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黒豚特別非常勤講師
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「む…こう、ですか?ステイシー先生…仕方ない、問題に不備があったそうだ。よって今の勝負は引き分けだ!」
講堂がどよめき、不満や不安の声が出始める。
「次の勝負は質疑応答形式にする!どうだデイビッド・デュロック。お前のやり方で勝負させてやるぞ?!」
「誰も頼んでないけどな…」
壇上に5人の生徒が上がり、それぞれが抱えている問題について、より良い解決方を提案した方が勝ちとなるらしい。
「では、ひとり目。君の領地では何か問題があるそうだね?!ここで話してみたまえ!」
「えと…僕は、トーマス…トルド男爵の長男です。僕の領地は灰色の森の隣にあって、最近魔物の被害に悩まされてるんです…」
灰色の森というのは、大陸に点在する、魔素の湧きやすい土地の呼び名のひとつ。
魔素の湧く場所は魔物が住む土地なので、どこの地域も立ち入りを規制し、扱いも慎重だ。
その最たるものがデュロック領の黒の森に当たる。
「魔物被害か!なら簡単だよ、最新式の魔物避けの装置が出来たのを知ってるかい?それを森に向けて置けば良い!そうすれば魔物は領地内には入って来られない!後は冒険者を雇って見回りさせれば問題解決だ!魔物なんて森から出てこられなければ怖くないからね!」
「…で?その金はどっから出るんだ?」
「へ?」
「魔物避けは装置も、その後の維持管理にも金が掛かる。教会のいい収入源だ。冒険者と言っても、トルド男爵領にギルドはないから、近領から呼ぶにしろ、金が要る。どっから出すんだ?」
「そこは領主の責任だろう?!領民のために出資を惜しむことは…」
「それができない領地もある。トルド男爵領は一昨年の水害で復興中だ。そんな中で大金を動かせってのか?王都の貴族は鬼畜だなぁ…」
「そ…そんな事知らなかったんだから仕方ないだろう?!」
「何の勝負か忘れてんのかコイツ…?しかし…魔物ねぇ…種類はなんだ?」
「はい!角のあるオオカミみたいな奴と、大きなイノシシです。」
「ツノオオカミとグランドボアか…良い毛皮と肉になるんだがなぁ…水害で森の生態が少し変わったようだし…あ~行ってみてぇなぁ…被害は畑と家畜だな?領民は無事か?」
「怪我人は居ますが、まだ死者は出ていません…」
「それも時間の問題だなぁ…どうするか…あ!そういやもうすぐウチの討伐隊が戻って来る時期じゃねぇか!」
「討伐隊ですか?!」
「帝国の依頼で派遣してたんだ。国境の熊狩が終われば、帰りにトルド領近くを通るはずだ。まだ帰還の連絡は無いから、今から知らせれば間に合うはず。良ければそのまま寄らせようか?」
「いいんですか?!」
「ちょっとまて!それこそ金が掛かるじゃないか!しかも自分の懐に入れようなんて汚い奴め!」
「いや、ウチの討伐部隊は国内無料で派遣してるんだよ。その代わり獲物の3割を受け取ってる。それでもいいか?」
「もちろんです!あ…ありがとうございます!!」
こうして最初の1点はデイビッドが取った。
「クソっ汚い手を使やがって…」
「汚かったか?今の?」
「で、では次の生徒!出てきてくれ!」
次の生徒は前に出ると、少しうつむきがちに話し出した。
「ぼ…ボクはノール。ボクの故郷、マリ砂漠の近くで、何年か置きに、大量のバッタ被害に悩ンでます。いつ来るかわからない、でも凄い被害が出マす。」
「次は蝗害か…」
「これはもう農薬と殺虫剤の散布しかないよね。飛来したバッタは人を集めて駆除していくしか方法が無い!地道だけど、いつ起こるかわからない以上、設備を整えて備えるしかないでしょ?!」
「(何故俺に向かって言う…?)…ところで…」
デイビッドは生徒に向き直り、質問を続けた。
「君は帝国人?」
「そ…そうです。留学生です…」
『 だが、その様子だとこっちの言葉の方が楽なんじゃないか? 』
『 話せるんですか?砂族の言葉が?! 』
デイビッドが不思議な言葉で話しかけると、この生徒も嬉しそうに同じ言葉で返した。
「え?何語?帝国語じゃないの?」
テレンスも周りも置き去りにして、二人の会話は続く。
