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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活
ひと夏の成果
顔色も良くなった2人を見て、安心したデイビッドが調理場へ戻ると、散らばった米と一緒に生徒が数人、手を押さえて飛び回っていた。
「今度は何だ!?」
「コイツ等デイビッドの真似をしようとして、米の鍋に手を入れたんだ…」
炊きたての米が張り付き、手が真っ赤になっている。
「アホか!あれは単純そうに見えてコツが居るんだよ!騎士が手を負傷してどうする!?さっさと冷やして来い!!」
その間に、炒め物の平鍋を再度火にかけ、そこへ炊けた米をドサッと乗せると、焦げ付かないようかき回しながら、具材と混ぜて味をなじませていく。
「わぁぁ…」
「すごいうまそう!」
「いただきます!!」
「これとスープくらいならお前等でもできるだろ?今後は食堂が無い日は、毎回自分達で当番決めて作れ!今日は夕刻にもう一回!見に来てやるから、自分達だけで作ってみろ!」
「なぁ、本当のいいのか?その金だって、どうせ出してるのはお前だろ?」
「言ったろ?試作品の実績が欲しいのと、今後の米市場の底上げがしたいんだよ。ここで使うといい宣伝になるから、その分で来月分まではチャラになる。その間に衛生兵の養育の一環として、正式な予算組ませるよ。」
「先生!コレすごいウマい!!」
「俺おかわり!」
「俺も!!」
「お前等よく噛んで食え!!慌てて腹に詰め込むんじゃない!!」
「いや!ホントに手が止まんないんだよ!デイビッド、本気で金取ってもいい味だってコレは!!」
「なら、ひとまず最初の配合は成功だな。後は保存性か。一月は持たせたいところだが…今のままじゃ、いいとこ未開封でも2週間てとこだろうな。改良の余地あり、か。」
洗い物の前に、鍋に残った米をかき集めると、手の平にちょこんと乗る程度の大きさになった。
軽く塩を降って、小さな握り飯を作ると、一口で食べてしまう。
(あ、思い出した。握り飯の名前…確か…オムスビだ。)
遠い国の神様に捧げる食べ物で、良い縁を願い結んでもらうという意味でオムスビ。
験担ぎのようなものらしい。
(縁か…なら、ここにも縁があったのか?…来る前はあんなに嫌々だったのに、すっかり馴れちまったな…)
煩わしいと思っていた生徒達との関わりも、日々の生活も、人との巡り合いも、それなりに楽しんでいる自分が居る。
(そういや最近、人の目があんまり気にならなくなって来たな…)
毎日数え切れない視線に晒されている内に、他人の色んな感情が籠もった視線にも慣れてきた。
好意を正面から受け取る事も、悪意から逃げずに受け止める事もだんだん覚えて、人前に出るのが当たり前になった。
(これが親父の狙いか?にしちゃ荒療治だったな…)
騎士科が落ち着くと、急いで研究室へ戻り、昼食の支度に取り掛かる。
夏野菜のミネストローネに、パリパリに揚げたジャガイモ。
バゲットに塗るパテはレバー、クリームチーズ、バジルの3種類。
スティックサラダと、(ちゃんと切った)ソーセージの盛り合わせ。
デザートはナッツとフルーツをふんだんに練り込んだクランペット。
「はい!今日は間に合いました!!」
一番乗りのエリックがつまみ食いをするのを防いでいると、ヴィオラとシェルリアーナが顔を出す。
「いい香り!今日はミネストローネですね?!」
「良くわかったな!?フリッジも入ってるぞ!」
「あのクルクルのパスタ!私大好きです!」
「今日は控え目に…控えないと…食べ過ぎないように…そうよ、スープ!スープだけなら…」
何かブツブツ言っているシェルリアーナの目の前に、バゲットと揚げ芋がドンと出され、彼女は固まったまま動かなくなってしまった。
「イモがサクサク~!手が止まらな~い!」
「パテが濃厚で、バゲットも進んじゃいます!おいしいですよ先輩!」
両隣でサクサクパリパリ良い音がして、更にシェルリアーナを誘惑して来る。
気づけば両手に芋とパンを持って、行儀悪くも交互にムシャムシャ食べてしまっていた。
「ハッ!!いけないっ!また悪魔の罠に掛かってしまいましたわ!!こうなったらデザートは抜いて…抜い…」
抗わなければ、今朝履いたロングソックスの上に、もっちり乗ってしまったあの贅肉をなんとかしなければ…
