黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

学園物ドラマの序章ぽいやつ

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春先に起きた王家主催祝賀会の騒動から3ヶ月。
更に言えばデイビッドが学園に放り込まれてから約2ヶ月半。 

濃すぎる学園生活も残り僅かで夏休みだ。
学生達も浮足立っている。

「最初に言っておくが!俺はテスト制作には一切関わっていないからな!テスト範囲聞かれても何ひとつわかりません!!わかったな?!」

えー!?と生徒達ががっかりしているのは商業科の教室だ。

「静かにしろー!今日は実際あった商品開発から発売までに必要な、金の流れについて話してくから、しっかり聞いとけよ!?」

デイビッドはここ最近で、現地雇用と、廃棄予定品の再利用と、更に他国の希望と輸出が叶った、ちょっとおいしかった商談を語った。

「それって、こないだ売り出したフルーツペーストの話ですか?!」

「良く知ってんなぁ!そう。元々、北方諸国で子供用の栄養補助食品を探してる話を聞いたんで、持ってったらこれが大当たり!!」

南方諸国の廃棄予定の果物を使って、砂糖は使用せず、果物の甘みだけで煮詰めたペーストは、野菜の乏しい北国の貴重な栄養素をふんだんに含んでいる上、子供達にも大人気だそうだ。
極寒の屋外に出して、シャーベットにして食べるらしい。
大人も高齢者も抵抗無く食べられて、値段も庶民価格に抑えることができた。

北方だけでなく、ラムダ王国でも女性を中心に美容食品として人気が出ている。

「あれ作ったの、本当にデイビッド先生なんですか?!」

「あぁ、始めの頃話したろ?果物工場の加工の課題。アレの現着地点ってとこだな。」

「すごーーい!!」
「さすが先生ーー!」

情報は新鮮な程、良く頭に入るものだ。
なんだかんだ言いながら、生徒達は皆真剣にデイビッドの話を聞いていた。


終業の鐘が鳴り、デイビッドが黒板を消していると、いつものように生徒達が質問をぶつけて来る。

「デイビッド先生!今度のパーティー出るんですか?」

「パーティー?あぁ、夏休み前の親善会か。出るこたぁ出るが、運営側だぞ?!」

「えー!?踊らないんですか?エリック先生と!」

「そこで出てくる名前じゃねぇだろ!!」

「でもエリック先生、デイビッド先生相手ですごい踊りやすかったって言ってました。」

「(あンの野郎…後で覚えとけよ…)…誰とも踊らねぇよ!!」


商業科の授業は週の最終のため、ここからは放課後。
帰宅する生徒、勉強を続ける生徒、学内活動へ参加する生徒と、思い思い動いている中、研究室へ向かっていたデイビッドは、中庭で誰かに呼び止められた。

「おい!お前がヴィオラの婚約者って本当か?!」

ここで耳にするとは思わなかった名前に、驚いて振り向くと、騎士科の制服の生徒が立っていた。
付けている校章から2年生の様だ。

「…その話、どっから出てきた?」

「はぐらかすなよ!親父がそう話してた。ヴィオラはデュロックの嫁になるってよ。人の女取りやがって!しかもテメェみたいなブサイクが!?現実みろよ豚野郎!」

久々のストレートな罵倒に、逆に感心してしまったデイビッドは、名乗りもしない生徒から目が離せずにいた。

金茶のショート髪に淡いブラウンの瞳、背は高く、細身だがそこそこ鍛えてはいそうだ。
女子の視線がちょこちょこあるので、恐らく人気の部類なのだろう。

「なんか言えよ!クソがっ!!」

イラついて足元の石をデイビッド目掛けて蹴り上げて来る辺り、暴力的と言うか、短慮と言うか…
余程のことがない限りこのオラオラ男がヴィオラに好かれているとは考え難い。
しかし、ヴィオラの過去を全て知っている訳では無いので、デイビッドも少し身構えた。

「名前も言えないヤツに何か言ってやる義理はないんだがな。そもそも俺は婚約者の存在を公開していない。いくら因縁を付けてこようが無駄だぞ?わかったらどっか行けよ…」

難無く石礫を避けると、デイビッドは直ぐに背中を向け、その場を去ろうとした。

「勝手にどっか行こうとしてんじゃねぇよ!!」

デイビッドの背中に衝撃が走り、突き飛ばされる感覚がして、体が地面に擦り付けられた。
受け身は取ったが、肘も膝も擦りむいて、血がにじんでいる。
背中の痛みから、直ぐに蹴り飛ばされたのだと分かった。

「オラ!立てよ!話はまだ終わってねぇぞ?!」

得意顔でデイビッドを見下すオラオラ野郎。
(久々過ぎて忘れてたなこの感覚…)
デイビッドは、ゆっくり起き上がり、体の砂を払うと血の出たところを確認した。
(痛ぇ…けど、この程度か…)
つまらん、と言う顔でオラ男を一瞥すると、デイビッドはまた歩き出す。

「待てっつってんだろ?!!」

オラ男は、今度はデイビッドの襟元を掴み、拳を振りかぶって殴りかかろうとしてきた。

「ヤメろ!!アレク!!」

大振りの拳が宙で止まり、声の方を見ると、騎士科の3年生カインがこちらへ走って来る。

「何してんだ!?人を殴るなんて騎士のすることじゃない!!」

「うるせぇっ!コイツが人の女を取ったんだ!」

「ひとの…女…?」

カインは襟を掴まれているデイビッドを見て、信じられないと言う顔をした。

「…女と縁遠そうな顔で悪かったな…」

「いや!そんな事思ってない!男は見てくれじゃねぇよな!!」

「お前…止めに来たのか?追い打ちかけに来たのか…?」

「あ!いや、そうだ手!その手を離せアレク!無抵抗の相手を殴るなんて、騎士のすることじゃねぇだろ!?」


アレクと呼ばれたオラ男は、掴んでいた襟元を突き飛ばすように手を離したが、デイビッドが正面からの衝撃にはビクともしないので、更にイラついたようだった。

「いいか!今すぐ、ヴィオラと別れろ!でないと痛い目に遭うぞ!!」

そう言い残し、アレ男はどこかへ行ってしまった。

「なぁカイン、アイツは一体何を騒いでるんだ?」

「うーん…先週、騎士科で婚約者の話になった時、アレクにはもう候補がいて、声をかければいつでも自分の所へ来ると話してたんだ。それが、どうも違ったらしい…」

「ふーーーん…何にせよ助かった。教員の立場で反撃はできねぇからな。どこまで殴られたらいいか迷ってたんだ。」

「殴られるなよ!!なんで平然としてられるんだ?!」

「この程度、ガキの遊びだよ。ところでアイツ、アレクって言うのか?」

「ああ、アレクシス・レニー。父親が騎士爵だそうだ。後輩が絡んですまなかった…」

「気にすんな。ほっときゃ治る。」

「ケガしてんじゃねぇかよ!?どうする?何か薬…」

「もう持ってる。安心しろよこっちはこんなん慣れっこだ。この年でまだあんなのがいるとは思わなかったけどな?」

心配するカインを置いて、今度こそ研究室へ向かって行く。
今、デイビッドの心中はそれどころではないのだ。

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