黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

魔術大会

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古ぼけた手帳には、何かがびっしりと書き込まれている。

「これは…魔法陣の…公式?!」

「まぁな…俺はこの通り、魔術はからっきしだが、商売柄魔道具に触れる機会は山程あってな。何が正規で何が禁忌か、正しい出力の調整やら、術者の魔力に頼らない微調整の方法やら…全部書いて覚えるしかなかったんだ。大衆商品に合わせて、量産に耐えられる魔術が未完成だと危険だからな。」

「3つ以上の魔法陣の合成に用いる…式は………」

シェルリアーナは、自分のカバンからノートを取り出すと、集中して何かを書き始めた。

「ヒントになればいいが?」

「ヒントどころか、私でも見たことのない合成式ですね。王家の魔法教育にも出てこなかったかと…」

「…見なかったことには…?」

「シェル様の為なら善処します!」

にっこり微笑むアリスティアに、デイビッドはアーネスト以上のやり難さを覚えた。


「ここが……こうで……ここには………できた!!!」

出来上がった魔法陣に魔力を流すと、淡い光を放ち始める。
するとそこから人の声が聞こえてきた。

【これはこれは…なかなか早く成功したな。さては友人の手を借りたね?!そこにいるのか?デイビィボーイ。】

「はいはい…すみませんね、例の公式、見せちまいました。怒らないで下さい、急ぎだったので。」

【イヤイヤ、あの公式を見ただけでここまで辿り着けるなら優秀さ。だだ、今後はなるべく彼女に思考させてやるといい。さて……始めまして、シェルリアーナ。私はギディオン。手紙をありがとう!久々に嬉しかった…】

ややしわがれた老人のような声が名乗り、そしてシェルリアーナの名前を呼んだ。

「師匠…ですの…?貴方が、私の…本当に?!私、お師匠様とお話しておりますの??」

シェルリアーナは感極まって、今にもまた泣き出しそうだ。

【師匠とは!益々嬉しいね。では改めて、親愛なる我が弟子シェルリアーナ君、元気かね?】

「はいっ!!シェルリアーナですわ!よろしくお願いします!ギディオン師匠!!」

デイビッドが二人の会話の邪魔をしないよう、そっとその場を離れようとすると、デイビッドのシャツの裾を掴んだアリスティアが金の瞳でじっっと見つめてきた。

「あれは…なんですの…??」

「いや、俺は、その…門外漢なので……」

「会話してますわ…お相手はデュロック領にいらっしゃるとお聞きしていましたが??」

「ははは……」

「シェル様は興奮し過ぎてまだ自覚されていないようですが、遠方の方と会話するなんて、人類の夢でしてよ?!軍事利用や悪用の恐れだって充分にあります!!どうなさるつもりですの?」

「こうなったら本人たちに任せるしかないでしょう…元々俺にはほとんどちんぷんかんぷんの話ですので…まぁ内緒と言うことで…」

「国家機密レベルの話を、内緒話みたいに言わないで!!」

アリスティアはこの時初めて、兄がデイビッドに受けたという苦労を少しだけ思い知ったという。



それから10日後。

学園の競技場には、大勢の観客と魔導師、魔術師、錬成師などが集まっていた。
皆、今年の優秀な若い人材をひと目見にやって来ている。

「ああ、シェル!やっと会えた!授業にも顔を出さないから心配したよ?部屋にも滅多に帰らず、何処で何をしていたんだい?」

「レオニードの顔が見たくなかったので、隠れておりましたわ。この大会、私が勝ったらもう二度と私に関わらないと約束しなさい!!」

「困った子だなぁ…でも大丈夫、そんなことにはならないからね?!」

気持ちの悪い義兄からなるべく離れ、シェルはひとつ目の競技に集中した。
3つの防御魔法が施された鎧を狙い、攻撃魔法を決められた数放ち、どれだけ破壊できたかでその威力を測り点数を決めるというものだ。

水で穿つ者、岩で押し潰す者、炎で焼き焦がす者、やり方は様々だ。
レオニードは3つの鎧を全て爆破し、150点と高得点を取った。
最後はシェルリアーナ。
指先に集めた魔力を矢のように放つと、始め変化のなかった鎧の関節がバラバラになり、地面に散らばった。

3つとも崩壊させると、審査員がどよめき出した。

「なんだこれは?防御魔法が消えているぞ?!」
「いや、破壊されているのだ…みろ、魔術の基礎の部分が半壊している…」
「爆発にも耐えた魔法陣を、あんなに静かな魔法で破壊したのか?!3つ共全て?それもたったの3発で?!」

会場は満場一致でシェルリアーナに200点の最高得点を与えた。


お次は精度を測る競技。
宙に浮かぶ玉を狙い、落としたら得点となる。
逃げ回り、更に襲って来る玉を上手く避けながら魔力を練るのは至難の技だ。
高得点の玉は動きも速く、魔法が効きにくい。
制限時間内に落とした玉の数と種類で得点が決まる。

レオニードは炎の玉を飛ばし、30個ある玉を難無く落としていき、40点を獲得していた。

シェルリアーナも始めは順調に玉を落としていたが、途中でピタリと動きを止めてしまった。
何事かと会場がざわついた次の瞬間、シェルリアーナの指先から、糸のように細く紡がれた魔力が放たれ、目にも留まらぬ速さで何かを捕えた。
それは銀色に輝くひと回り小さな玉だった。

「なんだあれは?!」
「あんな物飛んでたの?」
「全然見えなかった!」

その後も、シェルリアーナは時間いっぱいまでに10個の玉を落とし、15点と謎の玉を獲得した。
審査員達は驚愕し、シェルリアーナの落とした銀の玉を凝視している。

「これを落とせる者がいるとは…」

「これはなんですの?」

「先代学園長が作った高速の玉ですよ。おまけに認識阻害の魔法を纏わせているので、視覚で捉えることはまずできない。それをまさか手にする者が現れるとは…」

「普通の玉とは違いますのね?」

「この玉を落とした者には50点が与えられる事になっている。」

それを聞いたレオニードは、悔しさと喜びでぐちゃぐちゃになっていた。

「流石だよシェル…君は本当に素晴らしい…ああ、でも…このままでは逃げられてしまう…どうにかしないと…」

ぶつぶつと呟きながら、選手席からシェルリアーナを見つめていた。

そして最後の競技が始まった。
課題は魔術の付与。
自分で選んだ道具に魔術を施し、その性能を競うものだ。

選手達が順番に魔道具を披露していく中、裏手で待機していたシェルリアーナは、運営係に呼ばれ、寸の間自分の席を離れてしまった。

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