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黒豚特別非常勤講師
そして夏休み
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その後、学園長や教頭含む教員が、何人も控室に閉じ込められているのが見つかり、ドアに施された魔道具を解除したりと、会場は大騒ぎになった。
そこから仕切り直す事もできず、この年の親善会は中途半端な形で幕を閉じることになってしまった。
「皆様、大変申し訳ありません…同じ王族として、皆様に深く謝罪したします。」
悲痛な面持ちのアリスティアが最後を締めくくり、生徒はそれぞれ寮や帰路に散って行く。
何とも後味の悪いパーティーになってしまったが、何と言っても明日からは夏休みなのだ。
友人達と分かれを惜しむ華やかなドレスの少年少女達の声が、だんだん聞こえなくなっていった。
「デイビッド先生、お怪我は?!」
駆け寄るアリスティアを、学友達が引き留めようと一緒に駆けて来る。
「掠りもしてねぇよ、大丈夫だ。」
「でも…御髪が…」
確かに。避けた時、なびいたデイビッドの長い髪が剣に触れ、毛先がいくらか斬り落とされていた。
「ああ?!よく見えたな!?別に髪なんてどうでもいいけどよ。傷んでたし、丁度良かったかもな?!剣の切れ味だけは偉いもんだったが、それだけだ。」
「殿下、さぁこちらへ…」
いつも側にいる学友達は側近の候補なのだろう。
所作も動作も他の生徒とは一味違う。
「デイビッド・デュロック令息様…」
「あ!はい?!」
背筋を正した側近候補の一人がデイビッドの前に立った。
「殿下をお救い下さりありがとうございました。」
「あれは助けた内に入らんだろ。下敷きになっただけだ。」
「それでも、我々はとっさに動く事もできず、盾にすらなれませんでした…」
「王族同士の間に入るのは難しいさ。今回はシモンズ先生の勘の良さに感謝だな。俺は言われた通りに動いただけだよ。」
人がいなくなり、きれいに片付いた大広間を見渡すと、デイビッド達も教員室へ戻った。
ぐったりと疲れた顔で、頭を抱える教員達。
この度の騒動を、どう生徒の家族に伝えたものか…
一人ひとりに丁寧な謝罪と、今後の対処や、生徒への気遣いを綴り、封筒へ入れていく。
何度も誤字脱字をチェックし合い、文章や言い回しを考え、家格にあった文体や、書き出しはどうだ、締めの言葉はこれで良いか、話し合いながら全生徒分の手紙を書き上げていく。
地道かつ異常に体力を削られるこの作業は、夜遅くまで終わることはなかった。
学園長達は怪我もなく、次の日には元気に学園へやって来て、残りの執務をこなしていた。
教員は夏休み中も来期の下準備や、残っている生徒の指導など、やることがあるため、基本何日か置きに登園している。
デイビッドは久しぶりに研究室でのんびりしながら、燻製窯を焚いていた。
ヒッコリーとリンゴのチップを合わせて、中のソーセージを燻しながら、薪になる廃材を拾いに行く。
(そろそろここも片付いちまったな…)
まだ探していない場所はどこだったか、思い出しながら窯を開けると、いい色に燻されたソーセージがカーテンのようにぶら下がっている。
(キレイに仕上がったが…さて、味はどうか…)
昼の支度をしに、菜園の野菜を持ってオーブンへ向かい、煮込み中のトマトスープの鍋を覗くと、3分の1程なくなっていた。
カウチで、今朝焼いたバゲットをスープに浸して食べている変な柄の生き物は見なかった事にして、スープに仕上げのハーブを加え、ひと煮立ちさせて火を止める。
発酵中のピザ生地を伸ばし、薄く広げて丸くしてシンプルにチーズとトマトとバジルを乗せて、外の丸窯へ運び、火加減を見ていると、ふと、隣の燻製窯の扉が薄く開いているのが見えた。
(あれ?閉めたと思ったのに…?)
嫌な予感がして、ピザを横に置き、燻製窯を開くと中のソーセージがごっそりなくなっていた。
(やられた!!よりによって何で今日なんだよ!!)
あたりを見回すと、微かに肉の焼ける匂いがどこかから漂って来た。
(さーて、腹ペコ野郎共はどっちだ??)
