黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

研究室改造計画

「流石はデュロックですな。あの薬は他の職種にも大変好評のようですよ?!」

学園長はにこにこしながらデイビッドの方を向いた。

「特に水仕事や針仕事など、手や指先を使う職種の者には、本当に夢の様な効果のある薬なのだとか。」

試験薬が配られた先では、早くも争奪戦となり、どこも数日で瓶が空になっているらしい。

「南の諸国から手に入れた薬草を使用しているそうですね?!是非とも我が学園でも栽培して頂きたいのですが…」

「元よりそのつもりなんだ。苗を増やせるだけ増やしていこうと思ってる。俺がいなくなっても誰かが使うだろうし…」

「ふふふ…デイビッド様はその方が自然で良いですね。あまり気を張らずにお話下さい。」

「え?あ!すみません…元々そんなに育ちが良い訳ではないので…猫は被れますがすぐ逃げてしまって…」

「なぁに、多少砕けていた方が同世代の生徒には良いでしょう。そう気負わず、楽にやって下さい。」

「う…ありがとうございます…」

ここしばらく気安い間柄の相手としか話さなかったもので、気を抜くと直ぐに素が出てしまう。
このままでは、いつヴィオラの前でぞんざいな言葉を使ってしまうかわからない。
(いや…もう手遅れか…?)

そんなことを考えながら、学園長に待ってきた書類を渡すと、今度は自分の研究室に案内された。

学園の北側は、壁も廊下も薄い緑色。
結界の外側は、全てこの色だ。
王都貴族の子女達が、この緑の空間を好ましく思っていないことは、今日学園を見回った時に分かっている。
こちら側は研究室と、郊外から来ている領地経営学科の教室が多いのもそのためだ。

デイビッドの研究室は、一階の角部屋。南向きでよく日が入る。
(ずいぶん広い部屋だな!)
しかし建物の端のため、今まで使われていなかった様だ。
(ちゃんとキレイにしてある…よし、そろそろエリックを呼んでやるか。)


エリックは、主人がいなくて不機嫌なムスタを馬房に繋ぎ、他の案内で先に裏庭で待っていた。

「遅いですよ!大荷物なんですから、早く運んじゃって下さい!」

「すまん、今鍵を開ける。」

研究室の一番奥には、最新式のオーブンを運び入れ、日持ちする食材と調味料、調理器具や食器を棚にしまう。

「研究室って言うより、厨房って感じしますね。」

「まだこれからだろ…」

日の当たらない棚には、持って来た本を入れ、筆記具と顕微鏡も隙間に押し込む。
工具に細工用の刃物類。何故か狩猟道具。そして部屋の隅に商会で売り出し中の大きなカウチ。

「これ…あんた自分の部屋に帰らないつもりでしょ…」

「そんなこと無いだろ…?!」

「もうここで寝起きして日々を過ごすデイビッド様の未来が見えましたよ!!」

教師は家に帰る教員の方が多いが、寮に入る事もできる。
2人は既に、男子寮に部屋を割り当てられているが、横になれる空間があれば、どこででも寝られるデイビッドは、もうここで生活するに決まっている。
そうエリックは確信した。

鉢植えの植物に、種や花粉のサンプル。魔物系の素材もある。

外は園庭から少し離れた空間になっていて、植え込みの木が目隠しに丁度いい。
北側は一面がレンガで、これは学園の囲いの壁だ。
デイビッドは建物と壁の隙間に、色々押し込まれているのを見つけた。

「ああ…人目がないから、ゴミ捨て場か不用品置き場にされてたみたいですね」

「見ろよ、古いレンガがあんなに!」

デイビッドは早速クモの巣まみれの空間に入って行き、レンガをかき集めた。
こうなると、もう人の話は聞かない事を良~く知っているエリックは、さっさと自分の荷物を持って寮へ向かってしまった。

デイビッドはそんなことは気にせず、一人で(何故か持って来た)モルタルを練ると、水吹きしたレンガを積み上げ始めた。
竈門部分はすぐ組めるので、薄い板を曲げてアーチを作り、その上にレンガを組んでドーム型にすると、モルタルで隙間を埋めて行く。
手慣れた手付きで窯を組むと、隣に覆いのない平たい竈門も作ってしまう。
(オーブンも良いけど、これはこれで必要なんだよ!)
本当に?と、どこかからエリックの声が聞こえてきそうな気もするが…

それが終わると、荷馬車の木箱から布に包んだ種をそっと取り出し、温室へと向かって行った。


廊下に出ると再び視線が集まる。
皆埃だらけで薄汚れたデイビッドに驚き、誰も近づいて来ない。

温室には管理人が数人いて、夜間でも常に誰かがいるそうだ。
デイビッドは入り口で埃をはたき、靴を脱いで靴底を叩いて水で流し、消毒布を踏んでから中へ入った。

「流石ですね。」

管理人を探していると後ろから声がした。
植木鉢を手にした細身の男性が、嬉しそうによって来ると、軽く会釈した。

「ベルダと申します。ここの主任です。」

「初めまして、デイビッド・デュロックです。」

「堅苦しいのはよそうか、僕はあまり人付き合いが得意じゃなくてね。気楽に話そう。」

「その方がありがたいな。よろしくベルダ先生。」

「しかし君は本当に良くわかってくれているね!そうなんだよ!靴底は一番危険なんだ!外の土や雑菌は温室には厳禁!入り口に消毒用のマットを用意しているが、濡れるのが嫌で皆避けて行く。それじゃ意味がないのに!あれ程丁寧に気を遣ってくれる人が来てくれて、僕は嬉しいよ!」

ベルダは余程嬉しかったのか、見た目に反してグイグイ喋る。

「俺もここには世話になる予定だからな。ところで、ちょっと厄介な種の発芽に挑戦したいんだが、協力してもらえるだろうか?」

「喜んで力になるよ!どんな条件が必要なんだい?!」

「これはポナといって、南方の川や湖で流されながら発芽する植物なんだ。根が伸びると浅瀬の水草に絡んで根付く性質を持っている。流れがないと育たないんで、手を焼いててな…」

「それなら、蓮を育てる池に水を循環させる装置があるから、そこに放してみよう!待てよ、上から水を流し続けたら発芽しないかな?小滝に固定できるよう工夫してみようか!」

「葉が伸びたら、根を絡められる場所がいるんだが…」

「人工の浮島で代用できるかな?それとも自生の植物の方が良いか…いやぁ楽しくなってきた!ありがとう!今後の課題と楽しみができたよ!」

「これは薬草なんだ。現地では皮むけや火傷に使ってた。栽培方法と効果が実証できれば、住民の収入になる!ベルダ先生、よろしくお願いします!」

「任せてくれたまえ!」

ベルダはもう種に夢中で、頭の中であれこれ検証を始めていた。
デイビッドはその様子を見て安心すると、片付けの途中な研究室へ戻って行った。



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