黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ

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黒豚令息と訳あり令嬢の学園生活

端から普通じゃない日常

「なんか、また人が増えてないか??」

休み明けの領地経営科の教室は、なんだか休み前より人が多い。
休み中に帰省した生徒達が、各家の問題や課題を手に、デイビッドの話を聞きに来ているからだ。
新入生もちらほらいて、その中にはヴィオラも含まれている。

「まぁいいか…他科の新顔は後で出席表出してくれ。それじゃ、二学期の最初は、新聞の見出しにあった全国的な領地問題から4つ抜き出して、解説していくぞ!?他にも気になる記事があったら持って来いよ。」

授業中も、頭のどこかに必ず蜂蜜の事が引っかかってなかなか集中し切れなかったが、口だけはよく回るので滞り無く進められる。
就業の予鈴まであと僅かとなった頃、教室に事務員が大慌てで飛び込んで来た。

「デイビッド先生!!商会の方から大至急来てくれと!魔獣が郊外で暴れているそうです!!」

「いや!なんで俺??警邏も騎士団もいるだろ?!!」
「有資格者取り扱い必須要件です!!!」
「…あー…そーきたか……えーと…じゃ、今日はここまで。板書は書いたままにして行くから、全員書けたら消してくれ。予鈴が鳴るまでは教室で待機する事…」
「デイビッド先生!お急ぎを!!」
「わかってる!わかってる!!」

ざわつく教室を出て、走りながら事務員の話を聞くと、運河から直通の大路を進む商隊の荷物の中から、魔獣が飛び出してきて大騒ぎらしい。

「資格が要るなら大型か?」
「指定の危険生物です!」
「一番当たりたくないの来たな!?他に資格持ちはいなかったのか?」
「真っ先にデイビッド先生の名前が上がったそうです。学園のすぐ近くで暴れていて、ここからも遠目に見える程で…」
「わかった!念の為、生徒を全員青廊下まで避難させられるようにしといてくれ!頼んだ!」

そう言うと、デイビッドは馬房へ行き、手早くムスタの縄を解いて飛び乗った。

「頼んだぞ相棒。今日は大捕物だ!」

窓から生徒達が覗く中、ムスタを飛ばして裏門へ向かうと、確かに道の遥か先で、鎖に繋がれた何かが飛び回っている。

「なんだありゃ?グリフィン…?じゃないな…ヒポグリフか!?」

広場は暴れた魔獣によって建物が壊されたり、商品の箱や樽が散らばって大騒ぎだ。
ムスタを止めると、商会の者たちが駆け寄って来た。

「若旦那ぁっ!!来てくれたんですか?!」
「呼ばれたから仕方なくだよ!!しっかし、無許可で生きた魔獣を輸送するのは犯罪だぞ!?誰だ持ち込んだ大バカ野郎は…」
「それが荷主が消えちまいまして…」
「被害は?」
「怪我人が4名と、馬車が3台巻き込まれました。あとは見ての通りで…」
「そこそこ痛ぇな…まぁそのくらいで済んで良かったと言うべきか…」

上空を飛び回っているのは、鷲の頭と翼に馬の胴体を持つヒポグリフ。
笛の音のような甲高い鳴き声を上げながら、上空でもがいている。
脚に繋がれた鎖が倒れた馬車に引っかかり、それ以上は上がれない様だ。

デイビッドが引っかかっていた鎖の留め具を掴むと、ムスタは何も言われずともその鎖を蹄で押さえつける。
鎖の先をムスタの馬具に掛け直し、手を離すと魔獣と馬の綱引きが始まった。

「よーしムスタ、あの暴れん坊を空から引きずり降ろしてやれ!!」

そこからムスタは右へ左へ力任せに、めちゃくちゃに走り回ってヒポグリフを振り回した。
ヒポグリフは抵抗したが、ついに風を受け損ねた大きな翼がきりきり舞いして地上へ落ちて来る。
広場に歓声が湧き、隠れていた人足達も集まって来た。

