだ。
聖女認定を受け調子に乗った妹が、自分を羨まない姉に苛立ち、階段から突き落としたそうだ。
ヴィオラが床に叩きつけられたと同時に、教会の広場に立つ聖女の像に雷が落ち、辺りが黒焦げになった。

神官達はうろたえ、聖女の選定で不吉なことが起きた事で、信徒に、主に貴族に不信感を抱かれては堪らないと、教会はその責をなんと7歳の少女に押し付けた。
聖女を痛めつけ、神の怒りを買ったと吹聴し、元凶を王都から遠ざけるよう仕向けたのだ。


「返ってそれで良かったのです…あの子は姉の婚家に居場所なんて無かった。その後は僻地近くの我が家に引き取り、そのまま静かに暮らしていければそれで幸せだったのに……」

のんびりとした田舎暮らしで、叔父と祖父母の下、ヴィオラは少しずつ子供らしさと明るさを取り戻し、健やかに育っていったそうだ。

「しかし、15歳になれば学園に通わせなければならない…」

王国の貴族である以上、教会の決定より国王の定めた法の方が重要になる。
14歳になったヴィオラは、「無知な田舎者が家名を汚さないように」と、家庭教師をつけ勉強させるため、無理やりランドール家に引き取られた。

「一月で手紙が来なくなり、姉にたずねても文句しか返って来ず…私も領地で忙しくしてしまったのがいけなかった…仕事など後回しで王都まで行けば良かったのに…」

あの夜、遅れて会場に入ると、いきなり別室に連れて行かれ、そこで姪と1年振りに再会したそうだ。

「あんなに痩せて…身体も傷だらけと聞かされ、怒りと悔しさでどうにかなってしまいそうでした。おまけに、とっくに15歳になっているというのに、学園へはまだ通わせてもらえず、家の中に押し込められていたと言うのです!」

学園に通えなくなった理由が、あのクロード第二王子の我儘だったそうだ。
「聖女を虐げる悪魔のような女と、同じ学年になりたくない。」と、ランドール家に話したらしい。

理由があって入学が遅れる生徒も中にはいる。
今回はその特例を逆手に取り、学園へランドール家から適当な言い訳を送り、ヴィオラの入学を先送りにしたそうだ。

「碌でもなさ過ぎる……」

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