黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

文字の大きさ
29 / 411
黒豚特別非常勤講師

問題を解こう

しおりを挟む
「む…こう、ですか?ステイシー先生…仕方ない、問題に不備があったそうだ。よって今の勝負は引き分けだ!」

講堂がどよめき、不満や不安の声が出始める。

「次の勝負は質疑応答形式にする!どうだデイビッド・デュロック。お前のやり方で勝負させてやるぞ?!」

「誰も頼んでないけどな…」

壇上に5人の生徒が上がり、それぞれが抱えている問題について、より良い解決方を提案した方が勝ちとなるらしい。

「では、ひとり目。君の領地では何か問題があるそうだね?!ここで話してみたまえ!」

「えと…僕は、トーマス…トルド男爵の長男です。僕の領地は灰色の森の隣にあって、最近魔物の被害に悩まされてるんです…」

灰色の森というのは、大陸に点在する、魔素の湧きやすい土地の呼び名のひとつ。
魔素の湧く場所は魔物が住む土地なので、どこの地域も立ち入りを規制し、扱いも慎重だ。
その最たるものがデュロック領の黒の森に当たる。


「魔物被害か!なら簡単だよ、最新式の魔物避けの装置が出来たのを知ってるかい?それを森に向けて置けば良い!そうすれば魔物は領地内には入って来られない!後は冒険者を雇って見回りさせれば問題解決だ!魔物なんて森から出てこられなければ怖くないからね!」

「…で?その金はどっから出るんだ?」

「へ?」

「魔物避けは装置も、その後の維持管理にも金が掛かる。教会のいい収入源だ。冒険者と言っても、トルド男爵領にギルドはないから、近領から呼ぶにしろ、金が要る。どっから出すんだ?」

「そこは領主の責任だろう?!領民のために出資を惜しむことは…」

「それができない領地もある。トルド男爵領は一昨年の水害で復興中だ。そんな中で大金を動かせってのか?王都の貴族は鬼畜だなぁ…」

「そ…そんな事知らなかったんだから仕方ないだろう?!」

「何の勝負か忘れてんのかコイツ…?しかし…魔物ねぇ…種類はなんだ?」

「はい!角のあるオオカミみたいな奴と、大きなイノシシです。」

「ツノオオカミとグランドボアか…良い毛皮と肉になるんだがなぁ…水害で森の生態が少し変わったようだし…あ~行ってみてぇなぁ…被害は畑と家畜だな?領民は無事か?」

「怪我人は居ますが、まだ死者は出ていません…」

「それも時間の問題だなぁ…どうするか…あ!そういやもうすぐウチの討伐隊が戻って来る時期じゃねぇか!」

「討伐隊ですか?!」

「帝国の依頼で派遣してたんだ。国境の熊狩が終われば、帰りにトルド領近くを通るはずだ。まだ帰還の連絡は無いから、今から知らせれば間に合うはず。良ければそのまま寄らせようか?」

「いいんですか?!」

「ちょっとまて!それこそ金が掛かるじゃないか!しかも自分の懐に入れようなんて汚い奴め!」

「いや、ウチの討伐部隊は国内無料で派遣してるんだよ。その代わり獲物の3割を受け取ってる。それでもいいか?」

「もちろんです!あ…ありがとうございます!!」

こうして最初の1点はデイビッドが取った。

「クソっ汚い手を使やがって…」

「汚かったか?今の?」

「で、では次の生徒!出てきてくれ!」

次の生徒は前に出ると、少しうつむきがちに話し出した。

「ぼ…ボクはノール。ボクの故郷、マリ砂漠の近くで、何年か置きに、大量のバッタ被害に悩ンでます。いつ来るかわからない、でも凄い被害が出マす。」  

「次は蝗害か…」

「これはもう農薬と殺虫剤の散布しかないよね。飛来したバッタは人を集めて駆除していくしか方法が無い!地道だけど、いつ起こるかわからない以上、設備を整えて備えるしかないでしょ?!」

