黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

ヴィオラへの誘い

「時間だ、試験始め!!」

ガランとした空き教室の、壁際と窓際に生徒が2人。

出席日数不足の生徒は、日数が足りると開放されるため、次々と居なくなり、残ったのはついにテレンス1人になった。
もう1人はなんとヴィオラ。
今日の試験で取れる点数で、夏期講習の継続か終了かが決まる。
学年も試験内容も違うが、教員がすることは同じなので、今回纏めて同じ教室で受けることになった。

そして監督に当たったのがデイビッドだ。

(くじ運悪ぃなぁ…)
デイビッドはその時間、騎士科に出す予算案の書類を作り直すので、それぞれが別の事に集中しなければならない。

(お、アイツもう終わったのか。)
開始20分足らずで、テレンスはペンを置き、答案用紙を見直す…と見せかけてヴィオラをじっと見つめている。

一方でヴィオラは真剣な顔でペンを動かしていた。
窓から入る風が栗色の髪を揺らし、僅かな吐息さえ聞こえて来そうだ。
(いかんいかん、見とれてた…)
予算案にいくつか修正を加え、収支の目処を付けて自分のサインを入れると、丁度時間になった。

「試験終了。答案裏返して、すぐ教室を出る事。」

2人が退出したのを見届け、答案をしまって廊下に出ると、テレンスが行く手を塞いでいた。

「彼女の事、ずいぶんと熱心に見てたね?!」

「そりゃ試験教官だから見るよ。2人しかいないし、お前の事も同じくらい見てたよ。あれ癖なのか?3分に1回くらい前髪くるくるするの。そんなに気になるなら、ちゃんと切りに行って来いよ?」

「うるさいっ!!いやらしい目付きでジロジロ見られてかわいそうに。彼女を見ながら、お前が何を想像していたのか当ててやろうか?!」

(予算案と、余らしたリコッタチーズの使い道と、昼の献立…?)

「お前みたいな豚が、いつまで彼女の婚約者でいられるか見物だな?!彼女は僕にご執心でね?!知ってるか?休み時間の度に、僕と2人で過ごしているんだ!お前のような豚に言い寄られて迷惑だと、涙ながらに語られたよ!?」

「ほー、生徒同士が仲良くて結構。じゃぁ俺は答案を出しに行くから、そこどいてくれ。生徒の試験答案は重要書類扱いなの知ってるだろ?ここで立ち話するのも本当は規約違反なんだ。答案持った教官に話しかけるのは生徒でも本来禁止だからな?!まぁ今回大目に見てやるよ。」

デイビッドは、テレンスとすれ違い教員室へ向かう。
答案用紙を担当教員に渡し、書類を出しに行こうとすると、他の教員達に話し掛けられた。

「デイビッド殿、さっきは大丈夫でしたか?」

「え?さっき?!」

「テレンス君と何か揉めてたでしょう?以前、彼の不興を買って辞めさせられた教員がいるの。貴方も気をつけて!?」

「あー!あの、あれ!まぁなんか人の弱み握ろうと必死みたい…ですね?!」

「あまり1人になってはダメよ?!」

「何かあれば直ぐに相談しなさい。」

「あ…はい。ありがとうございます…?」

何か物凄く気を使われてしまったデイビッドは、居づらくなって書類を出すと、そのまま早足で研究室へ向かった。


その頃、ヴィオラは再びテレンスに絡まれていた。

「ねぇ、ミス・ヴィオラ!今日こそ僕と一緒にお喋りしようよ?!」

「すみません、急いでるので…」

「待ってよ!お願い…君も明日が何の日か知ってるでしょ?」

「明日…?」

「ディルケの星祭りだよ?!知らないの?町中を飾り付けてみんなで踊ったり、星の下で愛を語るお祭りさ!」

「聞いたことは ありますが、領地では夏至祭くらいでしたから…」

「だったら僕と行こうよ!君に僕のディルケになって欲しいんだ…ダメかな?」

「ディルケ…ですか。よくわかりませんが、他の方ではダメなのですか?」

「君が良いんだ。どうか、僕を照らす一等星になってくれないかな?」

テレンスはヴィオラの手を取り、キスをしようとしたが、その前にパッと避けられてしまう。

「おやめ下さい!フェーラー侯爵家では婚約者のある女性に声を掛けることを、良しとされておいでなのですか?」

「義理硬いんだねヴィオラは…でも君だって学生の内は楽しまなくちゃ!それに、君の婚約者だって他の女生徒を連れ込んで疚しい事をしているそうじゃないか…」

「そんな事無いわ!!撤回して下さい!!デイビッド様はそんな人じゃありません!!」

「これを見てもそんな事言える?」

テレンスが差し出したのは、デイビッドとシェルリアーナが並んで廊下を歩いている写真だった。

「ずいぶんと仲良さ気じゃない?ただの生徒と教師の関係には見えない様な気がするけど?!」

「…不愉快です!失礼します!!」

ヴィオラはもう1秒たりともテレンスの側に居たくなくて、廊下を走って逃げ出した。
人のまばらな中庭を走って走って、緑の廊下の先、デイビッドの研究室に飛び込んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」

「ヴィオラ!!どうした?!なにがあった??」

来るなりデイビッドにしがみついて、ヴィオラはひたすら泣き続けた。

「手がぁぁぁ!!」
「手?怪我したのか?」
「気持ち悪がっだぁぁぁ!!」
「ナメクジでも触った…とか…?」
「私もお祭り行きたいぃぃぃ!」
「え?祭り?ああ、明日の…なんつったっけ?」
「写真うらやましかったぁぁぁぁ!!!」
「今度は写真?!ヴィオラ!落ち着いてくれ!話が全く見えてこない!!」

そこへ滑り込むようにシェルリアーナとエリックがやって来た。

「ヴィオラは?ヴィオラはここですの?!」

「ゼェ…ゼェ…シェルリアーナ様、意外と足が速いのなんの…追いつくのがやっとでしたよ!!」

「シェル!いい所に来てくれた、ヴィオラが何で泣いてるかわかんねぇんだ!!」

「チッ…遅かったですわ…」

「今、舌打ちした?」
「最近良く化けの皮が剥がれるな…」

「さっき、テレンスとヴィオラが恋人だと、ふざけた事を吹聴してる輩を見つけてボコボコにしてきたところですの!」

「事後報告!?」
「仕事が早いな…」

「捨て台詞に、明日の掲示板を楽しみにしてろなんて言うものですから、蛇の幻に苛まれるよう幻覚魔法を掛けておきましたわ!」

「既に後始末まで終えて来てる!!」
「一番敵に回したくないタイプだな…」

「うっ…うっ…うえぇぇぇ!!手にキスされそうになって…グスッ…グスッ…シェル先輩とデイビッド様のツーショット見せられて…うぅぅっ…あの男、デイビッド様を馬鹿にしたの!シェル先輩と疚しい関係だって!!」

ヴィオラがそう言った瞬間、部屋の温度が急激に下がった。
エリックがおそるおそる後ろを見ると、魔力がだだ漏れになったシェルリアーナが、立ち昇る魔力で揺らめく影の中、無の表情で仁王立ちしていた。

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