黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

恋バナ大好き

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「ところで、今日はデイビッド様にひとつお願いがあるんです。」

手紙を読み耽っていたデイビッドに、おもむろにエリックが声を掛けた。

「ほー、どんな?」

「この後のダンスの授業、一緒に出て下さい!!」

「嫌だ!!!」

「そう即答しないで下さいよ!今日のレッスンは希望者のみで、デイビッド様が来るって言っても逃げなかった生徒だけですから!」

「俺の参加を前提で物事を決めるの止めんか!!」

「お願いします!やっぱり僕だけじゃ上手く教え切らないんです!!生徒のためにも是非!!」

「…半分面白がってんだろ…」

「そんな事ナイです!!」


その後エリックの粘り勝ちで、デイビッドはこの度、初の淑女科のレッスン場へ足を運ばされることになった。

「では本日はこちらのグループだけ特別授業となります。初参加になりますデイビッド先生です。皆さん良く見ていて下さいね!」

メトロノームの音に合わせて、エリックがひとつひとつ動きを説明しながら足を動かしていく。
パンパンパン!タンタンタン!
軽やかなステップの足音が響き、皆真剣な顔で練習している。

「それでは、実際の音に合わせてみましょう!」

レコードが掛かり、軽快なワルツが流れると、生徒達は各々相手を想像しながら足を動かしていく。

「もっとかかとを高く…」
「はい!」
「そこ入りすぎないで…」
「はいっ!!」
「踏み込みが浅いと回れないぞ…」
「こうですか?!」
「下は向くなー」
「はーいっ!!」

デイビッドが後ろからボソボソ指示を飛ばしても、嫌な顔一つせず皆懸命に踊っている。

「皆さん素晴らしい!では最後に実際にペアで踊っている所を見てみましょう!」

「やっぱやんのかよ!!?」

デイビッドは渋々、それはもう渋々嫌々、以前部屋で踊ったダンスをもう一度、今度は人前で踊ることになった。
笑われるかと思ったら、誰一人声も出さず二人のダンスを凝視している。
(これはこれで非常にやり辛い!!)
なんとか最後まで踊りきり、一礼で相手から離れると、なんと後ろから拍手が聞こえた。

「すごい!」
「カッコよかったです!」
「お二人共!すごく綺麗なダンスでした!」

「お二人共でしたっ?!!豚が飛び跳ねててウザくなかったですか??」

デイビッドの自虐的な質問に、女生徒達はきょとんとしていた。

「何を言ってるんですか先生!足の動きもターンも、とても迫力があってかっこ良かったですよ?!」

「女性パートが豚で気持ち悪いとか無いの??なんで??」

「包容力ありそうで、男性側を逆にリードしててドキドキしました!こんなダンスもあるんだっ…て!」

「なかったことにして欲しい!!」

「やっぱり本番も踊りましょうよ先生!!」
「最近は女性同士で踊るのも流行ってるんですよ?!」
「男性同士も踊りましょうよー!!」

「俺は踊りません!できれば二度と!!」

「「ええーー!!」」

デイビッドはなんとか終業まで持ち堪え、こんがらがった頭のまま商業科へ向かっていると、エリックが追い付いてきた。

「いや~今日は助かりました!二学期から帝国の留学生が何人か来るでしょう?皆一緒に踊りたくて一生懸命なんですよ~!」

「それはいいんだが…なぜああまでして男同士を踊らせたいのか理解ができん……」

「…巷には、女性向けにそういう本もあるそうですよ?」

「は……?」

「同性愛とか。ロマンス小説になって売ってるの見たことありません?」

「それは…ちょっと…わかんない世界過ぎるな…」


廊下でエリックと別れてからも、ロマンスとは…の思考から抜け出せなくなったまま、デイビッドは授業を始めることになった。

「あー…えーーと……なんだっけ…どこからだっけか…」

珍しくノートのメモを確認していると、いつもの質問が飛んでくる。

「デイビッド先生!!やっぱり婚約者いたんですね!!」

「なっ!?」

「ヴィオラさんてどんな人ですか?!」
「美人?カワイイ?」
「どんな所に惚れたんですか?!」

(あのクソ野郎ぉぉぉ………)
あの日、アレ男が散々騒いだせいで、すっかりデイビッドに婚約者がいることが知れ渡ってしまっている。
(いや…元はと言えば酔っ払ったウチのバカ親父のせいか…チクショウッ!!)

「50回目のお見合い成功か!?って新聞にも書いてありました!!ほんとにそんなにお見合いしたんですか?!」

学内新聞どころか、市井の新聞やゴシップ誌にまで取り上げられて、こっちはいい迷惑だ。
(50じゃねぇよ!49回だよ!!コノ…)

「その人、この学園に来るって本当ですか?!」

商業科は情報が早い。
こうなってはヴィオラのためにも黙っているわけにはいかなくなった。

「あー、その話だが…」

生徒達がワクワクした目で聞いているのがわかる。
アリスティア達の時もそうだったが、みんな恋愛や色恋話に花が咲くお年頃なんだろう。

「確かに、俺には婚約者がいる。ただ、明るいだけの関係じゃない。底の見えない真っ暗な貴族の闇や、しがらみが関係した、あんまり良いもんじゃ無い。お互いの関係は良好だが、それもどうなるかわからん。そもそも、貴族内で一番結婚したくない男に嫁がなきゃならんわけだ。他所から見たら哀れな生贄みたいなもんだ。あんまり騒がれても良い気はしないだろう。俺には何を言っても構わんが、彼女の事はそっとして置いて欲しい。お願いじゃないぞ?これはひとつの警告だ!!いいか?いいな?!分かったら授業を始める…」

多少含みを持たせた物言いに、教室はいつもより少し静かになった…

…のも束の間、あっと言う間にいつもの雰囲気に戻り、質問攻めが始まる。
この切り替えの速さが商業科の強みでもある。

「デイビッド先生、モテないって本当なんですか?」

「うっせぇー!!生まれてこの方一度もねぇわ!!」

「うっそだぁ~!」
「絶対どっかでモテてるよ!」
「気がついてないだけじゃないんですか?」

「豚は人間と恋愛しません!以上!!」

「でも婚約者いるんでしょう?」
「今度のパーティーで踊らないんですか?!」
「あら、デイビッド先生はエリック先生と踊るんじゃないの?」
「先生!女子がこう言ってますけど、本当に男同士で踊るんですか??」

「踊らねぇってんだろ!!板書消すぞ?!」

賑やかな週末の授業は、こうしていつも通り過ぎていった。

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