37 / 512
黒豚特別非常勤講師
秘密道具
「デイビッド・デュロック!今すぐ魔法学棟へ来なさい!!」
ある日の昼休み。
保温のティーカップを気に入っていた例の女生徒に無理やり連れ出され、魔力持ちが集う魔法学の研究棟へ行くことになった。
廊下の色が代わり、あり得ない組み合わせの2人が歩く姿に、皆が驚いてジロジロ見ている。
魔法学棟は、青い廊下の終わりにある。
屋外のアーチを渡った先に造られた大きな建物だ。
デイビッドは、雨の時などどうするのかと思ったが、そこは魔法でなんとかしているのだろう。
初めて入る建物内には、知らない文字の本や、謎の標本などがあちこちに置かれていて、まさに知らない世界の入り口だった。
「何度も言うが…俺は本当に魔力は欠片もなくて…」
「ならば何故、あの魔剣の炎を振り切ることができたのです?!魔力を糧に生まれた炎は、魔力でしか消すことはできません!一体どんな手を使ったのですか?!何度も検証してみましたが、魔力の火は同等かそれ以上の魔力で作られた水か土でしか消せませんでしたわ!!」
「それは…ちょっと…ここで話すのは…」
「なるほど!何か秘密があるのですわね?!わかりました、ここだけの話しとして、決して誰にも言わないと誓いましょう!」
「誓いましょうったってギャラリーが多い!!この
全員に誓わせるのか?!」
見渡すと、数十人の生徒がデイビッドを囲い、メモを取ろうとペンを構えて待っていた。
「皆様、これから見聞きする事は何があっても口外しないと、この魔法水晶に誓いますか?」
「「はい、誓います!!」」
令嬢が声を掛けると、全員が胸に手を当て復唱する。
すると水晶が光り、同時に全員の手元がうっすらと明るくなった。
「水晶の誓約魔法ですわ。もし約束を破れば全身が茨の影に縛られ苦痛を伴うことになります。」
「おお…魔法、おっかねぇな…」
しかしこうなっては話さない訳にもいかなくなり、デイビッドは仕方なく、いつも着ている革のベストを脱いで令嬢に渡した。
「コレだよ。知り合いが俺に合わせて作ってくれた。魔力に反応して持ち主を守ってくれるらしい…つってもそうだとしか俺にはわからんが…」
「これは……誰か!鑑定装置を持って来て下さるかしら?」
直ぐに数人が駆け出すと、ひと抱えもある魔石の付いた装置を運び込んできた。
「何が始まるんだ?」
「こちらは魔導鑑定器ですわ。魔道具の魔力の質や魔法陣の種類を分類し、精度を鑑定しますの。」
令嬢がベストを鑑定器に乗せると、魔石が光って細かい文字が宙に映し出された。
「すげぇなぁ。正直、未知の世界だ…」
「黙ってて!!」
デイビッドには読めないので、何か魔法に関わる言語なのだろう。
令嬢は真剣な目で懸命に文字を追っている。
「魔力防御と…攻撃型魔法陣の発動抑制…魔力反射に…解毒と精神異常の解除?!魔力隠蔽に形状維持……まだ何かあるのに読み込めないのは…まさか…古代魔法??な、な、なんですの??この国宝級のアーティファクトは?!」
「知り合いが作ってくれた…誕生日祝い……?」
「こ…こ…こんなものを普段から着てふらふらしてますの?貴方は!?」
「ポケットが便利で…」
「ポケット…?」
令嬢がおそるおそる表のポケットに手を入れてみると、スルスルと腕が入り、肘を過ぎてもまだ底に届かない。
「空間拡張魔法?!こんなに小さく作れるものですの??内容量はどれ程なの!?」
「昔キャンプ地で水を汲む時、横着してこれに入れてった事があるんだが、その時は水が樽に波々入った。乾くのに3日掛かったんで二度とやらんが…」
「樽1杯分(約200L)…!!?信じられませんわ……」
「ここに入れとくと大事な物も落とさなくてすむんだ。取り出す時は、普通に手を入れるだけで中の物に触れるから、失くしたくない物とか入れとくんだよ。」
「そんな便利グッズみたく言わないで!!これがどれ程恐ろしい物かわかってますの??」
「武器や軍事には絶対に使わないと、作った本人が言ってるから大丈夫じゃないか?それに、魔力が関係してないと本当にただの革のベストだぞ?ほとんど魔力的ななんかが作動する事も無いし、あの試合で初めて何かに守られてる感があったくらいかな?!」
「そんな能天気な……」
周りの生徒も目を見開いてベストを凝視している。
「魔法陣は革の内側に施されてるのか…それを貼り合わせて…」
「それにしたって、あれだけの重ねがけをひとつも狂わさず発動させるなんて、神業としか…」
「質問なんですが!それはいつ頃貰った物なんですか?」
「8歳になる年に初めて留学するって言ったら、誕生日にくれたもんだから…もう十年になるのか!」
