黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

商機を得た豚

夏休みまで一月を切った頃。

デイビッドは受け持ちの校時枠の生徒と、日曜限定の学生食堂を開くことになった。
一学期の集大成として、実際に自分達で商売してみろという訳だ。

「商品はサンドイッチ!値段も品数も自分達で決めること。元金大銀貨1枚(約10万円)出してやるから、最低でも銀貨1枚(約一万円)は売ってこい!」

クラスは領地経営科と商業科の混合で、五班に分かれ、各々商品開発やら告知やら話し合っていた。
商品自体を仕入れる所もあり、値段設定に頭を抱えている。
安く商品を仕入れようとして、売り物には難しい材料を持ってきてしまい、駄目出しされた班もあった。

「失敗は構わないが、犠牲者だけは出すな!?鮮度と品質だけは落とさないこと!」

「卵高いなぁ…」
「揚げ物は難しい?」
「パンの形変えてみるのは?」
「あたし甘いのがいい!」
「肉入れようぜ!」

試作を繰り返し、納得のいくものができたら、店の雰囲気はどうだ、従業員に目印をつけようか、ラッピングまで凝りたいと、話し合いは続いて行く。
デイビッドはその様子を、楽しそうに後ろからながめていた。


そして日曜日。
いつものパンと惣菜を買いに来た他科の生徒達は、今日の店の数に驚いた。

「熱々のソーセージサンドだよ~!」
「卵たっぷりのサラダサンドはいかが?」
「フルーツサンドやってまーす!」
「好きな具材挟みますよ?!さぁ選んで!」
「今なら飲み物付きでお買い得でーす!」

デイビッドが生徒で賑わう店を回りながら、売り手買い手の様子を見ていると、1人の生徒が各店からいくつも商品を買っているのが見えた。
いつも手紙を届けに来る奨学生だ。
(騎士科の生徒だよな…名前は確か、テッドだったか?)

気になって声を賭けに行くと、テッドの方から気がついてくれた。

「デイビッド先生!今日すごいですね!どれも安くておいしそうで、助かります!」

「よぉテッド!ずいぶん買ったな!ありがたいが、そんなに食うのか?」

「まさか!これは騎士科と魔法学棟に持って行くんです。ひとつ銅貨1枚上乗せで売るんですよ。ここまで少し離れてるから、ものぐさな生徒がよく買ってくれるんです。」

「思わぬ所に商才が…。なぁテッド、真剣にバイトしねぇか?ひとつ売れたら銅貨1枚半払うってことで!」

「いいんですか!ありがとうございます!」

デイビッドは各店から集めた商品をテッドに渡し、移動販売の依頼をすることにした。

「うーん…値段はそれぞれの商品に付けた方がいいですね。中身の見えない物は何が入ってるかも書いて…目立つ色のクロスもあれば貸して下さい。目印にするので。あとは、コレ!特売って書くと買ってくれる人増えるんです!」

「商魂の塊か!!こんなとこで恐ろしい逸材見つけて!俺はどうしたらいいんだ!!」

「じゃぁ行ってきます!」

軽やかに去って行ったテッドは、数十分もしない内に完売の札を下げて帰ってきた。

「全部売れました!でもソーセージが冷めちゃって、半銅貨値引きしちゃったんです。勝手なことしてすみません…」

「テッド!お前、奨学生で騎士科に入ったって言ってたな?!今からでも商業科に来ないか?!」

「え…でも、僕、平民だし、勉強出来なくて…騎士になるしか道がないかなって…」

「いやいやいや!!素質しかない!!なんなら特別枠に推薦してもいい!!本気で考えといてくれ!!」

謝るテッドの肩を捕まえ、デイビッドは真剣に商業科への勧誘を続けた。



余談だが、デイビッドの熱心な誘いに、テッドは二学期から商業科の生徒として通うことになる。
そして、デュロックの息のかかった商会で働きながら学園を卒業し、後に大商人として大成し、デュロック辺境伯爵に厚い信頼を捧げ続けることになる。



日曜の学生販売は人気を呼び、課題期間中は毎週大盛況となり、ついに学園で認められ継続が決定した。
おかげで本格的な雇用も生まれ、特に後々も商業科の生徒は必ずと言っていい程一度はここで働き、学びを得る場となった。

「それじゃ、各々反省点、上げてけ!!」

「はい…お釣り間違えました…」
「材料はあるのに、作る暇がなくて提供時間が長くなっちゃった…」
「味が薄いって…」
「売れたけど、原価考えたらマイナスでした…」
「生徒相手でも接客ってすごく疲れる。」
「経営する側ってこんなに大変なんですね…」

「…なぁ~?!物作って売るって大変だろ?俺だって後ろ盾なしで始めようとは思わなかっただろうな…特に雇用は難しい。今回はいい経験になったと思って、次に活かす事!それじゃ、今日は福祉機関の運営について……………」

余程ショックだったのか、今日の生徒達はいつもより覇気がなく商業科の生徒すらそこそこ大人しかった。


デイビッドは日中の移動には中庭をよく使う。
日陰を通ると生徒とあまり行き合わずにすむので、気軽に歩いていると、植え込みの陰に誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。

「う…わっ!すまん!驚かせて!…その…どうしたんだ?こんなところで……」

しゃがんでいたのは女生徒で、淑女科の制服を着ていたが、以前からデイビッドの講義にちょくちょく顔を出してくれる生徒だった。
人目を避けて、木陰でこっそり泣いていたようだ。

以前のデイビッドなら、女性と見ただけで脱兎の如く逃げ出していただろうが、このところ教員としての自覚なのかなんなのか、例え憎悪の目を向けられても、果敢に声をかけるようになってきていた。

「デイ…ビッド…せんせ…すい…ませ…」

「いやいやいや!謝る必要はないぞ!?な?えーーと、名前…アニス…だっけ?ひ…ひとまず…場所移すか!!」

2人は更に人目を避けつつ、教員室の隣までやってきた。

「てっきりデイビッド先生の研究室に行くのかと思いました…」

「未婚女性と二人きりとか、そこまで危ない橋は渡りたくないな!!」

そこは教員室の隣の角部屋、医務室だ。
常にシモンズ女医かその助手が滞在している上に、本棟の真ん中なので、ここなら変な噂も立つまい。
デイビッドはシモンズ女医に休息室を借り、そこで今度こそアニスの話を聞くことにした。

「それで?一体何があったんだ?」

「…実は、私小さい頃から婚約者がいたんですが、先月いきなり別の人と一緒になるからって、白紙にされたんです…」

「それは…流石につら…」

「まぁ、それはどうでもいいんですけど…」

「どうでもいい話だった?!今の?」

「せっかくパートナーが居ないんだし、今度の親善会では憧れの先輩とか、気になってた人とかと踊ったりしようって、貸し衣装屋でとびきりかわいいドレスを選んで、着られるのすごくすごく楽しみにしてたんです…」

「お…おう…切り替えは大事だよな!うん…」

「そしたら…昨日になって、別の貴族にお金積まれて、そっちに貸したって言うんです!!」

「それは商人としてやっちゃ不味いことだな…」

「楽しみだったのに…新作なんかじゃないけど…ミス・アプリコットのデザインしたドレス…私も着たかった…」

「…悔しかったんだな…」

「新しいドレスなんていらない…でも、せめて貸し衣装でもいいから、かわいいドレスで踊りたかった…って思ったら…もう止まらなくて…」

そう言うとアニスは再び涙を流した。

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