「(何故俺に向かって言う…?)…ところで…」

デイビッドは生徒に向き直り、質問を続けた。

「君は帝国人?」

「そ…そうです。留学生です…」

『 だが、その様子だとこっちの言葉の方が楽なんじゃないか? 』

『 話せるんですか?砂族の言葉が?! 』

デイビッドが不思議な言葉で話しかけると、この生徒も嬉しそうに同じ言葉で返した。

「え?何語?帝国語じゃないの?」

テレンスも周りも置き去りにして、二人の会話は続く。

『 顔立ちとイントネーションでそうだと思った!砂族には前に助けてもらった事があってな。マリ砂漠は広大だ。蝗害も被害は内地とは比べ物にならないだろう? 』

『 はい、5年前は村の三分の一が亡くなりました… 』

『 以前、マリ砂漠で名の無い流浪の一族に教えてもらったことがあるんだが、赤い目玉のバッタを探すといいらしい。 』

『 赤い目の…?バッタですか? 』

『 体は砂色で目立たないが、紅玉のような赤い目玉をしてる。そのバッタ自体はすごく弱いんだ。大量のバッタは大量の卵から産まれる。蝗害となるバッタがそのタマゴを産むために縄張りを広げると、 夏に南風に乗って砂漠の外へ逃げて来るそうだ。だから赤目のバッタが見つかった次の年は蝗害の可能性が高くなる。 』

『 故郷では赤目のバッタは神の使いと言われています…あれは本当の話だったのか! 』

『 時期が読めれば、土中の作物を中心に作ったり、人を集めたり、薬剤なんかも揃えて対策が打てる。後は地下茎の救荒植物を増やして、栗や胡桃や団栗を育てていくと、いざという時に飢えから逃れる事ができるんだが…砂漠沿いで植林は難しいか? 』

『 街道沿いなら、なんとかなると思います! 』

『 砂漠の民が土に馴染むには時間が掛かるだろうが、君が担い手のひとりなら安心だな!? 』

『 僕はそんな… 』

『 帝国語に共通語まで覚えて勉強しに来たんだろう?優秀じゃないか!これからが楽しみだ! 』

「あ…ありがとう…ございます…」

「え?え?なに?何の話だったの?」

「帝国の移入民の話だ。蝗害対策ならお前の案でもいいが、砂漠には砂漠のやり方があるってことだ。」

「そ、そんなの認めない!誰にも伝わらない話なんて、不正と同じだ!」

「いいえ。僕は帝国民とシて、砂漠の民の誇りを持って、デイビッド様に感謝を捧げまス。僕の分の点数はデイビッド様のモノです。」

立ち上がったノールは、胸に手を当てデイビッドに深く礼をした。

「くっ……しかたない…では次だ!」

「はいはーい!次は僕が聞く番ですよ!」

今度は、水色の髪の青年が、元気よく飛び出してきた。

「僕はリュカルド!グリュース侯爵家の次男だよ。って、この人以外は皆知ってるか!アハハッ!」

やたら明るく振る舞うくせに、デイビッドに向ける目線は嫌悪と侮蔑を含んでいる。
いわゆる面倒臭い相手だな、とデイビッドは思った。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

国王一家は堅実です

satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。 その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。 国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。 外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。 国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

傍観している方が面白いのになぁ。

志位斗 茂家波
ファンタジー
「エデワール・ミッシャ令嬢!貴方にはさまざな罪があり、この場での婚約破棄と国外追放を言い渡す!」 とある夜会の中で引き起こされた婚約破棄。 その彼らの様子はまるで…… 「茶番というか、喜劇ですね兄さま」 「うん、周囲が皆呆れたような目で見ているからな」  思わず漏らしたその感想は、周囲も一致しているようであった。 これは、そんな馬鹿馬鹿しい婚約破棄現場での、傍観者的な立場で見ていた者たちの語りである。 「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹でもあります。

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

22時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

処理中です...