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黒豚特別非常勤講師
腹に据えかねて
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そして次の日。
アレクシスは騎士科の授業中に呼び出され、学園長室へ連れて行かれた。
カインは悔しそうにその後ろ姿を見送ったが、普段の素行の悪さから、内心胸を撫で下ろす生徒の方が多かったようだ。
学園長の前でも、そのふてぶてしさは変わらず、腕を組んだままそっぽを向いていたアレクは、後から入って来たデイビッドを見てまた頭に血が昇ったようだった。
「おい!なんのマネだ豚野郎!!俺が何をしたって?教師まで巻き込んで、嫌がらせにしちゃ手が込んでるんじゃねぇか?!」
アレクの挑発は気にも留めず、デイビッドはもうひとりの生徒を、わざとらしい程恭しくエスコートしていた。
「黙りなさい!アレクシス・レニー。殿下の御前ですわよ!?」
さらにその後ろから、シェルリアーナも入って来る。
高貴な身分のアリスティアが座り、シェルリアーナも席に着くと先にアリスティアが口を開いた。
「学園長先生、貴重なお時間を頂き大変恐縮です。」
「いやいや、お話は伺っておりますよアリスティア殿下。何でも王家の依頼で制作していた重要な研究資料を何者かに破壊されてしまったとか…」
「申し訳ありません。私の落ち度です。学園の中は安全と、警備を怠りました…」
そこで、すかさずデイビッドが謝罪する。
「デイビッド殿のせいではありますまい!しかし、万が一外部の者の犯行となれば、学園の警備が不十分ということになってしまいますなぁ…」
「そ…そうだよな!何も中の人間の仕業とは限んねぇだろ?なんで俺が呼ばれたんだよ!お前、まさか俺を疑ってるのか?!」
「学園長、まずはこちらの映像を。」
シェルリアーナは小石に仕立てた例の映像記録の魔道具に魔力を流した。
するとデイビッドの研究室の庭先が映し出される。
「殿下からの預かり物があるとの事で、デイビッド様より依頼を受けておりましたの。」
そこへ顔を隠した黒服の人物が3人現れ、次々と庭にあった物を破壊して行く映像が流れる。
「なんと酷い…しかしこれでは犯人が誰だかわかりませんなぁ…」
「ここをご覧下さい。この布を剣で引き裂いているのが分かりますか?これは騎士科の練習用の模擬刀です。」
「だ…だから騎士科の人間だってのか?それだけで何人いるんだよ!盗んだかもしれないだろう?」
「…この布は特殊な染料を使用していて、乾いてから魔力を流すと淡く光るんですよ。」
「失礼しますわ!」
デイビッドがアレクの後ろから腰の模擬刀を引き抜いて、シェルリアーナが魔力を流すと、ほんのりと光を放ち始めた。
「返せっ!!これは夕べ訓練場に置き忘れたんだ!誰か知らない奴が使って戻しておいたんだろう?!俺はやってない!!」
「では、こちらの映像はどうかしら?」
シェルリアーナは更にふたつの映像を流し始める。
ーーーーー
「オイ!もし断ったらどうなるか分かってんだろうな?!」
「で…でも、もし見つかったら…」
「見つかんなきゃいいだろが!」
「この前も、そう言って結局罰則だったじゃ、うわぁっ!!」
「もし嫌だってんなら、また剣の的にしてやる!次は半殺しにしてやるから覚悟しとけよ?!」
「わ…わかった…わかったからもう殴らないで!!」
ーーーーー
「テメェ、平民のくせに俺の言うことが聞けねぇのか?!」
「そんな事言われても…悪さに手を貸すなんてもう嫌だ!!」
「ならテメェの妹がどうなってもいいんだな?可哀想に貴のせいで大変な目に遭うのか!」
「妹は…妹には手を出すな!!ぐぇぇっ…」
「お願いします、だろうが!!お前が素直に言うこと聞けば許してやるよ!!」
「う…うぅ……」
ーーーーー
1年生だろう。まだ幼い顔立ちの青年達が、殴られ、蹴られ、アレクシスの言いなりにされている。
2人の映像には続きがあり、その後一度途切れた後に、3人で集まり顔を布で覆って庭の物を破壊するところまでが映されていた。
「……最低ですのね。こんなのが騎士になろうなんて、悍ましいにも程がありますわ…」
学園長も静かに怒りを表している。
「言い訳はもうないかね?アレクシス君。君の行いは騎士科全体の信用を貶める、極めて悪質な行為だ。何か申し開きがあるのならここで聞こう。言ってみなさい…」
するとアレクは震えながら下を向き、何かをぶつぶつ言い出した。
「…めぇ…が…から…」
「ん?」
「テメェが先に俺の女を横取したからだろぉがよぉっ!!」
「ああ、例の「ヴィオラ」の話か?!」
