黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

お祭りへ

「おめでとうヴィオラさん!良く頑張りましたね!?」

午前中の最初の授業で、担当教員から返された答案は満点だった。

「貴女は本当に真面目で優秀な生徒ですね。特別講習はこれで終了です。残りの休暇を楽しんで下さい。二学期にまた会いましょう。」

「ありがとうございます。」

ヴィオラは誇らしい気持ちで教室を出ると、人の集まっている本舎を避けて、遠回りでまずは図書室へ向かった。

本を返却している間にも、ちらちらと周りの目が自分に向いているのがわかる。

気にしない振りをして本を探していると、いつの間にかエリックが側に立っていた。

「ずいぶん熱心ですね?ミス・ヴィオラ。お探しの本は見つかりました?」

「あ、エリック…先生。講習が終わったので、好きな本を探そうと思って…小説ですけど…」

「それは良いですね!(デイビッド様は授業ですので、先に研究室へ戻りましょう。後で外出許可を取って来るそうですから。)」

「はい!」

こうして研究室へ戻ったエリックとヴィオラは、各々好きな本を夢中で読みながら、デイビッドが戻るのを待つことにした。


その一方で、デイビッドは授業が終わり、外出の許可を取ろうとして教員室で教頭の説教を受けていた。

「いいですか?デイビッド先生。生徒達でさえ、デートに行くには10日も前から外出許可を取りに来ているのですよ?それを貴方と来たらなんですか!?当日の、それも授業の後に出しに来て!!もっと前から計画していれば、こんな事にはならないはずでしょう?貴方には教員である前に、婚約者を持つ若者としての意識があまりにも低すぎます!お相手も事情のある方なのはわかっておりますが、いくらなんでもコレは酷過ぎですよ?!このままでは、いつお相手に見捨てられてもおかしくありません!情けない!」

「はい………はい……う……はい………すみません……」

くどくど長々、こってり絞られて、ふらふらになって研究室へ戻ると、本を読んでいたヴィオラがぴょこんと飛び上がり、期待に満ちた目を輝かせていた。

「遅くなってすまん!そろそろ行こうか?」

「はいっ!!」

「じゃあなエリック、留守を頼む。」

いつものよれたシャツと、制服姿で出かける2人を見て、エリックは内心ニヤッと笑った。
(すみませんねぇ…貴方にはもう少しお洒落を楽しんで頂かないと……)


2人が出て行くのは、騎士科に面した裏門。
ヴィオラは法的効力は無いものの、宗教上追放を受けている身であるし、デイビッドは未だに第二王子の追放宣言に撤回を掛けていない。

一歩外に出るとそこはもう結界の外だ。
高い壁沿いに沿って歩くと、直ぐに郊外の街が見えてくる。

街はずいぶん賑わっていて、高い木のてっぺんにキラキラ光る物が揺れている。
その周りが祭りの中心の様だ。

「あれがディルケの星だよ。」
「ディルケの星?」
「的の下に、ディルケの色とされる青い石のアミュレットを付けて木にぶら下げて、それを矢で撃ち落とすとディルケの祝福が得られるって話だ。」
「なんだかロマンチックですね?!」

そこへ遠くから誰かがデイビッドを呼ぶ声がした。

「デイビッド様!デイビッド様?!まぁまぁなんですか!レディのエスコートにそんな格好で!!」
「さぁこちらへ!貴方様はいずれ商会の顔になるのですよ?!しっかりおめかしして頂きますからね?!」

いつの間にか現れたおばさま達に取り囲まれた2人は、ズルズルと商会の方へ連れて行かれてしまう。

「なんでこうなった!?誰だ商会に知らせた奴は?!ちょ!待て待て!イヤだって!!頼むから放っといてくれ!!」

「そんな子供みたいな事仰らないで下さい!さぁ、お嬢様もこちらへいらして。グロッグマン商会が、腕によりをかけてお支度させて頂きますので、ご安心下さいな。」

デイビッドの抵抗も虚しく、2人は大きな建物へ引きずり込まれて行った。

ヴィオラが連れてこられた衣装室には、所狭しと女性物の服が並んでいて、口を挟む隙もなく、あれよという間に着替えさせられてしまう。
「星祭りなら、青い服よね?!」
「髪飾りはどうする?やっぱり黒かしら?」
「お化粧もしましょうね。」
「制服はこちらでお預かりして、後で学園の方へ届けさせます。」

鏡の前に立つと、空を映した様な青いワンピースに、同じ色の踵のある柔らかな靴、髪留めとブローチには黒い石が光っていた。

「いかがですか?」
「すごく素敵です…でも、私にはこれを買える程お金は…」
「あら!何を仰るのかしら?この程度、次期当主様がいくらでも買ってくれますよ?」
「次期…当主様?」
「今、ドレスの注文も何口か承っておりますので、そちらも楽しみにしていて下さいな?」
「なんて可愛い方なんでしょう!こんな素敵な方が将来の当主の奥様だなんて、こんなに喜ばしい事はありません!?」
「お…奥様って…」
「「もちろん!お嬢様の事ですよ?!」」

ヴィオラがチヤホヤされている一方で、デイビッドは地獄を見ていた。

「なんですか!?この袖のよれたシャツは!!腕をまくるクセは直しなさいませと、あれ程申しましたでしょう!!」
「髪もこんなに薬焼けして!!また実験にお使いになったのですか?!前髪はボサボサで、後ろの毛先はバラバラ!信じられません!!」
「靴もズボンもこんなにクタクタの物ばかり着て!!もっとシャキッとなさいませ!!」
「ほら!全部脱いで!!早くお着替え下さい!レディを持たせるおつもりですか?!」
「こうなるから嫌だったのに……クソ…チクったエリックの奴か…?」
「つべこべ言わずにさっさと脱ぎなさい!!」
「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」

着ている物を全てひん剥かれ、着慣れない洒落たシャツにループタイを付けられて、靴もズボンも新品のパリっとした物に代えられてしまう。

説教に次ぐ説教と、窮屈な服装に、挫折しかけたデイビッドだったが、そんな感情もヴィオラの姿を見たら吹き飛んでしまう。

「よく似合ってる!やっぱりヴィオラは可愛いな!?」
「そそそんなこと…デイビッド様だってすごくステキで…」
「俺のことはいい!なるべく考えないようにしたい…それより、ここからは人も多いから逸れないように…」
「はいっ!!これなら絶対に逸れません!!」

ヴィオラは差し出された腕に抱きついて、嬉しそうな顔をする。

(いや…そこは手を繋ぐか、腕に手を掛けるトコなんですけどねぇ…)
(あんなギクシャクした動きでエスコートが務まると思ってんかしら?!操り人形みたいになってんじゃない!?)

この時、後ろから付いてくる2つの人影に、早くも気が付いていたデイビッドはどこまで見て見ぬ振りをするか、少し悩んでいた。

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