「よくやったムスタ!!離れてろ!!」

そこへすかさずデイビッドが網を放ち、身動きが取れなくなったヒポグリフの両足に縄をかけ、手早く縛り上げる。
ヒポグリフはジタバタしながら、何か苦しそうにえづいて、喉を膨らませていた。

「討ちますか?」
「止めろ!!全員武器は降ろせ!殺す必要は無い!!代わり縄を頼む、体を押さえてくれ!様子がおかしい!」

人足立ちが集まり、網と縄を押さえ、ヒポグリフを拘束すると、デイビッドは手斧を逆手に取り、柄をヒポグリフの口に突っ込んでこじ開けると、そのままつっかえ棒にして開いた口に構わず腕をねじ込んだ。

「おとなしくしてろよ…?」

暴れる首根っこを押さえ込み、どんどん奥へ手を伸ばしていくと、何か鋭い物が指に刺さった。

「痛てぇ!なんだこりゃ?」

肉を傷付けないよう慎重に引き抜いたそれは、なんと割れた酒瓶だった。

「なんでこんなもんが…?」

「ゲェッゲッゲッ!!キュルル…」
ヒポグリフが呻くと、喉の奥から更に胃袋の中身がデイビッドの足元にぶち撒けられた。

「なんだこりゃぁ…」

ベルトのバックル、ブーツの金具、ネジにコインに曲がったスプーン、銀紙…

「光り物か…にしても、お前どんな暮らしをしてたんだ?食物の残渣がほとんど無い…よっぽど酷い目に遭ってたんだな…」

腹の異物を吐き出すと、ヒポグリフはぐったりと動かなくなった。

「縄を解いてやってくれ。コイツは野生じゃない。どっかで飼われてたんだ。誰か、バケツに水を頼む!あと、馬用の軟膏も持ってきてくれ!」
「若旦那!血が!」
「ガラスで切っただけだ!コイツの方が重症だよ…」
「キュルルルル…」

弱々しく鳴くヒポグリフを宥めながら、水を飲ませてやると、体のあちこちに薬を塗ってやり、くちばしの根元の毛をかき上げた。

「確か…この辺にあるはずなんだが…」

騎乗可能な禽翼類は、帝国などでも人気で、飛翔騎士隊や制空隊等の名称で専門の部隊もいる。
その場合、くちばしの根本に登録番号やコードを彫り込むことが多く、専門家は必ずここを見る。

くちばしの裏側には確かに何かを彫り込んだ跡はあったが、すでに上から削り取られていた。

「あーー…………なるほど…お前…さては闇取り引きの商品だったんだな?!」

なんとか体を支え、立たせてやると、ヒポグリフは澄んだ鳶色の瞳でデイビッドをじっと見つめていた。

「キュルルルル……」
「もう大丈夫だぞ。やれやれ、お前のおかげで後片付けが大変だ。」

デイビッドはヒポグリフを引き取ると、瓦礫や散らばった商品を片付ける人足達の手間賃を上乗せし、壊れた家屋の修繕から、駄目になった商品の保証に補填まで、全て商会預かりの自費から出すと言うと、周りの商人達もホッとした表情になった。

「流石若旦那!見た目も中身も太っ腹ですな!?」
「一言余計なんだよ!!」
「しかし、どうすんです?その魔物、どっから来たのか、誰が引っ張って来たのかさっぱりで…」
「かまわん、俺が連れてくよ。無理やり取らされた資格が初めて役に立ちそうだ。」

荷車にヒポグリフを乗せ、ムスタに引かせると、商人達に見送られ、ようやく学園に帰ることができたのは、夕方近くになってからだった。

「じっとしてろよ……よしよし、もうちょっとだ…」

ヒポグリフのくちばしの裏に紙を当て、鉛筆でこすると見づらかった文字が写し出されていく。

「うーんやっぱり数字は無理だったか…でも、こっちはなんとか読めそうだ…古い帝国語だな…ファ…ル…コ…ファルコか!いい名前だな?!よろしくなファルコ!」
「キュルル!!」

新たにできた仲間に、諸々複雑な気持ちは飲み込んで、ひとまずは喜ぶことにしたデイビッドだった。

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