黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

決着

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デイビッドが剣士に向かって走り出すと、突如剣士の剣が炎を纏い、デイビッドに襲いかかった。

魔力の高い者が武術を習い、自身の魔力を使って武器を強化したり、魔力を飛ばして戦う事はある。
いわゆる魔法騎士というものだ。

火柱がデイビッドを包み、会場には歓声が沸き起こった。
が、次の瞬間、袈裟斬りに炎を振り払ったデイビッドが渾身の力で剣士の足元に踏み込み、目にも留まらぬ速さで、すれ違いに剣士の胴を薙ぎ払った。

甲冑が切り裂かれ、剣士が膝をついてうずくまる。

「それまでっ!!勝者デイビッド・デュロック!!!」

興奮した様子のコールマン卿が叫び、会場が一気にどよめいた。

「いいえ、まだですわ!まだ勝負は終わっていません!!立ちなさいテオドール!」

ピンク頭が叫んでも、テオドールと呼ばれた剣士は立ち上がるのが精一杯で、まともに動くことはできない。

「止めとけ。たぶん肋骨が何本かイッてる。帷子を来てくれてて良かった…臓物まで斬っちまったかと思ってひやひやしたぜ……」

呼吸も荒く、汗だくのデイビッドが剣を納め、端の焦げたシャツを叩きながら剣士に話し掛けた。
運ばれて来た担架に乗るのを手伝い、自分も場内から下りて行く。

「デイビッド様!!」

途中でエリックの声が聞こえたが、振り返らずに親指だけぐっと立てて見せると、ふらふらと出口へ歩いて行く。

「デイビッド殿ぉぉ!!!」

そこへ暑苦しいコールマン卿の声が追いかけて来た。

「素晴らしい…本当に素晴らしい試合でした!デイビッド殿!!貴殿がまさか剣士だったとは…見事な剣捌きでした!あの剣はどちらの物なのでしょう?!」

「アレは…知り合いに貰った物なんだ…遠い海の向こうの大陸から来た物らしいが、扱いはかなり難しいぞ。」

場外に出ようとすると、ピンク頭が行く手に立ってこちらを睨んでいた。

「認めない…認めませんわ、こんな試合!デイビッド・デュロック!貴方、どうせまた卑怯な手を使ったのでしょう?!そうとしか考えられませんわ!!」

また面倒な展開になるかと身構えた時、横から誰かが近付いてきた。

「いやぁ!なかなか良い[試合]でしたね?!ルルーシェ侯爵令嬢!」

パチパチと拍手をしながら、にこやかに二人の間に割って入って来たのはなんと、アーネストだった。

「お…王太子殿下?!」

「所要で寄ったら“たまたま”生徒が真剣試合の観戦をするというので、せっかくだから見学させてもらったよ。魔法剣も見事だったが、素晴らしい剣術を見せてもらった。デュロック伯爵令息の今後の活躍が楽しみだ!」

「もったいないオコトバ、ありがとうございますデンカ…」

「ところで、ルルーシェ侯爵令嬢はデュロック家の従者を所望しているそうだね?!」

「あ…えと…それは…」

「すまないが、彼をデュロック家に預けたのは私なんだ。特別な理由があって、デュロック伯爵令息の元で働いてもらっているので、彼には貴女の勧誘を受けることはできない。これは公にはしていない、言わば極秘の任務だ。どうかわかって頂きたいのだが…?!」

「も、もちろんでございます!王太子殿下と関わりのあるお方とは知らず、大変失礼致しましたわ!深く反省致します…」

「謝るのは私にではないだろう?」

ルルーシェ侯爵令嬢は悔しそうにデイビッドを睨んだが、王太子の前ということもあり、大人しく頭を下げた。

「大変、申し訳ありませんでした…デュロック伯爵令息…」

「…これ以上関わらないで頂けるなら…」

「二人共これでもういいかな?それでは私も帰るとしよう。」

アーネストは小さくデイビッドに合図し、先に歩き出した。

「…覚えていなさいブタ男!!」

ピンク頭は懲りずにデイビッドに向かって捨て台詞を吐き、小走りに会場から出て行った。
デイビッドも歩き出し、教員室の前を通ると、アーネストが手を振っていた。

「やぁ!大変だったなデイビッド!」

「ああ、まぁな…」

「しかし君の剣はいつ見ても美しい。本当に惚れ惚れするよ!」

「精神削られるし、体力より集中力使うから割に合わねぇけどな。ところで、お前何で来たんだ?」

「呼ばれたからね。妹に!無理やり時間作って飛んできたよ!」

「妹?あぁ!いたなそういや……」

「エリックも大変だったようだぞ。夕べはルルーシェ侯爵邸に乗り込んで、何があっても自分はデュロック家から離れない、これ以上しつこいようなら令嬢を訴えると、侯爵に直談判しに行ったそうだ。」

「エリックが?そんな事してたのかアイツ…」

「まぁ僕が、万が一の時に使える王印の入った書簡を前に渡したから、それを使ったんだと思うけどね!?」

「お前またそんなもん作って…悪用されたらどうすんだよ!?」

「大丈夫だよ。君達専用だもの。さっきの言い訳もそれらしかっただろ?いい仕事したと思うんだけどなぁ~僕!」

「わかったわかった…助かったよ!結果的にあの頭のおかしい女も寄って来なくなるだろうし…ありがとなアーネスト…」

「どういたしましてぇ!!」

満面の笑みでデイビッドに絡んでいたアーネストは、学園長室に呼ばれ行ってしまった。
少しして、静かになった廊下で、デイビッドは後ろに向かって声を掛けた。

「おい、いるんだろ?出て来いよ。」

曲がり角の影から、エリックが姿を見せる。

「デイビッド様…申し訳…」

「大変だったなエリック。王都貴族と話するのは疲れただろう?早く帰って飯にしよう。ワイン煮込みがいい具合にできてるぞ?!」

「…はい、ありがとうございます!」

泣きそうな顔を見せないように、深く頭を下げたエリックは、顔を拭うとデイビッドの後について歩き出した。


「しっかし本当にコイツは神経使うな。切れ味といい、重さといい、つい余計に振り回したくなっちまうのを抑えるのも大変だ。」

「こんなのどこで手に入れたんです?」

「3年前、海賊に間違われて海軍に追っかけられた時、助けてくれた本物の海賊にもらったんだよ。」

「海賊のお宝ですか?!」

「今はもう足洗って航路定期船の船長やってるけどな。」

デイビッドは部屋に戻ると、一度だけ剣を抜き、刃の状態を確認すると、急いで戻して包み直し、商会へ送る箱の中にしまい込んだ。

「これは次の定期船で領地に送ろう。研ぐにしても俺じゃ無理だ、専門家に頼ろう。で、しばし封印してもらおう…」

「こんな剣よく使おうと思いましたね…」

「あー、うん…絶対に勝ちにいくなら、これ使うしかないと思ってなぁ…あぁ、そうか。相当腹が立ってたんだな俺は…頭にきてたのか…久々過ぎてわからなかった。」

「(僕のために怒ってくれたんですか)そんなアホみたいな事あるんですか?!」

「本心は素直に口にした方が良いこともあるぞ?エリック!」

温め直したワイン煮込みは、肉がとろける程柔らかく、最高の仕上がりになっていた。

いつものパン、いつものソーセージ、いつものサラダ、2人で食べるのもいつもの事だ。

(でも、もうすぐこの場所はヴィオラ令嬢のものになるのか…)
そう考えると、少し寂しい気持ちになるエリックだった。

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