匂いを追って行くと、思った通り、騎士科の演習場へたどり着いた。
お構い無しに入って行くと、素振りをしていたカインが気がついて走って来る。
「デイビッド、どうした?珍しいな、ここまで来るなんて。」
「カイン!?いい所に来た!ちょっと手伝え!!」
2人で匂いの元を辿ると、1年生が5人、演習場の建物の影で、楽しそうに何かを焼いて食べているのが見えた。
その後ろからデイビッドが出て行く。
「コラァー!!お前等か勝手にソーセージ持ってったのは!!」
「わぁー!!」
「逃げろ!」
逃げ出そうとする5人を、反対からカインが足止めする。
「何をしている!騎士を目指す者が、人の物を盗るとは何事だ!!」
「ひぃぃぃ…」
「ごめんなさいぃ~!!」
どうやら、焚き火でソーセージを炙って食べたらしい。
枝に刺した齧りかけのソーセージを持ったまま、5人は泣きそうな顔をしていた。
「お前等全員、なんとも無いか?腹がおかしいとか、気持ち悪いとか…」
「なん…ともない…です…」
「変な味はしなかったか?舌が痺れたり、喉がヒリつくとか…?」
「あの…すごく美味しかったです…先生…勝手に食べてごめんなさい…」
「そこは怒ってねぇから安心しろよ。まぁ、褒められたもんじゃねぇけどな。ただ、このソーセージは魔獣肉を使った試験中の物で、まだ毒見すらしてない。下手したら毒性があったり、人の体に合わない事も稀にある。あそこはそういう物も扱う場所だ。気をつけないと命にかかわる可能性もある事を覚えといてくれ。」
「「「はい…」」」
「次からは声掛けてくれよ?!逆に食ってもらいたい物は山程あるんだからよ!?」
「「「ありがとうございます先生!!」」」
パッと明るい表情を見せた1年生達の前に、今度はカインが入れ替わって仁王立ちで睨みつけた。
「よし!次は俺の番だな…1年5名!!全員罰則!!これから走り込み20周!その後腕立て50回!!終わったら打ち込み100回だ!!急げ!!」
「「「うえぇぇぇ!?」」」
1年生達は真っ青になりながら、カインに追い立てられて演習場へ走って行った。
「後輩がいつも迷惑かけてばかりですまん…」
「まぁ、あれだけ動いてりゃ腹も減るだろうしな。途中で具合が悪くなったら直ぐ知らせてくれ。ちょっと特殊な肉を使ってるんで、後々症状が出るかもわからん。頼んだ!」
「わかった。何かあれば知らせるよ!」
カインと別れて、ピザを取りに戻ると、そこにあったはずのピザ2枚が忽然と姿を消していた。
部屋の中では、変な柄の生き物が、伸びるチーズを堪能している。
(…食い物を取られるのには慣れてんだよな…アレのせいで…)
新しいソーセージを作りながら、少しだけイラッとしたデイビッドだった。
そこから仕切り直す事もできず、この年の親善会は中途半端な形で幕を閉じることになってしまった。
「皆様、大変申し訳ありません…同じ王族として、皆様に深く謝罪したします。」
悲痛な面持ちのアリスティアが最後を締めくくり、生徒はそれぞれ寮や帰路に散って行く。
何とも後味の悪いパーティーになってしまったが、何と言っても明日からは夏休みなのだ。
友人達と分かれを惜しむ華やかなドレスの少年少女達の声が、だんだん聞こえなくなっていった。
「デイビッド先生、お怪我は?!」
駆け寄るアリスティアを、学友達が引き留めようと一緒に駆けて来る。
「掠りもしてねぇよ、大丈夫だ。」
「でも…御髪が…」
確かに。避けた時、なびいたデイビッドの長い髪が剣に触れ、毛先がいくらか斬り落とされていた。
「ああ?!よく見えたな!?別に髪なんてどうでもいいけどよ。傷んでたし、丁度良かったかもな?!剣の切れ味だけは偉いもんだったが、それだけだ。」
「殿下、さぁこちらへ…」
いつも側にいる学友達は側近の候補なのだろう。
所作も動作も他の生徒とは一味違う。
「デイビッド・デュロック令息様…」
「あ!はい?!」
背筋を正した側近候補の一人がデイビッドの前に立った。
「殿下をお救い下さりありがとうございました。」
「あれは助けた内に入らんだろ。下敷きになっただけだ。」
「それでも、我々はとっさに動く事もできず、盾にすらなれませんでした…」
「王族同士の間に入るのは難しいさ。今回はシモンズ先生の勘の良さに感謝だな。俺は言われた通りに動いただけだよ。」
人がいなくなり、きれいに片付いた大広間を見渡すと、デイビッド達も教員室へ戻った。
ぐったりと疲れた顔で、頭を抱える教員達。
この度の騒動を、どう生徒の家族に伝えたものか…
一人ひとりに丁寧な謝罪と、今後の対処や、生徒への気遣いを綴り、封筒へ入れていく。