しかし、この日もしっかり完食し、デザートにはバターまで塗って食べてしまったシェルリアーナだった。
「なんで?!なんでこのタイミングでバターなんか出してきましたの?!」
「え?あったから…?ラムレーズン入りの甘いのもあるぞ?そっちの方がいいか?」
「ヤメて!そんなもの見せないで!!ああ、ダメよ!そんな事したら…」
香ばしくて甘酸っぱいクランペットに、こってりたっぷり塗られたラムレーズン入りのスイートバターは、気がつけばシェルリアーナの腹にしっかり収まっていた。
「あ…あぁ…また、負けてしまいましたわ……」
「どうしたんですか先輩!?すごく美味しいですよ?大人の味ですね!?」
ほろ苦いラムレーズンの味わいに、ヴィオラは少し大人になった気分で、大喜びしている。
「美味しい…美味しいのよ!!それがいけないのよ!!」
「いや、なんで!!?」
「太っちゃったのよ!!太腿が太くなっちゃったの!!歩くとお肉がぽよぽよするの!!」
「それを俺の前で言うのか…」
「黙れもちもち豚団子!!元はと言えばアンタのせいよ!」
「想像するとちょっとエッチですね!」
「想像すんな!!」
「大丈夫です!シェル先輩はどんなにもちもちでもステキです!」
「ヴィオラァァァ!!痩せたいって言うのは全女性の夢なのよぉぉ!!私はスレンダーで居たいのぉぉ!!」
「食った分消費すりゃ済む話じゃねぇのか?!」
「できると思ってますの?!こんだけのカロリーを!!」
「それは魔法でなんとかならんのか?」
「…アンタ魔法を何だと思ってますの?」
「じゃぁダンスとかどうです?今、同好会で強化合宿してる子達がいて、すごく汗かきながら踊ってましたよ?毎日つきあわされてる僕はうんざりですけど…」
「それですわ!!」
「わぁ!私も踊れるようになりたいです!!先生には及第点はもらえましたけど、まだまだ足が思うように動かなくて…」
「なら2人でやりましょう!?ノエルパーティーでトップ舞台に立てる位上達させてみせますわよ!?」
12月の冬を迎える祭り、ノエルの時期に行われるこの学園のパーティーでは、毎年ダンスの腕を競う催しが同時に行われている。
パートナーを連れて来る生徒がほとんどなので、親善会より華やかで人も多い。
シェルリアーナはそこでヴィオラと舞台に立とうと言うのだ。
(まだ夏なのに…)
「今度は何だ!?」
「コイツ等デイビッドの真似をしようとして、米の鍋に手を入れたんだ…」
炊きたての米が張り付き、手が真っ赤になっている。
「アホか!あれは単純そうに見えてコツが居るんだよ!騎士が手を負傷してどうする!?さっさと冷やして来い!!」
その間に、炒め物の平鍋を再度火にかけ、そこへ炊けた米をドサッと乗せると、焦げ付かないようかき回しながら、具材と混ぜて味をなじませていく。
「わぁぁ…」
「すごいうまそう!」
「いただきます!!」
「これとスープくらいならお前等でもできるだろ?今後は食堂が無い日は、毎回自分達で当番決めて作れ!今日は夕刻にもう一回!見に来てやるから、自分達だけで作ってみろ!」
「なぁ、本当のいいのか?その金だって、どうせ出してるのはお前だろ?」
「言ったろ?試作品の実績が欲しいのと、今後の米市場の底上げがしたいんだよ。ここで使うといい宣伝になるから、その分で来月分まではチャラになる。その間に衛生兵の養育の一環として、正式な予算組ませるよ。」
「先生!コレすごいウマい!!」
「俺おかわり!」
「俺も!!」
「お前等よく噛んで食え!!慌てて腹に詰め込むんじゃない!!」
「いや!ホントに手が止まんないんだよ!デイビッド、本気で金取ってもいい味だってコレは!!」
「なら、ひとまず最初の配合は成功だな。後は保存性か。一月は持たせたいところだが…今のままじゃ、いいとこ未開封でも2週間てとこだろうな。改良の余地あり、か。」
洗い物の前に、鍋に残った米をかき集めると、手の平にちょこんと乗る程度の大きさになった。
軽く塩を降って、小さな握り飯を作ると、一口で食べてしまう。
(あ、思い出した。握り飯の名前…確か…オムスビだ。)
遠い国の神様に捧げる食べ物で、良い縁を願い結んでもらうという意味でオムスビ。
験担ぎのようなものらしい。
(縁か…なら、ここにも縁があったのか?…来る前はあんなに嫌々だったのに、すっかり馴れちまったな…)
