黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

そろそろ放って置いて欲しい

片方の前髪を長く伸ばしているため、顔が半分しか見えないが、もう片方の眉をつり上げ、怒りの形相を作っている。

しかし、デイビッドは見ての通り、女性にからっきし縁が無い。
学園の女生徒も、授業中でしか話さないため、妹と言われても心当たりが無く、本当に困ってしまった。

「妹…か?何年生だ?」

「今さら何を言っても無駄だぞ?!いくら年が同じだろうと生徒と教師!!最早犯罪だ!!」

「うーん…つまり、お前の妹が、こっちに来ることがあって、俺と会ってるんじゃないかと、そう疑ってるって事でいいか??」

「いくら取り繕おうとしてももう遅い!これは学園長に報告の上、然るべき処分を下してもらわねばな!!」

「まぁ好きに調べてくれよ…俺の所に女なんて来たことねぇ…から…な…」

「せいぜい首を洗って待っていろ!!」

そう言い残し、髪長男は去って行った。
そして、好き放題言われたデイビッドには、女生徒で一つだけ思い当たる節があった。

「まさかな…」

モヤモヤしながら部屋に戻り、さっきの事は一旦忘れて、オーブンに火を入れ鍋の用意を始める。

果物の皮を剥き、種や筋を丁寧に取り除いたらミキサーにかけ、鍋に移す。
煮えてきたら、鍋を2つに分け、片方を果肉入り、もう片方はピューレにしてもうひと煮立ち。

アクを取り、ピューレの方は何度かザルで濾して、滑らかになってとろみがついたら、火から上げて絞った柑橘類を加えて完成だ。

「お!美味い。これで行こう!」

手頃な瓶に詰めて、冷めたら冷蔵庫に入れようと、片付けを始めた頃、ノックの音がした。

「失礼?!師匠への手紙をお持ちしましたわ!」

流れる銀髪に冷たいコバルトの瞳。
そこには魔法棟のマドンナが立っていた。
あの日以降、デイビッドのベストを作った術者との文通は上手くいっているようで、週末にはこうして手紙を渡しに来るのだ。

「あ!!いい所に!ひとつ聞きたいんだが、お前兄弟はいるか?!」

「なんですの?いきなり…まぁ兄弟というか、義理の兄ならおりますわよ?兄と言っても同い年ですけれど…それがなにか?」

「それって、背が高くて、こーんな前髪ズルズル伸ばして、ちょっと猫背の…あ!生徒会の腕章着けてたかも…」

「…ええ、間違いなく、レオニードでしょうね…それがどうかしまして?」

「その兄貴に、ここで俺と不純異性交友してると思われてるけど大丈夫か?」

「……………は……??」

その冷たい疑問符は、デイビッドでも少しゾッとする程恐ろしく見えた。

「さっき…ここに来て…妹にちか…づく…な、と…」

美人が怒ると迫力がある、というのは本当なんだなぁ…などと考えながら、デイビッドはこのいざこざは平穏無事には解決しないだろうと悟った。

「そう…そうでしたのね。それはご迷惑お掛けしましたわ。兄にもよくよく言っておきます…それで、こちらなのですが」

差し出されたのは、送り主も宛名も書かれていない、事務的な厚手の封筒だった。
誰にも知られないよう、目当ての人物へ届けるための措置だ。

「あ…手紙…(またえらい分厚いな!)ちゃんと送っとくから安心しろよ…」

「よろしくお願いします!」

相変わらず綺麗な礼を取り、さっさと帰って行く後ろ姿を見て、デイビッドはまた碌でもない騒動の予感がしていた。


昨日の早駆けもあり、あまり眠れていなかったデイビッドは、ひとしきり仕事を終えると、そのままカウチで横になり眠ってしまった。

「デイビッド様!もうお昼ですよ?!起きてくださいよ!」

「ん…ああ、もうそんなになるのか…さすがに腹減ったなぁ…」

「僕もうお腹ペコペコで…昨日からあんまり食べてないんですよ?!」

「いや、お前は自分で飯食えよ?!」

残り物の野菜と、ベーコンの切れ端でスープを作り、昨日の港で手に入れた瓶詰めのトマトソースとオリーブで簡単にパスタを作る。

「うん…やっぱり手軽ってのはいい売り文句だな。」

「またなにか作るんですか?」

「まぁな、その内に形にするつもりだ。」

大皿パスタをペロリと平らげ、スープのおかわりに少し固くなったパンを浸して食べたエリックは、やっといつもの服に着替えて侍従らしい姿に戻った。

午後は洗濯。
汚れたシャツにズボン、昨日のシーツに下着にタオルにハンカチ、そして変な服。
(洗ってるうちに目がチカチカしてくる…)
洗うのさえ厄介な、エリックのド派手柄変な服…

「ああっ!!それ洗っちゃったんですか?!いい感じにくたくただったのに…」

下手すると10日くらい洗わずにいるので、度々強制的に洗濯するが、エリックはその都度しょんぼりしている。


洗濯を終え、古くなりそうな卵を使ってしまおうとレシピを考えていると、横からプリンを作れと呪詛のそうなものが聞こえてきたので、今日はプリンを多めに作ることにした。

港で手に入れたスパイスの中にバニラがあったので、刻んで加えると、それはもう甘くて良い香りが部屋中に漂った。
蒸し上げるのと、焼き上げるの、両方作って冷ましていると、またドアが叩く音がした。

「デュロック令息!!急ぎ話がありますの!」

「おーぅ。鍵は掛かってねぇから開けてくれ。」

「失礼しますわ!…ってそれはなんですの…?」

「プリン作ってたんだよ。」

令嬢がドアを開けると、プリンの並んだトレイを持ったデイビッドが立っていた。

「プリン…?…いや!それどころではなくて!!レオニードが貴方を辞めさせようとしておりますの!あちこちで貴方を貶める様な話を吹聴して、一部の教職員も賛同し始めておりますわ!!」

「え?!始めからそういう動きはあったから、今更な気がするが!?」

「レオニードは狡猾で、裏から手を回して気に入らない相手を排除する様な人間ですのよ?!」

「生徒が学園の人間を追い出すって…何しに学園に来てんだろうなアイツら。人の事気にしてる暇があるなら勉強しろよ…」

「…まともな事を言うなら、まずはそのプリンをどこかに置いたらどうですの?まぁいいですわ、忠告はしました。くれぐれもお気を付け下さいまし!」

「お、なんだ?心配してくれてんのか?!」

「当たり前ですわ!今貴方が居なくなったら、大切な師匠との繋がりが絶たれてしまいますもの!!」

「結構自分本位な心配の仕方だった…あ、そういや聞きたかったんだが、ティーカップってさ…」

「今の私の事でして?!なんですの?ティーカップって!?あの日のこと言ってますの??変なあだ名付けないでっ!!!」

「すまん…名前、何ていうのか、教えてくれって言おうとして…」

「~~~~~~ッシェルリアーナよ!!シェルリアーナ・ロシェ!!王家筆頭魔術師ロシェ家の長女よ!!覚えときなさい!このスカポンタンッ!!」

感情が爆発したシェルリアーナは、鬼の形相で研究室から出て行った。



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