『 顔立ちとイントネーションでそうだと思った!砂族には前に助けてもらった事があってな。マリ砂漠は広大だ。蝗害も被害は内地とは比べ物にならないだろう? 』
『 はい、5年前は村の三分の一が亡くなりました… 』
『 以前、マリ砂漠で名の無い流浪の一族に教えてもらったことがあるんだが、赤い目玉のバッタを探すといいらしい。 』
『 赤い目の…?バッタですか? 』
『 体は砂色で目立たないが、紅玉のような赤い目玉をしてる。そのバッタ自体はすごく弱いんだ。大量のバッタは大量の卵から産まれる。蝗害となるバッタがそのタマゴを産むために縄張りを広げると、 夏に南風に乗って砂漠の外へ逃げて来るそうだ。だから赤目のバッタが見つかった次の年は蝗害の可能性が高くなる。 』
『 故郷では赤目のバッタは神の使いと言われています…あれは本当の話だったのか! 』
『 時期が読めれば、土中の作物を中心に作ったり、人を集めたり、薬剤なんかも揃えて対策が打てる。後は地下茎の救荒植物を増やして、栗や胡桃や団栗を育てていくと、いざという時に飢えから逃れる事ができるんだが…砂漠沿いで植林は難しいか? 』
『 街道沿いなら、なんとかなると思います! 』
『 砂漠の民が土に馴染むには時間が掛かるだろうが、君が担い手のひとりなら安心だな!? 』
『 僕はそんな… 』
『 帝国語に共通語まで覚えて勉強しに来たんだろう?優秀じゃないか!これからが楽しみだ! 』
「あ…ありがとう…ございます…」
「え?え?なに?何の話だったの?」
「帝国の移入民の話だ。蝗害対策ならお前の案でもいいが、砂漠には砂漠のやり方があるってことだ。」
「そ、そんなの認めない!誰にも伝わらない話なんて、不正と同じだ!」
「いいえ。僕は帝国民とシて、砂漠の民の誇りを持って、デイビッド様に感謝を捧げまス。僕の分の点数はデイビッド様のモノです。」
立ち上がったノールは、胸に手を当てデイビッドに深く礼をした。
「くっ……しかたない…では次だ!」
「はいはーい!次は僕が聞く番ですよ!」
今度は、水色の髪の青年が、元気よく飛び出してきた。
「僕はリュカルド!グリュース侯爵家の次男だよ。って、この人以外は皆知ってるか!アハハッ!」
やたら明るく振る舞うくせに、デイビッドに向ける目線は嫌悪と侮蔑を含んでいる。
いわゆる面倒臭い相手だな、とデイビッドは思った。
講堂がどよめき、不満や不安の声が出始める。
「次の勝負は質疑応答形式にする!どうだデイビッド・デュロック。お前のやり方で勝負させてやるぞ?!」
「誰も頼んでないけどな…」
壇上に5人の生徒が上がり、それぞれが抱えている問題について、より良い解決方を提案した方が勝ちとなるらしい。
「では、ひとり目。君の領地では何か問題があるそうだね?!ここで話してみたまえ!」
「えと…僕は、トーマス…トルド男爵の長男です。僕の領地は灰色の森の隣にあって、最近魔物の被害に悩まされてるんです…」
灰色の森というのは、大陸に点在する、魔素の湧きやすい土地の呼び名のひとつ。
魔素の湧く場所は魔物が住む土地なので、どこの地域も立ち入りを規制し、扱いも慎重だ。
その最たるものがデュロック領の黒の森に当たる。
「魔物被害か!なら簡単だよ、最新式の魔物避けの装置が出来たのを知ってるかい?それを森に向けて置けば良い!そうすれば魔物は領地内には入って来られない!後は冒険者を雇って見回りさせれば問題解決だ!魔物なんて森から出てこられなければ怖くないからね!」
「…で?その金はどっから出るんだ?」
「へ?」
「魔物避けは装置も、その後の維持管理にも金が掛かる。教会のいい収入源だ。冒険者と言っても、トルド男爵領にギルドはないから、近領から呼ぶにしろ、金が要る。どっから出すんだ?」
「そこは領主の責任だろう?!領民のために出資を惜しむことは…」
「それができない領地もある。トルド男爵領は一昨年の水害で復興中だ。そんな中で大金を動かせってのか?王都の貴族は鬼畜だなぁ…」
「そ…そんな事知らなかったんだから仕方ないだろう?!」
「何の勝負か忘れてんのかコイツ…?しかし…魔物ねぇ…種類はなんだ?」
「はい!角のあるオオカミみたいな奴と、大きなイノシシです。」
「ツノオオカミとグランドボアか…良い毛皮と肉になるんだがなぁ…水害で森の生態が少し変わったようだし…あ~行ってみてぇなぁ…被害は畑と家畜だな?領民は無事か?」