「その間メンテナンスとかは…」
「え?…するもんなのか?!」
デイビッドを駄目だコイツという目で見ていた令嬢は、おもむろにベストに腕を通し羽織ってみた。
すると、吸い付く様に形を変え、誂えたかのように令嬢の身体にぴったり合う大きさになった。
「こ…こ…こんな…こんな…こんな神話級の代物がこの世に存在するなんて!!!」
「サイズ直しも要らないし、何度か盗られたり失くしたりもしたんだが、いつの間にか手元に戻って来るんだ。便利だろ?」
それは最早呪いの一種では…?とその場の全員が思ったが、口に出す者はいなかった。
令嬢がベストを脱ぐと、また大きなベストに戻る。
息使いも荒くなった令嬢は、穴が開くほどベストを見つめていた。
喉から手が出るほど欲しいが、邪な考えに反応し、どんな罰を受けるかも分からない。
「くっ…うぅぅ……」
震える手でデイビッドにベストを返す令嬢は、歯型が残るほど唇を噛み締めていた。
「できる事なら…術者の方にお会いしたいのですが…」
「それは難しいかもな?相手はデュロックの領民だが、この国の人間じゃない。ちょっと特殊な事情があって、人前には出られないんだ。」
「…難しい立場のお方なのですね…?わかりました。では!お手紙でやり取りをさせて頂く事は可能でしょうか…?」
「手紙なら届けられる。定期船で送ると往復1週間だから、ちょっと時間が掛かるが…」
「その位時間の内に入りませんわ!!ぜひお願いします!!」
「居場所を明かせないんで、悪いが手紙は俺のとこに持って来てくれ。中を見たりはしないから安心しろよ?!」
「わかりました!秘密は守りますわ!」
「……帰っていいか?」
「うぅぅぅ………」
ベストの端をつかんだまま、令嬢は歯を食いしばっている。
「貸しとこうか……?」
「ぅお願いしますっっ!!!」
その日は、久々に背中が涼しく感じたデイビッドだった。
ある日の昼休み。
保温のティーカップを気に入っていた例の女生徒に無理やり連れ出され、魔力持ちが集う魔法学の研究棟へ行くことになった。
廊下の色が代わり、あり得ない組み合わせの2人が歩く姿に、皆が驚いてジロジロ見ている。
魔法学棟は、青い廊下の終わりにある。
屋外のアーチを渡った先に造られた大きな建物だ。
デイビッドは、雨の時などどうするのかと思ったが、そこは魔法でなんとかしているのだろう。
初めて入る建物内には、知らない文字の本や、謎の標本などがあちこちに置かれていて、まさに知らない世界の入り口だった。
「何度も言うが…俺は本当に魔力は欠片もなくて…」
「ならば何故、あの魔剣の炎を振り切ることができたのです?!魔力を糧に生まれた炎は、魔力でしか消すことはできません!一体どんな手を使ったのですか?!何度も検証してみましたが、魔力の火は同等かそれ以上の魔力で作られた水か土でしか消せませんでしたわ!!」
「それは…ちょっと…ここで話すのは…」
「なるほど!何か秘密があるのですわね?!わかりました、ここだけの話しとして、決して誰にも言わないと誓いましょう!」
「誓いましょうったってギャラリーが多い!!この
全員に誓わせるのか?!」
見渡すと、数十人の生徒がデイビッドを囲い、メモを取ろうとペンを構えて待っていた。
「皆様、これから見聞きする事は何があっても口外しないと、この魔法水晶に誓いますか?」
「「はい、誓います!!」」
令嬢が声を掛けると、全員が胸に手を当て復唱する。
すると水晶が光り、同時に全員の手元がうっすらと明るくなった。
「水晶の誓約魔法ですわ。もし約束を破れば全身が茨の影に縛られ苦痛を伴うことになります。」
「おお…魔法、おっかねぇな…」
しかしこうなっては話さない訳にもいかなくなり、デイビッドは仕方なく、いつも着ている革のベストを脱いで令嬢に渡した。
「コレだよ。知り合いが俺に合わせて作ってくれた。魔力に反応して持ち主を守ってくれるらしい…つってもそうだとしか俺にはわからんが…」
「これは……誰か!鑑定装置を持って来て下さるかしら?」
直ぐに数人が駆け出すと、ひと抱えもある魔石の付いた装置を運び込んできた。
「何が始まるんだ?」
「こちらは魔導鑑定器ですわ。魔道具の魔力の質や魔法陣の種類を分類し、精度を鑑定しますの。」
令嬢がベストを鑑定器に乗せると、魔石が光って細かい文字が宙に映し出された。
「すげぇなぁ。正直、未知の世界だ…」
「黙ってて!!」
デイビッドには読めないので、何か魔法に関わる言語なのだろう。
令嬢は真剣な目で懸命に文字を追っている。
