黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

淑女科の洗礼

そして次の日の放課後、服飾室には昨日より人数の増えた女の子達と、男子生徒が数人集まっていた。

「なんで男が…ってそうか、お前等実家が仕立て屋か!」

「はい、家業で大きなテーラーを経営しているので!是非見学させて下さい!」

「僕のとこはただの仕立て直し屋ですが、ドレスを作るのは夢だったので!!」

「いつか自分の店を持ちたいと思ってるんです!プロに教わるチャンスと聞いて…参加させて下さい、お願いします!」

「作る側の目線か!見えてなかったなぁ~。よし、次回からそういう機会も増やしてこう!」

「先生それはいいから早く始めて!!!」

「わかったからちょっと待て!もうすぐ特別講師が来るから、全員失礼のないように!」

丁度その時、服飾室のドアをノックする音がした。

「失礼致します。こちらは服飾室でよろしいですか?」

「お!来たようだぞ?!どうぞ、お入り下さい。」

入って来たのは小柄で上品な貴婦人だった。

「全員注目!こちらが今日お願いした専門家の先生だ。無理を言って来て頂いたから、あまり時間に余裕はないと思え?!キビキビ動いて何かひとつでも多くつかみ取れ!!」

「あらあら!ダメよデイビッド、そんなに脅かしちゃ。私の方こそ、今日皆さんに会えるのを楽しみにしておりました。久々の母校に入れてワクワクしていますのよ?初めまして皆さん。私、アプリコット・フィズと申します。今日はよろしくお願いしますね?!」

前列にいたアニスは、口をあんぐり開けたまま固まってしまった。

「ミス……アプリコット……???」

教室の全員が目を見開き、何人か椅子にへたり込んでしまった者までいる。

「それじゃ義叔母上、あとよろしくお願いします。」

「おばうえぇぇーー???」
「デイビッド先生身内なの??!」
「似てない!!!」

「うっせぇ!!死んだ叔父貴の嫁さんなの!だからこっちと血は繋がってねぇんだよ!!」

「さぁ、皆さん時間がもったいないわ!さっそく始めましょう!それぞれ草案を見せてちょうだい?!ポイントをひとつずつ説明していきます!」

楽しそうに生徒に囲まれるフィズ夫人を見て、デイビッドはこれ以上巻き込まれまいと、そろっと気配を消し、外へ出て行った。

賑わう服飾科を出たデイビッドが、空の台車を転がしながら廊下を進んでいると、目をつり上げた派手な女生徒の一団が階段の上からやって来た。

「ちょっと、そこの貴方!!」

呼び止められて、見上げると、扇で口元を隠した令嬢を先頭に、皆がデイビッドを睨みつけている。

「貧乏人にドレスを与えるのは構いませんが、それが何故ウイニー・メイの一点物なのです?!」

「…受講希望ならもう締め切ったぞ?」

「まずは私達に伺いを立てるのが、下位貴族の筋というものではなくて?!」
「これだから田舎者は…」
「何をするにしても、まずは高位貴族へ話を通すべきですわ!常識でしてよ?!」

「そうなのか!?学園長の許可も、内部施設の使用申請も受理されてて、これ以上なんか必要と思わんかった。淑女科は勉強するのにも高位貴族子女の許可が必要だったとはな!覚えとく。」

「ちょっと!私達を馬鹿にしておりますの?!」

女生徒達がデイビッドに近づこうとした時、その後ろから澄んだ声が響いた。

「あら、そんなお話初耳ですね。校則にもありませんでした。詳しくお聞かせ下さい。」

よそ行き用の笑顔を貼り付けたアリスティアが、階段の上から降りてくる。

「で…殿下!」

「どうなさいましたの?先輩方、どうかこの無知な後輩にご教授下さいませ!?」

「し…失礼致しました!私達はただ、この者が…」

「こちらはデイビッド先生です。淑女科の方々はあまりお顔をご覧になりませんもの、お忘れかしら?」

「あ…その、デイビッド先生が…どこかからウイニー・メイのドレスを集めてきて、店の許可もなく手を加えていると聞いて…」

「そうなのですか?デイビッド先生。」

「いいや?デザイナー本人が監修してるから該当しないな。」

「まぁ!では、アプリコット夫人がいらしておいでなのですね?!」

「嘘よ!!」
「そ…それこそありえませんわ!」
「今を時めくミス・アプリコットがこんな豚の言う事を聞くなんて!」

「ちゃんと教員室の許可証に、本人と学園長のサインが入ってるから、いつでも確認しに行けよ。言いたい事はそれだけか?台車返しに行きたいから、もう行っていいか?」

「くっ…この、田舎者の分際で!」
「覚えてなさい!!」

バタバタと逃げて行く令嬢達を横目に、アリスティアは大きなため息をついた。

「はぁ……よくもまぁ、こんな敵陣のど真ん中に丸腰で突っ込んで来たものですわね?!」

「あれ?姫様じゃねぇのか?」

「新しい幻影魔法ですわ!」

パチンと音がして、アリスティアの姿が一瞬揺らぎ、シェルリアーナが現れる。

「アリス殿下は終業後、直ぐにお帰りになられるのよ!まったく…淑女科なんて、貴方が授業外にうろついていい場所じゃありませんのよ?暗がりで叫ばれて、襲われたなんて騒がれたら、例え冤罪でも最悪クビですのよ?!そう言うところわかってますの?!」

「…お…おっかねぇ~……」

「今更怖がってどうしますの?次からは対策くらい取って来なさい!これだから女の怖さを知らない男は…」

「なんにしても助かった!ありがとな!ティ…シェル!」

「今ティーカップって言いかけたでしょっ!!!」

「悪かった…本気で!」

「まぁいいですわ…ところで、例の物は出来てますの?」

「あ?ああ!一昨日完成したよ。丁度サンプルが職人に届く頃じゃないか?でもいいのか?プロが手掛けた物の方が質も良いだろ?」

「かまいませんわ。これから注文したところで、届くのは良くて来月以降ですもの。手元に実物があるのなら、活用しない手はありませんわ!」

ウキウキと立ち去るシェルリアーナを見送り、デイビッドは再び台車を転がして行った。


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