黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

色々巻き込んだ騒動

「デイビッド様、今のは?」

「シェルリアーナだと。手紙持って来たんだ。」

「デイビッド様に…女性の影が……」

「そうじゃない!!前に話したろ!?領地にいる“森の長”の弟子希望者だよ!!」

「デイビッド様…気をつけて下さいね?!男女の噂は山火事より早く拡がります!特に貴族令嬢には命取りになる事もあります。偶然会っただけの男性と恋仲だと噂され、婚約者に捨てられて自害した女性もいます。ただ目が合ったというだけで、女性を狙ったと騒がれて幽閉された男性もいます。ここは学園ですが、既に貴族社会の縮図の様な場所です。もうすぐヴィオラ様もいらっしゃいます。どうか、くれぐれも、疑われる様な行動はお控え下さい。」

珍しく、従者として主人に忠告するエリックの目に、デイビッドが映る。

「…わかった。確かに、この所ちょっと気が抜けてたかもな。気をつけるよ…」

その日は夕刻から雨が降り、次の日も朝から空は暗かった。


翌日、月曜日の朝。
一昨日使ったシーツを返しに、寮へ寄ったデイビッドは、周囲の視線に以前より更に嫌なものを感じ、辺りを見渡した。

「女生徒を研究室に連れ込んでいるって…」
「いやらしい目で女の子達を凝視していたそうよ…?」
「声をかけられたら叫んで逃げるのよ!」


(確かに…ヴィオラが来る前に片付けないとだなぁ…)
デイビッドが思案していると、目の前に女生徒の集団がやってきた。

「失礼?何か用でしょうか?」

「申し訳ありません、デュロック令息様。こちらへ…」

促された先の部屋にいたのは、アリスティアだった。

「で…殿下…」

王家の色を纏う尊き血の持ち主にして、決して奢らず、兄を支える健気な末姫。
齢13で、中等部から飛び級で学園の1年生になった才女。
そんな彼女がデイビッドになんの用だろうか。

「ここではただのアリスティア…と言いたいところですが、近く家の権力を振りかざさねばならなくなるかも知れません。デイビッド様、レオニード・ロシェ様が貴方を辞めさせようと署名を集めていることをご存知ですか?」

「それは…初耳でした。」

「では、それに対抗して、領地経営科と商業科が結託して、反対署名を集めていることも?」

「まっったく存じませんで…」

「このままでは派閥争いに発展しかねません。これより生徒会へ向かい、事の顛末を治めてこようかと思います。どうかご同席下さい。」

断る事もできず、デイビッドは姫殿下部隊に引き連れられ、再び生徒会の扉の前にやって来た。

「失礼致します、生徒会の皆様。大切な話があって参りました。」

「これは姫殿下!生徒会へようこそ!どうぞお入り下さい!!」

テレンスが出てきてアリスティアに手を差し出すと、後ろにいたデイビッドを見てギョッとした顔をする。

「な…貴様!まさか学園を辞めたくないばかりに、姫殿下に縋ったのか?!」

「テレンスさま、落ち着いて下さい。彼を呼んだのは私です。」

アリスティアは椅子を断り、デイビッドと2人役員達の前に立った。

「では、早速ですが、レオニード様。デイビッド様が、女生徒を襲ったという虚偽の噂を広め、解雇させるための署名を集めていたというのは本当ですか?」

「う、嘘ではないっ!私の妹は確かに被害に遭っている!!事実、その男は休みの度にシェルを部屋へ呼び付け、何かしているじゃないか!!」

「…手紙を預かってただけなんだがな…」

「手紙だと?!シェルは貴様の様な醜男に手紙など書かない!!」

「俺にじゃねぇよ…俺の地元にいる魔法師に手紙で師事を仰いでるそうだ。俺はただの橋渡しだよ。」

「なら、当人同士でやり取りさせればいいだろう!?わざわざ自分の元へ通わせるなど、邪な考えがあっての事に決まっている!!」

「部屋には常に侍従もいるし、中に入れた事もない。ドアの前で書類を渡したら直ぐに戻って行くし、手紙を直接送れないのは、相手の術者の状況を慮っての事だ。他意は無い。…だが、迂闊だった事は謝る。俺みたいなのが家族の回りでうろうろしてりゃ不安にもなるだろうな。令嬢にも嫌な思いをさせただろう。すまなかった。」

「…彼はこう言っておりますが、いかがですか?レオニード様。」

「そんなはず無いだろう!シェルは天使だ!目の前に現れたら、その羽をむしって自分だけの物にしたくなるに決まっている!!清らかな肢体を閉じ込めて、逃げないよう鍵をかけて…」

(…オイ…若干気持ち悪いぞコイツ……)
(…お黙りなさい…)
無茶苦茶に聞こえる話に、デイビッドとアリスティアは内心薄ら恐ろしいものを感じていた。
何故か周りの生徒会メンバーは親身に話を聞いて頷いているので、おかしいのは自分達だけかと錯覚してしまう。

「そもそもおかしいじゃないか!分からないことがあるなら何故僕に聞いてこない!?全ての授業で教師以上の頭脳を誇ってきた僕なら、全ての疑問に完璧に答えることができるのに!!田舎の年寄り魔術師如きにこの僕が劣るはずが無いだろう?!今すぐ手紙を止めさせろ!!」

(…避けられてんじゃねぇかなぁ…妹に…)
(……いいから黙って…)
段々こっちが不安になってきた頃、外からもう一人の声がした。

「聞き捨てなりませんわ!!」

息を切らし、飛び込んできたのはシェルリアーナだ。

「逆に言いますが、レオニード“如き”が、私に一体何を教えるというのです?!教科書と参考書の中身と同じなら、わざわざ聞く必要もありませんわ!私の師匠をバカにしたら承知致しませんわよ?!」

「シェル…目を覚ますんだ!つまらん思想に染まってはいけない。君は将来、僕と王宮で働くという輝かしい人生を送るのだ!愚かな田舎者の事は忘れなさい!」

「ふざけているのはそちらでしょう?!私は私の思い描く魔術の在り方を学びたいのです!従来品を箱詰めしただけの魔術書に興味はありませんわ!!」


(…ここで兄妹喧嘩は止めてほしかったな…)
(…それは…ちょっと同感です…)
すっかり蚊帳の外となった2人には、ただこの状況を見守ることしかできなかった。

「そこまで言うなら、本当にその術者が優秀なのか証明してみせろ!僕が負けを認められるような相手なら、今後のやり取りも許してやろうじゃないか!」

「元より貴方に許可を得る必要などありませんが、師匠をバカにされて引き下がる訳にはいきません!師匠より、まずは私が貴方よりも優れている事を証明してみせましょう!次の魔術大会!勝負ですわレオニード!!」

(頼む!ここらで留めてくれ、周りの連中まで口挟めなくなってるぞ?!)
(…しかたありません……)
アリスティアは、パンパンッと手を叩き、場の空気を変えた。

「お話が付いたようですわね?!まずはデイビッド様の解雇の件は一旦白紙に。シェルリアーナ様が魔術大会でレオニード様に勝てば、お手紙は継続。もし、出来なければ…」

「そうしたら、シェルは僕の所属する研究室で、卒業まで僕の補佐として活動してもらう!」

「……わかりましたわ。それでは来月の魔術大会、楽しみにしていて下さいませ。」

そう言い残し、シェルリアーナはレオニードを睨みつけ、部屋を出て行った。

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