「アイツは俺が狙ってたんだ!気は弱ぇし、鈍臭いが、結婚しちまえば俺も貴族になれる!アイツは王都でなんかやらかして貰い手がいねぇんだろ?!だから俺が選んでやるって言ってんのによぉ!!地味で面白くもねぇクセに、なんでわざわざ汚ねぇ豚なんかに横取りされなきゃなんねぇんだよ?!!」
掴みかかられたデイビッドは、学園長とアリスティアに目と手で合図を送ると、双方の同意が取れたことを確認し、改めてアレクと向き合った。
「言いたいことはそれだけか?」
「ヴィオラと別れろ!アイツは俺の…」
次の瞬間、アレクシスのみぞおちにデイビッドが強烈な一撃を叩き込んだ。
「がっ…はっ………」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ!ヴィオラは!俺の!婚約者だ!!二度と近づくな……」
ズルズルと床に倒れたアレクは、そのまま白目を剥いて伸びてしまった。
「吐かなかった事だけ褒めてやるよ。」
そう一言吐き捨てて、デイビッドは学園長に再び謝罪した。
「学園長先生…度々、本当に度々ご迷惑おかけしてばかりで、誠に申し訳ありません…」
「なんの、生徒の不祥事を背負うのもまた教職者の役目です。しかし、デイビッド殿も大変ですなぁ…」
「お心遣い痛み入ります……殿下もご協力ありがとうございました。ロシェ伯爵令嬢のお力添えも頂けて、大変助かりました…」
「構いませんよ。ですが、お庭の事は気の毒でした…」
「あのくらい、直ぐに立て直せますから…」
「私は魔道具の実用性を知る良いテストになりましたわ!やはりデータは多い程良いものですもの!」
アリスティアとシェルリアーナが退室した後、学園長室には外部の騎士団から派遣された本物の騎士がやって来てアレクの身柄を引き取って行った。
なるべく生徒の目に付かないよう配慮していたつもりだったが、裏口の門の影からカインだけがこっそりとその後ろ姿を見送っていた。
「……悪いな、後輩を取り上げちまって…」
「良いんだ…しかたないことさ。ただ、なんにもしてやれなかったのが心残りかな…」
アレクが声をかけそうな1年生を探してくれたのはカインだ。
それも嘘であって欲しいと願っての事だったが、残念な結果になってしまった。
落ち込むカインを騎士科まで送り、庭の後片付けをしようと研究室に戻ったデイビッドは、開けかけたドアを即座にしめたのだった。
アレクシスは騎士科の授業中に呼び出され、学園長室へ連れて行かれた。
カインは悔しそうにその後ろ姿を見送ったが、普段の素行の悪さから、内心胸を撫で下ろす生徒の方が多かったようだ。
学園長の前でも、そのふてぶてしさは変わらず、腕を組んだままそっぽを向いていたアレクは、後から入って来たデイビッドを見てまた頭に血が昇ったようだった。
「おい!なんのマネだ豚野郎!!俺が何をしたって?教師まで巻き込んで、嫌がらせにしちゃ手が込んでるんじゃねぇか?!」
アレクの挑発は気にも留めず、デイビッドはもうひとりの生徒を、わざとらしい程恭しくエスコートしていた。
「黙りなさい!アレクシス・レニー。殿下の御前ですわよ!?」
さらにその後ろから、シェルリアーナも入って来る。
高貴な身分のアリスティアが座り、シェルリアーナも席に着くと先にアリスティアが口を開いた。
「学園長先生、貴重なお時間を頂き大変恐縮です。」
「いやいや、お話は伺っておりますよアリスティア殿下。何でも王家の依頼で制作していた重要な研究資料を何者かに破壊されてしまったとか…」
「申し訳ありません。私の落ち度です。学園の中は安全と、警備を怠りました…」
そこで、すかさずデイビッドが謝罪する。
「デイビッド殿のせいではありますまい!しかし、万が一外部の者の犯行となれば、学園の警備が不十分ということになってしまいますなぁ…」
「そ…そうだよな!何も中の人間の仕業とは限んねぇだろ?なんで俺が呼ばれたんだよ!お前、まさか俺を疑ってるのか?!」
「学園長、まずはこちらの映像を。」
シェルリアーナは小石に仕立てた例の映像記録の魔道具に魔力を流した。
するとデイビッドの研究室の庭先が映し出される。
「殿下からの預かり物があるとの事で、デイビッド様より依頼を受けておりましたの。」
そこへ顔を隠した黒服の人物が3人現れ、次々と庭にあった物を破壊して行く映像が流れる。
「なんと酷い…しかしこれでは犯人が誰だかわかりませんなぁ…」
「ここをご覧下さい。この布を剣で引き裂いているのが分かりますか?これは騎士科の練習用の模擬刀です。」
「だ…だから騎士科の人間だってのか?それだけで何人いるんだよ!盗んだかもしれないだろう?」
