黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

編入生

「おはようございます!」

夏休み開始から1週間目。
教員室に活動記録を出しに来たデイビッドは、デスクの上に資料が積んであるのに気が付いた。

二学期から行われる授業のカリキュラムに、学園に残った生徒と、編入生の名簿。
今年の編入生は3人。
その内、特別枠の夏季講習を受けるため、寮に入る者が1人。
(ヴィオラ………?!)

バタンと勢い良く資料を閉じて、足早に研究室へ戻って行くデイビッドを、他の教員達は温かい眼差しで見ていた。

「わかりやすいですなぁ、彼は…」

「普段はあんなに大人びているのに、年相応の表情もできるんですねぇ。」

「この子ですか?例の彼の婚約者というのは?」

「話の上では政略めいたことを聞きましたが、そうはとても見えなかったな。」

「第二王子は、先日の件で今学年は休学だそうだ。もうしばらくは平和に過ごせそうだな。」

「平和に…過してほしいですねぇ。」

「まぁ、彼はトラブルを引き寄せる体質のようですしなぁ。」

「心配ですねぇ…」


そんな会話が繰り広げられているとは露とも知らず、デイビッドは研究室へ駆け込んだ。

きたな…くはないが、とても女性が滞在する部屋ではない。
変な柄の生き物もいて、華やかさもない…

デイビッドはまず、カウチのカバーを全て剥ぎ取り、敷布やマットも全て外の桶へと放り込み、洗濯し始めた。
それが終わると、以前から取り寄せて別室にしまってあった可愛らしいソファを運び込み、肌触りの良いカバーを掛け、クッションを置くと足元にラグを敷く。
それから、装飾の凝ったサイドテーブルを寄せて、その下の台に小花模様のティーセットをしまい、棚には紅茶の缶を並べていった。
皿やカトラリーも色々揃え、ガラス製品もいくつか手に入れた。
思いつく限り用意したが、どれだけ集めても、まだ何か足りないのではと不安になる。

「そういうのはね、相手と一緒に探すのも、ひとつの楽しみなんですよ…?」

「わぁぁぁっ!!いきなり耳元で喋りかけんな!!」

「だって、まだ誰もいない空間で、エアヴィオラ様を見つめてるようで怖くて…」

「想像くらいするだろ!!」

「はぁ…今からそんなガチガチに緊張してどうするんですか?」

「うっ…しかたねぇだろ…わかんねぇんだから、こういう事は…」

「会う前からこんなんで、この先3年間も持つんですかね?!途中で心臓止まっちゃいません?!」

「そもそも…この部屋にヴィオラが来たいと思うかもわからないしな…案外、周りと上手く打ち解けて、俺は必要無くなるかも知れないし。」

「うわっ!!いきなりネガティブ!」

「まぁ契約上3年は教員として何とかやるとして、その間にもヴィオラとの関係が変わらないとも言い切れない。」

「まさか…ヴィオラ様を疑ってるんですか…?」

「まさか!疑うも何も俺は始めからヴィオラの気持ちが一番だからな。それがどこへ向かおうと、全力で後押ししてやるだけだよ。」

「おっ………も!!え?なんですその…隕石並みにクソ重たいの……こ…これが恋愛経験一切皆無でいきなり婚約者を得た拗らせ系男子の愛情表情…?」

「………お前、最近変な恋愛小説ばっか読んでるだろ…」

「面白いですよ?読みます?」

「いらん!!こないだ間違って開いて後悔したばっかりだ!」

エリックの言う事は一旦忘れて、外ではためく洗濯物を見上げながら、外の雑然としたゴミを片付け、広げた花壇に花の苗と種を植えていく。

日差しがだんだん暑くなってきたが、井戸から引いている外付けの水道の水は、まだひんやりとしていた。

またすっかり荒れてしまった指先を見て、初めて出会った日のことを思い出し、少し切ない気持ちに浸っていると、変な生き物が容赦なく現れる。

「わぁ、ずいぶん片付きましたね!」

「なぁ…ずっと気になってたんだが……その服なんの柄なんだ…?」

「ああこれ?!カエルです!」

「カエル…??黒と赤と黄色とピンクのショッキング斑模様の…?」

「フード被るとカエルの顔になってるんですよ!?ほら!!」

「被るな!!やっぱりただの謎生物じゃねーか!!知らなきゃ良かったそんなもん!!」

「えー…着心地良いのに…」

「じっと見てると目がおかしくなるんだよ!!」

「そんな見ないで下さいよ。」

「好きで見てると思うか?!入ってくんだよ!嫌でも!自動的にひょっこり人の視界に入り込んでくるんだよ!!頼むからヴィオラの前でそのかっこ止めろよ?!」

「えー!!それは酷いですよ!」

「人の部屋占領してる謎生物の分際で、酷いとか良く言えたもんだなぁ!?」

「でも…そうかぁ!明後日にはヴィオラ様がこの学園へいらっしゃるんですね。」

「できる事なら迎えに行きたい…」

「でもその日がっつり朝から授業入ってましたよね?!」

「くっっそぉぉ……なんでこんだけヒマ時間持て余してる時に当たらないんだよぉぉぉ!!」

丁度その日は他の教員もほとんど出払い、デイビッドは補習組のテストの監督を任されていた。
エリックは別で行っているダンスの強化訓練組の指導もあり、ヴィオラを迎えるのは事務の方と学園長くらいになってしまう。

「俺が…行きたかった…」

「諦めましょ?!先生なんですから仕方ないですよ。それに、これからは毎日だって会えるのに。」

「始めが肝心なんだ…始めが…」

デスクにうなだれたデイビッドは、引き出しから紫色の小箱を取り出し、そっと開けて指輪を手に取った。

気に入ってくれるだろうか?喜んでくれるだろうか?
できる事なら全部全部、この気持ちごと、ひとつ残らず受け止めて欲しい。
そんな傲慢な考えを、どうしたら悟られずに隠し通せるだろうか…

魔鉱石の輝きが手の中で揺らめき、まるで星の欠片のようだ。

漠然とした不安に押し潰されそうになりながら、幸せなはずなのに苦しくて、息が詰まりそうになる。
そんな未知の感情に振り回されても、まだそれを恋とは気付かないデイビッドを、エリックはニヤニヤしながら眺めていた。



そしてその2日後、ついにヴィオラを乗せた馬車が、学園に到着した。


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