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黒豚特別非常勤講師
以外な特技
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「これがデュロックの伝説…」
誰かが小声でつぶやいた。
商人の間で囁かれているデュロック伯爵家の言い伝え。
[デュロックが歩く後ろには、幸福の足跡が残る。]
デイビッドはそのデュロックを担う次期当主。
その話が直に聞ける事に、その場の全員が感動していた。
「はい!果物も加工場があるんですか?!」
また誰かの質問が飛び出す。
「果実は、元々あった農家で買い付けてたら、大陸側じゃ良い値で売れる話が広まって、勝手にデカくなってった。今はキズやワケありの処理をどうするかで煮詰まってる…」
「ジュースとかダメですか?」
「ジュースだけじゃ消費が追いつかん!もっと作ったらドカンと売れるような商品じゃないと廃棄が増えるばっかりで困ってる所だ!ジュース、ジャム、シャーベット、冷やすにしてもコストがかかるし、輸送には耐えられない…今、うまいこと酒にできないか考案中だ…ただ、気候が合わないのか上手くは行ってない。アイデア募集中ってことだな…」
「わかりました!課題にします!いい案がでたら採用して下さい!ロイヤリティ付けて!」
「迂闊なことが言えねぇ!怖っ!商業科怖っ!!」
その後も、極限まで細くした糸で織られた布の話や、航海中の品質管理など、隙あらば質問が飛んでくる中、ようやく終業の鐘が鳴った。
「はぁ…今日はこれまでだ!次回は運河の所から話す。それじゃ解散!」
「先生!最後にひとつだけ!」
「…なんだ?」
「先生は恋人か婚約者はいるんですか?」
「……………ノーコメントだ……」
最後に無表情で教室を出たデイビッドは、ぐったり疲れてしまい、エリックの気持ちがこれでもかと理解できた。
(なるほど、人の視線を浴びるってのは疲れるな…)
デイビッドがふらふらになり、研究室へ戻ると部屋の真ん中でレコードをかけながらエリックが踊っていた。
「次から次へと今日はなんなんだ?」
「ちょっと黙ってて下さい。来週の課題なんです。」
「ほー、帝国のステップか。メリハリ効いてて迫力あるけど、テンポ速くて足捌き難しいよな。」
「そうそう、それでちょっと練習しなきゃで…って今なんて?!」
「回るとこ多いし、もつれたら立て直すまでに時間食うし、目線外して離れるとこなんか、相手気遣ってタイミング合わせなきゃで、目が回っちまうよ。」
「え?…おど…れる…ひと?」
「エルム帝国はダンスを神聖視しててな。貴族は何を置いてもまず踊れる事が必須条件なんだ。余興で踊れって言われた時に、アザーレア王女に扱かれて覚えた。」
「踊ったんですか?!第二王女と?!」
「いや、向こうの方が背が高いから無理だった。2人で練習して、あらかた覚えた所で女性のステップだったと気が付いてお互い絶望したんだ。で、仕方ないから専属のコーチを付けてもらって猛特訓して、当日妹の方と踊った。」
「結局王女と踊ってるじゃないですか!?」
「いやぁ…正直トンネル掘ってる方が楽だと思ったよ…」
デイビッドはレコードの針を少し戻すと、呆けているエリックの手をグイッと掴んだ。
「え!??デイビッド様ちょっと!!」
「そのまま足を出すと相手の裾を踏んじまう、本番はつま先で軽く床を払うように足を付ける方が丁寧だ。踵は踏み込む時以外つかない。ターンは足で回るな!身体を回せ!キレよく、ワン・ツーで戻って来い。身体の正面は女性の足が出やすいから、なるべくサイドを取って避けられるように。背中は丸めるな!フィニッシュは腰をもっと捻って相手と交差する様に!ラストは何があっても相手の目を見ろ!…な?できただろ?!じゃあ、ガンバれよ。」
デイビッドは唖然とするエリックの背中を叩いて放り出し、上着を脱ぐとさっさとソファに座り込んだ。
「デイビッド様!ちょっと待って!ねぇ!」
「うるせぇな!まだなんかあんのか?!」
「すっごい良く踊れた!踊りやすかった!でも、もてあそばれた感半端無い!!」
「人聞き悪いな!?リードしてやったんだよ!!」
エリックに背を向け、今日届いた手紙の束を開いていくと、商会からの手紙に魔鉱石を預けた職人からの連絡が入っていた。
研磨はできたものの、仕上がりと指輪の加工に納得がいかず、一度故郷へ戻り仕上げてくるとのこと。
出来上がりは更に一月以上かかるものと思われる。
「そんな……」
