黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

鳴り物入りの新人講師

「ああぁぁぁっっ!!!!」

「何度それやったら気が済むんですか?」

「かわいかった!!アレはダメだろ?!なんだギュッして欲しいとかって…心臓が止まるかと思った!!」

「そしたら丸焼きにしていいですか?」

「しかしまぁお前よくも笑ってくれたな?!」

「笑っちゃいましたよ。子供のおままごとみたいな会話しかしないんですもん。しかし、デイビッド様って照れるとわかりやすく赤くなりますよね。商談じゃ何言われても表情変わんないのに。」

「な…慣れれば何とかなる!」


婚姻届けは教会関係の手続きをすっ飛ばし、即!貴族院の窓口へ持って行く。
後はこれに国王の印が押され、手元に戻って来たら婚約成立だ。

デイビッドはヴィオラの名前を何度も見返し、その都度唸ったり叫んだりとうるさかった。

商会の自室に戻ると、ドアのストッカーに手紙が挟まれていた。
厚手の封筒には、大きく学園の紋章が描かれている。
ビリビリ開けると、中から銀色のバッジが出てきた。
中の書類には、教員の決まり事や注意事項、学則などが記されている。
学園の見取り図は教員用と学生用で違うので、決して失くさないように。
校務中は必ずバッジをつけること。
身分の高い生徒への対応。
生徒の評価の仕方。注意の仕方。トラブルの対処などなど。
ざっと目を通すと、バッジだけ机にしまい、纏めて学園へ持って行くトランクに突っ込んだ。

それから大きなノートを取り出し、講義で何を話そうか色々書き出していった。
学園側の要望、父が元々するはずだった内容、留学先で人気だった話、ネタが切れないようにするのも大変だ。

なんせ生徒の3分の1は同世代。
ここは馬鹿にされないようにしたい。

研究室ももらえるらしい。
何を持っていこうか、どんな事をしようか、少し楽しみでもある。

そこから数日間、デイビッドはあちこち忙しく動き回り、たまに自室で叫んだり。ついて回るエリックは見ていて飽きなかった。

ヴィオラとの手紙のやり取りも順調なようで、また締まりのない顔で、これまたかわいい便箋を選んではせっせと書いていた。

そしてついに、学園へ行かなければならない日がやってきた。


「じゃぁ行ってくる。」

デイビッドは朝から大荷物を抱えると、荷馬車で学園へ向かって行った。

「馬車使いましょうよ!!家紋入りの!今使わなくてどうするんですか!!」

エリックは文句を言いつつも、自分の鞄を手にデイビッドが操縦する荷馬車の後ろに乗り込んだ。

「絶対おかしい!貴族は荷馬車の御者台には座りませんから!」

「しかたないだろ?ムスタは俺にしか扱えないんだから。」

荷馬車を引いているのは、やたらずんぐりした脚の太い黒馬だ。
デイビッドの愛馬ムスタは、元々軍馬だったらしい。
やや背が低く、筋肉質で気性は荒いが、デイビッドによく懐いている。

王都の壁沿いに進み、街の反対側へ向かう途中に大きな建物が見えてきた。
門をくぐるとそこはもう学園の敷地だ。
王立学園は結界線の真上にあって、一部が王都の壁からはみ出る形で建てられている。
魔物などの研究を行うには、結界が邪魔になってしまうが、王都の貴族は結界の外には出たくない。
その要望を叶えるためにこの様な形になったそうだ。

裏の門から入り、エリックに荷馬車を頼んで建物の中入ると、あちこちから視線が集まってきた。
嫌悪、好奇、侮蔑、興味、ちらちらとこちらを伺う目が増えていく。
教員室を探して歩いていると、廊下の先から人が何人か走ってきた。

「デイビッド・デュロック殿!!お待ちしておりました!!」

初老の男性を先頭に、4人の男女が頭を下げる。
学園長に、教頭と学科長が2人。

「お初お目に掛かります。父の代理で参りました。デイビッド・デュロックです。本日よりよろしくお願いします。」

「こちらこそ、貴方様が来るのを皆首を長くして待っておりました。」

案内された教員室には、既に自分のデスクが作られていた。

「さて、早速ですが、デイビッド殿には領地経営科の一部を担当して頂きたいのです。」

「あの…私は教員の資格も無く、テストや課題など作ったことが無いのですが、それでも良いというのは本当ですか?」

「もちろん!我々はデュロック領の高度な領地管理の技術を学べるだけでありがたいのです。ご心配無く、評価や課題については、元々の担当教員達が分担しますのでお任せ下さい。」

「色々と注文も付けてしまいましたが、ご迷惑ではありませんでしたか?」

「何を仰いますか!この学園でデュロック家の研究が間近に見られるなど、我々にとってまたとない機会!どうぞご自由に使って下さい。」

「しかし、デイビッド殿は落ち着いていらっしゃる。これなら安心して授業をお任せできますね?!」

「そ…うですか…?」

(親父の奴…よっぽど迷惑かけたんじゃねぇのか…?)
少し不安になりながらも、学園の運営陣には好感を持ってもらえている事に安心する。
食堂、図書館、談話室、各専門科目の教室に温室と、研究棟。教師陣の案内であちこち見て回り、授業の様子なども覗いた。
建物の中は、廊下や壁の色が途中から変わっている。
あからさまに結界を意識して作られた内装だ。
(まぁ、王都貴族と教会関係者が来る場所だ。しかたない話か…)

別棟の騎士科からは剣を振るう音が聞こえてくる。
外の演習場に差し掛かった時、どこかからデイビッドを呼ぶ声がした。

「デュロック殿!」

「誰か呼んだか?」

「デュロック令息殿ぉぉ!!」

振り返ると、甲冑を着込んだ騎士姿の男がこちらへ走って来る。

「どちら様??!!」

驚いて後ずさると、甲冑男はデイビッドの前て兜を脱ぎ、頭を下げた。

「いきなりのご無礼お許しを!私はデニス・コールマン。貴殿に一言礼を申したく参りました!」

「コールマン卿は騎士団の一員でして、騎士科の指南役として来て頂いているのですよ。」

教頭に説明されても、デイビッドには彼と会った記憶が無い。

「礼…とは一体…?」

「先日貴殿の商会より届けられた薬!あれは素晴らしい!我々は些細な傷は気にしないものですが、指先や手の傷は剣の振りにも大きく影響致します!この薬があれば豆が潰れても皮が剥がれても、たちどころに治ってしまう!!本当に素晴らしい!!心より感謝致します!」

「あ!あー!あの薬?!そういやエリックがあちこち配ってたなぁ。使ってもらえてるのか!こちらこそ、ありがとうございます!」

「正規の販売が決まりましたら、是非とも騎士団に常備させて頂きたい!よろしくお願い致します!」

「それは願ってもないことです!その時には一番にお知らせしましょう。」

コールマン卿は、デイビッドとにこやかに握手すると、また演習場へ戻って行った。

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