黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

夏の女神の一等星

「落ち着いたかヴィオラ?」

「うっ…グスッ…はいぃ…」


素人騙しの草芝居でも、ヴィオラは感動し、涙が止まらなかった。
ようやく落ち着いた頃には、辺りが薄暗くなり、空には夜がかかり始めていた。

「お!ヴィオラ、見てみろ。月の横にある青い星、あれが夏のディルケだよ。」

他の季節には周りの星に隠れているが、夏の夕暮れにだけ一番輝く不思議な星ディルケ。

「綺麗ですね…まるで恋人を照らしているみたい。」

「あ…あのさ…ヴィオラ、ちょっと手…貸してくれないか…」

「なんでしょうか…?」

おそるおそる差し出された手を取ると、その指にずっと渡せずに持っていた、あの魔鉱石の婚約指輪をはめる。

「こ…これって!?」

「ちょっと遅くなったけど、婚約指輪と思って作った…受け取ってくれる…かな?…この先もずっと、俺だけの女神でいて下さい…お願いします…」

「うわぁぁぁぁぁん!!デイビッドさまぁぁぁぁ!!」

「わぁーーっ!!落ちる!」

感極まって抱き着くヴィオラに押し倒されて、デイビッドはそのまま後ろへひっくり返り木箱から落ちてしまった。

「う…大丈夫か…ヴィオラ…?」

「ごめんなさいっ!私嬉しくて…すごく嬉しくて!!」

再び泣きじゃくるヴィオラを慰めるデイビッドを、遥か後ろから見ていたエリック達は、中途半端なやり取りにイライラしていた。

(なんでそうなるのよ!!!そこはキスのひとつもするトコでしょうがよ!?)
(でもいいのが撮れました!シェル様が隠蔽魔法かけてくれたおかげで、お宝写真ザクザクですよ!?)
(なにアイツ!アレ如きで耳まで真っ赤になってて、この先やって行けんの?!これ以上進んだら頭爆発して死ぬんじゃないの?!って言うか、指輪渡すの遅くない!??)
(それは同意見です。そういや見てないなとは思いましたけど、まさかまだ渡してなかったとは…)

そんな後ろの2人に気がつく余裕も無くしたデイビッドは、ヴィオラにまたしがみつかれながら帰って行ってしまった。
歩きながら、ヴィオラは頬を染め、うっとり指輪を見つめている。

「はぁ…すごく綺麗です。紫色がキラキラして…この隣の黒い石はデイビッド様の色ですね!?」

「俺のもだよ。こっちはヴィオラの瞳の色。お揃いだ。」

冷たそうな銀色の台座は、初めて付けたはずなのに、指にしっくりと馴染む不思議な温かさがあった。

「これは魔鉱石と、古くからある希少金属で出来てるらしい。魔力との相性が抜群なんだと。魔術も色々組んであって…まぁ、俺には縁のない話だが…ヴィオラになら使いこなせるはずだ。俺のいない間は、代わりにこれが守ってくれる。もう二度と怖い思いはさせたくないんだ…」

「私…デイビッド様に頂いてばかりで…こんなに嬉しいのに、そのお返しができないのが悔しいです…」

「そんな事ない!!ヴィオラには、たくさんもらったよ…抱えきれないくらい…笑顔も幸せも…初めてだ、毎日がこんなに楽しいのは。たぶん、ヴィオラに嫌われたら俺はもう生きていけないな…」

「そんなことしません!私はデイビッド様のことが大好きですもの!婚約者として、こ…恋人として!愛してます!この先も、ずっとずっと、デイビッド様の事だけ見ていたいんです!離れたくないんです…」

「…こんな太った醜男でも…?」

「デイビッド様は格好良いです!とても強くて、優しくて、頼りがいがあって、こんなに素敵な方、他にいません!私こそ、いつも不安です。もっと素敵な人が出て来て、デイビッド様を取られてしまうんじゃないかって…」

「よそ見なんかしない。絶対に!俺には…ヴィオラだけだよ…」

太陽が沈みきり、夕闇に包まれた学園に戻ると、ヴィオラの制服と大きな衣装箱が届けられていた。

「明日ゆっくり中を見てみるといい。今夜は疲れたろ?お休みヴィオラ…」

「デイビッド様!キスはしてくれないんですか?!」

「………それはまだ早い……」

「そんなぁ!」

「今はこれで我慢しなさい!」

デイビッドは、ヴィオラの髪をかき揚げ、額に子供相手にするような軽いキスを落として、逃げるように去って行ってしまう。

残されたヴィオラは自室に戻り、いつまでも指輪を眺めていた。


(あーーー…慣れないことはするもんじゃねぇな…)
タイを緩めて、いくら襟元に風を送っても顔の火照りが冷めず暑くて仕方がない。
顔でも洗おうと、研究室の明かりを点けると、そこにはエリックとシェルリアーナが座って待っていた。

思わず明かりを消して、もう一度点け直してみるがやっぱり2人が部屋の真ん中でこちらを睨んでいる。

「あの…何の用でしょう…?」

「オイ、ちょっとそこ座れ!豚野郎!」

「およそ淑女の口からは出ちゃダメなセリフ!?」

「いやー…流石に今日のアレは無いですよ…」

「エリック…商会に俺の行き先をバラしたのはお前だろ…?」

「残念ながら、奥様の指示ですので!彼女連れてどっか行こうとしたら、無理やりにでも着替えさせろって!」

「クソッ…お見通しかよ…」

「いいからさっさと座んなさいよ!!このヘタレポンコツ!!その腹の肉引っ剥がしてトンコツにするわよ!!」

「え…でもそこ…床…」

「豚は床で十分ですわ!なんですの?!あの指輪の渡し方は?場所も考えないで、事のついでみたく!男なら満天の星空の下で跪いて愛の一つも語って見せなさいよ!」

「それは単にシェルの願望では…」

「口答えすんな!肉団子!!そもそも女の子とのデートに普段着で行くなんて考えらんないわ!!」

「ちょっとその辺の祭りを回るだけだと思……」

「そのちょっとに、命がけでお洒落する女の子の気持ちが、理解できてないって言ってんの!!すぐ目は逸らすし!無言になるしで!相手を言葉で喜ばそうって気はないの?抱き寄せて甘い言葉の一つも囁いて見せろ意気地無し!!」

「本日3度目の説教!?」

「そもそも指輪なんて出会ってすぐ渡すもんでしょうが!!婚約指輪が無いなら代わりに繋ぎの指輪でもアクセサリーでも贈って、周りに婚約者がいるアピールしとくもんでしょ?!なんの対策もしないで放ったらかしとくから変な虫が集るのよ!つまり!ヴィオラを泣かせた原因はアンタって事!おわかり?!」

「そこは僕もどうかな~って思いますよ?ただかわいがるだけで女の子が喜ぶと思ったら、大間違いですからね?!ちゃんと形にして安心させてあげないと。愛されてる実感が無くなれば、女性の気持ちはだんだん離れていきますからね?婚約者なんて立場に甘えてたら、いつか本当に痛い目に遭いますよ?!」

「…はい……きをつけ…ます……」

その後なんとか開放されたデイビッドは、今日のことを思い出そうとしても、真っ先に説教しか出てこなくなり、少し泣きたい気持ちになった。
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