黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

お悩み解決

「と言っても、俺の知ってる話をするだけだから、教科書なんかも無いんだよなぁ。そうだ、逆に聞きたい事は無いか?領地に関することなら、個人的なことでもいい。ここにいる生徒はほとんど、将来は自領の管理に関わると聞いてる。なんかあるだろ?何でもいいぞ?!」

うろたえるような空気の中、今度はおそるおそる手が上がった。

「お!君は?」

「あ…あの…ウィル・ロックス、1年生です…じ…実は父が昨年、新しいトウモロコシを仕入れて領地で作らせてみたんですが、ひとつも実らなくて、他の作物はうまくいったのに、なんでかずっとわからないんです…けど…」

「いい質問をありがとう!これで話が進められる。じゃぁ聞いていくが、仕入れたトウモロコシの種類は分かるか?」

「名前は分からなくて…ただ種はちょっと白っぽいような気がしました。」

「大きさは?」

「確か僕の親指の爪くらいの大きさで…すごく甘くなるって言われて買い付けたんです。父は騙されたんじゃないかって…」

「うーん…おそらく、最近できたホワイトコーンの仲間だな。発芽率はどうだった?」

「順調でした。花までは咲いたんですけど、ひとつも実らなくて…実ってもみんな萎んでて、種すら残りませんでした…」

「病気の可能性は?」

「無いと思います。近くに植えてた別のトウモロコシは全部元気で、収穫量も充分でした…」

「原因はそれだ!このホワイト種はえらくデリケートなんだ。周囲に他のトウモロコシや交配の可能な雑草が生えてるとあっという間に花粉が混ざって駄目になる。周辺十キロ内には同意種の植物を、植えない!生やさない!持ち込まない!これを徹底すると最高に糖度の高いトウモロコシができる。元々トウモロコシを育てている領地では難しい条件だが、作付けの無い土地で新しく始めるなら、取引も高額になるからちょっとおすすめだぞ?!」

ウィルと名乗った生徒は、話を聞きながら必死にノートを取っていた。

「ありがとうございますっ!すぐ父に知らせます!」

「よし!じゃ次は…」

デイビッドが見回すと、今度は3人が同時に手を挙げた。

「じゃ端から、窓際の君!」

「はいっ!ロバート・ラインです!数年前の大雨でトマトが全滅して大打撃を受けました!以降何度植えてもトマトがうまく育ちません。トマト畑の回復でいい方法ありますか!」

「災難だったな。まずいきなりトマトを植えずに豆を育てるといい。豆が採れたら次は芋。芋は春と秋の2回植えて収穫すると土地が安定する。時間はかかるが、確実に土を戻すならこの方法が良いと俺は思うぞ。そうしたら畝を2倍の高さに盛って、トマトをまずは苗で植えること。何回か苗で育ててうまくいったら種を撒いても問題ない。ライン印のトマトは有名だからな。ここ何年か市場に出なくて心配してたんだ。話が聞けて良かった!ライン男爵にもよろしく伝えてくれ。」

「ち…父をご存知なんですね…デイビッド先生、ありがとうございます!」

「それじゃ次は…」

「はいっ私!カロリーナ・レイン!イチゴを甘くしたいです!!」

「勢いがいいな!しかしレイン領でイチゴは育ててたっけか?」

「いいんです!私は私の好きな物を作りたいんです!イチゴが何しても酸っぱいのをどうにかしたいんです!!」

「果実の酸味かぁ…肥料は何を?」

「春に腐葉土を敷いて、油かすをすき込んだら石灰を撒いて、堆肥を差したら赤土を溶いた水を与えています!」

「色々してるんだなぁ。エライもんだ。だが、確かにそれだけじゃ甘くならないな。油かすは何を与えてる?」

「菜種の油が取れるので、その搾りかすを乾かして使っています。」

「すき込む時期は?」

「花芽が出る前です!」

「まず、油かすは発酵させた方が良い。油かすと水を1対10で混ぜて一ヶ月程日当たりのいい場所に置いた物の上澄みを根本に撒いてみてくれ。植え付けの2週間前が望ましいな。それから骨粉を与えてみるといい。牛や豚の骨から油を抜いて粉にするか、高温で焼いて灰にしたものを葉と茎に掛からないように、土の浅い所に混ぜておくと甘みが増す。あとは…そうだな、蜂はいないのか?」

「蜂…?あ!蜂蜜を与えてみるとか?!」

「違う違う!養蜂までいかなくとも、蜜蜂の巣箱が近くにあると果実が形良く均等に育つんだ。形の整った実には栄養がまんべんなく行き渡るから、甘さの偏りが防げる。蜂に任せれば受粉も早くて取りこぼしもないしな。帝国じゃ果物農家では主流になりつつあるそうだ。うまくすればハチミツも採れて一石二鳥だ。試してみる価値はあると思うぞ?」

「骨粉…蜂…わかりました!次こそ甘いイチゴを作ります!」

「あの親父さんを説き伏せるのは骨かと思うが…まぁ趣味の範囲なら見逃してもらえると思うぞ…?」

「う…がんばります!」

「それじゃもうひとり、君は?」

「クレイグ・マーロウ、2年生です…あの、畑のことじゃなくてもいいですか?」

「もちろん!なんでもいいから言ってみてくれ。」

「僕の所ではワインが特産品なんですが、品質がどうも落ちてきて、美味しくなくなってしまうんです…どうしたら良いでしょうか?」

「マーロウ産のワインか!あー…確かに、コンディションが落ちてるとは感じたな…味が落ちてると分かるのはどの段階から?」

「それが…醸造中は問題が無いんです。ボトリングして熟成してる内におかしくなってしまって…」

「…すまん、少し時間が欲しい。調べてみたい!今ワインは出荷してるのか?」

「いえ、納得のいく出来にならなかったので、領地で保管してます。」

「特別に送ってもらえないだろうか?もし、企業秘密を含むなら誓約書も書くし、公表もしないと約束するぞ?!」

「本当ですか?父に頼んでみます!よろしくお願いします!」

「……とまぁ、こんな感じでこれからも進めていきたい。俺ひとり喋っててもつまんないしな。次の授業は来週か、それまでにひとりひとつ課題を持ってきてくれ。すぐ答えられるものならその日に。さっきの話みたいな実物や実験の必要なものはちょい時間が掛かるが、なるべく早めに答えが出せるように努力するよ。そんな感じでよろしく頼む!」

デイビッドが教室を見渡すと、誰かの拍手が聞こえた。
それは一気に広まって、皆がデイビッドに大きな拍手を送る。

「お…おお!なんか…思ってたのと違うな…まぁ!あれだ!気軽にいこう、気軽に!ってとこで今日はコレまで!はい、解散!」

気恥ずかしさと気まずさから、そそくさと教室から逃げ出すと、廊下にはなんと学科の教員達が並んで立っていた。


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