黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

次から次へ

「デイビッド様ぁぁぁ!!!」

「今度はなんだ?」

貰ったワインで塊肉を煮込んでいたデイビッドは、エプロンで手を拭きながら面倒くさそうにオーブンの火を弱めた。

「頭の変な生徒に絡まれました!!」

「絡ましときゃいいじゃねぇか…」

「デュロック家との契約を切って自分の所に来いとか言われました!!」

「スカウトか。どうするんだ?!」

「嫌ですよ!!絶っっ対に行きたくありません!!」

「じゃ断ればいいじゃねぇか。」

「話が通じないんです!!遠回しに断っても、はっきり言葉にしても!」

その時、ノックもなく研究室のドアが開いた。

「デイビッド・デュロック!出て来なさい!!」

「出たぁっ!!」

「アレか…」

ピンクの巻き髪を揺らしながら、青い目の令嬢がデイビッドに詰め寄った。

「私はマリアンナ・ルルーシェ!貴方が不当に使役しているエリック様についてお話がありますの!」

「俺はなんにもありませんのに…」

「エリック様は由緒正しいハルフェン侯爵家の血筋の方ですわ!母方の旧姓をお使いなのは何か理由があるのでしょう。デュロックのような獣臭い田舎者の下でこき使ってよい存在ではありません!!私の様な高貴な貴族の元にあってこそのお方なのですわ!」

「え…知らんかった。そういや聞いたこと無かったな。」

「そんな事もご存知無いとは、やはり先日の勝負は不正でしたのね!?こんな無知で間の抜けた田舎者に、エリック様は相応しくありません!」

「で?何が言いたいんだ?」

「今すぐエリック様を解放し、今までの無礼を謝罪なさい!!」

「雇ってんのは俺じゃねぇんだけどな。」

「どうしても応じないと言うのなら仕方がありません!貴族として貴方に決闘を申し込みます!」

「…確かに、こりゃ話が通じねぇ…」

「明日の放課後、騎士科の闘技場へ来なさい!私の騎士が相手です!」

「すげぇな。なんかの大衆劇みてぇだ。」

「ルルーシェ侯爵令嬢!決闘などと軽々しく口にしてはなりません!」

「だって、こうでもしなければエリック様の名誉は傷付けられたままですわ!私にお任せ下さい!きっと貴方様を自由にして差し上げます!」

「私は、私の意思でデュロック家にお仕えしているのです!デイビッド様のお側にいる事も、私の自由ではありませんか?どうか私にこれ以上構わないで頂きたい!」

「お可哀想に…もしかして脅されているのでは?大丈夫、私が全て解決して見せますわ。だから安心なさって?!」

「なんと言ったらいいんだ…」

「諦めろエリック。こういう奴は自分の頭ん中で描いた世界の中で生きてんだよ。一度現実見せてやんねぇと、めんどくさい事この上ないぞ?!」

「必ずやエリック様を取り戻してみせますわ!そこのブタ!明日必ず剣を持って闘技場へ来なさい!!」

そう言って、身勝手なピンク頭は去って行った。

「…どうしましょう…」

「なんか、災害みたいな奴だったな…まともに相手してたらこっちがおかしくなりそうだ…」

「どうするんですか?!」

「あー、明日は非番だからいいだろ?」

「そうじゃなくて!!」

「不安か?」

「当たり前じゃないですか!?」

「俺が負けたら、あのピンク頭の従者になるのか…大変そうだな。」

「嫌です!!絶対に!!」

「とりあえず学園長に報告と、ルルーシェだっけか?侯爵家には正式文で抗議しとく。」

デイビッドは鍋の様子を見てからエプロンを外すと、デスクをごそごそして貴族用の文書用紙を探し出し、ペンを走らせる。

「デイビッド様は…なんで何も言わないのですか?主人を巻き込む従者なんて、クビになってもおかしくないでしょう…」

「それを言うなら、変な服着て主人の寝るとこで丸まってる従者も聞いたことないけどな?!」

「明日…どうしましょう…」

「うん?勝ちゃいいんだよ!簡単だろ?」

「それでもし怪我でもしたら!」

「怪我で済むならいいじゃねぇか。ちょっと静かにしてろ、これだけ書いちまう。」

珍しく真面目な顔で抗議文を書き上げると、急いで学園長室へ行き、その途中で特急の郵便を頼んだ。
(これなら今日中には着くだろうな…)

「デイビッド殿!」

「学園長、どうしました?」

「どうもこうも無かろう!生徒が勝手に決闘などと、許されることでは無い!今すぐ中止させねば!」

「ご心配無く。お騒がせしてばかりで申し訳無いが、場所だけお借りしますので、騎士科に許可を取って頂きたいです。」

「はぁ…ルルーシェ侯爵家には学園側からも抗議します。全く、なぜこうも問題ばかり起こす生徒が続くのか…」

「それだけ俺が嫌われてんですよ。」

デイビッドが研究室に戻ると、既にエリックの姿はなかった。


その夜、エリックは研究室に戻らなかった。
デイビッドは、持ってきた荷物の中から布に巻かれた長い剣を取り出し、鞘から引き抜いて月明かりにかざした。
(良く研がれてる。まさか使う事になるとは思ってなかったが…)
ラムダ王国では珍しい、反りの入った片刃刀はデイビッドの手に良く馴染んでいた。

食事もとらず、横にもならず、剣を抱いて座ったまま微睡んでいると、朝になっていた。

デイビッドは基本ものぐさで、無駄な事を嫌う。
素振りをするくらいなら薪割りやクワを振るう方がいいし、走るなら犬の散歩でもした方がマシだと思っている。

そのデイビッドが、剣を構えたまま微動だにせず虚空を見据えている。
エリックが見たら余程の事だと思っただろう。

井戸で水を浴び、剣にも水を滴らせ軽く振るとヒュッと澄んだ音がする。
いつものシャツにいつものベスト。
そして日が傾く頃、腰に剣を差し、闘技場へ向かった。


闘技場には大勢の生徒と教員が集まっていた。
教師の中には中止を求める声もあったが、相手が侯爵家のため強く出られないようだ。
生徒会長まで出張って来て、会場を無駄に盛り上げている。

デイビッドが現れると会場はブーイングする生徒で煩かったが、デイビッドの耳には何も聞こえていないようだった。
闘技場に立っていたのは甲冑を着た剣士だ。
侯爵家の紋章が入っているので、専属の騎士か何かなにかなのだろう。
デイビッドは抜き身を引っ提げ、相手の前に立った。
騎士科のコールマン卿が間に入り、両者に何か言っている。

「双方よろしいか?!これはあくまで試合だ!命の危険があればすぐ止めに入る!」

どうやらこれが学園側から出された条件のようだ。
試合という形を取ることで、何とか貴族同士の諍いである事を否定しようという訳だ。

「それでは、始めっ!!」

コールマン卿の合図と共に、先に動いたのはデイビッドだった。
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