黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

魔術大会に向けて

にこやかに、しかし誰にも口を挟ませず、アリスティアは生徒会室を後にした。
彼女が歩くと、廊下で待機していた令嬢達が、後ろから音も無くついてくる。
それを気にしないよう、後ろをなるべく見ないようにデイビッドもその隣を歩いた。

「なんか、すげぇ事になってたけど、大丈夫ですかね…?」

「ひとまず貴方の解雇は回避できましたので、良しとしたいです。」

「…そういうとこ兄貴そっくり!」

「あのお二人の事は心配ですが、私共が口を出すべき事ではありませんもの。義理とは言え家族なら、後はお二人にお任せしましょう?!」

「それもそうか…何にせよ助かりました。もうお分かりでしょうが、俺は情報収集が偏りがちなもので…」

「ねぇ、デイビッド様?私、良い仕事をしたと思いません?!」

「へ?」

「兄はいつもデイビッド様のために何かすると“ご褒美”を受け取っていましたわね?!」

「…それで?ご所望は何を…?」

「兄がいつも食べているボンボンが欲しいです!!」

「くっ…あれは…姫殿下には酒精が強すぎでは…?」

「あら、一度こっそり食べた時は何ともありませんでしたわ!」

「はははっ…あいつ、つまみ食いされてやんのか!では、もう少し女性向けのフルーツボンボンはいかがです?俺の婚約者も大層喜んでくれましたよ?!」

「まぁ!ならばそれを頂きますわ!ふふふ…楽しみです!」

「王宮にお届けしますか?それとも学園に?」

「学園がいいです!ところで、今婚約者と仰いました?」

「あっ!!!…あの…それは…できれば…内密に…」

「あら!では口止め料も欲しいです!!」

アリスティアは、やっと13歳らしい笑顔を見せて笑った。


「あーーー疲れた!けどこれから授業か!!くそっ…あの変態め…面倒事起こしやがって…」

アリスティアと別れてから、ヘロヘロになって領地経営科の講義室を開けると、生徒達が一瞬心配そうな表情になった。

「それじゃ、前回の野菜の加工と品質の保持の続きから…」

「あの…先生、辞めちゃうかも知れないって…本当ですか?!」

「知ってたのか?!さっきその話を生徒会室でしてきたんだ。まぁ残念だが…」

ざわざわと、珍しく領地経営科が騒がしくなる。

「最短でも今の3年が卒業するまでは居ることになるだろうな…だから進級するまでは嫌でもこの顔を見ることになるから覚悟しろよ?!」

デイビッドの話を聞いて、生徒達の表情が明るくなり、部屋の空気が柔らかくなった。



授業後、部屋へ戻ると、エリックが先客の相手をしていた。

「…アリスティア殿下?!…と…」

「うわぁぁぁん!もうおしまいですわぁぁ!!」

泣きじゃくるシェルリアーナを慰めるアリスティア。
2人はエリックのもてなしを受けながら、デイビッドを待っていたようだ。

「お邪魔しております。とても素敵な研究室ですのね?!」

「おぅ…一瞬部屋間違ったかと思ったわ…」

「すごいですね!?デイビッド様の部屋にレディがいらっしゃる日が来るなんて!それも2人も!」

「正直、欠片も嬉しくないけどな?!」

「いやよぉぉぉぉ!!あんな気持ち悪い男の側なんてぇぇぇ!!」

「で、こっちはどうした?」

「今朝の宣言から冷静になられて、絶望されておりますの。」

「あー…あの変態、そんなに頭が良いのか?」

「そうですね。魔力量も豊富で、その扱いも現当主と肩を並べる程と言われております。魔術や魔法に関しては、まずこの学園では一番と言って良いでしょう。…ですがあの通り、シェル様に異常なほど執着されていて、どんなに嫌がっても聞き入れてもらえないとか…」

「…天才はどっかおかしいって言うからな…」

シェルリアーナはアリスティアに抱き着いてひとしきり泣くと、目を腫らしたままエリックの入れた紅茶を飲んだ。

「で?なんで俺のとこに来たんだ?魔力の事なら魔力のある奴に頼む方がいいだろう?」

「…レオニード様はあちこちに根回しをされていて、シェル様が誰かに相談でもしようものなら全て筒抜けになりますの。」

「それは執着と言う言葉でくくってもいいものか…?!」

「先生もおりますが、お話した通り、誰もレオニード様には敵いません。…お可哀想に…友人すら信じられず、逃げ場もないのです…」

「だからここに来るというのは…?」

「あの男は、魔力の無い貴族を虫けらの様に思っていますの。緑の廊下には本来、近付いて来ることはありませんわ…」

「ふーん…だが今回こそ、俺には出番すらないんだが…例の文通はどうなんだ?!なにか役に立ちそうな事とか書いてないのか?!」

「あれは私の課題に過ぎませんわ!それすらまだ3分の1も解けていないのに…」

「魔術大会まであと10日もありません。なにかヒントになりそうな物に、心当たりはありませんか?」

「う~~~~~~~~~ん………」

デイビッドはしばらく唸っていたが、ふと、エリックの方を見た。

「そういやエリックも昔出たとか言ってたな?!魔法系の大会!」

「え~と、私の時は魔力の威力と精度を見るため、自分の得意な魔術で的を狙ったり、新兵器や新製品の開発をして、審査の点数を競ったり。」

「今もほとんど変わりません。選手は威力・精度・理解に沿った3つの競技の総合得点が与えられ、点数の高い者が優勝します。」

「勝ち目…無いのか…?」

「魔力の威力はともかく…精度と開発に関しては難しいですわ…」

「……よくそんなんで喧嘩なんか売ったな…」

「うぇぇぇん!!だって師匠をバカにされて、悔しかったんですものぉぉ!!!」

「師匠……ねぇ…あれ?そういや名前聞いてないのか?」

「うっうっ…どこにも書かれておりませんでしたもの…お名前すら教えて頂けない弟子なんて…きっと落ちこぼれですわぁぁぁ!!」

デイビッドは、しばらく考えてから、ポケットから一本の鍵を探し出すと、デスクの下にしまわれていた箱の鍵を開けて中身を探り出した。

「確か…この辺に…お、あった。」

そうして、泣き喚くシェルリアーナの前に一冊の古い手帳を持って来た。

「手紙は持ってるか?」

「ここにありますわ…中に書かれた魔法陣3つを、互いに干渉させず同時に発動できるよう組み合わせろ…って…」

「見せてみろ。」

シェルリアーナは、大切に持っていた複雑な模様が書かれた紙をデイビッドの前に広げて見せた。

「貴方、魔法文字は読めないのでしょう?どうなさるつもりですの?」

「まぁちょっと待ってろ…」

手帳をパラパラめくっていたデイビッドの手が止まり、開いたページをシェルリアーナに差し出した。

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