そしてアーネストからの手紙が一通。
いずれ視察に行くのでよろしく!と。
「ふざけんな…」
そして3通目。
貴族の紋章入りの手紙には、遠回しに遠回しな文章でデイビッドに対する文句が書かれていた。
いわゆる家門からの抗議文だ。
「エリック!これ、どこの家かわかるか?」
「えー?ああ、フェーラー侯爵家の紋章ですね。ほら、あの青い髪の生徒会にいた…」
「ああ、アイツか。親に泣きつくのが早いなぁ。」
「中にはなんと?」
「生徒と変わらない知識しか無い人間が教壇に上がるなとさ。要は学園から出ていけって話だ。まぁ、学園長にそのまま渡してくるよ。」
「下手したら王族の依頼を邪魔する事になる訳ですからねぇ…ちゃんとそこ伝えたのかな?侯爵もかわいそうに。」
どっこいしょと立ち上がったデイビッドは、冷蔵庫から取り出した何かをオーブンに入れ、学園長の部屋へ向かった。
「エリック!先に言っとく。食うなよ?!」
「う……善処します…」
廊下が青くなり、職員室が見えた頃、突然生徒がわらわらと現れ、後ろと前で囲まれ動けなくなった。
「おいおい…なんだ一体…?」
「デイビッド・デュロック!この間はよくも恥をかかせてくれたな!?生徒会長のお言葉にすら不敬にも口答えして!」
「出たな青髪…」
「この僕!テレンス・フェーラーはデイビッド・デュロックに勝負を申し込む!僕に負けたら」
「あ、お断りしますんで、じゃ…」
「最後まで聞けぇっ!!僕に負けたら大人しくこの学園から居なくなれ!これは貴族の名誉を賭けた決闘」
「あ、そういうの、間に合ってるんで。じゃ…」
「黙れっ!!これは決闘だ!逃げるならそれは負ける事と同義!互いの名誉の為に」
「何の騒ぎじゃ?」
「うるさいっ!最後まで話を…が…学園長先生…?!」
廊下に出てきた学園長が、生徒の壁の向こうから声を掛けると、左右に割れて道ができた。
「フェーラー家から抗議文が来て、その子息から決闘を申し込まれました。」
「なんと、穏やかではないな。しかも決闘だと?剣を交えるつもりか?!」
「そ、そうではありません!互いの知識を比べてどちらがより講師に相応しいか勝負するのです!いくら王太子殿下の勧めとあっても、知識の乏しい者を推薦することはないでしょう?!きっと、より高度な知識を持つ者を認めて下さるはずです!」
テレンスはふんぞり返ってデイビッドを見下ろしていた。
誰かが小声でつぶやいた。
商人の間で囁かれているデュロック伯爵家の言い伝え。
[デュロックが歩く後ろには、幸福の足跡が残る。]
デイビッドはそのデュロックを担う次期当主。
その話が直に聞ける事に、その場の全員が感動していた。
「はい!果物も加工場があるんですか?!」
また誰かの質問が飛び出す。
「果実は、元々あった農家で買い付けてたら、大陸側じゃ良い値で売れる話が広まって、勝手にデカくなってった。今はキズやワケありの処理をどうするかで煮詰まってる…」
「ジュースとかダメですか?」
「ジュースだけじゃ消費が追いつかん!もっと作ったらドカンと売れるような商品じゃないと廃棄が増えるばっかりで困ってる所だ!ジュース、ジャム、シャーベット、冷やすにしてもコストがかかるし、輸送には耐えられない…今、うまいこと酒にできないか考案中だ…ただ、気候が合わないのか上手くは行ってない。アイデア募集中ってことだな…」
「わかりました!課題にします!いい案がでたら採用して下さい!ロイヤリティ付けて!」
「迂闊なことが言えねぇ!怖っ!商業科怖っ!!」
その後も、極限まで細くした糸で織られた布の話や、航海中の品質管理など、隙あらば質問が飛んでくる中、ようやく終業の鐘が鳴った。
「はぁ…今日はこれまでだ!次回は運河の所から話す。それじゃ解散!」
「先生!最後にひとつだけ!」
「…なんだ?」
「先生は恋人か婚約者はいるんですか?」
「……………ノーコメントだ……」
最後に無表情で教室を出たデイビッドは、ぐったり疲れてしまい、エリックの気持ちがこれでもかと理解できた。
(なるほど、人の視線を浴びるってのは疲れるな…)
デイビッドがふらふらになり、研究室へ戻ると部屋の真ん中でレコードをかけながらエリックが踊っていた。
「次から次へと今日はなんなんだ?」
「ちょっと黙ってて下さい。来週の課題なんです。」
「ほー、帝国のステップか。メリハリ効いてて迫力あるけど、テンポ速くて足捌き難しいよな。」
「そうそう、それでちょっと練習しなきゃで…って今なんて?!」
「回るとこ多いし、もつれたら立て直すまでに時間食うし、目線外して離れるとこなんか、相手気遣ってタイミング合わせなきゃで、目が回っちまうよ。」
