黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

魔道具の真価

「今頃、魔術大会も佳境かな?」

ボールいっぱいのチョコレートクリームをかき混ぜながら、デイビッドは時折炎や水柱や雷が飛び散る競技場の方を見て呟いた。

「え…?そんな激しいのか?魔術大会って…」

「失敗したり、打ち漏らしたりすると外に飛んでくので、派手に見えますが、直接やり合ったりはしませんよ?!」

この日は土曜日。
授業の無いデイビッドは、朝から部屋中に甘い匂いを漂わせていた。
濃厚なチョコレートケーキに、キラキラのトリュフ、口どけの良い薄焼きのクッキー…相変わらず乙女心をくすぐるものを作るのが上手い。

「…ところで、なんでケーキなんです?」

「いや…大会とかで優勝したら、なんか…ほら、こう…祝うだろ…?なんとなく関わっちまったし…なんかした方がいいかな…と…」

「それで、ケーキ…優勝前提で?でっかいチョコレートの…二段ケーキ?…え?」

「ティ…シェルはいつも来る時チョコレートの匂いがしたから、たぶん好きだろうなと思って…」

「気遣いが細やか過ぎて怖い…」

「…気持ち悪いよりマシだろ…」

ガナッシュを丸めながら、昨日見た本物の気持ち悪い変態を思い出し、例えヴィオラがどんなに大切でも、決してああはなるまいと心に誓ったデイビッドだった。



その頃、控え室の外へ呼び出されたシェルリアーナは、友人達に会っていた。

「すごいじゃない!シェルリアーナ!」
「ダントツの点数よ?!」
「優勝も夢じゃないわね!」

「ありがとう。でも、もう行かないと…」

「待って!!」

控え室に戻ろうとすると、友人のひとりに袖を引かれた。

「時間が来てしまいますの。お話はこの後で…」

「で…でも、まだ出番ではないのでしょう?」
「もう少しお話しましょうよ!」
「わ、私最初の魔法について聞きたいですわ!?」

なんだか様子のおかしい友人達に違和感を覚え、シェルリアーナはその手を振り切って控え室へと戻った。

「やっぱり…汚い手を使いますのね…」

急いで自分の席に戻ると、魔道具の箱は閉めたはずの蓋が開けられ、中の髪飾りは粉々に砕けていた。

その時、丁度自分の出番を終えレオニードが戻って来た。

「シェル!?残念だったねぇ。まぁ、付与に失敗して本体が砕けるなんてよくある事さ。可哀想に、でも仕方がないことだろう?自分の失態なんだから、誰も恨んではいけないよ…?」

「そうね、魔道具から目を離した私の落ち度ですわ。でもこれでこの魔道具の真価が発揮できますもの。楽しみですわ!」

そう言うと、シェルリアーナは壊れた魔道具を持って、ステージへと進んで行った。

「皆様!ご紹介しますわ、これが私の作った魔道具ですの!ご覧になって下さい。粉々に壊れておりますわね。でもご安心下さい。本当の魔道具はこの宝石の方なのですわ!髪飾りでも、ブローチでも、ペンダントでもどこにでも付ける事ができますの。もちろん、ただの宝石ではありませんわ!これは過去を映し出す、映像記録の魔道具ですの。従来品の10分の1の大きさまで小型化する事に成功しましたわ!」

そう言ってシェルリアーナが大粒の宝石に魔力を流すと、壁に映像が映し出された。
始めは真っ暗。しかし光が差し、箱の蓋が開いたことがわかる。
まず写っていたのはレオニード。次に会場の警備に当たっていた生徒が映し出された。
レオニードが警備の生徒に「分かっているな?」と一言だけ言っていなくなり、生徒が頷いて髪飾りを床に落とし踏みつけたような映像が写った。
その後、バラバラになった髪飾りを箱に戻すと、慌ててその場から去って行く。
その後すぐにシェルリアーナが戻り、悲しそうな表情で箱の蓋を閉めたところで映像は途切れた。

「いかがですか?この通り、音声もしっかり入りますの!これがあれば世の悪事や冤罪も晴らせる上に、嫌がらせを受けてもこの上ない証拠となりますわ!弱い立場の方々を守るため、心血を注いで開発しましたの!!」

そこからはもう大変な騒ぎだったそうだ。

青褪めたレオニードは、審査員と教員に連れ出され、警備の生徒も捕獲された。
割れんばかりの拍手と称賛の声を浴び、過去最高得点を叩き出したシェルリアーナは、この年の魔術大会の優勝者となり一躍時の人となった。


「さいっっこうにスカッとしましたわ!!!」

勝利の美酒ならぬチョコレートケーキを手に、シェルリアーナは叫んだ。

「おめでとうございます、シェル様。素晴らしい大会でしたわ!」

特別席にいたアリスティアは、あの時足止めに加担し、ロシェ伯爵令嬢の友人という地位を失った女生徒達の代わりに、シェルリアーナに花束を贈呈し、改めて友人の地位を獲得していた。

「そーゆーの他所でやらんか?!!」

2人はすっかりデイビッドの研究室に馴染み、気付いたときにはテーブルを占領してお茶会が始まっていた。

「だって、向こうにいたら人に取り囲まれてしまいますもの。ここは静かで良いですわね。私がここにいるなんて誰も気が付きませんわ!」

「私も、人の目が無く寛げる場所というのは貴重なのです。」

「豚と猫の目はあるんですが……?」

「干渉してこないからいいのですわ!?貴族のしがらみも家名の煩わしさも、ここにはありませんでしょう?」

「たまにで構いません。羽を伸ばさせて下さい。」

(目が笑ってねぇ…これが口止めの条件か!?…正直嫌過ぎるが…)
否とは言わせないアリスティアの笑顔は、若干の脅しも含んでデイビッドの許可をもぎ取っていった。

「殿下はさて置き、シェルはいいのか?変な噂流されたあとだろう?気まずくないのか?」

「本物の変態と比べたら、ちょっと見てくれが悪い程度の事全く気になりませんの。そもそも男なんて結婚して歳を取れば大半は腹が出るものですわ。それがちょっと早まった程度。口が悪くて、人の名前を勝手に愛称で呼ぶような男でも、こんなに美味しいケーキが焼けるならむしろプラスですわ!?」
 
「…そ…そう…か…」

ズバズバと思ったことを口にするシェルリアーナの言葉がデイビッドに突き刺さる。

「デイビッド様の事は、なんと言うか、異性として見なくて済むんです。言葉の通じる何か別の生き物の様な気がして、とても親しみやすいんですよ。」

アリスティアのその一言がトドメの一撃となった。

「女子の本音…エゲツな……」

珍しく口を閉ざし、部屋の隅で落ち込むデイビッドを見て、エリックは巻き込まれまいと、給仕に徹している。

可憐な女の子のお茶会は夕方近くまで続き、2人はお土産付きで大満足のにこにこ顔で帰って行った。


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