煩わしいと思っていた生徒達との関わりも、日々の生活も、人との巡り合いも、それなりに楽しんでいる自分が居る。
(そういや最近、人の目があんまり気にならなくなって来たな…)
毎日数え切れない視線に晒されている内に、他人の色んな感情が籠もった視線にも慣れてきた。
好意を正面から受け取る事も、悪意から逃げずに受け止める事もだんだん覚えて、人前に出るのが当たり前になった。
(これが親父の狙いか?にしちゃ荒療治だったな…)
騎士科が落ち着くと、急いで研究室へ戻り、昼食の支度に取り掛かる。
夏野菜のミネストローネに、パリパリに揚げたジャガイモ。
バゲットに塗るパテはレバー、クリームチーズ、バジルの3種類。
スティックサラダと、(ちゃんと切った)ソーセージの盛り合わせ。
デザートはナッツとフルーツをふんだんに練り込んだクランペット。
「はい!今日は間に合いました!!」
一番乗りのエリックがつまみ食いをするのを防いでいると、ヴィオラとシェルリアーナが顔を出す。
「いい香り!今日はミネストローネですね?!」
「良くわかったな!?フリッジも入ってるぞ!」
「あのクルクルのパスタ!私大好きです!」
「今日は控え目に…控えないと…食べ過ぎないように…そうよ、スープ!スープだけなら…」
何かブツブツ言っているシェルリアーナの目の前に、バゲットと揚げ芋がドンと出され、彼女は固まったまま動かなくなってしまった。
「イモがサクサク~!手が止まらな~い!」
「パテが濃厚で、バゲットも進んじゃいます!おいしいですよ先輩!」
両隣でサクサクパリパリ良い音がして、更にシェルリアーナを誘惑して来る。
気づけば両手に芋とパンを持って、行儀悪くも交互にムシャムシャ食べてしまっていた。
「ハッ!!いけないっ!また悪魔の罠に掛かってしまいましたわ!!こうなったらデザートは抜いて…抜い…」
抗わなければ、今朝履いたロングソックスの上に、もっちり乗ってしまったあの贅肉をなんとかしなければ…
しかし、この日もしっかり完食し、デザートにはバターまで塗って食べてしまったシェルリアーナだった。
「なんで?!なんでこのタイミングでバターなんか出してきましたの?!」
「え?あったから…?ラムレーズン入りの甘いのもあるぞ?そっちの方がいいか?」
「ヤメて!そんなもの見せないで!!ああ、ダメよ!そんな事したら…」
香ばしくて甘酸っぱいクランペットに、こってりたっぷり塗られたラムレーズン入りのスイートバターは、気がつけばシェルリアーナの腹にしっかり収まっていた。
「あ…あぁ…また、負けてしまいましたわ……」
「どうしたんですか先輩!?すごく美味しいですよ?大人の味ですね!?」
ほろ苦いラムレーズンの味わいに、ヴィオラは少し大人になった気分で、大喜びしている。
「美味しい…美味しいのよ!!それがいけないのよ!!」
「いや、なんで!!?」
「太っちゃったのよ!!太腿が太くなっちゃったの!!歩くとお肉がぽよぽよするの!!」
「それを俺の前で言うのか…」
「黙れもちもち豚団子!!元はと言えばアンタのせいよ!」
「想像するとちょっとエッチですね!」
「想像すんな!!」
「大丈夫です!シェル先輩はどんなにもちもちでもステキです!」
「ヴィオラァァァ!!痩せたいって言うのは全女性の夢なのよぉぉ!!私はスレンダーで居たいのぉぉ!!」
「食った分消費すりゃ済む話じゃねぇのか?!」
「できると思ってますの?!こんだけのカロリーを!!」
「それは魔法でなんとかならんのか?」
「…アンタ魔法を何だと思ってますの?」
「じゃぁダンスとかどうです?今、同好会で強化合宿してる子達がいて、すごく汗かきながら踊ってましたよ?毎日つきあわされてる僕はうんざりですけど…」
「それですわ!!」
「わぁ!私も踊れるようになりたいです!!先生には及第点はもらえましたけど、まだまだ足が思うように動かなくて…」
「なら2人でやりましょう!?ノエルパーティーでトップ舞台に立てる位上達させてみせますわよ!?」
12月の冬を迎える祭り、ノエルの時期に行われるこの学園のパーティーでは、毎年ダンスの腕を競う催しが同時に行われている。
パートナーを連れて来る生徒がほとんどなので、親善会より華やかで人も多い。
シェルリアーナはそこでヴィオラと舞台に立とうと言うのだ。
(まだ夏なのに…)
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