「え?…おど…れる…ひと?」
「エルム帝国はダンスを神聖視しててな。貴族は何を置いてもまず踊れる事が必須条件なんだ。余興で踊れって言われた時に、アザーレア王女に扱かれて覚えた。」
「踊ったんですか?!第二王女と?!」
「いや、向こうの方が背が高いから無理だった。2人で練習して、あらかた覚えた所で女性のステップだったと気が付いてお互い絶望したんだ。で、仕方ないから専属のコーチを付けてもらって猛特訓して、当日妹の方と踊った。」
「結局王女と踊ってるじゃないですか!?」
「いやぁ…正直トンネル掘ってる方が楽だと思ったよ…」
デイビッドはレコードの針を少し戻すと、呆けているエリックの手をグイッと掴んだ。
「え!??デイビッド様ちょっと!!」
「そのまま足を出すと相手の裾を踏んじまう、本番はつま先で軽く床を払うように足を付ける方が丁寧だ。踵は踏み込む時以外つかない。ターンは足で回るな!身体を回せ!キレよく、ワン・ツーで戻って来い。身体の正面は女性の足が出やすいから、なるべくサイドを取って避けられるように。背中は丸めるな!フィニッシュは腰をもっと捻って相手と交差する様に!ラストは何があっても相手の目を見ろ!…な?できただろ?!じゃあ、ガンバれよ。」
デイビッドは唖然とするエリックの背中を叩いて放り出し、上着を脱ぐとさっさとソファに座り込んだ。
「デイビッド様!ちょっと待って!ねぇ!」
「うるせぇな!まだなんかあんのか?!」
「すっごい良く踊れた!踊りやすかった!でも、もてあそばれた感半端無い!!」
「人聞き悪いな!?リードしてやったんだよ!!」
エリックに背を向け、今日届いた手紙の束を開いていくと、商会からの手紙に魔鉱石を預けた職人からの連絡が入っていた。
研磨はできたものの、仕上がりと指輪の加工に納得がいかず、一度故郷へ戻り仕上げてくるとのこと。
出来上がりは更に一月以上かかるものと思われる。
「そんな……」
そしてアーネストからの手紙が一通。
いずれ視察に行くのでよろしく!と。
「ふざけんな…」
そして3通目。
貴族の紋章入りの手紙には、遠回しに遠回しな文章でデイビッドに対する文句が書かれていた。
いわゆる家門からの抗議文だ。
「エリック!これ、どこの家かわかるか?」
「えー?ああ、フェーラー侯爵家の紋章ですね。ほら、あの青い髪の生徒会にいた…」
「ああ、アイツか。親に泣きつくのが早いなぁ。」
「中にはなんと?」
「生徒と変わらない知識しか無い人間が教壇に上がるなとさ。要は学園から出ていけって話だ。まぁ、学園長にそのまま渡してくるよ。」
「下手したら王族の依頼を邪魔する事になる訳ですからねぇ…ちゃんとそこ伝えたのかな?侯爵もかわいそうに。」
どっこいしょと立ち上がったデイビッドは、冷蔵庫から取り出した何かをオーブンに入れ、学園長の部屋へ向かった。
「エリック!先に言っとく。食うなよ?!」
「う……善処します…」
廊下が青くなり、職員室が見えた頃、突然生徒がわらわらと現れ、後ろと前で囲まれ動けなくなった。
「おいおい…なんだ一体…?」
「デイビッド・デュロック!この間はよくも恥をかかせてくれたな!?生徒会長のお言葉にすら不敬にも口答えして!」
「出たな青髪…」
「この僕!テレンス・フェーラーはデイビッド・デュロックに勝負を申し込む!僕に負けたら」
「あ、お断りしますんで、じゃ…」
「最後まで聞けぇっ!!僕に負けたら大人しくこの学園から居なくなれ!これは貴族の名誉を賭けた決闘」
「あ、そういうの、間に合ってるんで。じゃ…」
「黙れっ!!これは決闘だ!逃げるならそれは負ける事と同義!互いの名誉の為に」
「何の騒ぎじゃ?」
「うるさいっ!最後まで話を…が…学園長先生…?!」
廊下に出てきた学園長が、生徒の壁の向こうから声を掛けると、左右に割れて道ができた。
「フェーラー家から抗議文が来て、その子息から決闘を申し込まれました。」
「なんと、穏やかではないな。しかも決闘だと?剣を交えるつもりか?!」
「そ、そうではありません!互いの知識を比べてどちらがより講師に相応しいか勝負するのです!いくら王太子殿下の勧めとあっても、知識の乏しい者を推薦することはないでしょう?!きっと、より高度な知識を持つ者を認めて下さるはずです!」
テレンスはふんぞり返ってデイビッドを見下ろしていた。
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