「魔力防御と…攻撃型魔法陣の発動抑制…魔力反射に…解毒と精神異常の解除?!魔力隠蔽に形状維持……まだ何かあるのに読み込めないのは…まさか…古代魔法??な、な、なんですの??この国宝級のアーティファクトは?!」
「知り合いが作ってくれた…誕生日祝い……?」
「こ…こ…こんなものを普段から着てふらふらしてますの?貴方は!?」
「ポケットが便利で…」
「ポケット…?」
令嬢がおそるおそる表のポケットに手を入れてみると、スルスルと腕が入り、肘を過ぎてもまだ底に届かない。
「空間拡張魔法?!こんなに小さく作れるものですの??内容量はどれ程なの!?」
「昔キャンプ地で水を汲む時、横着してこれに入れてった事があるんだが、その時は水が樽に波々入った。乾くのに3日掛かったんで二度とやらんが…」
「樽1杯分(約200L)…!!?信じられませんわ……」
「ここに入れとくと大事な物も落とさなくてすむんだ。取り出す時は、普通に手を入れるだけで中の物に触れるから、失くしたくない物とか入れとくんだよ。」
「そんな便利グッズみたく言わないで!!これがどれ程恐ろしい物かわかってますの??」
「武器や軍事には絶対に使わないと、作った本人が言ってるから大丈夫じゃないか?それに、魔力が関係してないと本当にただの革のベストだぞ?ほとんど魔力的ななんかが作動する事も無いし、あの試合で初めて何かに守られてる感があったくらいかな?!」
「そんな能天気な……」
周りの生徒も目を見開いてベストを凝視している。
「魔法陣は革の内側に施されてるのか…それを貼り合わせて…」
「それにしたって、あれだけの重ねがけをひとつも狂わさず発動させるなんて、神業としか…」
「質問なんですが!それはいつ頃貰った物なんですか?」
「8歳になる年に初めて留学するって言ったら、誕生日にくれたもんだから…もう十年になるのか!」
「その間メンテナンスとかは…」
「え?…するもんなのか?!」
デイビッドを駄目だコイツという目で見ていた令嬢は、おもむろにベストに腕を通し羽織ってみた。
すると、吸い付く様に形を変え、誂えたかのように令嬢の身体にぴったり合う大きさになった。
「こ…こ…こんな…こんな…こんな神話級の代物がこの世に存在するなんて!!!」
「サイズ直しも要らないし、何度か盗られたり失くしたりもしたんだが、いつの間にか手元に戻って来るんだ。便利だろ?」
それは最早呪いの一種では…?とその場の全員が思ったが、口に出す者はいなかった。
令嬢がベストを脱ぐと、また大きなベストに戻る。
息使いも荒くなった令嬢は、穴が開くほどベストを見つめていた。
喉から手が出るほど欲しいが、邪な考えに反応し、どんな罰を受けるかも分からない。
「くっ…うぅぅ……」
震える手でデイビッドにベストを返す令嬢は、歯型が残るほど唇を噛み締めていた。
「できる事なら…術者の方にお会いしたいのですが…」
「それは難しいかもな?相手はデュロックの領民だが、この国の人間じゃない。ちょっと特殊な事情があって、人前には出られないんだ。」
「…難しい立場のお方なのですね…?わかりました。では!お手紙でやり取りをさせて頂く事は可能でしょうか…?」
「手紙なら届けられる。定期船で送ると往復1週間だから、ちょっと時間が掛かるが…」
「その位時間の内に入りませんわ!!ぜひお願いします!!」
「居場所を明かせないんで、悪いが手紙は俺のとこに持って来てくれ。中を見たりはしないから安心しろよ?!」
「わかりました!秘密は守りますわ!」
「……帰っていいか?」
「うぅぅぅ………」
ベストの端をつかんだまま、令嬢は歯を食いしばっている。
「貸しとこうか……?」
「ぅお願いしますっっ!!!」
その日は、久々に背中が涼しく感じたデイビッドだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin
何もしなかっただけです
希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。
それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。
――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。
AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。
とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。