黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚辺境伯爵令息

自称親友は休みたい

悪夢の夜会から五日目。クロード第二王子の謹慎が一時的に解かれた。

先に解放されたランドール伯爵家一行は、自宅には帰されたが、しばし行動範囲を制限され、仕事と学業、教会以外の場所への出入りを禁じられているそうだ。

クロードは今回の罰として、王位継承権の一時凍結と、学園寮への入寮が決まり、学生である間は休業期間以外は、王宮へ帰れなくなった。

使用人や側近も入れ替えられ、厳しい監視の目が常に張り付き、今までのように自由に振る舞えなくなった事で、何故かアーネストを恨んでいる。

アーネストはアーネストで王太子の仕事に加え、今回の弟のしでかしの尻ぬぐいに奔走し、今も自室で山の様な書類に目を通していた。
そこへけたたましい音を立てながら、ノックもなしにクロードが入って来た。

「兄上!これはどういう事だ?!」

「うるさいぞ、クロード…」

「リリアが婚約者候補に落とされた!その上、入学まで会うことも禁じられてしまうなんて!こんな横暴許されるものか!!」

「各国の王族と大使が集まる夜会で大恥を晒したんだ…家が取り潰されなかっただけ、ありがたいと思って欲しいものだがな…それにしても、あの伯爵令嬢は酷すぎる。教会も重い腰上げて再教育に取り掛かるだろうよ…」

リリアは、聖女としても王子妃としても、このままではふさわしくないと判断され、学園の中等部と教会でみっちり勉強と指導を受けさせることになった。
第二王子との婚約も候補まで下げ、高等部進学後の成績や振る舞いを見て再選ということになる。

クロードも今回の件で、王族としてあり得ない振る舞いをしたとし、3ヶ月間休学し王子教育のやり直しが決まっていた。

「それだけじゃない!なんだこれは?!」

クロードが手に持っているのは、改訂された予算書だった。

「私の予算がこんなに減らされている!!交流費も半分以下だ!!こんなものが納得いくものか!」

「はぁ…今までお前は使い過ぎていたんだよ。自身に当てられた予算を上回る買い物を平然としていたんだ。足りない分は母上が補填して事なきを得ていたが、もうそんな甘えは許されない。使いすぎた分の返済と、今後の行動範囲を考えて再考された金額のはずだ。分相応に生活すればそれでも余るほどの額だが?それも父上と母上に説明されただろう?理解できないのか?!」

「王族として相応しくある事の何がいけない!私から金も婚約者も取り上げて、更に側近達まで不当に処罰するとは!」

「お前は本当に何もわかってないんだな…」

クロードの側にいた学友兼側近達は、各々家門から処罰を受けていた。
ある者は学園を中退し軍学校に入れられ、ある者は廃嫡され、卒業後は僻地の領へ押し込められる事になっているらしい。

「そういえば、ヴィオラ令嬢に掴みかかった侯爵子息は、手首を脱臼して入院しているそうだぞ?!見舞いには行かなくていいのか?」

デイビッドに思い切り握り潰された利き手は、骨折は免れたものの、剣は愚かフォークすらつかめなくなり、騎士団に所属する侯爵はついに息子を見限ったという話だ。

「それこそ一番の問題だろう!あの豚め!王族と高位貴族に暴力を振るい、怪我まで負わせた!なのに何故なんの罰も咎めも受けていないだと!?奴こそ牢に繋がれるべきだろう!?」

「…一体何の罪に問うつもりだ?」

「王族と高位貴族への暴行罪と不敬罪!それに王族主催の夜会を騒がせ、一時でも中断させたんだ。慰謝料に賠償の支払いも命じなければ!あの悪女も結局他の貴族に拾われたそうだな?ならリリアへの慰謝料もその家に払わせよう!そうすれば私の予算も元に戻せる!」

「いい加減にしろ!!」

静かな執務室に、アーネストの怒声が響いた。

「クロード、お前は自分が何故あの場で拘束され、謹慎させられた意味を理解していないのか?!罪人はお前だ!!権力を笠に来て無実の令嬢に暴力を振るい、国賓を招いた夜会で騒ぎを起こし、王族としてあるまじき態度を改めない!!今、正に罪を裁かれているのは自分だと自覚しろ!!」

クロードは、珍しく声を荒げる兄を睨みつけ、拳を震わせて怒りを露わにしていた。

「見ていろ…今に私は全てを取り戻す!そして兄上がいかに愚かで身勝手な行いをしているか思い知らせてやる!」

そう言い捨てると、こちらの返答も聞かず、クロードは乱暴にドアを閉めて出て行った。


「やれやれ……実弟がいかに愚かだと思い知らせたのは僕の方だよ…」

アーネストはため息をつきながら、机の横に置いた大瓶の中身を口に入れた。

甘い糖衣から苦味のある強い酒精が拡がり、疲れた体に染み渡る。
アーネストの好物、蒸留酒を使ったこのボンボンは、親友から定期的に送られてくる物だ。

今回は、大量の贈り物をアーネスト経由で令嬢に贈るつもりだった親友が、ついでとばかりに寄越してきた。
飾り気もメッセージも無い、素朴な瓶に詰め込まれたボンボンから、アーネストへの多少の労いが感じられて嬉しく思う。

(そういやあいつ…令嬢に贈るのに消え物ばっかりだったなぁ…)

食べて、使って、終わってしまうものばかり…
ハンカチの一枚くらい贈ればいいのに、と思いながらアーネストは椅子の背もたれに寄りかかった。

そこへノックの音がして、宰相の声がした。

「失礼致します、アーネスト殿下。大きな音が致しましたので、護衛から知らせを受けました。」

「あぁ…すまない。入ってくれ…」

やはり疲れた顔の宰相が側へやって来ると、アーネストは無言で机のボンボンを勧め、宰相も黙ったまま受け取って口に入れた。

「…やはり良いですね、このボンボンは。」

「あぁ…疲れたり、気が荒れた時に食べると落ち着くんだよ…」

「クロード殿下が参られたそうですね…」

「話が通じなくてな、つい大声を出してしまった。アイツはいつからあんな風になってしまったんだ…」

「王都貴族が新たな派閥の頭にしようと、躍起になっておりましたからな…しかし、アレほどまでとは…周りの目も少しは変わることでしょう。そもそも、甘言に流されるようでは国の運営など、到底無理な話。第二王子殿下のことは陛下と王妃殿下に任せて、アーネスト殿下はこれまで通り我らをお導き下さいませ。」

「…地図を描いてるのは他人なのに…?」

「王太子にして腹心を持つとは、真に喜ばしい事でございますよ。彼の持つ思想が殿下の意に沿うものである限り、決して手放してはなりません。そして時にはこちらが導く事で、国を動かすのです。」

「自信がないよ…」

アーネストは苦笑いしながら、もうひとつボンボンを口に入れ、再び書類の山にむかうのだった。

(これが終わったら…少しだけ休みを貰おう…デュロック領は少し遠いが、羽根を伸ばすには持って来いだ……)

アーネストは、幼い頃にデュロック領で撮った写真を横目にペンを動かした。


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