黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚特別非常勤講師

厄災的人物

「うぅ~…思い切り足踏まれたぁ…」
「人混みに酔っちゃって…」
「靴擦れが痛いんです!」

パーティー中、医務室はそれなりに忙しく、デイビッドはシモンズ女医にこき使われていた。

「ところでデイビッド。お前さん、ロシェ令嬢と踊らなかったのかい?」

「なんです?唐突に…」

包帯を巻き直しながら、デイビッドはシモンズ女医に怪訝な目を向けた。

「さっき誘われてただろう?もったいない。美人と踊りたいって気はないのかい?」

「無いですね。そもそもあれは、からかいに来ただけですよ。」

「本気でそう思ってるのなら重症だね…」

「なにか言いました?」

「いいや、独り言さ。包帯が終わったら、空いたベッドを片付けて、出した薬をしまっておくれ。」

「はいはい…」

デイビッドが使用済みのシーツを運んでいると、突然シモンズ女医が大きな声を出した。

「デイビッド!会場にクロードが来てるが、何か聞いてるか?!」

「クロードが??いや、アーネストも姫様も何も言ってなかった。」

「独断で乗り込んできたのか?相変わらず厄介な王族だね…」

医務室の小窓からは会場が覗けるようになっていて、シモンズ女医とデイビッドは、そこからクロードが何か言っているのを眺めていた。

「詳しい内容は後でエリックに聞こう。困ったもんだ。アイツは昔から自分をカリスマだと思ってる。単に王族だから視線が集まってるだけなのにね。あれが来期から復帰するんだろう?お前さんの婚約者は大丈夫なのかい?!」

「…学舎も活動範囲も遠いので、普段は顔すら見ないでしょう。後は緑色の廊下の内側にいれば、アイツは絶対に入って来ないので…」

「まずい!アリスティア殿下がクロードに近付いた!あの2人は水と油だ!デイビッド、なんとかして来い!」

「へーいへい……」


会場に降りると、和やかな雰囲気から一転、音楽も止まり空気が張り詰めていた。

「邪魔をするなアリス!!私がスピーチをしている途中だぞ?!」

「本日の予定にそんなものはありません。夏季休暇の終わりまで謹慎が決まっているはずの貴方が、何故こちらへ来ているのですか?即刻王宮へお戻り下さい!」

「何を言うか。謹慎など、とうに終えている!相変わらず無礼な奴だ。」

「王族の権力を盾に、周りに迷惑を掛けないで下さいませ!今日は大切な親善会。このままお帰り下さい!」

「うるさいっ!!お前こそ私に近づくな!!」

クロードは、あろうことかアリスティアの肩を突き飛ばした。
ヒールとドレスでバランスが取れず、アリスティアの身体が仰向けに倒れていく。

「「キャァァァ!!」」

周囲から悲鳴が聞こえ、アリスティアがぎゅっと身構えた時、その背中で何か軟らかい物を押し潰した感覚がした。

「あら?痛くない…?まぁ!デイビッド先生、ありがとうございます。」

さっと手を貸す学友達にゆっくりと起こされ、下敷きにしたものが何か改めて確認すると、床にデイビッドが潰れていた。
走っては来たものの、受け止めるには間に合わず、本当に滑り込んだのだ。

「はいはいどうも…重くはないが、早くどいてくれ…」

「失礼しました。おかげで怪我もありませんでしたわ。」

デイビッドも立ち上がり、服の埃を払っていると、会場中の視線が集まっているのに気が付いた。

「申し訳ありませんでした。あんなに目立つのを嫌がっておいででしたのに、ダンスより注目を浴びてしまいましたわ。」

「まー……気にすんな、教員なんだから、生徒を守るのは当たり前だろ…念の為医務室行くか?」

「そうですね、私は何ともありませんが、念の為…皆様心配おかけしました。この通り、怪我はありませんので、ご安心下さい。」

アリスティアがデイビッドに伴われ、会場を出ようとした時、後からまた余計な声がした。

「き…貴様!あの時の豚ではないか!!ここは神聖な貴族子女の通う学園だぞ?!何をしている!コイツを即刻つまみ出せ!!」

教員達が少しづつ生徒を下がらせ、デイビッドに助けは要るかと目配せしたが、デイビッドは小さく首を振り、大丈夫と手を上げて見せる。

「エリック…先生、姫殿下を医務室へ頼…みます。」

「そうあからさまにやり辛そうにしなくても…」

エリックはアリスティアを連れ、医務室へと向かって行った。

「エリック先生!私も見届けます!」

「いけません。貴女をあの場から離したのは、恐らく万が一に備えての事です。シモンズ先生の元に行きましょう!」

アリスティアの姿が見えなくなると、デイビッドが再びクロードと正面から向き合った。

「おい!聞こえないのか?!誰かこの化け物を…」

「クロード殿下、大人しく王宮へお帰りを。共も護衛もいないところを見ると、抜け出してきたのは確かなのでしょう?今お帰りになれば、お叱りも少なく済みますよ?」

「誰にものを言っている!!黒豚が、貴様こそ豚小屋に戻ったらどうだ?!家畜臭くてかなわん。」

「私はここの教員ですので、会場を離れるわけには行きません。今日は全生徒の集まる親善会です。話なら別室でお聞きしますので、どうかこの場はお引き下さい。」

「は?教員だと!?ふざけているのか?!豚から何か教わるような事は無い!頭のおかしい奴め。それが本当なら今すぐクビにしてやる!!」

低姿勢な物言いを続けるデイビッドに、苛立ったクロードが腰の剣に手を掛けた。

「あの夜会のこと含め、今ここで私に謝罪するなら許してやってもいいぞ?床に這いつくばって頭を擦り付けてみろ!王族への侮辱と不敬、今度こそ償わせてやる!」

「…また剣なんざ持ち込んで…人混みでぶら下げてていいもんじゃねぇだろ?!常識すら理解できない王族なんざ誰も敬わねぇよ。扱いにくいだけの厄介者だ!」

「な…なんだその口のきき方は!もう容赦しない!この場で粛清してくれる!!」

金属の擦れる音と共に、金と宝石で飾られた柄をクロードが引き抜き、ついに刀身が露わになった。
「ひいっ」「きゃぁっ!」と方々から小さな悲鳴があがる。

教員達は手分けして壁際まで生徒達を逃がし、少しずつ会場の外へと連れ出していった。

「デイビッド殿、危険です!!」

あちこちから声がするが、デイビッドは剣から目を離さない。
(狂人が刃物を持ってるのと変わらない…王族なのは厄介だが…後の事はアーネストに任せるか…)

「これで貴様もおしまいだ!!」

大振りに剣を振り上げ、切りかかって来るクロードを最小限の動きで避け、足元をすくい上げて少し背中を押すと、クロードはいとも簡単にひっくり返った。

「ぎゃぁぁ!!」

剣を遠くへ蹴り、腕を後ろに捩じると、クロードは痛みで大騒ぎし出した。

「痛いっ!痛いーーっ!!殺してやる!!処刑してやる!!貴様は晒し首だ!!痛めつけて細切れにして豚の餌にしてやるー!!」

「誰か紐と布切れを!コイツは縛って送り返そう。ここにいるだけで迷惑だ!」

クロードはついに猿轡を噛まされ、手足を縛られて外に止まっていた王宮の馬車に放り込まれた。
御者にはくれぐれも解かないように言いつけ、再び王宮へと戻らせる。

「やれやれ…散々な目に遭った…」

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