「怪我人は居ますが、まだ死者は出ていません…」
「それも時間の問題だなぁ…どうするか…あ!そういやもうすぐウチの討伐隊が戻って来る時期じゃねぇか!」
「討伐隊ですか?!」
「帝国の依頼で派遣してたんだ。国境の熊狩が終われば、帰りにトルド領近くを通るはずだ。まだ帰還の連絡は無いから、今から知らせれば間に合うはず。良ければそのまま寄らせようか?」
「いいんですか?!」
「ちょっとまて!それこそ金が掛かるじゃないか!しかも自分の懐に入れようなんて汚い奴め!」
「いや、ウチの討伐部隊は国内無料で派遣してるんだよ。その代わり獲物の3割を受け取ってる。それでもいいか?」
「もちろんです!あ…ありがとうございます!!」
こうして最初の1点はデイビッドが取った。
「クソっ汚い手を使やがって…」
「汚かったか?今の?」
「で、では次の生徒!出てきてくれ!」
次の生徒は前に出ると、少しうつむきがちに話し出した。
「ぼ…ボクはノール。ボクの故郷、マリ砂漠の近くで、何年か置きに、大量のバッタ被害に悩ンでます。いつ来るかわからない、でも凄い被害が出マす。」
「次は蝗害か…」
「これはもう農薬と殺虫剤の散布しかないよね。飛来したバッタは人を集めて駆除していくしか方法が無い!地道だけど、いつ起こるかわからない以上、設備を整えて備えるしかないでしょ?!」
「(何故俺に向かって言う…?)…ところで…」
デイビッドは生徒に向き直り、質問を続けた。
「君は帝国人?」
「そ…そうです。留学生です…」
『 だが、その様子だとこっちの言葉の方が楽なんじゃないか? 』
『 話せるんですか?砂族の言葉が?! 』
デイビッドが不思議な言葉で話しかけると、この生徒も嬉しそうに同じ言葉で返した。
「え?何語?帝国語じゃないの?」
テレンスも周りも置き去りにして、二人の会話は続く。
『 顔立ちとイントネーションでそうだと思った!砂族には前に助けてもらった事があってな。マリ砂漠は広大だ。蝗害も被害は内地とは比べ物にならないだろう? 』
『 はい、5年前は村の三分の一が亡くなりました… 』
『 以前、マリ砂漠で名の無い流浪の一族に教えてもらったことがあるんだが、赤い目玉のバッタを探すといいらしい。 』
『 赤い目の…?バッタですか? 』
『 体は砂色で目立たないが、紅玉のような赤い目玉をしてる。そのバッタ自体はすごく弱いんだ。大量のバッタは大量の卵から産まれる。蝗害となるバッタがそのタマゴを産むために縄張りを広げると、 夏に南風に乗って砂漠の外へ逃げて来るそうだ。だから赤目のバッタが見つかった次の年は蝗害の可能性が高くなる。 』
『 故郷では赤目のバッタは神の使いと言われています…あれは本当の話だったのか! 』
『 時期が読めれば、土中の作物を中心に作ったり、人を集めたり、薬剤なんかも揃えて対策が打てる。後は地下茎の救荒植物を増やして、栗や胡桃や団栗を育てていくと、いざという時に飢えから逃れる事ができるんだが…砂漠沿いで植林は難しいか? 』
『 街道沿いなら、なんとかなると思います! 』
『 砂漠の民が土に馴染むには時間が掛かるだろうが、君が担い手のひとりなら安心だな!? 』
『 僕はそんな… 』
『 帝国語に共通語まで覚えて勉強しに来たんだろう?優秀じゃないか!これからが楽しみだ! 』
「あ…ありがとう…ございます…」
「え?え?なに?何の話だったの?」
「帝国の移入民の話だ。蝗害対策ならお前の案でもいいが、砂漠には砂漠のやり方があるってことだ。」
「そ、そんなの認めない!誰にも伝わらない話なんて、不正と同じだ!」
「いいえ。僕は帝国民とシて、砂漠の民の誇りを持って、デイビッド様に感謝を捧げまス。僕の分の点数はデイビッド様のモノです。」
立ち上がったノールは、胸に手を当てデイビッドに深く礼をした。
「くっ……しかたない…では次だ!」
「はいはーい!次は僕が聞く番ですよ!」
今度は、水色の髪の青年が、元気よく飛び出してきた。
「僕はリュカルド!グリュース侯爵家の次男だよ。って、この人以外は皆知ってるか!アハハッ!」
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