「…この布は特殊な染料を使用していて、乾いてから魔力を流すと淡く光るんですよ。」
「失礼しますわ!」
デイビッドがアレクの後ろから腰の模擬刀を引き抜いて、シェルリアーナが魔力を流すと、ほんのりと光を放ち始めた。
「返せっ!!これは夕べ訓練場に置き忘れたんだ!誰か知らない奴が使って戻しておいたんだろう?!俺はやってない!!」
「では、こちらの映像はどうかしら?」
シェルリアーナは更にふたつの映像を流し始める。
ーーーーー
「オイ!もし断ったらどうなるか分かってんだろうな?!」
「で…でも、もし見つかったら…」
「見つかんなきゃいいだろが!」
「この前も、そう言って結局罰則だったじゃ、うわぁっ!!」
「もし嫌だってんなら、また剣の的にしてやる!次は半殺しにしてやるから覚悟しとけよ?!」
「わ…わかった…わかったからもう殴らないで!!」
ーーーーー
「テメェ、平民のくせに俺の言うことが聞けねぇのか?!」
「そんな事言われても…悪さに手を貸すなんてもう嫌だ!!」
「ならテメェの妹がどうなってもいいんだな?可哀想に貴のせいで大変な目に遭うのか!」
「妹は…妹には手を出すな!!ぐぇぇっ…」
「お願いします、だろうが!!お前が素直に言うこと聞けば許してやるよ!!」
「う…うぅ……」
ーーーーー
1年生だろう。まだ幼い顔立ちの青年達が、殴られ、蹴られ、アレクシスの言いなりにされている。
2人の映像には続きがあり、その後一度途切れた後に、3人で集まり顔を布で覆って庭の物を破壊するところまでが映されていた。
「……最低ですのね。こんなのが騎士になろうなんて、悍ましいにも程がありますわ…」
学園長も静かに怒りを表している。
「言い訳はもうないかね?アレクシス君。君の行いは騎士科全体の信用を貶める、極めて悪質な行為だ。何か申し開きがあるのならここで聞こう。言ってみなさい…」
するとアレクは震えながら下を向き、何かをぶつぶつ言い出した。
「…めぇ…が…から…」
「ん?」
「テメェが先に俺の女を横取したからだろぉがよぉっ!!」
「ああ、例の「ヴィオラ」の話か?!」
「アイツは俺が狙ってたんだ!気は弱ぇし、鈍臭いが、結婚しちまえば俺も貴族になれる!アイツは王都でなんかやらかして貰い手がいねぇんだろ?!だから俺が選んでやるって言ってんのによぉ!!地味で面白くもねぇクセに、なんでわざわざ汚ねぇ豚なんかに横取りされなきゃなんねぇんだよ?!!」
掴みかかられたデイビッドは、学園長とアリスティアに目と手で合図を送ると、双方の同意が取れたことを確認し、改めてアレクと向き合った。
「言いたいことはそれだけか?」
「ヴィオラと別れろ!アイツは俺の…」
次の瞬間、アレクシスのみぞおちにデイビッドが強烈な一撃を叩き込んだ。
「がっ…はっ………」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇよ!ヴィオラは!俺の!婚約者だ!!二度と近づくな……」
ズルズルと床に倒れたアレクは、そのまま白目を剥いて伸びてしまった。
「吐かなかった事だけ褒めてやるよ。」
そう一言吐き捨てて、デイビッドは学園長に再び謝罪した。
「学園長先生…度々、本当に度々ご迷惑おかけしてばかりで、誠に申し訳ありません…」
「なんの、生徒の不祥事を背負うのもまた教職者の役目です。しかし、デイビッド殿も大変ですなぁ…」
「お心遣い痛み入ります……殿下もご協力ありがとうございました。ロシェ伯爵令嬢のお力添えも頂けて、大変助かりました…」
「構いませんよ。ですが、お庭の事は気の毒でした…」
「あのくらい、直ぐに立て直せますから…」
「私は魔道具の実用性を知る良いテストになりましたわ!やはりデータは多い程良いものですもの!」
アリスティアとシェルリアーナが退室した後、学園長室には外部の騎士団から派遣された本物の騎士がやって来てアレクの身柄を引き取って行った。
なるべく生徒の目に付かないよう配慮していたつもりだったが、裏口の門の影からカインだけがこっそりとその後ろ姿を見送っていた。
「……悪いな、後輩を取り上げちまって…」
「良いんだ…しかたないことさ。ただ、なんにもしてやれなかったのが心残りかな…」
アレクが声をかけそうな1年生を探してくれたのはカインだ。
それも嘘であって欲しいと願っての事だったが、残念な結果になってしまった。
落ち込むカインを騎士科まで送り、庭の後片付けをしようと研究室に戻ったデイビッドは、開けかけたドアを即座にしめたのだった。
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