何度も誤字脱字をチェックし合い、文章や言い回しを考え、家格にあった文体や、書き出しはどうだ、締めの言葉はこれで良いか、話し合いながら全生徒分の手紙を書き上げていく。
地道かつ異常に体力を削られるこの作業は、夜遅くまで終わることはなかった。
学園長達は怪我もなく、次の日には元気に学園へやって来て、残りの執務をこなしていた。
教員は夏休み中も来期の下準備や、残っている生徒の指導など、やることがあるため、基本何日か置きに登園している。
デイビッドは久しぶりに研究室でのんびりしながら、燻製窯を焚いていた。
ヒッコリーとリンゴのチップを合わせて、中のソーセージを燻しながら、薪になる廃材を拾いに行く。
(そろそろここも片付いちまったな…)
まだ探していない場所はどこだったか、思い出しながら窯を開けると、いい色に燻されたソーセージがカーテンのようにぶら下がっている。
(キレイに仕上がったが…さて、味はどうか…)
昼の支度をしに、菜園の野菜を持ってオーブンへ向かい、煮込み中のトマトスープの鍋を覗くと、3分の1程なくなっていた。
カウチで、今朝焼いたバゲットをスープに浸して食べている変な柄の生き物は見なかった事にして、スープに仕上げのハーブを加え、ひと煮立ちさせて火を止める。
発酵中のピザ生地を伸ばし、薄く広げて丸くしてシンプルにチーズとトマトとバジルを乗せて、外の丸窯へ運び、火加減を見ていると、ふと、隣の燻製窯の扉が薄く開いているのが見えた。
(あれ?閉めたと思ったのに…?)
嫌な予感がして、ピザを横に置き、燻製窯を開くと中のソーセージがごっそりなくなっていた。
(やられた!!よりによって何で今日なんだよ!!)
あたりを見回すと、微かに肉の焼ける匂いがどこかから漂って来た。
(さーて、腹ペコ野郎共はどっちだ??)
匂いを追って行くと、思った通り、騎士科の演習場へたどり着いた。
お構い無しに入って行くと、素振りをしていたカインが気がついて走って来る。
「デイビッド、どうした?珍しいな、ここまで来るなんて。」
「カイン!?いい所に来た!ちょっと手伝え!!」
2人で匂いの元を辿ると、1年生が5人、演習場の建物の影で、楽しそうに何かを焼いて食べているのが見えた。
その後ろからデイビッドが出て行く。
「コラァー!!お前等か勝手にソーセージ持ってったのは!!」
「わぁー!!」
「逃げろ!」
逃げ出そうとする5人を、反対からカインが足止めする。
「何をしている!騎士を目指す者が、人の物を盗るとは何事だ!!」
「ひぃぃぃ…」
「ごめんなさいぃ~!!」
どうやら、焚き火でソーセージを炙って食べたらしい。
枝に刺した齧りかけのソーセージを持ったまま、5人は泣きそうな顔をしていた。
「お前等全員、なんとも無いか?腹がおかしいとか、気持ち悪いとか…」
「なん…ともない…です…」
「変な味はしなかったか?舌が痺れたり、喉がヒリつくとか…?」
「あの…すごく美味しかったです…先生…勝手に食べてごめんなさい…」
「そこは怒ってねぇから安心しろよ。まぁ、褒められたもんじゃねぇけどな。ただ、このソーセージは魔獣肉を使った試験中の物で、まだ毒見すらしてない。下手したら毒性があったり、人の体に合わない事も稀にある。あそこはそういう物も扱う場所だ。気をつけないと命にかかわる可能性もある事を覚えといてくれ。」
「「「はい…」」」
「次からは声掛けてくれよ?!逆に食ってもらいたい物は山程あるんだからよ!?」
「「「ありがとうございます先生!!」」」
パッと明るい表情を見せた1年生達の前に、今度はカインが入れ替わって仁王立ちで睨みつけた。
「よし!次は俺の番だな…1年5名!!全員罰則!!これから走り込み20周!その後腕立て50回!!終わったら打ち込み100回だ!!急げ!!」
「「「うえぇぇぇ!?」」」
1年生達は真っ青になりながら、カインに追い立てられて演習場へ走って行った。
「後輩がいつも迷惑かけてばかりですまん…」
「まぁ、あれだけ動いてりゃ腹も減るだろうしな。途中で具合が悪くなったら直ぐ知らせてくれ。ちょっと特殊な肉を使ってるんで、後々症状が出るかもわからん。頼んだ!」
「わかった。何かあれば知らせるよ!」
カインと別れて、ピザを取りに戻ると、そこにあったはずのピザ2枚が忽然と姿を消していた。
部屋の中では、変な柄の生き物が、伸びるチーズを堪能している。
(…食い物を取られるのには慣れてんだよな…アレのせいで…)
新しいソーセージを作りながら、少しだけイラッとしたデイビッドだった。
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